根本は折れずに生きている
およそ、中学とか高校辺りに。人は夢を持っていく。
そしてまだ、何もやりたい事がない人間もいる。特にやることもないまま。
『俺、プログラマー目指すわ。すっげーの作ってやるんだから!』
『そうなのかー、俺。まだやりたい事、決まんねぇのにな』
高校でできた親友の2人はしばし別れる。
『俺はもうプログラマー一筋で行くぜ!サイバー関連学びてぇ!そんで、一発当ててやるんだ!お前も次の大学で見つければいいじゃねぇか!』
『そーだな。なんだかんだ、勉強はしてた方だし……気ままに考えてみる。お前みたいに決められる男になりたいな』
◇ ◇
そんな別れから10年後くらい。
同窓会で2人は再会を果たす。
「おっ………」
「久しぶりー」
それはお互いにまったく違う10年間を過ごした者達の顔だった。
ガキ臭さはかなり消え、大人の風格を漂わせて再会を果たす。あの時は炭酸飲料での乾杯が多かったが、今日は堂々とキリンビールだ。
「今、三矢は何してんだ?」
「ああ、……その。ゲーム会社に勤めてる。その管理とか雑用、編集。あと営業か……ひっくりめて会社の雑用だな。たまにコード(プログラミング)を打ったり、デバックとか色々だな」
微妙に気を遣ったような声で、今の就職先を答えた三矢。その答え、あの頃とは信じられない職業だった。あーいう仕事というのは、目指す理由が必要なもの
「……は?え?なんで?」
「成り行きが大半と……ま、俺にも俺なりの夢ができたからか」
「いや!お前、ゲームとかあんまりしてなかったじゃん!!クリエイターっぽい感じしなかったぞ!」
「色々あったんだよ。ま、休みなんてあんまりないけど、給与が良いしな。経営、宣伝、売り込みが得意なのいて、制作陣も優秀だから、俺。結構下っ端扱いだけどな」
「いやいやいや、そうだとしても……いや、お前。すげーな」
「そうか?そーいうお前は……?」
話をしていて、なんとなく感じ取っていたが、
「はははは、フリーター!じゃねぇけど……今は不動産の従業員だ」
夢は叶わなかったようだ。それは諦めたっていう言葉より、
「気持ちだけじゃやってけねぇのよ。いや、舞い上がっていただけか」
「……どこでも厳しい世界だからな。しかし、お前もどうしてそこに……」
「まーその。沢山勉強してても、終わらない事ばっかり。やりてぇ事はやりてぇままで進まず。少し就職したところも、俺の希望したところじゃなかったからな。2か月で辞めちまったよ。俺にはきつかったぜ。似たようなところ探す気力も湧かなかった」
現実に打ち砕かれたというものだった。
あの頃はそんな負け犬になるわけないと思っていたが、
「生活も苦しくなったしな。いや、結局。夢より生活を大事にしたのさ。なにやってたんだよって、言われちまうかもな。入院したら気付けるけど」
「一発逆転とかしねぇの?」
「やんねぇーよ!バカじゃねぇの!別にせんでも、もう十分な生活をしてるしな。いや、三矢!お前頑張れよ!作ったゲーム買ってやるからよ」
「ありがとよ」
別に三矢は直接作っているわけではない。制作だけが全てではないし、売り込む側の人間として働いている事が多い。好きかどうかは置いといて、関われる人間にはなれた。
つまるところ。
やりたい事以外はできない奴。
やりたい事はないが、やりたくもない事はできる奴の差。
「……しっかり勉強してたら、お前みたいになれたかな?」
「どーだろな。少なくとも、俺は仕事を楽しいとかあんまり思えないし。お前の言う通り、生活はほぼほぼ、ひぃひぃ言ってるよ。主に健康面で」
「ストレスやばいだろー!変なのばっかだろうし!」
「まーな…………なんつーか、……変なのばっかだよ」
ただお互いに成長していた10年だったのだろう。
夢を砕かれても、根本は折れずに生きている奴。
夢を決め切れずも、根本は折れずに生きている奴。
「彼女できた?」
「いねぇ」
「はははは、俺!結婚してるー!仕事先で出会った女性と先月結婚しましたー」
「てめぇ……そんなイチャラブ報告は聞きたくなかった」
無駄になった事もあれば、それも気付けないものもある。
こうして一杯飲んで、互いに元気にやれている事を確認できれば、今日はそれでいいんだろう。