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ポッドの中身をどこにやったのか、そもそもポッドにはどんなカンパニーが入っていたのか。そのカギを握るのはエブロ・シティ当局が要注意ギャングに指定したヤクザなのだ。善良な市民は要注意ギャングとは目を合わせてはいけないことになっていた。
「でもさ、そんなのどんなギャングだって、一緒じゃん。ディキシーズの連中もラスティーズの連中も危ないやつばっかで、喧嘩したくでうずうずしてんだからさ。とくにフィギー・カランなんて最悪。フィギーってのは八歳のころからラスティーズに入ってるような、アタマのいかれたやつでさ。意味わかんないあだ名のほうじゃなくて、本名のほうで呼ぼうものなら――それもバートじゃなくてバーソロミューなんて呼んじゃった日には、もう大変よ。相手がだれであれ、ギッタンギッタンにしちゃうんだから。機嫌のいいときはもっと最悪。『フィギー・カランは無敵の男だ』伝説をえんえんときかされるんだ。ああいうの、ブラック・プロパガンダっていうんだよね。結局さ、あいつらには足りないんだよ。ラブとピースが。そういえば、ラブで思い出した。あたし、こないだテレビつけっぱなしにして、ソファでぐうたらしてたんだけど、なんか昔のアニメが流れててね。日本の高校が舞台なんだけどさ、女の子はすごく重い病気でそんなに長くないんだ。まあ、でも、結構平気で歩けるんだけどさ。でも、そこはアニメだから。なんか余命三日でもホイホイ動ける病気なんだと思う。でね、その子、恋しても相手が悲しむだけだと思って、ほんとは好きな男の子を遠ざけるの。でもさ、男の子はあきらめなくてね。最後は二人、夕暮れの学校の屋上でお互いの素直な気持ちをさ、ぶつけ合うんだ。それ、ラブだよねえ。それでさ、もう大切なのはラブだってことになって、余命三日とかどうなってもよくなってさ。二人は結ばれるんだ。あたし、それ見て、びーびー泣いちゃってさ。で、いい感じになったから、キスでもするのかなと思ったら、なんとセックスするんだよ。驚きだよねー。いやさ、学生同士のセックスなんて昔も珍しくなかったんだろうけど、その二人は優等生タイプでどう考えても、屋上でセックスするタイプには見えなかったんだよねえ。それがセックスですよ。女の子は処女だったらしいけど、レイプ以外の方法で屋外で処女を失うってこと、あるのかなあ。まあ、とにかく突然のセックスでサンシャインさんはとっても驚いたわけですよ。あ、でも、これヘンタイ・アニメじゃないから、実際にセックスしてるシーンはないよ。ただ、二人の制服がきちんと畳んでおいてあるカットがちょろっと出ただけ。まあ、でも、セックスしてるのは間違いないんだよねえ。笑っちゃうよね。服畳んでからセックスだなんて。でもさ、セックスって疲れるじゃん。あたし、女の子がセックスで消耗して死んじゃわないか心配で心配で。え? その後、女の子はどうしたのかって? さあ、死んだんじゃないかな。最後まで見てなかったし。でも、ドロップアウトした高校でも、幼稚園でも、ヴァンパイア・ハンター養成学校でも屋上を自由に出入りできたことなんてないのにさ、なんでアニメの学校ってあんなに簡単に屋上に入れるんだろうね? あ、あれだ。あのパトカーだ」
〈寿司サムライ〉のドライブ・スルーにパトカーが一台停まっている。サンシャインの運転する紫色のカスタム・マーキュリー・クーペはその出口を塞ぐように停まった。若い警官と眼鏡をかけ白い口ひげの警官がいた。年かさの警官は板前自動人形が差しだすトロ・マグロのあぶり寿司とチリ・シュリンプ海苔巻きを受け取るためにパトカーのサイド・ウィンドウを下げて、手を伸ばしているところだった。運転席の若い警官の顔はサンシャインにそっくりだった。
「クラウド、ハロー!」
「なにがハローだ」クラウドと呼ばれた若い警官が言った。「はやく車をどかしてくれよ」
「ピートおじさん、ハロー!」
「ハロー!」白ひげの警官がこたえた。「元気か、サンシャイン」
「元気、元気」サンシャインは助手席の紫苑に説明した。「あっちのぶすっとした顔のはクラウド。あたしの弟なんだ。で、隣にいるのがピートおじさん。おじさんって言っても、血はつながってないよ。でも、昔からよく知ってるおじさんで、まあ、家族みたいなもんなんだ。まだ、あたしが小学生だったとき、パンティに隠したハッパが見つかったり、学校の窓叩き割ったりするたびにピートおじさんにパクられてさ、そのうちやってもいないことでパクられるようになったんだけど、そのころにはもうピートおじさんの顔を親の顔よりもしょっちゅう見かけるくらいになったんだ」
「姉ちゃん、またハッパやってるのか?」
「違うよ、クラウド。ちょっと調べてもらいたいヤクザがいてさ、どこの組なのか、どこを根城にしてるのか、ちゃちゃっと調べてくれたら、お姉ちゃん、うれしいんだけどなあ」
「姉ちゃん。この車に『犯罪者検索サービス、気になる前科者をまるっとお届け』って書いてある? 犯罪者のデータベースをおいそれ一般市民に見せるわけにはいかないんだ」
「一般市民? なにそれ。あんたとあたしの絆ってその程度だったの? お姉ちゃん、すっごく悲しい」
「そうだぞ」ピートおじさんが言った。「姉弟の絆は大切にしなくちゃいかん。お前が弾食らってERにかつぎ込まれたとき、真っ先に駆けつけてくれる人を無下にしちゃいかん」
「そうだ、そうだ」と、サンシャイン。「それにそのデータベース、あたしも入ってるんでしょ? じゃあ、あたしにも見る権利がある」
「どうして、そうなるのかな……わかったよ、そいつの名前は?」
「名前は知らない。でも、ちょっと待ってて」
サンシャインは紫苑がポケットから取り出したものを受け取り、クラウドに投げた。
「姉ちゃん、このビニール袋の中身、まさか指?」
「親指よ」と、紫苑。
「親指だってさ」
「勘弁してよ」
「いいからはやく検索かけてよ」
クラウドは嫌そうな顔をしながら、親指を取り出し、指紋検索システムの読み取り装置に押しつけた。
「親指の持ち主はコウジ・イイジマ。所属組織はワカツキ組で、第三地区のケツァルコアトル・ストリートにあるクラブ・オズマで用心棒をしてる、いや、してた」
「あたしの端末にダウンロードしてよ」
「警察データをなんの病気持ってるか分からない端末につなげられるわけないだろ。地図を書くよ」
クラウドは〈寿司サムライ〉のナプキンにフェルトペンで線が五本、〇が一つ、□が一つを殴り書きしたものを丸めて運転席に放り込んだ。
「なにこれ? これで地図のつもり? あたしの使用済み生理ナプキンのほうがまだ地図っぽい」
「姉ちゃん、車どかせよ。でないと、公務執行妨害でしょっぴくよ」
「クラウド、あんた、長い付き合いなのにお姉ちゃんのこと、なぁんにも分かってないんだね。公務執行妨害でなんて、何度パクられたか分からないくらいパクられてるからパクられたうちに入らないんだ。でも、まあ、いろいろ親切にしてくれたし、そろそろ行くことにするよ。あ、冷凍チンジャオロース、欲しい?」
クラウドがショットガンを取り出して、ドアを開けたので、サンシャインは慌ててバックして逃げ出した。




