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初舞台

「私を、……私を助けてくれた理由は、本当にお金儲けのためだけだったのかな?」


 メディがポツリと言った。


「それは聞いてみないとわからないけど、今は確実に金儲けのためだろうな。現に、あれから誰もメディの心配をせずに放置してるんだ。僕が薬を持って来なかったら、メディは治療もされないまま、こんな場所で一晩過ごしてたんだぞ」

「うん。そうだね。それでも、助けてもらったときは嬉しかったの。その気持は本当だから、私、ここの人達を悪く言う気持ちにはなれない」


 お人好しだなぁとは思うけれど、きっとそういうメディだから僕は主に選んだんだろう。

 この一座もこの街もクソだけど、メディに出会わせてくれて、契約を交わすことになったきっかけではあるんだ。

 僕も、もう彼等のことは忘れることにしよう。


 そう、思っていたのだけど、結局のところ、因果応報と言うか、やったことの報いは返って来るということを、思い知らされる出来事が、夜明け前に発生した。


「なんか騒がしいな」


 とりあえずメディの回復を待っていた僕だったけど、周囲の異変を察知して不安がよぎる。

 メディは、あれから安心したのか、今は安らかな眠りに就いていた。


 僕は、メディを起こさないように、さっそく黒衣(くろご)魔法を周囲に展開する。

 黒衣(くろご)魔法は、世界を芝居の舞台のように見做すという無茶苦茶な魔法だ。

 そのほとんどが、主のためだけにしか使えないという制限がなければ、きっとうちの一族が天下を獲っていたに違いない。

 それほどまでに(ことわり)から外れた魔法なのだ。

 だからこそ、少数精鋭の勇者パーティが、魔族全ての驚異から人族の国々を護る、という無茶をやり続けてこれたと言える。


「今からこの()は、()のための舞台となる」


 眠るメディを見つめて、宣言する。

 途端に、僕の脳裏にこの街で起こっている出来事の情報が流れ込む。

 ただし、無制限に情報が読める訳ではない。

 メディに関係したことだけが、理解出来るのだ。


 おかげで、今この旅芸人の一座に、何が降り掛かっているのか、手に取るようにわかった。

 どうやら、昨日の舞台を見た街の人間の何人かが、衛兵に訴えたようだ。

 ここの旅芸人達が魔族を街に入れた、と。


 まぁそうなるよな。

 その可能性を考えつかなかったここの一座の連中は、楽天的過ぎる。


 そして、夜明け直後のまだ薄暗い時間に、衛兵達が旅芸人のテントを包囲して、一斉に踏み込んだ、ということらしい。

 寝ぼけ眼の一座の者達は、突然のことに理解が追いつかず、混乱している最中。

 誰もまだメディのことを衛兵に告げてはいないようだ。

 メディは馬小屋にいたことが幸いして、衛兵の目を免れている。


 さて、この舞台、どういう台本になっているのか。

 まずは表面だけではわからないト書きを読んでみよう。


 この舞台の中心となるのは、敵役(かたきやく)たる衛兵隊の隊長だ。

 彼は下位貴族の三男坊。

 チャンスがあれば栄達したいと常々思っていた。

 そこに魔族侵入の知らせ。

 魔族を討伐したとなれば、大手柄だ。

 そこで、水も漏らさぬ布陣を敷き、人の意識が低下する夜明け前に旅芸人一座のテントに突入したのである。

 なかなかの手腕だ。


「なるほどな。と、すると、このままだと包囲を抜けるのは難しい、か」


 僕は舞台の推移を見守りつつ、主役たるメディを起こす。


「ん? おはようございま……す? あれ、カゲルさん?」

「メディ」

「ひゃっ! 何もないところから声が聞こえる」


 黒衣(くろご)魔法を使っている間は、僕は周囲から認識されなくなってしまう。

 主であるメディですら、僕を見つけられず、周囲をキョロキョロと見回した。


「今、例の魔法を使っている。ちょっと緊急事態なんで、騒がないで静かに聞いて欲しい」

「わ、わかった」


 メディは、すぐに落ち着いて僕の言葉にうなずいた。

 まだ会って数日、契約に至っては昨夜行ったばかりなのに、メディは僕に全幅の信頼を置いているようだ。

 そのおかげで、僕とメディあの間の繋がりは、とてもクリアで、動きやすい。


「この街の衛兵が魔族を探している。すぐに逃げないと、間違いなくバッドエンド。処刑されて終わる」

「えっ、えっ? でも私、半魔だよ。半魔は、一応人族の一員として認められているはずだよね」

「建前上はね。本質は、君もさんざん味わって来ただろ? それにこの衛兵隊の隊長は、手柄を欲している。少々の無理は通して自分の手柄にするだろう」

「そ、そんな……」


 僕は、メディを動かすためにもうひと押しすることにした。

 どうもメディは自分のためよりも、他人のためのほうが気持ちが動くようなのだ。

 そういうところは舞台の主役に相応しいと言えるが、人としては弱点でしかない。

 だが、だからこそ、その性質は利用出来る。


「それに、もし君が見つかったら、この一座の人間は全員処刑されるだろう」

「えっ!」

「魔族を人族の土地に引き入れた者は死罪という掟があるからね。まぁ本来は魔族に(くみ)する裏切り者に対する処罰だったようだけど」

「そ、そんな……そんなの駄目だよ」


 思った通りだ。

 メディは自分が危ないと思ったときよりも、悲痛な表情となった。


「それを免れる方法はあるよ」

「どうするの?」

台本(・・)を書き換える」

「え? お芝居のこと? なんで今お芝居のことなんか……」


 メディは戸惑っているようだ。


「僕の魔法だ。具体的には、メディに代役を立てる。メディは、僕に任せると、ひとこと言ってくれればいい」

「誰かが酷いことにならない?」

「本来の台本よりはマシになる」

「わかった。それじゃあ、カゲルさんに全て任せます」

「……承りました」


 さて、台本が書き換えられて、主役が交代する。

 こんな大掛かりな黒衣(くろご)魔法を展開するのは僕も初めてだ。

 この初舞台、最後まで気を抜かずに行こう。

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「クラス召喚されたけどぼっちだったので一人でがんばります!」
作者が自分でレビューしています( ´ ▽ ` )ノヨロシクネ!
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