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 一人残された社長室。岬コーポレーション現社長、岬和仁は、煙草に火をつけ、結露した窓から灰色の空を見上げた。窓枠には、季節外れの夕顔が、数十年前と何一つ変わらず咲き続けている。


「やっぱり、お前はリーダーに向いているね。あの子達を懐柔してしまうとは。随分人として大きくなったじゃないか」


 数日前、揃って挨拶にきた若くて優秀な父親とその娘に想いを馳せる。色々謝られた気がするが、それよりも面白そうな結果に落ち着いたから良しとした。立ち上がって窓から外を覗く。愛用の社長椅子が、キコキコと不気味な音をたて、動きを止めた。騙すなんて可愛いものさ。正直、人情なんて脆い御伽噺は、私にとっては取るに足らないものだから。


 夕顔にそっと触れる。なぁ、槿よ。これから、世界はどんどん楽しくなりそうだ。視線を移す。社長室の奥の部屋。その中にあるものは、私以外誰も知らない。にんまりと笑みを浮かべる。


「さぁ、早く、この会社を継いでおくれ。優秀な()()()()()()


 最後の社長の呟きは、誰にも聞かれることなく、煙とともに、宙に消えた。

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