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第3話 あの世とこの世・その2

『いい仕事をしたわ。これで私の昇進も間違いなしね。』

少女は雲の上で自分のした仕事に満足気だった。

転生というものが一般的ではない今、この部署は神々からあまり人気のない部署である。ここに来る魂は少なく、1年に1、2度しかない。だから仕事そのものがなく、昇進の機会がないのである。

だから、ここに送られている神は下級の神や、問題を起こして左遷された上級の神達の部署だった。そして、這い上がるチャンスもなく、長い期間をこの部署で過ごすことになるのだ。

そして、少女は下級神だった。しかし、上級神を目指す野心家でもあった。

そんな時現れたのが魔王の魂だった。その魔王の魂は転生が決定づけられていた。前世でどんな悪行をしていようが、関係なかった。少女よりもっと高位の存在により、その事は運命づけられていた。それを覆すことは下級神である少女にはできなかった。

そこで下級神は一計を案じた。魔王の欲するものを目の前にぶら下げることにより、改心させるのだ。魔王の欲するものはすぐに分かった。力だ。能力獲得を餌にして、善行に励ませるのだ。

下級神は自分の手腕に酔っていた。そして、上級神へと昇進できる事を確信していた。

そんな時、少女の目の前に上級神よりさらに高位な存在である絶対神が現れた。

『絶対神ゼウス様がこんな辺鄙な部署にいらっしゃるなんて。早速、昇進しちゃうのかしら。』

少女は笑いが止まらなかった。

「お主が魔王を転生させたのか?」

ゼウスは少女に問いかけた。

『どうやら私の考えが当たっているようね。』

「はい。私が転生させました。」

「何故ギフトを授けた?」

「魔王が転生する事が決まっていましたので、他のものが苦しまないようにと思いました。私の考えでは、魔王は善行を行って能力獲得をするうちに改心すると考えています。」

『どやや。こんな事他の下級神には思いつかないわ。』

少女は自信満々に答えた。

「そうか……これを見るがよい。」

ゼウスは考え事をした後に、右手に持つ杖をかざした。杖の先には、魔王の転生後の姿が映し出された。

そして、その魔王の行為を見て、少女は驚愕した。

そこに映し出された映像で、惑星が一つ消し飛ばされたのだ。

『幸い惑星には生命は住んでいないようね。もし生命があったら、私の降格処分もありえたわ。』

「どうして、このような場所へと転生させたのだ?」

「勇者一行に強い恨みを抱いているようでしたので、会う事がない場所へと思いました。そして、あの船の乗員(クルー)達は全員トラブルで死亡していいましたので、ちょうどいいかと思ったのです。まさか、あんな兵器を搭載しているとは……」

少女から先程の自信は失われていた。

「なるほど。」

ゼウスは腕を組み考えていた。そして、口を開いた。

「お前も下界へと行き、あの魔王を改心させるサポートをするのだ。」

「えっ??それは……」

神が下界へと降りるのは下級神といえど屈辱的なことであった。

「旅に必要な能力も授けてやる。そうだな。宇宙を旅するのだから、言語翻訳魔法は絶対必要だな。それと、ナビ機能とストレージ魔法……こんなものでいいか……」

『それだけ?いやいや、それだけでは魔王のそばで生きていくことができないんじゃあ。』

神の力は下界では使うことができないのだ。魔王に攻撃されればひとたまりもない。

「そうか。そうだな。魔王には不干渉が基本だが、やられてしまう事もありえるか。では、魔王の力を一時的に奪う力も授けてやろう。」

ゼウスは少女の心を読んで、さらなる力を授けた。

少女は転生する事に反論することはしなかった。ゼウスの決めた事は絶対であり覆ることなどありえないからだった。

「どうやら、下界に行く事に絶望しているようだが、悪い事ばかりではないぞ。もし、あの魔王を改心させることができれば、お主の功績を讃え、上級神への昇格を認めてやろう。」

その言葉に少女は顔をあげた。

その言葉には希望があった。

「ではこの穴をくぐると良い。」

ゼウスは足元にある1つの穴を杖で指し示した。

少女はゼウスが指さした穴へと飛び込んだ。

そこには、宇宙が広がっていた。暗黒の空間に無数の光る点。そこに少女は吸い込まれていった。


少女が気付くとそこは宇宙船の一室だった。目の前のガラスは上半分が溶けていた。そして足の部分には生命を維持させる液体で満ちていた。その液体は、ガラスの溶けた上半分から流れ出て、部屋を濡らしていた。

少女は体に付いているコードを抜いて、ガラスの扉を開けた。

「 コールドスリープ ガ キョウセイカイジョ サレマシタ 」

少女は自分の体を確認した。その体は先ほどまでの神の体とは違っていた。胸も大きく手に収まることはなかった。そして、腰のくびれもあり、均整の取れたプロポーションをしていた。肌の感じから20代前半だとうかがわれた。自分の体を見ていると、先ほどの機械音が鳴り響き、タオルと衣類を提供した。

「 オハヨウゴザイマス サラ コチラガ タオルト イルイニ ナリマス」

タオルで体を拭き、服を着用すると、魔王のいるコックピットへと急いだ。


突き当りにある大きな扉へとかけていくと、船内に甲高い警報音が鳴り響いた。

扉を開けると、そこには2発目のエネルギー砲を嬉々として放つ魔王の姿があった。

「あなた、何をやっているの?」

思わず、非難の声を魔王に浴びせた。


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