第六話 良く考えよう!お金は大事だよ!
エルヴィスさんとの旅は順調だ。
男の人と寝る時も一緒だなんて。いやん。
てな事はなく、エルヴィスさんは優しくて紳士的で、おまけにイケメンなので、むしろ私がぐふふ、ご馳走さまです。状態だ。
『ユーリちゃん。あれがアリッタだよ。』
エルヴィスさんが指差す方向には柵が見えた。
『アリッタは農業中心の街でね、ルクスヴェルグの野菜や穀物のほとんどが、アリッタからのものなんだよ。』
『へ〜。重要な街なんですね〜。』
柵に囲まれているのは畑だろうか。
野菜がなっているようだ。
『ほら、街に到着だよ!』
私達はアリッタに到着した。
アリッタは建物がレンガ造りの街らしく、可愛い建物が並んでいる。
農業中心の街と聞いたので、田舎かと思ったが、全然そんなことはない。小洒落た街だ。
『おぉ!エルヴィス君!良く来たね!』
『あ〜!商人のお兄ちゃんだ〜!』
『エルヴィス君待ってたんだよ!』
『隣のお嬢さんは?』
『恋人だ!恋人〜!』
エルヴィスさんの周りに、街の人達がワラワラと集まって来ては、次々に話かけていく。
エルヴィスさんは、この街の人達と仲が良いみたいだ。
『皆さんお待たせしてすみません。
ログさん、例のもの仕入れておきましたよ!
あ、こら!彼女とはそう言う関係じゃないから!』
私との関係を全力で否定している。
そんな全速力で否定されると、おばちゃん、悲しいわ。
街の人達は私に興味津々だ。
よし、ここは挨拶しておこう。
人間、第一印象が大事だからね。
『こんにちは、始めまして。
ユーリ・カワシマです。エルヴィスさんにはここに来る途中に、助けてもらいました。』
にっこりスマイル0円で、自己紹介をしてみた。
『あら〜随分綺麗なお嬢さんだねぇ。』
『こりゃ、エルヴィス君は相手にされないな。』
『へたれだからねぇ。』
『ちょっと、聞こえてますよ?マリーさん。』
エルヴィスさんは散々からかわれていた。
それにしても、綺麗なお嬢さんだなんて!この世に生を受けてから、一度たりとも言われた事ない言葉だわ!
やだ〜今の私ってそんなに美人?
はっ、もしかして、おあばちゃん特有の若いこは皆可愛いわね〜的な感じかもしれない。ぬか喜びは止めよう。
『ユーリちゃん?どうしたの?百面相して。
もうお店始めるけど?』
『なんでもないっです!是非見学させて下さい!』
街を見てきても良いのに、と言うエルヴィスさんに見学させて貰うことにした。
街中を見てみたい気持ちもあるが、まずはこの世界で生きるための知恵が必要だろう。
この世界のものを知るには、エルヴィスさんの経営は1番参考になる。
エルヴィスさんのお店は、露店の様なもので、大きな台の上にお洒落な模様の入った布をしいて、その上に商品を並べていた。
この世界のお金は下から、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨があり、鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚だそうだ。
話を聞く限り、どうやら十進歩らしいので鉄貨を1枚100円として考えれば解りやすいだろう。
一般的な平民の4人家族が30日暮らすのに必要な金額が金貨3枚だそうだ。田舎の方だともっと少なくても生活出来るそうだが。
そう考えると、私の鉄貨1枚100円説はあながち間違いないでもないと思う。
私がエルヴィスさんに買い取ってもらった金額は、小回復薬が一つ銅貨5枚、中回復薬が一つ銀貨1枚、毒消しが一つ銀貨1枚、麻痺治一つしが銅貨7枚、火の魔石が一つ銀貨3枚、水の魔石が一つ銀貨2枚で買い取ってもらった。
鞄の中のものを全て買ってもらったので、私の所持金の合計は、金貨6枚に銀貨7枚だ。
ちょっとした小金持ちだ。
毒消しが高いかと思ったが、あまり作れる人がいない上に、命に関わるものを治すのに必要なものなので、このくらいが妥当だそうだ。
ちなみにこれは卸値なので、店での売値は上がるらしい。
エルヴィスさんのお店には私から買ってくれたものも置いてある。
少し照れる。
他の物はマントや靴等の衣類や、謎のツボ、食器にナイフ等がある。
少し鑑定してみようかな-
そう言えばこの鑑定能力、自分には使えないみたいだけど他人には使えるのかな?
私は接客しているエルヴィスさんを見てみた。
鑑定!
エルヴィス・マーレー (22)
スキル:短剣術
風属性魔法
『えぇ!?』
『ユーリちゃん!?どうしたの!?』
私の声に驚いて振り返ったエルヴィスさんに、なんでもないです〜と笑って誤魔化した。
さて、どうやらこの鑑定眼、人に使うと名前とスキルがわかるらしい。
名前の横の数字はおそらく年齢だろう。
それにしても、このエルヴィスさんのスキル、突っ込み所が色々ある。
まずこの短剣術、これはナイフとかで戦えるって事だよね?
あとこの風属性魔法とやら。
魔法が存在するんだ。すげぇファンタジーだ。
しかもエルヴィスさんは使えるって事だよね。
戦うエルヴィスさん。
・・・駄目だ。想像できん・・・。
そんな失礼な事を考えていると、目の前に影が差した。
誰かが私の前に立ったようだ。
『へーアンタがこの薬を作ったんだね。
可愛い顔してやるじゃないのさ。』
私の目の前には赤い髪が目立つ、グラマーなお姉さんが立っていた。
赤い長い髪をてっぺんで一つにまとめ、おそらく皮の胸当てをしている。
胸当ての下は髪の色と同じ色の服を着ているのだが、ヘソ出しな上に谷間まで強調されている。
下は皮の黒いパンツ(ズボンね)を履いているが、両脇が下着ギリギリまで紐で編み上げの様になっている。ちなみに上の服も肩から袖まで同じ仕様だ。
足元は黒い底の高い、サンダルの様なものを履いていて、手首には色とりどりな石の付いた腕輪をじゃらじゃら着けている。
背中には大きなものを背負ってる。
胸元には赤い石のネックレスをしている。宝石だろうか。
それより、なにより、おっぱいに目がいくんですが。
『こら、カルディナ。ユーリちゃんに絡むな。
君は派手すぎるんだから、ユーリちゃんびっくりしてるじゃないか。』
エルヴィスさんの知り合いだろうか?
なんだか気安い仲みたいだ。
『ユーリちゃん。急にごめんね。
彼女は僕の妹なんだ。』
『あはははっ!始めましてだね。
私はカルディナ・マーレー。
兄がお世話になってるね。』
『き、兄妹!?』
全然似てねぇ!!!
あ、でも、目が似てるかも。
エルヴィスさんと同じ色の瞳だ。
『ははは!似てないだろ?』
『えっ?確かに雰囲気は似てませんけど、目がそっくりですね。さすがご兄弟。』
私がそう言うと、なぜか二人は驚いた様な顔をした。
『エルヴィス!この娘、ユーリちゃんだっけ?私、気にいったよ!ちょっと貸してもらうよ!』
『え、ちょっと、カルディナ!』
私はカルディナに引きずられ、エルヴィスさんから離れて行った。
遠くでエルヴィスさんの、ユーリちゃんごめんね〜カルディナにちょっと付き合ってあげて〜と言う声が聞こえた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『へー、カルディナさんは冒険者ギルドに所属してるんですねー。』
『そうさ、こう見えて結構腕は立つんだよ。』
私達はとくに目的もなく、ブラブラ街中を歩いていた。
『この街でエルヴィスさんと会う約束でもしてたんですか?』
『あっはっは!違う違う。エルヴィスに会ったのは偶然。
私はこの街の近くの依頼を片付けてたのさ。』
カルディナさんはこの近くの森の、討伐依頼を終わらせたところだそうだ。
『それじゃあユーリちゃんは、迷子になってる所をエルヴィスに拾われたんだね?』
私の事も、色々はしょりまくってカルディナさんに教えた。
私の設定は人口が無くなりかけた、過疎化の進みまくった田舎から出てきた都会に憧れる小娘だ。
『そうなんです。生活が苦しくて、家を出たのは良いんですけど、右も左もわからなくて・・・。』
嘘ではない。生活は苦しかった。
食生活が。
あぁ、オムライスが食べたい。ラーメンと炒飯でも良い。
『そうなんだね。それにしてもエルヴィスに拾われたのは運が良かったね。
あの辺にも魔物は出るし、盗賊だって出るからね。』
私は一度も魔物に遭遇した事はない。
本当に運が良かったんだろう。
『ルクスヴェルグに行くんだろ?
私の拠点もそこなんだ。一緒に行っても良いかい?』
『私は全然構いませんよ!
あ、でも決めるのはエルヴィスさんですよね・・・』
『あいつは良いんだよ、ほっといて!』
と、カルディナさんは笑いながら言っていた。
やっぱ兄妹だから変な遠慮はしなくて良いと言うことか。
わたしには兄弟なんていなかったからわからないや。
少しだけ、自分のいた場所(世界)を想ってしまった。
あの後、エルヴィスさんと合流した私達は、明日の早朝出発と言う事で、早めの夕食を頂く事にした。
場所は街の食事処で、何かの肉を焼いたものと、野菜スープにコッペパンの様なパンだった。
肉だよ!肉!久しぶりの肉!
どれも味付けは塩だけらしく、シンプルだったが、それなりに美味しかった。
『良く食べるねぇ〜。』
『お肉食べるの久しぶりで!ずっと魚だったんで!』
『ユーリちゃん、ゆっくり食べないと喉に詰まっちゃうよ?』
カルディナさんもエルヴィスさんも、私を見て笑ってたが、そんなの気にしない!
久しぶりの肉だよ?テンション上がるって!
あと、せめて胡椒があればなーと思ってしまったのは秘密だ。
『そうだ、ユーリちゃん。
これあげるよ。』
カルディナさんはそう言うと、何かを出して来た。
それは、髪飾りの様だ。
銀細工の様で、羽が3枚重なった創りになってる。小さなキラキラしている白い石が3つ付いている。
『わ〜良いんですか!?なんだか高価そうですけど。』
『良いさ!報酬のついでにもらったのは良いんだけど、私にはそんな可愛いの柄じゃないからもらってくれよ。』
『じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます。』
嬉しい。初アクセサリーだ。
『じゃあ、僕はこれをあげるよ。』
そう言ったエルヴィスさんにはナイフを渡された。
『は、刃物!?』
『初めてあげるものが、武器って・・・。』
カルディナさんは、うわぁ・・・と言う顔でエルヴィスさんを見ている。
『ユーリちゃん身を守るものもってないでしょ?ナイフなら軽くて扱い易いし、ちょっとした事にも使えるから便利だよ。』
『は、はぁ・・・ありがとうございます。』
私は恐る恐る受け取った。
直径30㎝ほどのそれは、シンプルでいて凝った創りになっていた。
木で出来た鞘は何かでコーティングされていて、そこには何かの花が彫られている。
どこかに留められる様にベルトも着けてくれた。
刃は怖いので抜きはしない。
その日は宿を二部屋取り、私はカルディナさんと同じ部屋で眠った。
銀細工の髪飾り:銀細工で出来た髪飾り。毒を無効にする効果の石が付いている。
セレティアのナイフ:セレティアで創られたナイフ。丈夫で軽く、扱い易い。
鞘にはセレティアの国花が彫られている。
この二つ、結構良いものなんじゃない?