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あの人のため、僕は生きよう。

例え心を捨てようとも、傍にいられるのなら、それで自分は充分なのだ。

 今から少し進んだ時代。人類の技術は進歩を遂げ、今や社会を担う一員にロボットが数えられる時代に差し掛かっていた。身近な例を挙げるとするなら、スーパーのレジ打ち、トラックの運転手、ビルの清掃員など。それらは人ではなくほぼロボットが担っている。おまけにパッと見、人間そっくりなのだ。一家に一台、Popporくんのある所も少なくない。人々は試行錯誤を繰り返し、確実に住みやすい世の中へ変容を遂げてきた。



 そんな中でも、あの朝の通勤ラッシュは変わらない。人やロボットに揉まれながら、今日も俺は出社する。秋風が吹くようになり、朝晩は冷え込むようになってきた今日この頃。スーツでの出勤も苦ではなくなったが、さすがにパンパンの電車を降りた後は少し汗がにじんでいた。ここには文明の発達は及んでいないのか……。空飛ぶ自動車とかどこでもドアとかそっちの技術開発も、誰か頑張ってほしいと切に思う。

「よっ、社長Jr」肩をたたかれ、後ろを振り向く。同期の坂口だ。

「うるさいな。朝一で会うのかよ」

「声かけただけなのにひどっ。俺も今日は本社出勤なんですー。社長Jrと同じ本社!」

「あっそ。ってかその呼び名やめてもらって良いっすか」

「つれないねぇ。」

 軽口をたたきながら、会社へ向かう。

「今日はなんで本社なんだよ」

「来年売り出すAi搭載の介護ロボットについて、全部署で合同会議があるんだよ。会議は昼からなんだけど、準備で半休もらってさ。」

「お前、なんやかんやで真面目だよな」

「そりゃー、割と今回の案件は大きいからな。そんなもんさ。っつーかお前も知ってんだろ。開発部から報告受けてないのかよ」

「あったよ。今日ってこと忘れてただけ」

「まじか、大丈夫かよ」

「今日は俺の出る幕ではないからね」

「ふーん。いいな、管理職は」

「すごい嫌味じゃん」

「悪い、つい本音が」

「だから昇進しないんだよ」

「うるさいな。いいんだよ、俺は。今が一番楽しい」坂口は笑う。

「そう」彼は口が多少悪いが、勤務中はそんなことおくびにもださない。営業成績はトップクラス、上司にも部下にも信頼されている奴だ。

「俺はお前が羨ましいよ」

「お?今ナイーブな時期か?」

「うるさいな」

そうこうしていると、高層ビル街の一角に着く。


『岬コーポレーション』 大々的に入り口に掲げてある会社名。そこが、俺の生きる場所だった。「岬グループ」と聞いての世間のイメージは、ロボット研究だ。企業向けのロボット開発に関して、優秀な研究員がいたこともあり、我が社は最前線を尽くしてきた。評判は上々。今ではそこそこ名の知れた会社となっていた。広いエントランスに入る。

「じゃあ、また呑みにでも行こうな」

「うん、また。」坂口と別れる。


 今日の合同会議のことは知っていた。開発部からの報告……もそうだが、何より今回開発予定のAi搭載のロボットは、使用対象者が地域に住む高齢者なのだ。ロボットがずいぶん身近になりつつあるこのご時世ではあるが、機械は若者が扱うもの、という概念は未だ根強い。実際、高齢者が主体的に扱うにはほど遠いのが現実だ。よって、ロボットを扱う対象者が高齢者なことはまれなのである。しかし、核家族化や、それに伴う老々介護、孤独死など昨今の社会問題に向き合うには、ロボットの技術は高齢者の生活にもっと密着して駆使されるべきであることは、一目瞭然であった。そして、そこに今回わが社は売り込んでいこうという経営戦略だった。うまくゆけば会社の利益も多いが、社会貢献としての部分も大きいだろう。


「あの人が聞いたら喜ぶだろうな」ふと、あの生き生きとした表情と、颯爽と翻る白衣を思い出す。

「岬さん、おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」

「いよいよ合同会議まできましたね!」

感傷にひたる間もなく、今いる仲間達と顔を合わせ、自部署へ向かった。

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