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プロローグ

「嘘だろ? なんで斬られたり潰されたりしたのに、無傷で立ち上がるんだよ?」


上音は、思っていたことをそのまま口に出した。


「不死と言ったところだ、凄いだろ? これがケイス様の力だ、これが有る限り俺達をどんな手段をもちいても殺すことは絶対に出来ない」


ガハナは不適な笑みを浮かべ、上音の疑問に答える。


「そんなの、どうすれば」

「簡単だよ。それは封印する、もしくは相手の戦う意思を砕く、それだけだ」


上音の言葉に刻守は直ぐに返す。その声には恐れも恐怖もなく、有るのは絶対的な自信だった。刻守は何度も不老不死を持つ者と戦い、勝利して来たことによる自信があった。


「言ってくれるな生け贄風情が、だがこの数の敵に勝てるか?逃げられるか? 否、それは無理だ、だから諦めろ」

「随分と優しいな、その優しさは己を殺すことになるぜ?」


刻守とガハナの会話のやり取りに上音は、この場をどう切り抜けるか悩んでいた。


「なら、勝ってみろよ」


その言葉と共にガハナの姿が変わり始める。ボコボコと体が大きく膨れ、服が破ける。そしてガハナの立っていたところには、三つの狼の頭と狼の体の化け物の姿があった。


「ケルベロス?」


上音は自然とその言葉が出てきた。刻守も驚いた表情をした後、苦虫を噛み潰した様な表情に変わる。。


「なんだ知ってるのか、 さすが爺様だな」

「ケルベロス、冥界の番犬だったかな?なんでそんな奴がこんな所に」


ガハナは、嬉しそうに笑い刻守は、冥界の番犬たるケルベロスがどうして、この場にいるのか訳が分からなかった。


「ガハナさんは、冥界の番犬なんですよね?なんでケイスに」


上音はガハナに直接聞いて解決すれば良いと答えを出し聞いた。


「ん? さぁなよく覚えてねぇよ、なんか真っ白くてな、だがなケイス様と呼べよカミネ」


ガハナは気楽に答えるも、途中から声が変わり威圧感が強くなり上音は一歩下がり刻守の体に当たる。


「安心しろ俺達は生き残る、死ぬわけにはいかないし、この場所から逃げなきゃ駄目だからな、まぁどちらにしろ邪魔なんだ、殺すだけだ」


刻守は上音の肩に左手を置き、声を掛ける。上音に背を向け、刀を握り直し構える。


「良いか? 戦闘において焦りは禁物だからな、それと周りを良く見て戦えよ」

「は、はい!」


刻守のアドバイスというよりも基本的な事を言われ上音は改めて気合いを入れて前を見る。


「覚悟ができたか? この生け贄共が!」


その言葉を最後にガハナの後ろと刻守の前にいる雷獣の化物が一斉に上音達に向かっていく。


(上音君の力は恐らく広範囲に対応した能力、それなら)


刻守は、上音と離れた位地に移動しようと、目の前から来る雷獣を縦に横に刀を振り抜き、確実に殺しながら移動する。


「おらおら、どうしたこんなもんか? それじゃあ俺達を倒せないぜ?」

「嘗めるな! 生け贄風情が!」


刻守に斬られ倒れ付していた雷獣達は傷が無くなり立ち上がる。

刻守の挑発に、一匹の化物が吠え刻守に向かって行く。他の化物達は、遅れながらも全員で刻守に向かって行く。そして刻守の移動目標の場所に着いた時には、ガハナの後ろにいた化物も一部が刻守のいる場所に向かって来ていた。


「流石に数は沢山いるな」

「どうしたよ、びびったか?」


刻守の言葉に化物達は気分が良かったのか、嘲笑いながらも挑発する。


「そうだな」


その言葉に化物達は、声を上げて笑う。


「まさか俺達の所には、数だけが取り柄の雑魚共が、来たことに驚いたよ」 


刻守の言葉に、化物達の笑い声が消える。


「このクソがー!」


 一匹の犬の姿をした雷獣が吠え、刻守に向かって行くも縦に切り裂かれ地面に落ちる。


「一匹じゃなくて全員で来いよ、雑魚共」

「この生け贄が!」


刻守の挑発に乗せられ全員で刻守に攻撃する。


「空からの攻撃は防げまい!」


悪魔の様な化物や鳥の化物が一斉に空から奇襲する。


「防ぐ必要はない」


刻守は全て紙一重で避ける。そして、自身の刀の間合いに入った化物を全て斬り捨てた。


「避けて斬れる奴を的確に斬る。それだけだ」


ならば、と地上からは飛べない化物達が攻めるも全て刻守の間合いに入った瞬間に斬り裂かれ次第に山となる。


「嘘だ」


空を飛ぶ一匹の鳥の化物が呟いた。空と地上の同時攻撃を紙一重で避け、斬り捨てる人間に恐怖していた。


「こんなの勝てる訳が無い」


その言葉と共に、鳥の化物は無意識に距離を取ろうと後ろに下がる。刻守はその瞬間に一歩下がった鳥の化物に、一瞬で跳びながら近ずき刀を下から斜めに斬り上げる。体制を直しながら、足を鳥の化物に向け、その体を踏み台にし横に跳ぶ。一番近くにいた鳥の化物に刀を突き刺し、そのまま体を捻って背中に回り、着地する。先程と同じ様にして上に跳ぶ。しかし、相手も馬鹿じゃないので刀の間合いに入らぬぎりぎりの位置まで飛ぶ。


「馬鹿め、ここなら届くまい」

「ココ、次行くぞ形態変化モード薙刀なぎなた


言葉と共に刻守の右手の刀は模様の同じ薙刀に変わる。


「な、なんだよそれは!」


悪魔の様な化物は、更に高い所まで移動しようとするも遅く、刻守が薙刀を振りかぶり、右肩から左脇腹にかけて薙刀を振り抜き、切り裂いた。その言葉を最後に、空にいる化物達は全員地に落ちる。地上にいる化物達は動けずにいた。刻守は左手を地面に着け、薙刀の刃先を右下に構え、着地するのと同時に、目の前の動けないでいる化物を、一歩踏み込みながら薙刀を振りかぶり、首を斬り裂く。石突いしづきを正面に、つかにお腹を向け右足を前に出し、脇構えの構えをとる。断末魔を上げること無く、倒れた仲間を見た化物達は、再び刻守に向かって突撃する。右から突っ込んできた犬の姿の雷獣の攻撃に、体を前に倒し避け、素早く体を捻り、左下から右上に斬り裂く。斬り裂かれた犬の姿の雷獣の後ろに隠れながら狐の姿をした雷獣が来る。刃を返して右上から右下に振り抜き頭を斬り裂く。

いつしか刻守の周囲には、先程まで斬り裂いて倒れていた化物達が蘇り、空と地上から刻守を囲んでいた。


「これならその武器も役に立たないだろう」


地上の化物が、辺り構わず一斉に刻守に向かってく。


「チッ、ココ、形態変化モード大太刀おおだち


刻守の言葉に薙刀が光、今度は大太刀に姿を変える。


「馬鹿が! そんなでかい武器にしたところで、振れないなら只の役立たずだ!」


化物の言うように重すぎるため、持ち上げる事が出来ず、切っ先は地面に着いていて、満足に戦う事は出来無い様子だった。化物はこれを好機と捉え、刻守の周囲には既に化物達が迫っていた。


「なにも、一体だけを相手に、する訳じゃないんだよ!」


刻守は自身を中心に大太刀ごと勢いよく右回りに回り、周囲の敵を巻き込みながら斬り裂く、それでも何体かはそれを避け、刻守に向かっていく。


「ココ! 形態変化モード小太刀こだち!」


大太刀が光、小太刀に変わりながら刻守は自身に一番近い化物の顔を下から上に、右手の力のみで斬り裂く。


「此れで終わり!」


声のする方に、刻守が顔を向けると、猫の雷獣が刻守の顔に跳びかかって来ていた。刻守は猫の雷獣の顎を左手で打ち上げ、猫の雷獣の顔が空を見上げる形になり、体が打ち上げられた勢いで上を向き、腹を見せたところに小太刀を突き差し、遠くに投げる。


「さっきのはヤバかった」

「油断したな」


刻守が一息吐こうとしたとき、真上から悪魔の様な化物が攻撃する。


「そんな避けやすい攻撃」


刻守が横に避けようとした瞬間、足を何かに掴まれる。下を見ると土から手が出ており刻守の足を掴んでいた。


「! マズッ!」


刻守は何とか抜け出そうと足を動かすも足を掴む手が離れない。


「手足を千切ってやるぜ、この生け贄が!」


悪魔の様な化物が、刃の様な爪の生えた手を地面に着地しながら振り下ろす。が、刻守は其れに合わせ、体を横に捻り避ける。そして小太刀を首に向かって刃を横にし、体を戻しながら小太刀を振るい斬り裂く。そして首から上の無くなった体を、今度は体を反対に捻りながら、左手で突き飛ばす。


「ギリギリだったな」


刻守は足を掴んでいる手を斬ると手を話したので、その場から離れる。地面から手に傷の付いたモグラの雷獣が出てきて、こちらに跳んで来る。其れに合わせ小太刀を振るい体を両断する。


「ゲハハハハ! まだまだこれからだ!」


刻守の周りには、蘇った化物達がまた囲んでいた。


(一人じゃなくて、目の前にいる敵を対象に)


「縛!」


上音は考えながらも声を上げる。右手を肩の高さまで上げ、ギュッと握る。目の前に迫ってくる化物は動きが止まるが、別の場所から攻めてくる化物の動きは止まらない。


「圧殺!」


突きだし握った右手をそのまま下に振り下ろし目の前の化物を潰す。しかし別の場所にいた化物が上音を襲う。


「土よ! 敵を貫け!」


左手を上に振り上げる。地面の土が天に伸びるようにバラバラに、しかし、的確に化物の身体中を土の棘が貫く。その姿は正に地獄絵図の様だった。上音はそれを見ないように左手を降ろす。土の棘は上音のての動きに合わせ、元の土に戻る。


「面白い力だな、カミネ」

「ガハナ!」


後ろからガハナの声が聞こえ直ぐに振り返る。そこには、無傷で立っているガハナの姿があった。上音は手を前に出そうとした瞬間、腹部に強烈な痛みが走る。


「グェッ」


肺にあった酸素が抜けるのと同時に間抜けな声が口から漏れ、上音は、数メートル飛ばされ地面に落ちる。上音は何で倒れているのか、どうして腹部が痛むのか理解できていなかった。


「おいおい、手加減に加えて尾で叩いた程度でそんなに飛ぶなよ」


ガハナからすればそれは尻尾で叩いた攻撃である。しかしその力は強く、人間一人を簡単に殺せる程である。では何故上音が生きていたか、それは上音が生け贄だからである。殺しては何の意味も無い、だから手を抜いた一撃だった。その言葉の意味を上音はゆっくりと理解していく。


(あれで手加減とか俺、無理じゃね?)


「生きてるか? カミネ」


ガハナはゆっくりと上音に近ずく。歩く姿は強者の余裕を感じさせた。自身が敗北する事は無いと理解している所から来る、強者の歩きだった。何故ならガハナは、上音の能力、力を何とも思っておらず、上音を格下に見たからだった。


(油断してる? 違うな、嘗められてるんだ、ふざけやかって! 殺ってやるよ)


ガハナは上音が不老不死だということを知らない。


(ならばその隙を突くじっと待つその時まで)

「クハッ! 良かったまだ生きてたんだな」


何時の間にか上音の前にガハナが立っていた。そしてガハナは油断していた。上音は手をそのままの位置で、素早く握る。


「縛!」


ガハナの動きが止まる。


「グッ!」

「油断したなガハナ」


上音は起き上がり、ガハナと向き合う。ガハナは、大きく目を見開いた。


「お前、動けたのか」

「油断したな、ガハナ」

「カミネー!」


上音の皮肉な言葉にガハナは自身が油断、慢心していた事に後悔する。しかし、ガハナは自身に対する後悔より、怒りの感情の方が強かった。


「圧殺」


静かな、しかし、自身に死を与える声にガハナは何も出来ずなそのまま潰れる。上音はその場から数歩後ろに後ずさる。直後、空から黒い槍の様な物が数本、先程まで立っていた場所に突き刺さる。後ろを見ると、先程まで潰れていた数体の、悪魔の様な化物が蘇り、空を飛び上音に向かって先程地面に突き刺さった黒い槍の様な物を再びその手に出す。上音は直ぐに手を向け下に振るう。


「圧殺」


その言葉と共に地面に落ち、潰れる。周りを見ると、最初に貫いた化物達も蘇り上音の前に立っていた。上音は再び右手を上げる。


「あっ」


圧殺の声と共に手を下に振ろうとした瞬間右から強い衝撃を受け左に再び吹き飛び地面に落ちる。


「なにが?」


かなりの痛みに上音は起き上がれず顔を衝撃のあった方向に目を向けると多きな猪の化物がこちらに向かってきていた。


「土よ、大穴となせ」


上音の言葉に、大きな猪の化物の進路にある土が、大きな穴を作り大きな猪の化物がその穴に落ちる。


「所詮は猪だな」


上音は自身の体の痛みと傷を無かったことにして立ち上がる。


「カミネ、俺は言ったよな? 俺達は不死身だって」


上音の後ろにはガハナが立っていた。上音は逃げるようにその場から走り出す。


「何処に行くんだ?」


その言葉と共にガハナが並走する。上音はガハナに目を向ける。


「おせぇよ」


右手を出した瞬間、ガハナが尻尾を上音の腹に振るう。それを反射的に地面に寝ることで避ける。


「土よ! 敵を貫け!」


その状態のまま叫ぶと土が棘となり、ガハナを貫こうと襲う。しかし、ガハナは素早く動き回り、土が棘となり、自身に突き刺さる前に移動する。


「遅い、遅すぎるぞカミネ」


上音が立とうとすると背後にガハナは立っていた。


「ヤバ!」


ガハナは立とうとする上音を右前足で踏みつける。バキバキ、と、骨の折れる音が上音の体から鳴る。


「良いの……か……よ……俺死……ぬぜ?」


上音は痛みと苦しみに、掠れた声を出す。


「悪いな。もう、慢心も油断しない」


ガハナは力を弱める事をしない、しかし、上音は未だ、ギリギリ生きている。それはガハナが上音の不老不死を知らず、上音を生け贄として生かして、連れて行く必要が有るからであった。


(ヤバイ、これはマジでヤバイ死ぬんじゃないのか?嫌だ、死ぬのは嫌だ! 退けよ!)


上音は不老不死に成っていても自身の体の痛みと苦しみから来る死の恐怖に敵わなかった。


「ーー!」


上音は声に成らない声を上げる。その瞬間、大きな音を発てガハナを横に吹き飛ばす。ガハナは体制を整え、地面に着地する。


「何をした?」


ガハナの問いに、上音は答えずふらふらと起き上がる。


「まだ……死ねない……こんなところで……こんな形で死にたくない」

「なに言ってんだ?」


上音の言葉にガハナは聞き返す。


「……」


上音はガハナに顔だけを向ける。


「……潰れろ」


上音の言葉と共に、ガハナと上音を囲んでいた化物達は地面に潰れる。


「殺しても潰しても生き返るなら、今のうちに動きを封じれば良いよな」


上音は地面に手を着ける。


「土よ、敵を呑み込め」


土がガハナ達を呑み込み上音の周囲には、誰一人いなくなる。上音はふらつき、顔から地面に倒れた。


「痛い」


上音は自身の顔から来る痛みを我慢しながらも起き上がり、辺りを見回す。


「誰もいない、なんで? もしかして俺負けた? だから刻守さんの所に行ったのかな? だとしたら行かないとな」


上音は立ち上がり、刻守の所に走って行くのだった。


約十分余りの時間が過ぎた。刻守は化物を切り裂き、時には潰すの繰り返しだった。徐々に刻守は傷が増え、動きが鈍くなり始めていた。化物達はどんなに殺されようと蘇る、このサイクルは、少しずつだが、確実に刻守を追い詰めていた。


「刻守さん、加勢します」

「ありがとう、助かるよ」


(ここは一端、休憩したいな)


刻守の思いに上音は気付いていなかった。そもそも、上音と刻守は不老不死である。しかし二人には決定的に違いが出ていた。それは怪我が治るか、治らないかである。上音は怪我をしても治る、しかし、刻守は違う怪我をしても治らないのである。上音は、ガハナの姿を探す。


(ガハナがいない? まぁ、いないならいいや)


上音はそんなことをしながらも刻守に目をむける。


「刻守さん大丈夫ですか?」

「ちょっとピンチかな」


刻守の声には余裕は無くなっていた。


「刻守さん、今近くに行きますので動かないでください」

「? 分かった」


上音は此のとき、始めて刻守に目を向けた。上音には刻守の姿が弱々しく写った。上音は声を上げる。此のままだと確実に、生け贄として捕まってしまうからである。上音は直ぐに刻守の近くに行き、上音は地面に手を着ける。


土壁つちかべ!」


土がドームの様に二人をぎりぎり覆える大きさで出来上がる。しかしそれでも狭く息苦しかった。


「こ、これは?」

「落ち着け、ゆっくりと分厚くそして大きく」


ゆっくりと確実に土の壁は分厚く大きくなっていき、真っ暗だが二人でも余裕でくつろげるだけの大きな空間が出来上がる。


「上音君」

「刻守さん、今治療します。そのまま休んでいてください」


刻守にはこの現状は有り難かったのか上音の言葉に刻守は目を瞑る。


「失礼します」


上音は刻守の体に手を乗せ、能力を使い傷や疲れを無かったことにする。刻守は上音の行動に驚き目を開ける。


「か、上音君?」

「大丈夫です」


刻守の体にある傷は、どんどん治っていき直ぐに体の傷が無くなり疲れを無くす。


「傷だけでなく、何だか疲れまで無くなったかのようだよ。有り難う上音君」

「いえ、気にしないでください」


上音は刻守のお礼に短く答え自身にも同じ様に施す。


「しかしこのままは流石に不味いね」


刻守は辺りを見渡し、近くの壁を叩きながら呟いた。


「よし! しばらく休んで」


と刻守が声をかけたとき、二人の足元に魔方陣の様な物が浮かび上がり、そこから離れようとするも二人をあっという間に飲み込む。


上音達は今度は、窓が無くも電球の灯りが辺りを薄暗くも照らす部屋におり、目の前には王妃様が立っていた。


「ようこそ、ケイスの城にある秘密の地下室に」


刻守は王妃様の言葉に反応し、武器を構える。


「え? いやいやいや、待ってください! 私は敵じゃないですよ!」

「その言葉は信じられない」

「そ、そんな事言われても、本当に貴方達の敵じゃないので」

「刻守さん、王妃様の言葉を信じても良いんじゃないですか? もし敵ならここに連れてくる必要も無いわけですし」

「カミネさん、あり」

「何言ってんだ上音君、ここはケイスの城だぞ。生け贄として連れて来たに決まってんだろ」


上音の言葉に王妃様はお礼を言おうとするも刻守に遮られる。


「ここはケイスの城の中ですが、ここは私達を操り、この世界に繋ぎ止めるための部屋なんです。生け贄の部屋は違うところなんです」

「お前の言葉を信じる事はできん」

「で、ですから」


王妃様と刻守の言葉のやり取りに、上音は飽きて周りを散策し始めた。部屋のあちこちに刻守の腕にあった魔術的な模様があったり、あの赤紫色のリグールの実が籠の中一杯に入ったのが置いてあったりした。上音は部屋の奥の壁に今までの模様より大きな魔術的模様が描かれた陣があり、それを見つめる。


「この模様、破壊できるんじゃね」


上音は陣に触れ能力を発動すると陣はバチッ!と大きな音を発て消える。王妃様と刻守は音のした方を向き上音の居る所に走って向かう。


「何してんの! 上音君!」

「もしかして、あの魔法陣解除したんですか?」

「え? あ、いやその何となくこう、つい?」


上音の言葉に二人はため息を吐く。


「あ! 消えてる!」

「え? あ、もしかして俺不味いことしました?」

「違いますよ、むしろ有り難うございますってお礼が言いたいですよ! この場所に書かれていた陣が、私達を操ったりする物だったんですよ! これで私達は元の世界に帰れる、有り難うございます。」


王妃様は壁にあった魔法陣が消え、解除された事にお礼を言う。刻守はココを元の人の姿に戻し、その場に座る。


「それじゃあもう俺達が襲われる事は無いんだな」

「はい大丈夫です。多分」

「はぁ、まぁいいよ。あいつらが襲ってくるならまた逃げるだけだし」


上音の言葉に王妃様が答える。刻守の言葉に三人は苦笑いを浮かべる。


「あれ? 話を変えますけど、王妃様ってケイスの奥さんなんですよね? なんで操られてたんですか?」


上音の言葉に刻守とココは王妃様の顔を見る。


「私は、王妃様じゃないんですよ。私しか女性がいないのでその役になったんですよ。因みに、本当の姿はこれです」


王妃様は立ち上がり少し後ろに下がる。音を発て煙に包まれる。


「これが私の……真の姿です!」


煙が晴れると先程まで王妃様のいた場所には、頭に猫耳、背中に蝙蝠の羽、お尻に猫の尻尾を生やした王妃様とは別の人が立っており、その姿は沢山の人を魅了する程に美しい女性がいた。


「綺麗、コスプレ?」

「違います。私は人・鬼・猫又・雪女・影鰐・サキュバス・グーシオン・タローマティを祖先もしくは親に持つ、超凄い悪魔なんです。あ、私の名前はタリア・妖束あやつかです。」


上音の感想に、間髪いれず答える王妃様、もといタリアの言葉に、上音とココは分かってないのか首を傾げる。


「そんな超凄い悪魔様は何で操られていたんだ?」

「其れは私が子供の頃の話です」


刻守の問いに語りだしたタリアに、上音達は嫌な予感を感じていた。

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