幼馴染
中間テストが終わった。
明は何とか赤点は免れほっとしている。
「あ~、やっとおわったぜ」
「こっちの方が胃に悪かったぞ。な、修平」
「匠に同意する。冷や冷やものだったぞ」
「お前等・・・まあ、今日は転校生が来るし楽しみだぜ!」
「「女だな」」
匠と修平の声が重なる。
「何でわかんだよ!」
「男ならお前が楽しみなわけないだろ」
「匠に同意する。加えて美少女だろう」
うぐっ、と明が言葉に詰まる。
その時チャイムが鳴った。
それぞれの席に戻る匠達。
担任の先生が入ってきて、転校生が来ることを伝える。
そして、転校生が教室に入ってきた。
その姿に匠は驚く。
空色の長いストレートの髪に、空色の眼。
匠が忘れるはずもなかった。
生まれてからずっと側にいた存在。
幼馴染の水沢茜がそこにいたのだから。
「水沢茜です。よろしくお願いします」
自己紹介を終え、匠の席の隣に座る。
何故ここにいるのか聞こうとする匠に、茜はメモを渡した。
”休憩時間に話がある”と。
そこで匠は話しかけるのをやめ、授業に集中した。
休憩時間に入り匠は茜に話しかける。
「何で茜がここに?」
「何でって・・・匠を追いかけに来たに決まってるじゃない。
あっ、心配して来ただけだから勘違いしないでよね」
そこに明が割り込んできた。
「おい匠! 水沢さんを知ってるのか!?」
「知ってるも何も幼馴染だ」
「そういうこと。小さい時からの付き合いだから、匠のことなら何でも知ってるわよ?」
「ふむ。水沢さん。中学時代の匠はどんな奴だったのかな?」
今度は修平が話に加わった。
「特にないわよ。運動も勉強も平凡で、私が教えてた位だし」
その話に強烈な違和感を持つ明達クラスメイト全員。
「待ってくれ。その話には同意しかねる。今回のテストで匠はオール100点だ。
運動神経も異常と言っていいレベルだ。話に食い違いが生じている」
その言葉に茜が反論しようとした時、教室のドアが開いた。
「うっす! 匠いるか?」
『すいません。匠さんいますか?』
明日香とエリザベスだった。
二人は勉強会中に仲良くなり、現在では時々明日香がエリザベスに日本語を教えたりしている。
「・・・匠、この二人誰?」
「明日香とエリザベスさん。こっちで出来た友達だよ」
「匠、そいつ誰?」
『その人誰ですか匠さん?』
「俺の幼馴染の水沢茜。転校して来たんだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『・・・・・・』
三人の間に微妙な空気が流れる。
クラスメイト全員が空気を察し、解散する。
そこで教室のドアが開いた。
「匠はいるか?」
「・・・・・・匠はいる?」
「佐藤君いますか?」
「誰? この人達?」
不機嫌な表情で匠を睨む茜。
「剣道部の藤原凛先輩に、ゲーム部の巻波桜先輩、生徒会長の新田紅葉先輩だよ。
時々手伝いとかしてるんだ」
「佐藤君。こちらの生徒は誰ですか?」
紅葉が尋ねる。
「俺の幼馴染の水沢茜です。転校して来ました」
「「「・・・・・・」」」
こちらでも微妙な空気が流れる。
「匠・・・・・・」
「ん? どうした茜?」
「ここにいる全員とどういう関係か説明しなさい!」
「どうって・・・友達と先輩だけどどうかしたか?」
「・・・・・・嘘は言ってないようね」
「?」
匠は首を傾げる。
茜が何が言いたいのか匠にはわからなかった。
明や修平は気付け馬鹿と言いたかった。
その時チャイムが鳴った。
「家に帰る時にちゃんと説明してもらうからね!」
そう言って茜は席に戻った。
他の皆も各自のクラスに帰っていく。
匠は首を傾げるばかりだった。
放課後、匠は茜と一緒に帰っていた。
途中で公園に寄る。
「・・・で、説明してもらうからね」
そう言われて観念した匠は事情を話し始めた。
勇者として異世界に召喚されたこと。その為に訓練したこと。
軍を率いて魔王軍と戦ったこと。最終的に魔王を倒したこと。
そして、元の世界に戻ったこと等を話した。
止めに光の魔法を見せた。
「・・・このことを知っているのは誰?」
「エリザベスさんとその両親。さっきの話の中で出たろ?
それ以外の人は知らない。緊急時だったからやむを得なかった」
「そっか・・・・・・」
茜は納得した表情で呟いた。
「秘密だからな。まあ、信用されないだろうが」
「そうじゃないの。匠が無事だったことが良かったの」
「茜・・・・・・」
「・・・・・・帰ろっか」
「ああ」
二人の帰る姿を月明かりが照らしていた。