宇宙人ごっこ
彼女は自らを「宇宙人」と名乗っていた。それも根拠が何ひとつないのにだ。
だから彼女は誰からも目をつけられていて、誰よりも孤独だった。だからわたしは、思わず彼女に手を差し伸べた。
それから彼女は自らを「宇宙人」と名乗りながらも、わたしをこの地球で友好的な人類、すなわち「友人」と呼んでいた。
彼女の髪は後ろでひとつに纏められている。どう見たって宇宙人には見えないので指摘してみると「むしろこの星の人間じゃないからこそ、こうやって少女として普遍的な髪型をしているんだよ」と返された。そんなもの、自らを宇宙人と名乗った時点で元も子もないのではないかと思った。しかしこんなやりとりはいつものことで、いつも強引な理由付けしか返ってこないため、早く切り上げるために深く追求しなかった。
帰り道、わたしはふと、彼女に聞いてみた。
「あなたのいた星はどのように出来たの?」
突然、何を言い出したんだろう。わたし自身も、別に地球がどのように出来たかなんて全く知らないのに。だけど、彼女の中にしかない星も同じなのだろうか。もしかしたら彼女はボロを出して、星のできるまでの経緯をまたでっち上げるかもしれない。
だけど彼女は、いたずらっぽく笑ってこう言った。
「ばかげた話も信じてくれるような優しい人――ううん、ただひとりの友人に出会うため。そのためにその星は生まれたんじゃないかな」
拍子抜けだった。わたしはてっきり天文学的な嘘っぱちをこくとばかり思っていたのに。
あまりに予期しない返答に、わたしは反応に困ってしまった。だからだろうか。言うつもりもなかったはずの言葉が、口をついて出てきてしまった。
「……その友人って?」
「友人は友人だよ。その星が生まれてから今までずっと変わらない」
「……そうだね。ごめん」
いつもなら「苦しい言い訳だね」と言ってからかっていたわたしも、何も言えなくなってしまった。そのただひとりの友人のためにできた星を、わたしは否定したくなかったから。
彼女にとってそれは恥ずかしくもなんともないのだろうが、聞いてる側であるはずのわたしにはちょっとだけ恥ずかしかった。だってそれは、わたしにとってあまりに直球すぎるから。
だからわたしも、仕返ししてやろうと思った。それが彼女に効くかどうか分からないけれど。
「……じゃあ、わたしの生まれた星も、きっとどこかの星の誰かさんに出会うために生まれたんだろうね」
言っててこっちが恥ずかしくなった。彼女の真似をしただけなのに、さもわたしが考えた言葉のように思えてきた。
おそるおそる、彼女の顔を見る。彼女は一瞬だけ意表に突かれたような顔をすると、すぐさまそっぽを向いて呟く。
「……どうしたんだい友人。らしくもない」
「……別に、そっちの真似しただけだよ」
そんな言葉を最後に、彼女とわたしの、今日一日の宇宙人ごっこは終わった。