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僕は世界を考察する

 

 いやいや待て、時に落ち着け。

 まだ結論づけるには早い、あまりにも情報が不足している。


 確かに、陽介は主人公としてデザインした覚えがあるし、朝日も容姿端麗で勉強が得意だけど少し抜けているヒロイン、という指定で描いた覚えがある。

 朝日に関してはこれぞヒロイン、って超正統派美少女に描きました! 

 ふふふ、自分で描いておきながらなんだけど、可愛いなぁ朝日……おっと、これは親目線ですよ?


 まぁ、僕が描いたのは今からおおよそ2年後の姿なんで、今の2人はそれより少し幼い容姿にはなっているけど。


 そして僕はもう一度、鏡の中の自分を見た。

 柔らかそうなふんわりした茶色がかった髪、ちょっとたれ気味の目。

「伊藤君はいい人だとは思うんだけど……」とは言われども、そこ止まりになりそうな見た目。

 うーん、見れば見るほど、こいつあの親友キャラだわ。


 主人公……陽介が誰のエンディングにもたどり着けないと、「陽介、僕たち友達だよね」っていう素敵な笑顔のスチルが表示されてエンディングっていう、あの親友キャラ。

 めっちゃ気合入れて描きました、あれ。

 ふふ、まさか生みの親である僕がそのキャラに転生するとは夢にも思うまい。思うか普通!



 ――――そう、もうおわかりかと思うが、主人公は僕じゃなく、天ヶ崎陽介なのだ。

 所詮、僕はモブキャラ、話のツマ、あくまでも傍観者。

 だけならいいんだけども……。


「確かこのキャラ、高校入学後しばらくして彼女ができるんだよね」


 そう、彼女、彼女ができるのだ!

「僕」時代から数えて38年、なんと初の彼女だ!

 えへへ、彼女だってよ彼女、いい響きだ彼女……しかもその子、めっちゃ可愛いんだ。

 なんせ、僕の趣味をこれでもか! とつぎ込んでデザインしたヒロインキャラだからね、えへへ。


 いやー彼女ですって母さん! 前世の母さんに紹介したかったな母さん!

「同級生の誰誰くんはもう結婚したらしいわよ」っていちいち教えてくれなくてもいいよ母さん!

 僕の嫁は画面の中にいるんだ!


 ……と、浮かれていられるのも今だけであり。


「ま・その「彼女」も、ストーリーが進むと陽介にだんだん惹かれるようになって、最終的には別れるんだけどな! ははっ!」


 ○ァック!

 くたばれハーレムチート主人公! テメー朝日がいんのになんで人の彼女まで引っかけてんだよ!

 しかも何が笑えるってこの「彼女」と別れるのは共通ルート部分なので、回避不可!

 今僕が生きている世界があのゲームの世界、というのが間違いなければ……。


「僕は、38年越しに出来た自分の願望全部注ぎ込んだヒロインにフラれるってことか」


 うわ、なんかもう考えただけで泣けてきたんだけど。

 38歳のおっさんがガチ泣きとか、ウケる。

 いやだが待て落ち着け、もしかしたら回避出来るかもしれない、僕の努力次第で「彼女」と最後までいられるかもしれない!


「よくweb小説なんかであった、『物語の強制力』、なんて物がなければだけど」


 そう、強制力。

 物語を強制的にルート通りに進ませようとする、神の力。

 そんなものがもしあれば、僕が「僕」の生み出した最高のヒロインにフラれて、主人公様に持っていかれるのは回避できない悲劇になってしまうわけで。


「そんな状況でも僕たち友達だよね、なんて言える僕の気持ちが、「僕」にはわからないよ」


 ふと窓の外を見ると、すでに日は沈み、夜が訪れようとしていた。

 僕は確かめる必要がある、この世界があのゲームの世界なのかどうかを。

 そして今生きているこの世界が、「ラブ×コネクト」の世界だった場合……僕はどうするべきなのか。


「まぁ、まだあと1年以上時間はあるんだ、検証の余地はあるよね」



 *



 僕が「僕」の記憶と折り合いをつけてから、早くも2カ月が過ぎた。

 その間、色々と確認と検証を繰り返し、この世界が「ラブ×コネクト」と全く同じ世界である、という事はすでに疑いようのないものとなっていた。


 正直、これに関しては、すぐに確認が取れた。

 だって僕のデザインしたキャラクターが学校の中、街中を歩いているのを見ちゃったからね。

 名前が一致したのも確認済だ、もう間違いない……ここはやっぱり、「ラブ×コネクト」の世界だ!



 そしてもう一つ。

 この世界には「物語をある程度物語通りに動かす強制力」が働いている事もわかった。

 その検証を手伝ってくれたのは、もちろんヒロインである朝日だ。


 中学3年生、受験を控えた秋の日に、陽介への恋心をはっきりと確信し、確固たるものとするとあるイベントが発生し、それが後日、『朝日の回想』という形でゲーム中に描かれるわけだけども。

 その回想中に表示されるイベントスチルの場にいなかった僕は、どうしてもそのイベントに介入することが出来なかった。

 背景を描いたのだって僕だし、指示書の中にはどういうイベントだという指定まであった。

 どこでどんな事が起こっているかはわかっているんだし、陽介に代わって僕がそのイベントをこなしてやろう!

 なんて考えたにも関わらず、結局は陽介がきっちり主人公としてのイベントをこなしてしまったのだ。


 この一件をもって、僕という異物が、主人公のイベントに割り込みをかけることは出来ない、という結論に至る事になったわけで。

 どうやら強制力は基本的に「主人公とイベントスチルに関わる事」に対しては強烈に効果を発揮するようなのだ。


 さらに踏み込んでいうと、この強制力。

 特に強く働くのは「主人公」と「ヒロイン」に対してのみで、僕のようなモブにはそこまで強い力を発揮しないようで。

 たとえ僕が関わるイベントでも僕がいない場合は、その時々で僕以外の代用品を用いて話を進めようとする、というところも確認できた。



 つまり。



「つまりこれって、このままルート通りに進めば僕が『彼女』にフラれるのは回避不可ってことだよねぇ……」


 これまでの経緯をまとめたノートを前に、思わず溜息をついてしまう。

 僕が「彼女」にフラれるイベントスチルは描いていないから、おそらく「僕が彼女にフラれる」という未来は回避できるだろう。

 出来るが、その後の陽介と彼女のイベントスチルは何枚も描いているため、そのシーンは回避不可。

 でもなぁ……僕がフラれるってルートを回避したとしてもなぁ……。


「僕の考えた最高のヒロインと陽介がイチャついてる絵をリアルでなんてマジで見たくないんですけど!」


 おのれハーレムチート主人公! 爆発してしまえ!!


「これはいよいよ、自分の進退を真面目に考える時が来たのかもしれない……」


 そう、僕が取れる選択肢はもういくつもなかった。

 本棚に立てていた封筒を手に取り、目を閉じ、これからの筋書きを立てて行く。

 ……うん、できる、出来るはずだ。

 このルートなら……!



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