第八話 出会いもあれば、別れもある。
巨大な門に行き交う人々。
大きな城壁に囲まれた街。
そう、私達はルクスヴェルグにたどり着いたのだ。
ここから私の本当の異世界生活が始まる。
『すごい。まだ街の外なのに、すごい人。』
『ここは王都の次くらいに大きな街だからね。
王都はもっとすごいよ?』
人、荷車や馬車が行ったり来たりしている。
ルクスヴェルグは、流行の街とも呼ばれているらしい。その為か色々な人や物が集まるそうだ。
『ユーリちゃん。あそこの騎士さん達は門を守る人達でね、怪しい人がいないか見張っているんだよ。
身分証や通行証を確認するお仕事だよ。
ユーリちゃんは身分証を持ってないから、向こうの騎士さんの所に行こうね?』
『何か緊張してきました・・・。』
『大丈夫だよ。僕も着いていくから、ね?』
エルヴィスさん、なんて良い人なんでしょう。
ところで、小さい子供に話かけるみたいな話し方をしますね。お兄さんや。
私をよっぽどのアホだと思ってるんですかね?
『あたしも着いてくからね!安心しな!』
しな!のところで、カルディナさんに背中を叩かれた。
痛すぎて爆発するかと思ったわ。
二人に着いて来てもらい、身分が証明できない人達の審査の列にならぶ。
ここで、怪しい人や犯罪歴がないかを調べるらしい。
それにしても、こんなに素性の知れない人達がいて大丈夫なのか。人の事言えないけど。
二人に聞いてみたが、どうやら大丈夫らしい。
孤児や田舎の村、勘当された等様々な事情がある人達も多いらしいので、別に珍くはないそうだ。
自分の順番が近づいて来た。
担当の騎士さんは緑髪の短髪の、厳ついおっさんである。
その後ろには新人だろうか?栗色の髪の可愛い系の男の子が、少し緊張した面持ちで立っている。
『では、次の者!
ん?お前は行商の・・・それに《緋のカルディナ》も!』
私の番が来た様だが、騎士のおっさんは美形兄妹に目が行ったみたいだ。
『お久しぶりです。ウッズさん。』
『ちょっと、この娘の前でその呼び方は止めてくれないかい?恐がったらどうすんだ!』
緋のカルディナとは、所謂通り名、の事だろうか?
恐くないです。カッケー!とか、ちょっと思っちゃう。
だってオタクだもん。
『この娘?』
『ユーリちゃんだよ。ギルドに登録するために田舎から出てきたのさ。
とっとと街に入れてくれよ。』
『おぉ、随分綺麗なお嬢さんだ。
俺はウッズ・オベルマン。しがない門番だ。
では、審査するのでこちらの水晶に触ってくれ。』
『ユーリ・カワシマです!よ、よろしくお願いします!』
ははは!そんなに緊張してると怪しいぞ!と、おっさんに笑われた。
ウッズと言う名前のおっさんに言われた通り、掌大の水晶に触れた。
すると、水晶はキラキラし始め、暫くすると、光は消え去ってしまった。
こ、これは!?どう言う事なんだ!?
『問題ないな。通行料に銀貨1枚貰うぞ。
通ってよし!』
『あれで終わりかい!』
思わず素が出てしまった。
だって、ただ地味にキラキラしただけじゃん!
あんなんで何がわかんの!?
『この水晶は特別な魔術がかかっているんだ。
仕組みは教えられないが、犯罪歴が有る奴はわかるようになってんだよ。』
ファンタジーすげー。
全部、魔法とか魔術の一言で片付けちゃうよー。
『まぁ、この二人が連れて来たんだ。怪しい奴ではないと言う事は分かってたぞ。はっはっは!』
それより通らないのか?と言われ、私は慌てて銀貨1枚を払った。
私達はやっとルクスヴェルグに入る事が出来た。
門の向こうは大きな橋がかかっていた。
そこを通ると広場に続いていて、花壇には花が植えられている。
そこを抜けると、街の色々な店が建ち並ぶ商業区に出る。
流石は街の顔と言っても良い商業だ。
至るところに看板や、露店が出ている。
『すごい賑やかですねー!アリッタとは全然違う。』
『あはは、ユーリちゃん。あんまキョロキョロするとコケるよ!』
カルディナさんや、街中ではしゃいで転ぶなんて、どこぞの少女漫画じゃあるまいし、あるわけ・・・
グシャア。
すみませんありました。
てか、これ私悪くないよね?
何か踏んだんだけど・・・
『って、ギャァア!人ぉ!!!』
私は倒れていたらしい、男性を踏んづけて転んだみたいだ。
こんな大通りで行き倒れ!?
てか、誰も見向きもしないけど、良いの!?
これが都会故の冷たさ!?
『うわー・・・こんな所で・・・明らかに不審者だねぇ。』
『ユーリちゃん大丈夫?
彼は大丈夫だから気にしないで、ギルドに行こうか?
もう決めたんだよね?』
あ、はい。商人ギルドへ。
二人ともこの人を放置して行くみたいだ。
・・・大丈夫かなぁ・・・グシャアって言ったけど・・・。
『え、良いんですか?何か踏んづけたんですけど。』
『大丈夫、大丈夫ーいつもの事だからー』
二人に引きずられ、その人を放置する事になってしまった。すみません。
薄桃色の髪が印象的だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドへ、依頼の報告と道すがら倒した魔物の買い取り査定に行くと言うカルディナさんと別れ、エルヴィスさんと商人ギルドへ向かっていた。
カルディナさんは、またね!この街で困ったことがあったら私に言うんだよ!と、言ってあっさりと去って行ってしまった。
あっさりし過ぎで少し寂しいんですけど。
『カルディナはルクスヴェルグの周りなら結構遭遇するよ。
その辺にいつでも現れるから、見かけたら声でもかけてあげてね。』
エルヴィスさんに少し慰められた。
商人ギルドは、商業区の大通りの西側に建っている。冒険者ギルドは真逆の東側だ。
そして私達は今、商人ギルドの前に立っている。
エルヴィスさんとはここでお別れだ。
『ここまでしか一緒にいれなくてごめんね。
街中でエルクを放って置けないからね。
』
『良いんです!エルヴィスさんもお仕事がありますし!ここまで連れて来て貰えただけでもすごく、有り難いです!』
数日の短い間だったが、とても楽しかった。
優しくて紳士的で、皆からいじられるエルヴィスさん。
この世界で始めて会ったのが、エルヴィスさんで本当に良かった。
『詳しい事は職員が説明してくれるよ。
まずは登録窓口に行くんだよ?』
『はい。ありがとうございました。』
今生の別れと言う訳でもないのに、なんだか、泣きそうだ。
『1番最初に会えたのがエルヴィスさんで本当に良かったです。』
私がそう言うと、エルヴィスさんは少し照れた様に笑いながら、またね、と言って去って行った。
ーカランコロンー
扉を開けるとベルが鳴った。
建物に入ってみると、中は結構広い造りで、人が立っている、窓口の様なものがいくつかある。
『えーと、登録窓口・・・』
そう言えば、すんごい今更なんだけど、私ってこの世界の文字わかんなくね?
全くの異文化なのだ。知らなくて当たり前だ。
『え?どうしよ?ってあれ・・・?』
字が、読める。
明らかに日本語とは違うのに、何故か読む事が出来た。
なんで?
『どうされました?何かお困りでしょうか?』
急に背後から話かけられた。
挙動不審な私がよっぽど怪しく見えたんだろう。
職員の制服であろう、紺のシックなワンピースを着た、髪がお団子のお姉さんが後ろに立っていた。
『と、登録をしたいんですが、場所がわからなくて。』
『ギルドの登録ですね。此方へどうぞ。』
お姉さんに着いて行った先は、お姉さんと同じ様な格好の女性がいる窓口だった。
案内をしてくれたお姉さんは、失礼します。と言って、持ち場に戻って行った。
『いらっしゃいませ。商人ギルドへの登録ですね?では、まず此方へお名前のご記入をお願いいたします。
登録料として銀貨5枚頂く事になりますが、よろしいでしょうか?』
『は、はい!』
そう言って出されたのは、羊皮紙と言うんだろうか?何かの皮で出来た紙と、羽ペンとインクのビンだった。
字がかけるか内心ドキドキだったが、問題なく書く事が出来た。
『ありがとうございます。
では次に所属するランクを選んで頂きます。
こちらは、30日毎に更新料を頂く事になりますので、ご自身の収入に合ったものをお薦めいたします。』
ギルドランクはエルヴィスさんから聞いていた通り、下から青、緑、黄、桃、紫、赤の六段階になっており、ランクごとに更新料と受けられるサービスが異なるそうだ。
当然ランクが上がるごとに更新料もサービスの質も上がる。
青:銀貨1枚 露店を出す権利。
緑:銀貨5枚 露店を出す権利。ギルドの資料、図書館の資料の閲覧が無料。
黄:金貨1枚 店舗を貸して貰える。条件に合った護衛を仲介して貰える。
桃:金貨3枚 自分の店を建てられる。その際のサポート全般。
紫:金貨5枚 ほぼ貴族扱い。
赤:白金貨1枚 爵位を買える。etc.
と言った具合だ。もちろん、自分ランクより下のサービスは全て受けられるので、上に行けば行くほど良いらしい。
今の私は全然先が見えない状態だからなぁ。
妥当なのは、緑か?資料タダってのが良いよね。
てか、見るのに金取んのかよ。
『じゃあ、緑でお願いします。』
『畏まりました。ギルドランク緑ですね。
では、契約をいたしますので、こちらに手を触れて下さい。』
またまた謎の水晶が出てきた。
また魔術だの、魔法だので片付ける気だな。
本当これ、どう言う仕組みになってるんだろ。
『ユーリ・カワシマ様。契約が完了いたしました。
ギルドカードは後日の発行になります。明日の二鐘以降にお越しください。』
二鐘とは文字通り、2回目の鐘が鳴ったらと言う事で、この世界、時計と言うものは存在しない。
1日に6回鐘を鳴らす事で、大体の時間を決め、生活しているのだ。
『では、登録と初回更新料を合わせまして、銀貨10枚、もしくは金貨1枚頂きます。』
ギルドカードは後でも、金はしっかり前払いみたいだ。
私は金貨1枚を支払った。