第七話 初エンカウント!私は見てるだけですが?
今日のコーディネートはライトベージュのワンピースだ。
おへその辺りから広がる様になっていて、下には黒いスカートを履いている。
昨日もらった髪飾りをつけて、あのナイフは色々考えた結果、太ももにつける事にした。
カルディナさんが、この方が良いよ!何か色っぽい!と言ってくれた。
『おはよう。ユーリちゃん。
今日も可愛い格好だね。』
エルヴィスさんからお褒めの言葉を頂きました。
『昨日あげたナイフは持ってないの?』
と、言われたので、持ってますよ。ほら。と見せようとしたら、カルディナさんとエルヴィスさん二人に全力で止められた。
『わかった!わかったから!足に着けてるんだね!見せなくて良いからね!?』
『アンタ大人しい顔してとんでもないね!』
てんやわんやでアリッタを出発したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ここから3日くらいで、ルクスヴェルグに着くからね。』
『なーに、魔物が出たらあたしが何とかしてやるよ!安心しな!』
この先、魔物出るんだ。
『私、魔物って見たことないんですよね。
そんなに危ないんですか?』
『『えっ!?見たこと、ないの!?』』
二人はハモった。
そんなにメジャーな存在なんだな。魔物って。
『あのねぇ。魔物ってのは大体良くない生き物だからそう呼ばれているのさ。
知能が高いやつは大人しかったりするんだけどね、街や人を襲ったりするから討伐の対象になるんだよ。』
街の外は気を付けな!街中が絶対安全な訳ではないけどね、と、カルディナさんは言っていた。
街の中なのに安全じゃないの!?と思うが、街は街で魔物意外、つまり人間の犯罪があるらしい。
今から行くルクスヴェルグは、比較的安全な方らしいが、裏通り、つまり路地裏には絶対行くなと言われた。
はい、怖いので絶対行きません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
旅はまたまた順調だ。
途中休憩を何度か挟んだ。
水は水の魔石があれば手にはいるし、本当に魔石は便利だ。
自作のドライフルーツをあげたら二人は甘い!と言って喜んでくれた。
この世界、塩は海でも山でも森でも手に入るらしいが、砂糖は高価らしい。
山とか森で手に入る塩って何だよ?と、思わなくもないが、私が作った粗塩は森の中にあったものを使っているので、全然あり得ない事ではない。
ちなみに砂糖はサトー、塩はシオとイントネーションは微妙に違うが呼び方は日本と一緒で助かった。
全然違う言葉ばかりじゃ覚えられないからね。
それにしても、砂糖、高いのかー・・・あーケーキ食べたいなぁー・・・
『何で砂糖、サトーって高いんでしょうね?』
『何でも精製が難しいらしいよ。材料はその辺になってたりするんだけどね。』
『え!?その辺に在るんですか!?砂糖の材料!』
エルヴィスさんは、ほら、これだよ。と言ってその材料を見せてくれた。
一本の茎に、真っ白な小さな花がいくつも付いている可愛い花だ。
では、早速、鑑定。
シュガトウの花:砂糖の材料になる。
この鑑定眼、私が解りやすいように翻訳している様だ。
『可愛い花ですね。それに何だか甘くて美味しそうな匂いがする。
ところでエルヴィスさん、これどうしたんですか?』
『そこで見つけたんだよ。』
どうやら本当にその辺に生えているらしい。
しかし、砂糖かぁ〜今はまだ作れないけど、もしかしたら作れる様になるかも。
『蜂蜜ならたまに出回るんだけどね。』
『蜂蜜!?』
反応早いねぇ。何て言ってカルディナさんは笑っている。
『蜂蜜採りはあたしらの仕事になるのさ。
なんせ、魔物の巣に突っ込んでいかなきゃなんないからね。』
そのまんま食べれる訳じゃないけどね。
つまり、どういう事かと言うと、食べれる様にするには蜜の入った巣から蜂蜜を搾る、精製する必要があると言う事だ。
カルディナさんは甘いものが好きらしく、ドライフルーツをもう一つくれと言って、エルヴィスさんに怒られている。
解ります!甘いものうまいよね!
二人には随分お世話になっているので、ドライフルーツを二つずつ差し上げた。
カルディナさんは喜んでいて、エルヴィスさんは、僕まで良いのに、と遠慮していたのでお世話になってますから!と、押し付けた。
エルヴィスさんも甘いものは好きそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アリッタを出てから2日目、私はついに魔物とエンカウントした。
ジャイアントベアと言う、名前の通りでかい熊だ。
流石に魔物と呼ばれているだけあり、鋭く大きな爪と赤く光眼を持っていて、唾液の量が半端じゃない。
明らかに私達を襲う気満々だ。
『ユーリちゃん!エルヴィスから離れるんじゃないよ!』
『えっ!?か、カルディナさん!?』
一人で戦うの!?
『ユーリちゃん。大丈夫だよ。カルディナはあれでもギルドランク・銀だからね。』
でも、僕から離れちゃ駄目だよ。なんて笑っているエルヴィスさんは大物だ。
てか、ギルドランク・銀って上から2番目のランクじゃん!!!
カルディナさんは背負っている武器を抜いた。
大きな黒い斧で柄の先には赤い石が付いている。
『いくよ!!!』
カルディナさんはジャイアントベアに向かって走り出した。
ジャイアントベアはカルディナさんに向かって腕を振り下ろす、彼女はそれを華麗に横に跳んで避ける。
ひ〜地面が抉れてる〜
『喰らいな!!!』
ジャイアントベアの背後に素早く回り込むと、斧を降りかぶった。
えっ!?
その瞬間、炎が上がり、火の着いた斧はジャイアントベアの首を一刀両断にした。
ジャイアントベアは鳴き声をあげる暇もなく絶命した。
『ふ〜こんくらい血もでてりゃ、血抜きは必要なさそうだね。
ん?ユーリちゃん、アンタ大丈夫かい?』
『だ、大丈夫です。』
あまりにも色々ショッキングな出来事だったので、しばらく放心していた様だ。
『馴れてないからビックリしたんだね。
大丈夫?気分悪くないかい?』
エルヴィスさんもカルディナさんも私を心配してくれている。
なんて優しい人達なんだろう。
確かにこんな事馴れていない。
私は今まで日本で暮らしていて、魔物に出会った事も、襲われた事もない。
ましてや、犯罪の被害に会った事もない。
安全な場所で大した不自由もなく暮らしてきた。
でも、もう、それも出来ない。
これは馴れなきゃいけない事なんだ。
この世界で生きなくてはならないのだから。
『少しビックリしましたけど、大丈夫です!
それより、カルディナさんの斧から火が出た様に見えたんですけど。』
『出たよ。あたしは火属性魔法のスキルを持っているからね。』
カルディナさんの話によると、火属性魔法は文字通り火を操ることの出来るもので、カルディナさんのそれは、攻撃に特化したものらしい。
そのままぶっ放すと、威力が強すぎるため武器に着けた魔石で調節しているらしい。
炎を使ってもジャイアントベアの断面が焼けなかったのは、素材や肉を手にいれる為に調節したからだった。
『と言う訳で、エルヴィス、こいつも乗っけておくれよ。』
『はぁ・・・商品は汚さないでくれよ。』
荷台に熊の死体を乗せた私達は、ルクスヴェルグへと向かったのだった。