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シュナイゼル

 「と、その前に、この土地のことについて聞きたいのだけれど」

 了承の返事をした後、すぐにこの土地のことについて尋ねた。キリカは、コップ一杯に入った水を一気に飲み干した。一回咳ばらいをし、口を開く。

 「この土地の名前は、シュナイゼル。田や畑が広がる広大な大地のある領です。南には、広大な海。東には、標高の高い山々が連なる山脈。西には、巨大な渓谷。そして、北には沢山の領があり、この国を治める王族のいる領メルクーリも存在します」

 そこまで説明すると、コップに水を汲みに行ってしまった。熱々の紅茶を一気に飲んだのだから、火傷をしたのだろう。僕は、唯一部屋にある窓から外を見てみる。その窓から真っ直ぐ見えるのは、巨大な渓谷だ。ということは、向こうが西ということであっているだろう。窓を閉じたままだと、北と南が見えなかったので、窓を開ける。すると、暖かな涼しい風が吹いてきた。

 「涼しい……」

 風に浸っていると、キリカが右手に水に入ったコップを持ち、部屋に這入ってきた。僕は、窓を開けたまま席に戻った。

 「ここから渓谷が見えるんだね」

 僕がそう言うと、キリカは驚いた顔をする。何か気に障ることでも言ってしまったのかと思い、おそるおそる、どうしたの、と訊く。

 「ここからは見えないと思いますよ……遠すぎて。それが見えるだなんて……」

 今気づいた。肉眼であれだけはっきり見えていた時点で、おかしいではないか。普通の人間では見えるはずがない。

 僕は、吸血鬼なのだから見えても仕方がないのかもしれないが。

 「僕は眼が化け物級に良いんだよ」

 「そうなんですか。まあ、ものすごく目のいい人がこの世界にいるということは知っていたので……。噂ですが」

 はあ。いてよかった。逆にいなっかたら、神の瞳だ、とか言われて祀られそうだな。

 話を戻そう。

 海や渓谷、山脈は置いといて、気になるのは国の方だ。

 「国の事を聞かせてくれないか」

 キリカは、向かいの席に座り、水を一口飲む。風に髪を揺らされながら、話しを始める。

 「まずこの国は、一つの大きな山を中心に出来ています。そこから円を描くように外へ外へと、国は広がっています。中心から王族が完全に治めている領、その外側が大公が治める領、そのさらに外側に、公爵が――侯爵が、――伯爵が、――子爵が、――男爵が治める領、そして、その外側にシュナイゼルのような田舎の貴族が治める領があります。シュナイゼルに一番近い領は、エウテルペ男爵家です。北の森林を抜けた先にあります。これらの領をまとめて、人間国メルクーリ王国です」

 国の状態だとかはいいとして、この王国の面積が広すぎるということが分かった。このシュナイゼルだけでも相当な大きさがあるというのに。

 もう話しは十分だろう。

 僕は、少しぬるくなった紅茶を、一気に飲み干す。椅子から立ち上がり、大きく開いた窓を閉め、風を遮る。キリカも椅子から立ち上がり、カップをお盆に乗せる。僕は、先に部屋を出る。

 その先は吹き抜けになっており、解放感を味わうことができる。僕は右に曲がり、そこの少し開けた空間で足を止める。なぜキリカの部屋に入るときに気づかなかったのだろう。

 そこには、黒色の弓矢――ではなく、弓だけがあった。矢の方は、見当たらなかった。キリカは、一階に向かう階段と、逆方向に行く僕についてきた。

 「この矢のない弓は?」

 僕は、隣に来ていたキリカに尋ねてみる。キリカは、お盆の両手で持ったまま、答える。

 「それは、先祖代々受け継がれてきた物です……」

 キリカは、揺るぎない瞳で言う。貴族には――そうでなくとも、家には一つや二つ、先祖からあるものだってあるだろう。スカーレット王家にも宝物庫に何百年前に使われた聖剣とも呼ばれていた立派な剣があったな。もし、先祖から吸血鬼の血が流れているのだとしたら、矛盾というものを感じてしまうが。

 「矢がないのは――いえ、矢はあります。シュナイゼル家の者なら、誰でも矢を放つことができます」

 「どういうこと?」

 「シュナイゼル家の者がこれをも持ち、矢を放つ真似をする。その時に、矢を想像する。そうして、矢を放つ」

 「それで矢が放たれているんだ」

 「はい。実際に見せた方が分かりやすいと思いますが、必要のないときには使ってはならないという決まりがあるので」

 僕は、分かったと言って頷く。キリカは、僕より先に階段を降り始めた。僕はすぐ近くの椅子に座った。後ろを向くと、柵があり、その下の広い空間が一階である。ここからキリカの様子が見える。

 僕は、柵に肘をかけ、そこに顔をうずめた。

 「少し寝るか……」

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