僕と彼女の攻防戦
「ちょっと、聞いてもいいかな伊藤くん?」
「はい、なんでしょうか月見里さん」
「伊藤くんって、もしかして私のこと、どっちかというと嫌い?」
「いえ、そんなことありませんよ? むしろ好ましい方だと思っています」
「えぇー……絶対嘘だぁ……」
そう、非難の声を上げる彼女へチラリと目線をやると、半目でジトー……っとした目を向ける彼女と目が合った。
嫌ってなどいない。
むしろ彼女……月見里 楓華という少女は、僕の好みどストライクだ。
白い肌に、少し朱を差したような頬も。
潤んだリップを塗ったその薄い唇も。
肩甲骨あたりまで伸ばした髪を左右で結び、肩から前に垂らすその髪型も。
くりっとした可愛らしい目も。
その全てが愛らしく、許されるならば君が好きだと叫びたい。
「好ましいって言う割には、私のこと避けてるよね?」
「避けてませんよ、ただ、僕と月見里さんって接点あまりないじゃないですか」
「そうかな? 結構、話す機会あると思うんだけど」
「ないですよ、僕と月見里さん、クラスも科も違いますし」
避けてるのは避けてますけどね。
ていうか、避けてるのはなんとなくでも気付かれてるのか……うーん、どうしようか。
出来れば月見里さんにも納得して、僕から離れてほしいんだけど。
好きになっちゃったら困るだろ、僕が。
「私、伊藤くんとは仲良くしたいんだけどなぁ」
「そこで僕にこだわる理由がよくわかりません」
「うーん、なんでだろ? 単純に気になる、から?」
「自分でもよくわからないんですか……」
「やはは、ほんとなんでだろうね? 伊藤くんはなんでかわかる?」
「わかりません、ていうか自分で自分がわからないのに、なんで僕ならわかると思うんですか」
「なんか伊藤くんって、私より私のことに詳しそうだし?」
「……暗に僕のこと、変態って言ってます?」
まぁ、確かに僕は君のことを色々と知ってますよ。
身長体重スリーサイズから家族構成、趣味から抱える悩みまで、本当に色々とね。
変態という意味ではなく。
「ねぇ、伊藤くん」
「なんでしょう、月見里さん?」
「次の週末、デートしようよ」
「お断りさせていただきます」
「もうっ! 伊藤くんのばーか!」
「はいはいばかばか」
デートだと? なんて恐ろしいことを言うんだ……出来ればこれ以上、彼女と接点を作りたくないというのに。
なぜ、僕が頑なに彼女と仲を深めるのを躊躇うのか?
全てはあの日。
中学3年生の、夏まで時間は遡る……。
続きます。