Episode.3
列車の中は騒がしかった。
少し離れた座席に団体で客が乗っている。
派手な服装でしばらく黙って見ていたが男女の笑い声が絶えなかった。
然程大きくは無いもののポップな音楽をかけそれに合わせてリズム遊びのようなゲームをしている。
その音は動揺していた舞音の心を少しだけ明るくした。
「あの、。」
ふっと生まれた心の余裕からか気が付けばその団体に声をかけていた。
一番近くにいた少し年上っぽい女性が振り返る。
「何をなされているんですか?」
一瞬怪訝な表情を見せた女性は舞音を見るとまた元の陽気な表情に戻った。
「曲に合わせて歌っているのよ。盛り上がって来たらこうやって動きをつけて、だんだんみんなで真似していくと…。」
ほら、と軽快に動く女性に合わせて周りの人たちも動き出した。
それは段々見ていると踊りのように見えてくる。
「私達はね、こうやってお客さんとか見ている人を巻き込みながらパフォーマンスをするっていうスタンスでいろんな街を旅しているの。」
あなたも一緒にどう?と誘われて団体の中に腰を下ろした。
実際にやってみると夢中になってあっという間に何駅か過ぎていった。
「あなた、センスあるわね!」
妙にテンションの高い女性に実は自分もパフォーマーである事を明かす。
少し詳しく話せば周りの人たちも静かに聞いてくれた。
「そういうパフォーマンスも良いですね!」
「私達にはないものね。」
屈託のない笑顔でそう言われてハッとする。
今まで自分がやって来たものが正しくてその幅を広げるために旅に出たつもりだったけど、本当に広げないといけないのは視野だったのかもしれない。
パフォーマンスにはいろんな形があって、それを受け入れる事が銀河鉄道に近づくためのヒントだったのだと気付く。
街道の道具を使ったパフォーマンスも、セイカ達の強いインパクトのある独特な世界観も、遊びのようなリズムパフォーマンスもそれぞれに見たいと言うオーディエンスがいてそれで良いのだ。
「あの!私、駅ここなんで!ありがとうございました!」
丁度帰ってきた北の街の駅に滑り込んだ列車から舞音は勢い良く飛び出した。
その足で街道の元へと向かう。
「街道さん!」
扉をバンっと開け放ち肩で息をする舞音を見て目を丸くする街道。
そこは街道がいつも仲間と練習を終えた後に食事をしている食堂だった。
周りのお客さんが何事かとこちらを伺っている。
しかし、そんな事を気にしている暇はない。
「そんなに急いでどうしたんです?」
差し出されたグラスの水を奪うように飲み干すと舞音はもう一度街道と向き合った。
「以前お話ししてくれたコラボレーションの件、やりましょう!」
いつも飄々としていた街道が初めて驚いた顔を見せた。
「どういう心境の変化が?」
「良いものを作りたいだけです!」
舞音の言葉にニヤリとして頷くと立ち上がった。
そして無言で手を差し出してくる。
その手を掴むと固く握り合った。
この男もまた銀河鉄道を本気で目指すパフォーマーの一人なのである。
帰ってきた舞音を仲間たちは温かく迎えてくれた。
あれやこれやと聞いてくる仲間に舞音はこれからの事を話す。
あれほど敬遠していた街道と協力する事に初めは皆も戸惑っていたが、この旅で感じた事考えた事を話せば一様に頷いた。
それからは大変だった。
これまでお互いに道具を使わないパフォーマンスと道具を使うパフォーマンスしかしてきていない。
どう組み合わせて良いか分からずいくつか続く演目を交互に行うという事にもなりかねなかった。
「何かが足りないー!」
幾ら旅をして視野が少し広がったといっても中々自分たちのこれまでやってきた事に対するプライドは曲げられない。
それは皆も同じだった。
悶々とする日々が続く中、舞音は久しぶりに銀河鉄道に足を向けた。
変わらず堂々とするその様は凛として格好良い。
夕方の赤い日に照らされた銀河鉄道は情熱的な熱量を帯びて舞音たちが来るのをを待っているかのようにも見えた。
「いつまでも意地の張り合いをしていては進めないですね。」
いつのまにか隣にいた街道がホールを見上げる。その目は真剣だった。
「そうですね。旅で出会った沢山の人に教えてもらった事も無駄にしたくないですし。私達は私達に出来る最高のものを。」
一人じゃない。
同じ夢を持った仲間がいる。
もちろん意見がぶつかることもある。
だけど、良いものを作りたい気持ちは誰にとっても嘘じゃない。
認め合って、高め合って、そしてなお高みを目指す。
いくつもの試行錯誤を繰り返し、とうとう舞音たちは銀河鉄道でショーをする機会を手に入れた。
舞音の閃きが街道のパフォーマンスと仲間の踊りを一つにし無事にショーを完成させた。
もう憧れた夢は目前である。