氷姫
「しかし、匠って強えのな」
明が話しかける。
「一応、蒼天流という剣術を免許皆伝してるからな」
「いや、藤原先輩って強えんだぞ。それを瞬殺だもんな」
「まあ、剣の話はこれ位にして次にいこう」
匠は明と一緒に次の部活へと向かった。
「なあ、・・・匠って何者?」
「明。そう言われても困るんだけど」
「いやいや、野球やサッカー、バレーボールとかの体育系全てから、
誘いが来る位のパフォーマンスじゃねえか! どんな運動神経だよ!」
「いや、そう言われても・・・」
魔王を倒すにはこれ位必要だったとかとてもじゃないけど言えないのである。
「まあ、次は文化部だ。流石に運動神経は関係ないからな」
「次に行くのは?」
「ゲーム部だ」
「ゲーム部? TVゲームとか?」
「ああ、違う違う。チェスとか将棋とかだ」
「ああ、なるほど。で、美少女がいると」
「何でわかるんだ!?」
「お前の行動パターンを把握したからだよ」
要は美少女が目当てだとようやくわかった。
「次にいるのは氷姫だな」
「氷姫?」
「ああ。この学校には姫と呼ばれる美少女が三人いて、一人が剣道部の剣姫こと藤原先輩。
んで次の所には氷姫と呼ばれる巻波桜先輩がいるんだ」
「なるほど。で、強いのか?」
「チェスじゃ大会で負けなし。しかも勝っても無感動、無表情、無口が合わさって、氷姫って言われてるんだ」
「次はチェスか」
「匠は強いのか?」
「ん~強い方かな? 多分」
恐らく勝てるだろうと匠は考えていた。
賢さ999カンストは伊達ではないのだ。
「へえ。まっ、巻波先輩が相手じゃ無理だろうけど」
そうして話している内にゲーム部の部室に到着した。
「失礼します。部活見学に来ました」
そう言って部室へ入る匠達。
「あ。新入生の人? 桜、新入生来たから相手して」
ゲーム部の部員が桜を呼ぶ。
「・・・・・・いや。みんな弱い」
巻波桜は長い銀髪に白い肌と金の瞳をした神秘的な美少女だった。
「いいからやる。桜のせいでみんな帰っちゃったんだから」
部員の女の子が怒る。
「・・・・・・わかった。どうぞ」
そう言われ匠は席に座る。
「・・・・・・先手は譲る。どうせ弱い」
匠が先手でゲームは始まった。
序盤はお互い様子見でゆっくりとした展開になった。
中盤からお互いの攻防が激しくなる。
「・・・・・・君、中々やる。でも私が勝つ」
桜はそういうと勝負を仕掛けてきた。
劣勢になり長考する匠。
「・・・・・・もう、あなたの負け。これ以上意味ない」
無表情で言い放つ桜。
「いや。負けるのはあなたです。巻波先輩」
ここで匠が逆転の一手を打つ。
この一手に氷姫と呼ばれる表情が眼を見開いた。
桜も逆転しようと粘る。しかし・・・。
「チェックメイトです。巻波先輩」
匠の勝利でゲームが終了した。
これには明や他のゲーム部部員も驚く。
あの氷姫が非公式とはいえ負けたのだ
一方の匠も舌を巻く。
こっちは賢さ999カンストなのだ。
これで僅差では才能の差としか言いようがない。
桜の才能は凄まじいものだ。
「明。もう時間も遅い。他の部活はまた明日見よう」
「あ、ああ」
「・・・・・・待って」
「何です巻波先輩?」
「・・・・・・また勝負して」
桜の表情は笑顔だった。彼女にとってチェスは退屈この上なかった。
誰もが自分より弱い。親に言われたから指しているだけだった
だが遂に現れた。
自分と互角以上に戦える存在。
それにようやく会えたからだ。
「時々なら指します。それでいいですか?」
「・・・・・・うん。本当は入部してほしいけど」
「まだ入るかどうかも決めてませんから」
「・・・・・・わかった」
「明。帰るぞ」
「ああ。しかし、お前凄えな」
匠を見送る桜の表情は笑顔に満ちていた。