Epilogue
本番当日、開場前の楽屋は騒がしい。
先程ゲネプロを終え皆の気持ちは最高潮に高まっている。
舞音もまたそんな皆を見ながら興奮が止まらなかった。
少し気持ちを落ち着けようと裏口から会場の外に出る。
自分たちが作ったショーがオーディエンスに受け入れられるかは分からない。
正解のないショーの形に不安が無いわけじゃないが舞音にはどこか成功するという自信があった。
外の空気を吸いながら銀河鉄道の表側に回れば既に多くの人が列を作っていた。
緊張か武者震いか分からないが少しばかり手が震えている。
見覚えのある顔を見つけて舞音はその人物に近づいた。
「お久しぶりです。」
いつかのカフェの女性だ。
舞音に気付くと明るい笑顔を向けてくれる。
「あら、あの時の。夢を掴んだのね。」
若い子が夢を叶える瞬間を見るのは何度見ても良いものね〜、と女性は一人盛り上がって人の列に消えて行った。
その近くに親友と美来がいるのも見えた。
銀河鉄道が開場して間もなく1ベルが鳴る頃には席はほぼ満席となった。
仲間たちは既に袖で待機している。
街道も道具の最終チェックを怠らなかった。
舞音は袖の隙間からホールを見渡して驚いた。
なんと客席の一番前にセイカとアズマとミナミがいるのだ。
そして、その少し後ろには電車で出会った陽気なパフォーマンス集団も来ている。
「もう始まりますよ!」
後ろから呼ばれて意識が戻る。
皆に向き直るとすごく良い表情をしていた。
円陣を組めば街道にポンと背中を押される。
「行ってこい!私達みんなで銀河鉄道に一発あげるぞ!」
おーーー!!
叫び声と同時に2ベルが鳴り響く。
さあ、私達のショーの幕開けだ。
星の数ほどある照明が皆を照らし、飛び散る汗がキラキラ輝く。
ドキドキハラハラ、笑って泣いて皆の輝きがステージの上で一つになる。
歓声と拍手がいつまでも止まらなかった。
舞音はステージの横から会場が一体になった達成感を噛みしめている。
銀河鉄道で皆で作ったショーをするという夢が遂に叶ったのだ。
全てのショーが終わってから、パフォーマンスをしていた皆と客送りにロビーに出る。
真っ先に駆け寄ってきたのは美来だった。
「お姉ちゃん!」
「美来ちゃん。見にきてくれてありがとうね。」
「このショーお姉ちゃんが考えたんだよね!すごく凄かった!」
小さな体で足りない語彙力でなんとか興奮を伝えようとする姿が愛らしくて思わず頬が緩んだ。
でも、と続ける美来に舞音はしゃがみ込んでどうしたの?と尋ねる。
「美来、お姉ちゃんも出ると思ってた。ずっとずっと楽しみにしてたから、だから次はお姉ちゃんが踊る所見たいなぁ。」
舞音は声が出なかった。
無邪気な笑顔で去ってく美来に呆然と手を振ることしか出来なかった。
銀河鉄道でパフォーマンスをする。
今日のパフォーマンスは誰の夢?皆の夢だ。舞音の夢ではない。
舞音はまだ何者にもなっていないのだ。
確かに演出を考えたりショーを作るのには携わった。
しかし、ただそれだけである。
自分がパフォーマーにならなければ意味は無いのだ。
「無事成功して良かったですね。」
汗を流しながら街道が寄ってきた。
「そうですね。でも、ここからがスタートです。新しい夢ができました。」
銀河鉄道に乗り続ける切符は常に新しい夢を見続けられるものにのみ____。
「次のショーは私も出ます!」