プロローグ
「カミネ早速で悪いが、町の皆に紹介したいから広場に来てほしい」
「分かった」
「ガハナ、私は用事が有りますので此れにて失礼させてもらいます」
上音とガハナは外に出ると王妃様と別れ広場に向かう。広場には、既に町の人達を集まり既に壇上が作られており二人は壇上に上がる。
「皆よく集まってくれた。この度我々と共に王を討つ協力者となったカミネ・トウヤだ。カミネ自己紹介を頼む」
「上音統世です。王と同じく人間ですが、王の部下ではありませんのでよろしくお願いします」
上音の言葉に周りは少しざわめくも直ぐに静かになった。
「以上だ。全員有り難う以後よろしく頼むぞ」
ガハナが壇上から降りると周りの人達は少しずつその場から離れていった。しかし一人の狐耳と尻尾の1女の子だけがその場に残った。上音が壇上から降りるとその子が上音に近ずきながら言葉を呟いた。
「何があろうとも、絶対に彼等の出す赤紫色の実を食べてはいけない」
突然の言葉に上音は、その子に視線を向けるも既にいなくなっていた。上音は、不思議に思いながらもその場を後にした。村の中でも賑わっており活気がありとてもじゃないがここがレジスタンスで、此れから王に戦いを挑むとは思えなかった。
(さっきの子供の言葉、赤紫色の実を食べてはいけない、どういう意味だ? 昨日の食事には無かったけど)
上音は、その事が気になりながらも村巡りをしながら先程の女の子を捜しながら歩いた。
どれぐらい歩いたのだろうか、辺りは日が沈みかけていた。もう遅くなるだろうから帰るかとガハナに案
内された家に行く。
「誰かー! こいつを止めてくれー! 」
突然の大きな声に振り向くと大きなトカゲの様な生き物が男を乗せ荷物を引いて此方に勢いよく向かって来ていた。すると目の前に先程の女の子が飛び出してきた。上音は、直ぐさま手を突き出し人指し指を上げる
「空」
荷馬車は、地面から浮くもその速度は止まらなかったが女の子の頭の上を通っていった。ある程度進むとトカゲの様な生き物が引っ張っていた荷馬車も止まりゆっくりと降ろす。皆が上音に拍手や感謝の言葉を述べていた。乗っていた男も降りてきた。
「すまなかった。兄ちゃん怪我はないか? 」
「あぁ、大丈夫だよそれよりあの子は? 」
上音が視線を向けるとやはり女の子がいなくなっていた。上音の近くに男が立ちトカゲの様な生き物を指差す。
「こいつか? こいつは大丈夫だ、何と言っても俺の相棒だからな」
「え? いや、さっき女の子が」
「おいおい、女の子なら兄ちゃんの後ろにいるぞ?」
「え?……そうだな、悪い」
上音が振り向くと先程の女の子ではなく別の女の子が立っていた。男は笑いながら去っていった。
上音は、夜になるまで探してから、ガハナに案内された家に着き中に入る。中には既にガハナがテーブルに座っていた。
「さっき町の人達から話を聞いた。荷馬車と男を助けてくれたんだってな、有り難う。さて飯にするから早く座れ」
ガハナの言葉に上音は従いテーブルに座る。料理は相変わらず多く有った。上音は、子供の言っていた言葉が気になり赤紫色の実を探していた。
「どうした?何か探し物か?」
「え? あ、いや、朝の自己紹介の後に子供から赤紫色の実について聞いたのでそれで、あるかなーと」
「成る程な、赤紫色の実と言うとリグールの実だなとても美味しいからな食べてみると良いぞと言いたいが生憎入って無くてな、すまん」
「謝らないでください。寧ろ突然言った俺の方が悪いわけですし」
お互いに譲れずも楽しい食事をした。
夜も深くなり外は最早周りの家が見えなくなっていた。
(どういうことだ? あの実は食べてはいけないと子供が言っていて、ガハナさんは、美味しいから是非食べてくれって言ってた。どちらが正しいんだ? )
上音は、食事には満足していた。しかし先程の赤紫色の実であるリグールについて考えていた。するとドアが静かに開くが上音はそれに気づき直ぐ様手を向けると朝の女の子が其処にいた。
「迎えに上がりました。王戦の参加者様ですよね? 」
突然の言葉に上音は片手を前にだし戦闘態勢をとる。
「誤解しないで下さい。直ぐに此方に手遅れになる前に」
「何が言いたい」
女の子は、上音に近ずく
「それ以上こっちに来るな、来るならお前を潰す」
上音は、力をコントロールできるようになったが其れを女の子に向けるのは怖く精々、脅しになるだろうと考えていた。しかし女の子は、其れを知ってか止まらず上音の手を取りながら呟いた。
「死にたくなければ着いてきて下さい」
「はい、従います」
上音は子供の冷たいながらも力のある言葉の脅しに、反論は無理だなと諦め指示に従う
「ありがとうございます。隼人様準備が整いました」
了解と短く男の声が上音の耳に聞こえた。すると女の子と上音の体が光りに包まれる。視界が光に包まれ周りが見えなくなり始めた時ドアが勢い良く開きガハナと複数の人が飛び込み、此方に向かって来るも遅く上音と女の子は、その場から光に包まれ消える。
「やられた! まさか連れていかれるとは!」
ガハナの近くに居た男が叫ぶ。
「奴等め……おい、あの虫は着けたな?」
ガハナは隣の上音に助けられたトカゲの様な生き物の荷馬車をしていた男に聞く
「はい、作戦どうりに付けました」
「そうか、今から攻めるぞ! 今なら奴等の居場所が分かる、何より今はまだ奴はこちらを信じているはずだ!」
了解と周りの男たちは、部屋から出て行く。
上音はまた見馴れない場所にいた。辺りには古いテーブルが一つと椅子が三つ、そして段ボールが二つ其れしか無い広くもボロボロな部屋にいた。
「王戦争の参加者様、此方にお願いします」
上音は、女の子に付いていく。また別の部屋に出ると、其処には黒髪が肩まで有り上音と背丈が同じくらいの男性と段ボール意外何もなかった。女の子は男の近くに走っていった。男は気づき此方を向く
「来たな、初めまして俺の名前は刻守 隼人だ。それと隣にいるこの娘は俺の相棒のココだ宜しくな。早速で悪いが今すぐに転移装置のボタンを押してこの世界から出るんだ」
「初めまして上音 統世です。えっと、転移装置って何ですか? あとこの世界から出ろって?」
上音の問いに刻守は隣にいるココと顔を見合いココが頷くと再び上音に顔を向ける。
「上音君は初心者だね、分かった説明するから良く聞いとけよよまず始めに転移装置、此れは女神様や神様から貰った機械の事だ。僕らは皆そう言っている。次に僕達が今いる世界は普通の世界とは違い地獄や魔界何かの化け物が居るところさ。」
刻守の言葉に上音成る程と納得したが、今いる世界からの話が良くわからなかった。
「どうして僕達が此処にいるのが疑問かい? それは君の様な人達を助けるためだよ。あいつらは俺達、王戦争に参加している人達を集めてケイスの所に連れていくそして」
「ちょっと待ってくれ、俺が聞いた話と違うんだが」
上音はガハナに聞いていたのと違い刻守の言葉を遮る。
「当たり前だろ。お前を使って俺達を捕まえる為なんだから疑われないように尚且つ俺達を敵にするんだ話ぐらい作るさ」
上音は、刻守の話とガハナの会話をどちらを信じればいいのか分からなくなりガハナに聞いた話を刻守に話した。
「はぁー、可笑しいとおもはないのか? 俺が突然来ていきなり王を殺害して王になったとしても民が付いてくるか?もう一つ仲間を集めるのに時間がかかりすぎだ王一人に五年もかかるか? 更に食事だよ。レジスタンスで周りの村や町は貧しいのにかなりの量があったんじゃないか?それとケイスは確かにこの世界にいないだかな殺したではなく移動させたただ其れだけだ。」
「た、確かに言われてみればそんな気がする」
上音は刻守に言われ納得できた。だがそこで新たな疑問が浮かぶ
「何で俺気づかなかったんだろ?」
「知らん」
上音の言葉を刻守は切り捨てる。
「隼人様、余り時間がなさそうです」
今まで静かにしていたココが刻守に声をかける。
「そうか、さてお別れだな」
「ちょっと待ってくれ、刻守は行かないのか?」
刻守の言葉に上音が聞き返す。もし刻守の話が本当なら皆で移動した方がいいはずだ。
「そういえばさっき言わなかったな、俺達は既にケイスの呪いでこの世界から出られないんだ」
「呪い?」
「ケイスは、此れは此の地に縛り付けて逃げられなくするものらしくてな」
「でも、ケイスがいないなら呪いは解けるんじゃ?」
「そうだケイスはいない、正確には俺達を助けてくれた人がケイスを別の世界に飛ばした。だが俺達は呪いを解除することもできなくてな、助けてくれた人も解除できなくてその後、俺達にスマナイと言って俺達の前から姿を消したよ。其れから俺達二人はまぁさっき話した人助けしてたんだよ」
刻守の言葉を隣で聞いていたココの顔が後悔で歪んでいた。ポンとココの頭の上に刻守の手が乗り頭を撫でる。ココは顔を刻守に向ける
「すみません。嫌な事を聞いてしまって」
上音は、頭を下げる。
気にすんな、と刻守は上音の肩を優しく叩く。上音は自身の手に視線が行く。
(待てよ、もしかしたら呪い何とかなるかも)
「あ、あの俺の能力ならその呪い何とかできるかもしれません」
上音は頭を上げ刻守を見る。
「イヤイヤかなり強力だよ?俺でも呪いの力を弱める位にしかできないし」
「物は試しです」
「…分かった宜しく頼む」
刻守は左腕を出すと上音に向ける。そこには黒い線で何か魔術的な模様が描かれておりその上に布で作ったのか銃弾を一発入れ固定できる作りになっているのを巻いていた。俺は其れをはずし刻守の腕に自身の手を乗せる。
(解除できないなら呪いその物を破壊すればいい)
上音は能力を発動させる。すると刻守の腕ににある呪いの模様がゆっくりと消え始める。やがて腕にあった呪いの模様は
完全に消えた。
「凄い、凄いよほんとに解除できるなんて! どうやったんだ!」
「まず、呪いを解くことができないなら能力で呪いその物を破壊すればいいということで破壊しました」
「そ、そうか」
「あっさりしてますね」
刻守とココは上音の余りに雑だが簡潔な考え方に少し戸惑った。
「ありがとな、助かったよ此れで俺達も移動できる」
刻守はココの手を取る。上音も転移装置を手にしてボタンを押す。
「何も起こりませんけど」
上音は刻守に転移装置のボタンを押したにも関わらず移動できない事を疑問に思い訪ねる。
「時間切れだ、ココ悪いんだけど外見てきてくれ」
「時間切れ? そんなの有りましたっけ?」
上音は、少なくともこの世界に来る前は戦闘後、暫くいたが問題は無かった為良くわからなかった。
「隼人様、確認して来ました。月がかなり大きい雲に隠れて今日は移動できないでしょう」
「そうか」
「え? 月が出てないと移動できないんですか?」
「この世界だけだ安心しろ」
上音は移動するのに条件があったことに驚いたが刻守からこの世界だけということをしり安堵した。
「隼人様、明日の朝には、敵が来ると思いますが?」
「そうだな…迎え撃つのは正直言って悪手だ。だから逃げるか」
「わかりました」
上音は、刻守に賛成だった。無理に戦うよりも逃げて安全性を高める方が良いのは知っていたからだ。何より相手がどれだけの戦力でやって来るか分からない以上逃げるしかない。三人は外に出ようと移動した。
三人は外に出るも、建物の後ろに森がある意外何も無かった。
「上音君! 何処行くんだ森じゃなくてこっちだよ!」
刻守とココは、上音とは反対の方に向かって走っており上音に分かるように指を指していた。
「そっちは森じゃないですよ? 逃げるなら森の方が良いんじゃ」
「いえ、そちらは先程の村の方になりますのでその反対に逃げます」
刻守の隣にいるココが上音に言う。上音は刻守の隣に走って向かう。
「そういうことは最初に言ってください」
「ごめんな」
三人は再び移動しようとしたとき目の前に落雷が落ちる。其処には十数体の化物がいた。
「やっと追い付いたぜケイス様の生け贄が何処にいこうってんだ?」
「此処ではない別の場所さ」
「行かせるわけないだろうがー!」
モグラの様な化物が上音達に聞くも刻守の答えに此方に一斉に向かってきた。上音が手を前に出すよりも速く刻守が動いた。
「ココ、形態変化日本刀」
刻守の言葉にココの体が光そして刻守の手に素早く移動する刻守は光を掴みモグラの様な化物に向かって頭から垂直に振り抜くと同時に光は刀の形を成しながらモグラの様な化物を縦に斬り裂く。光を振り抜いた刻守の手には、鋼色の刀身に黄色い鐔が綺麗な狐色に染まっており鐔にきつねが彫ってあり柄は黒く頭は、綺麗な狐色をしておりそこから狐の尻尾がちょこんと生えていた。
「刻守さん其それは?」
上音は刻守の手にある刀について聞いた。
「ココは、俺が女神様にお願いして貰った力であり残った力の一つでね。有りとあらゆる武器になる生きた武器だ。だけどそれらよりも目の前の連中を退かさないとな」
(残った? 残ったってどういうこと?)
「あの、残ったってどういうことですか?」
「後で説明するよ、取り敢えず目の前の化物だ」
上音は刻守の言葉に従い目の前にいる化物に目を向ける。すると犬の様な化物が前に出る。
「まさか我々雷獣を簡単に倒すとはな、だがまだまだ此方にはいるんだ。全員で一斉に行かせて貰うぜ」
「! 圧殺!」
犬の化物の一声に後ろの化物が一斉に刻守と上音を襲うと同時に上音は手を前に出し即座に手を下に振る。グシャッと音を立て目の前の化物が数体地面に潰れ絶命する。
「グヘヘヘ、コイツハウマソウダナ」
潰れた化け物の後ろから片言に喋る狐の化物がその場から雷の速さで上音に突っ込んでくるも刻守が刀を狐の化物のいる場所に回避できない位置で素早く横に振る。
「? ザンネンキレテナイヨウダナ」
狐の化物が再び前に出ようとしたとき体が上下に別れ倒れた。
「馬鹿が、斬れて無いわけないだろうが、ただ音がしないほど綺麗に素早く斬っただけだ」
刻守の言葉に上音は凄さを感じるしか無かった。刻守は、そのまま目を離さず目の前を見つめており上音も刻守の後ろ姿を見ていた。
「馬鹿は、どっちだろうな? 生け贄共」
突然の声に上音は驚き後ろを向くと、其処にはガハナと多種多様な化物がいた。刻守は、分かっていたのか振り向かずそのまま目の前にいる雷獣の死骸から目を離さなかった。
「ガハナ!」
「ようカミネ、夕飯以来だな」
上音は、どうしてガハナ達が自分達の居場所を知ったのか分からなかった。
「どうして此処にいるって分かった?」
「お前の服の背中の裾裏に虫を付けさせてもらったよその虫は自分の居場所をこいつに教える。するとこの虫はそいつの所に飛んでいくとそういうことだ」
上音はガハナに何故分かったのかを聞くとガハナはまるで仲間に声をかけるかのように優しく声を上音にかける。
「もう良いか? 何時までもお喋りに付き合ってられないんでな」
刻守は、上音とガハナ達の会話に入る。上音は何気無く後ろに振り返ると其処には刻守に斬られたり上音の能力で潰し死んだ筈の化け物が立ち上がっていた。