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第2話 あの世とこの世・その1

『くそっ。いまいましい。次はこうはいかんぞ……それにしてもここはどこだ。』

魔王は辺りを見回した。

そこは辺り一面雲のような場所だった。視界も霧で包まれてはっきりしなかった。

前方には一人の少女が立っていた。

「ここは、転生できるものが通る場所だよ。転生を望む者は少ないんだけど、どうやらあなたは転生を望んでいるみたいだね。」

少女は魔王に話しかけた。

『なんだ、こいつは。なれなれしいな。殺すか。』

魔王は気に入らないものがいれば殺す。それが当たり前だった。

「ダメ。ダメ。殺すなんてもっての他だよ。というか、私を殺すなんて、あなたにできっこないんだけど。」

考えている事を読み取られ、魔王は驚いた。

「思考を読み取ったのか?」

「ここでは、あなたの考えは全て分かっちゃうから、変な事は考えない方がいいよ。私はあなたより、ずっと高位の存在なんだから。あなたなんか、片手でちょちょいのちょいよ。」

少女は右手をひらひらさせながら話した。

「『地獄の業火(インフェルノ)』」

魔王は怒り、魔法を放った。その言葉を発すると同時に黒い炎が少女を包み込む。

「ちょっと。ちょっと。沸点低すぎない。まるでエーテル並ね。そんな事じゃあ、あなた友達いなかったんじゃないの。」

黒い炎の中に平然とした少女の姿があった。その周りは光の膜で包まれ、魔法の影響を全く受けていなかった。

「それに私の心証を悪くしない方がいいわよ。転生後の生活に関わるわよ。」

魔法がかき消されたのを見て、魔王は悟った。この少女は自分よりはるか格上の存在であることを。そして、この場をさっさと切り抜けて、上手い事、転生を果たさねばならぬことを。

「すまなかった。どうすれば転生することができるんだ?」

魔王は先ほどの魔法で攻撃をした事を詫びた。

「あー、全然心がこもってないわね。そういうの。全部私には分かるんだから。でも、まあいいわ。転生する方法は教えてあげるわ。決まりだからね。この穴を抜けていけば、あなたは転生を果たすことできるわ。」

少女は足元にある穴を指さしながらそう言った。そして、話を続ける。

「それで、あなたの今回の転生はレアなケースなのよね。あなたは運命に干渉する力を使ったみたいね。だから今回は転生するにあたっていろいろと特別な事があるのよ。普通は新たな生命にあなたの魂が宿って赤ん坊からやり直すんだけど、今回は死んだものの肉体にあなたの魂が宿る事になるわ。」

魔王にとってそれは願ってもない事だった。赤ん坊から人生をやり直すなどという悠長な事はいってられない。一刻も早く勇者一行に復讐を果たさねばならない。

「私の力はどうなるんだ?」

「あなたのその自然現象を操る力は引き継がせてあげるわ。」

魔王は笑みがこぼれた。

『転生して力が失われるかとも思ったが、私の古代言語魔法による自然を操る力は使えるのか。素晴らしいではないか。態度は気に食わないが、この目の前の少女は私にとっての神かもしれんな。』

その思考が読み取られたのか、少女の顔がにやついていた。

「あと、あなたにはもう一つギフトをあげるわ。」

『なんだと。転生するにあたって能力を追加してもらえるとは……これなら勇者との戦いにおける勝利が盤石のものとなるな。』

「どんなギフトだ?」

「誰かの助けを行えば、その善行に応じて能力を身につけることができるというものよ。」

「・・・・・・・・」

『まあいい。そんなものがなくても、古代言語魔法さえあれば、油断しなければなんとかなる。』

「あっ、そんな事思っちゃうんだ。でも、いずれこのギフトに感謝することになるわ。説明はだいたい終わったから、この穴を通って転生しちゃっていいわ。」

魔王は少女が指さした穴へと飛び込んだ。

そこには、暗闇が広がっていた。暗黒の空間に無数の光る点。そこに魔王は吸い込まれていった。


次に気づいたのは水の中だった。

『たしか死んだ肉体に魂が宿ると言っていたな。この男はどうやら溺死したようだな。』

魔王は目を見開き、魔法を使って水中から脱出をしようとした。

しかし、その必要はなかった。水位が徐々に下がり、しばらくすると、周りにあった水が全てなくなってしまった。

体には線のようなものがついていた。それを引き抜くと、先端には針のようなものがあった。

「 コールドスリープ ガ カイジョサレマシタ 」

無機質な声と共に魔王の目の前にあった、透明な蓋が開いた。

魔王は水が入っていた透明な棺桶から抜け出し、自分の体を見た。その体は何故か裸だった。

『どうやら人族(ニンゲン)の男のようだな。この肉体は20代くらいか。』

次に辺りを見回した。

『ここはどこだ。魔王城ではないな。こんな場所はなかったはず。すべて鉄で作られた部屋とは。』

魔王が考えていると、先ほど聞こえた無機質な声が再びしゃべりかけた。

「オハヨウゴザイマス アルフレッド コチラガ タオルト イルイニ ナリマス」

壁の一部が開き、手触りの良い布と着るものが飛び出した。

『何と言っているのかわからんな。どこの言葉だ……それにしてもこの声は誰だ。あの雲のような場所で会った女か。しかし、声も言語も全然違うような気がするが。』

魔王は驚きながらも、出てきた布で体を拭いた後、服を身につけた。

そして、部屋の扉を開けようとした。扉に手をかけようとした時、魔王は思わず声をあげた。

「うぉっ。」

扉が自動で開いたのだ。

『驚かせやがって。何らかの魔法が組み込まれているようだな。』

魔王は扉を出て、辺りを見回した。そこは一本の通路があった。そしてその周りは全て鉄でできているようだった。

「何なんだここは……」

魔王は一人で呟き、扉を出て右に進んでいった。

進むとすぐに右手に扉があった。

『ここも自動で開くのか?』

「 ニンショウ エラー 」

無機質な声が聞こえたが、扉は開かなかった。さらに取っ手を持って扉を開こうとしたが、扉は動かない。

『どうやら壊れているようだな。』

魔王は扉を魔法でぶち破ることにした。

地獄の業火(インフェルノ)

黒い炎は扉を焼いて消滅させた。

その部屋には透明な棺桶があった。そして、その中には人族の女が裸で立っていた。

自分と同じように水の中に浸かっており、目を閉じていた。

放っておいても良かったが、雲の上での会話を思い出した。


「誰かの助けを行えば、その善行に応じて能力を身につけることができるというものよ。」


魔王は試してみることにした。透明な棺桶を炎の魔法で焼失させ、水を排出した。

『こんなものでいいだろう。さて、何か変化があるか……』

魔王は変化が出るまで、さらに辺りを探索する事にした。棺桶の中の女は放っておく事にした。

『水の中から助けてやったのだ。これ以上、世話を焼く必要もあるまい。』

外に出て、さらに右に進むと、突き当りには、大きな扉があった。

『ふっ。大きいから開かないと思わせておいて、ここも自動で開くのだろう。もう驚かんわ。』

大きな扉に近づくと、大きな扉は左右に開いた。

『やはりか。驚かせようとしているのかもしれんが、まだま……』

扉が開かれ、現れた光景に魔王は呆然とした。

その扉の向こう側も、ほぼ鉄でできているのは変わらなかった。しかし、違う点があった。その鉄の壁には凹凸があった。ところどころには鉄ではない部分も見られた。

そして、大きく違うのは、前面が透明な壁になっていたのだ。先ほど、魔王が閉じ込められていた棺桶の材質と同じように見えた。

その透明な壁の向こうには、外の風景が映し出されていた。

その光景は、世界を隅々まで渡り歩いた魔王の知っているそのどれでもなかった。

外に映し出された風景は暗黒だった。そして、無数に輝く光の点。よく見ると、大きな丸い岩がいくつか見られた。そして、小さい岩も時折通り過ぎていた。

『なんだ?無数の岩が暗闇の中を動いている?いや、この部屋が動いているのか?ここはどこなんだ。』

魔王は部屋の中に入り、透明な壁の方へと近づく。その透明な壁の下の部分は鉄でできており、出っ張っていた。魔王はその飛び出た鉄の部分に手を置いた。そこには凹凸があるのが感じられた。

「ハドウホウ ジュンビ カンリョウ シマシタ」

またも無機質な声が部屋にこだました。

「 エネルギー ジュウテン ・・・70% ・・・80% ・・・90% ・・・100% ハッシャ カノウデス 」

魔王は狼狽えた。何が起きているのかが分からなかった。

ウー。ウー。という甲高い音が部屋に鳴り響き、凹凸の一つが点滅をしていた。

魔王は赤く光るその突起に触れた。

その瞬間透明な壁の向こう側に、青白い閃光が暗闇の中を一直線に進んだ。その光の槍は、丸い岩に命中した。

すると、その丸い岩は音もなく粉々に破壊された。


『ふははははは。これが新たな力というやつか。この力があれば、勇者一行など恐れるに足りぬわ。』

魔王はもう一度再現しようと、さっきの行動を思い返した。

『確かこの辺に手をおいて……』

「ハドウホウ ジュンビ カンリョウ シマシタ」

『これだ。きたぞ。』

「 エネルギー ジュウテン ・・・70% ・・・80% ・・・90% ・・・100% ハッシャ カノウデス 」

赤く光る突起に触れる。

『ぽちっとな。』

またしても青白い光の槍が一直線に進んでいった。今度はどこにも当たる事なく、遠い彼方まで進み消えていった。

『たったあれだけの事でこれだけの力を得る事ができるとは、私の時代が来てしまったようだな。』

その時、後ろの扉が開いた。


「あなた、何をやっているの?」

そこには、先ほど助けた女の姿があった。




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