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「人を慕う心はどうにもならないよなぁ」

 そう、貴方は言って下さいました。今なら、わかります。

心は殺すほうが幾らかは楽だけれど、向き合う方が楽しいし、幸せ。傷つくことも、苦しいこともたくさんあるけれど、私、人間に生まれてよかったです。だって、誰かを想う、心も愛も、もう自由なんですもの!



 目の前で無邪気に笑う少女をみる。あぁ、この表情は何年ぶりにみただろう。

槿さん。親愛なる貴女との約束を、とうとう破ってしまいました。岬さんが、私と、アサの呪いを解いてしまったのです。だけど、今ではそれでよかったのかな、と思います。鎧を解いてしまった分、傷つくことも多いとは思いますが、私も以前とは違います。もう、父親になりましたから。その時は、朝日と共に一緒に泣いて、笑って、悩んで。娘と、他のアンドロイドとともに、社会に貢献しつつ、周りと心を通わせながら、生きていきたいと思います。



 槿さんは、きっと。橘と交わした約束は。アサをロボットとして育てたのは。この、無力な少女を大人の世界で生き抜かせるため。無邪気さという、付け込まれるであろう欠点を排除するためだったのだろう。

幼い子を一人この世に残さなければならなくなった時。娘に生き抜く術を教え込もうとした、母の愛情だったのだ。

 槿さん。俺は昔、貴女が憧れの存在でした。そして今、貴女が残して下さった仲間達とともにいます。結局今も、俺は貴女の面影を追っているだけなんですかね。でも、前よりは苦しくないんです。貴女の物語を知ったから。橘も朝日も、少しは心をひらいてくれていることがわかるから。そして、ロボットを通じて、沢山の人達と心を通わせることができる、ということを、俺も知ってしまったから。



 Ai搭載の介護ロボット、pokoとpekoはサンプル対象者からの模擬結果をふまえて改良が重ねられ、ついに実用化までこぎつけていた。広報部と営業部は連日忙しそうである。坂口にこないだ会った時には、「誰かさんが仕事しかしないからこんなに忙しいんだ」と、笑顔でよくわからない嫌味を言われた。

「休日出勤で家族サービスしない奴に言われたくない」と嫌味を返したら、

「今週はマジでしょうがないんだって!」と言い訳された。

「休日に仕事をする奴は使えない……」とぶつくさ文句を言っていた以前のお前に、そのセリフを聞かせてやりたいくらいだ。



 社長に、情報管理部から実用化前の最終報告をする。プロジェクトに関しては、わかった、の一言であっさりと承諾された。これは本当に社長か?話は聞いていたか?と疑いそうになったが、きっと他の優秀な部下達から詳細は伝達済みなのだろう。早々に退室しようとすると、

「お前、橘達のことをどう思う?」

 唐突に、プロジェクトとは無関係の話を切り出され、呼び止められた。

「どう思う、とは?」

「そのままの意味だ。……知ったんだろう?二人の素性を」

 素性って。探偵みたいだな。……でも。

「そうですね……とても頼りになる仲間だと思ってます。最近は、表情が少し豊かになったというか……二人とも、日々楽しそうです」

「そうか。お前をあそこに配属して正解だったな」

 お気に召す答えだったのか、社長はにこにこと満足そうに言った。内心何を考えてるのかは、読みとりきれない。やはり父親でも管理職、喰えない性格だ……。今度、社長とあの人との出会いも聞いてやる。

「はい、私も勉強の日々ですが。まだまだこれからも、精進して参ります」

 とりあえず社員として、模範的な優等生な笑顔で返した。

「今後も、彼らのことをよろしく頼むよ」父親の様な表情で、社長は言った。

 軽く会釈し、社長室を背に、仲間の元へ向かう。

「さて、今日も皆とともに頑張りますか!」大きく伸びをして、俺は気合いを入れた。



 誰かのために生きる。愛する人のため、必要としてくれる人のため。それは、生涯変わらない。だけど、それだけでは終わらせない。

 誰かとともに生きる。自分の心と向き合って、周りの人達と想いを分かち合う。それは、きっとその人生において、艶やかな彩を添えてくれる。そして時に、迷える自分を導いてくれる灯となることであろう。自分を守る冷たい鎧はもうなくて、その分傷ついてしまうこともたくさんあるだろうけれど。その分温かさを知ることができる。そして、俺(私)は胸を張ってこう、断言しよう。


“ “ “この先、生きていくことが楽しみで仕方ないよ!” ” ”

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