第1話 転生
空に浮かぶ魔王城の最上階。そこは円形の闘技場の形をしていた。
そして、今まさに勇者一行と魔王の最終決戦が行われていた。
「覚悟しろ、魔王。」
勇者がオリハルコンでできた剣に炎を纏わせ叫ぶ。
「ふん。愚かな者達よ。返り討ちにしてくれるわ。『隕石』」
魔王の使う魔法は詠唱を必要としない古代言語魔法。魔王が魔力を込めて発した事象が現実となる。
魔王の言葉に反応して、空から隕石が降りそそぐ。
「任せてください。
『 地と闇の精霊よ 万物を束縛する鎖を断ち切り 解放せよ 重力操作』」
魔法使いが魔法を詠唱すると、無数の隕石は空に浮かぶ闘技場を避けて地上へと着弾した。山々は吹き飛び、凄まじい爆風が地上で巻き起こった。
勇者は魔王の魔法を気にせずに突っ込んでいた。勇者は仲間を信頼していた。魔王の魔法を気にせず、ただ一直線に魔王に向かっていた。
「ぬぅ。『落雷』『黒炎』……」
魔王は勇者に向かって次々と魔法を放つ。
しかし、勇者はその魔法を気にせず突進する。
物理的な魔法以外ならば、勇者の装備している鎧が軽減するのだ。加えて戦いの前に勇者には強力な魔法防御もかけられていた。
「くらえ、紅蓮炎殺剣。」
魔王は左腕で防御した。
勇者の放った一撃は、防御した左の肘の上部分から先を切断した。
「くっ。よもやこれほどとは……『接合』」
魔王は切り落とされた腕を回復するために魔法を唱えた。
その時、勇者の後ろから剣を持った男が魔王にとびかかった。
「くらえっ。」
戦士の放った一撃は魔王の胴体を真っ二つに切り裂いた。
そして、戦士の持つ魔剣ダーインスレイヴで切りつけられた部分はどんな回復魔法でも回復することはできない。
『油断したわ。勇者の後ろに戦士を隠して一緒に切りかかってくるとは……』
致命傷を負った魔王は戦いを諦め、逃げようと考えた。
しかし、それを許さぬものがいた。空中から声が聞こえた。
「くらいなさい。
『 光の精霊よ 光の堅牢を以って 深淵の闇を封印せよ 絶対牢獄』」
空中から放たれたその魔法は魔王に着弾した。
そして、魔王の周りから六本の光の柱が現出した。
光に包まれた中、魔王は自分が敗北してしまったことを悟った。
『くそっ。私としたことが油断してしまった。』
魔王は死を覚悟した。
『最後に成功するか分からんが、試してみるか……』
死の間際、魔王は長年研究し続けていたある古代言語魔法を口にした。
「転生」
「終わった、のか……」
魔王城の最上階で、勇者は呟いた。
「最後の私の魔法では、せいぜい捕縛する程度だと思ったが……私の魔法に耐えきれず、消滅してしまったのか……?」
空中から降り立った者は地面に降り立ち、疑問を口にした。
「俺の一撃で瀕死状態になっていたんじゃないか。」
戦士は自分の一撃が魔王にとどめをさしたことに疑いをもっていなかった。
「どうあれ、魔王の気配はこの世から消え去ったのは間違いありません。これで、この世界に再び平和が訪れますね。」
魔法使いが3人に近づきながら告げる。
魔法使いには魔力を感知する力があった。この世界のどこへ逃げたとしても、魔王の居場所を探知する事ができた。
「そうか、お前が言うなら間違いないな……良かった。本当に良かった。」
勇者は長い戦いの日々を思い返して、感涙にむせんだ。
他の3人も同様だった。
しかし、4人はまだ知らなかった。魔王が最後に魔法を唱えていたことを。そして、その魔法が成功していたことを……