貯金箱の彼女
思考実験
「俺と付き合ってほしい」
男は女に告白した。
すると、彼女はこう要った。
「わたしと結ばれたいなら、わたしの中に貯金して」
女は自分の臍を指さした。縦にスリットが入っていて、硬貨の投入口になっている。
男は言われるがまま、彼女に貯金した。
来る日も来る日も貯金し、女は歩く度にじゃらじゃらと鳴るようになった。
女はよくモテたため、道行く人が次々と貯金していった。
バッグや宝石は小銭に換金して貯金される。
男は他人以上に女に貯金した。
女は貯金箱が重くて歩けないというので、背負って歩くことにした。
歩きながら女に貯金を繰り返した。
*
彼女に金がぱんぱんに貯まり、約束通り、男は女と結婚することにした。
挙式の金を用意するため、女は自身の腹を割ろうと言い出した。
貯金箱の彼女を割ることは、男にとって躊躇われることであった。
だが、彼女は何の躊躇いもなくハンマーで割った。
最期に、割れてしまった彼女と口づけを交わす。
彼女を失った男は嘆き悲しみ、得た貯金で彼女を弔った。
男は、今度は自分が貯金箱になろうと決心する。