第十三話 やっと始まる商売。
天気は快晴。朝早くから多くの人で賑わう街。
今日は私も商売人だ。
昨日はキルスと別れたら後、(商人ギルドに行くと行ったら着いていくと言って聞かなかったが、何とか宥めた。)その足でギルドに向かった。出店場所を申請するためだ。
商人ギルドの店舗申請窓口のお姉さんに明日から店を出したいと言うと、今日から3日間、南門近くのこの場所を借りる事が出来た。
実はこれはラッキーな事だったらしく、露店商売の場合は店舗を持てる人達と違い、場所は早い者勝ちらしい。
普通は1ヶ月前から、遅くても1週間前には申請を済ませるとの事。
私が3日間しかこの場所を借りれないのは、3日後から別な人が借りる予約を入れていたからだ。
今更だが、私が普通に使っている1ヶ月とか1週間とか言う言葉、この世界では通じないから要注意。
1年は12ヶ月区切り、1ヶ月は30日、ここは日本と大体同じだ。
時計が普及してないらしく、日の出から次の日の日の出までが1日と言う考えらしい。
じゃあどーやって時間知るのさ。と皆さん考えるだろう。そこで、鐘の出番なのだ。
実は鐘は二種類あり、ひとつは時間の六の鐘、もうひとつは開門と閉門の鐘だ。
開門は日の出と共に鳴らされ、それと同時に街の門が開く、そして普通の人なら起きる時間になる。閉門の鐘は文字通り門を閉めるぞ、と言う合図の鐘で、時間の六の鐘がなって暫くすると鳴らされる。この鐘が鳴ると街から出る事も入る事も出来なくなる。
なので、街の外へ出ている場合は六の鐘がなる日の入りまでには帰らないと、街の外で野宿になる。
季節によって日の出も日の入りも違うんじゃね?と思ったそこのアナタ。よくぞ聞いてくれた。
ここで1年の話をしよう。
1年は、宵闇の月 (たぶん1月)、大寒の月 (たぶん2月)、若葉の月 (たぶん3月)、花の月 (たぶん4月)、深緑の月 (たぶん5月)、雨水の月 (たぶ・・めんどくさい。6月)、晴天の月 (7月)、火炎の月 (8月)、月の月 (9月)、豊作の月 (10月)、黄金の月 (11月)、静寂の月 (12月)となるらしい。ちなみに今は若葉の月だそうだ。
星の廻りや潮の満ち引きは私がいた世界と似ているらしい。
んで、話を戻すと、日の入りが早くなる10月〜2月は閉門の鐘と六の鐘の順番がチェンジされるらしい。
魔物のは夜になると何故か強くなるらしく、日の入りに門を必ず閉めなきゃいけないのは変わらないのだ。
そして時間の鐘だが、これは日の出から2、3時間おきに6回鳴らす事で大体の時間を知ることができる。
何で2、3時間おきとアバウトなのかと言うと、私が把握出来てないからそうとしか言いようがない。時計って便利だったんだなー。
んで、長くなってしまったが、話を戻そう!
商人ギルドから宿に戻った私は、とりあえず3日間お店に出す物を決めた。
需要が多い物が良いだろう。とりあえず、小回復薬、中回復薬、毒消し、麻痺治し、火の魔石、水の魔石とお馴染みのメンバーに決めた。粗塩さんは今回はお留守番だ。
次にお店のディスプレイと商品の値段を考える。
時間も無いのでディスプレイもクソも無いだろうと思うが、せめて綺麗な抜きくらい敷こうと思い、走って布を買いに行き、エキゾチックな柄の布を買った。銀貨1枚もした。良い子の皆は買い物は値段を見てから決めよう。
そして値段だが、エルヴィスさんを相手に商売した手前、高過ぎても安過ぎてもいけない。
商人への卸値と大衆への値段を同じにすると、元値より高く売る必要のある商人、つまりエルヴィスさんが損をしてしまうかもしれない。かもしれないかもしれないで申し訳ない。私マーケティング部門じゃないんだよ。
これが全然知らない商人なら相手がどうなろうと、ドンマイ☆で済ませられるんだけどなー。
エルヴィスさんには損して欲しくないし。かと言って私にも生活がかかってるし。難しい!
そして、朝まで悶々と考えた結果、エルヴィスさんに売った値段より少し高めに設定してみた。
これで少し様子を見ようと思う。駄目なら値下げすれば良い。
そんなこんなで、今にいたる訳だ。
いやー17歳ってスゴいね。ほぼ徹夜に近いのに元気だもんね。よし、今日は早めに寝よう。
露店の台はギルドが用意してくれた。
少し古い木の台だ。それに無駄に高かった布を敷き、商品を並べてみた。
うん。ただの木の台に並べるより、見栄えは良いわ。
無駄に高かったんだから、それ相応の働きをしろよ。布。
『あら?貴女は薬師さんなのね?』
ふと、ふわふわな声に話しかけられた。
声のする方を見ると今の私と同じくらいの女の子が立っている。
『急に話しかけてごめんなさい。私隣でお店を開くの。アリーシャよ。よろしくね。』
アリーシャと名乗った女の子は、薄紫の髪に花の髪飾りが印象的だ。
『私はユーリです。よろしく。』
『ユーリちゃんね!私はアリーシャって呼んでね。歳も近そうだし呼び捨てで良いからね。』
ふわふわとした彼女は18歳らしい。今の私よりはお姉さんだった。肉体的にはね。
アリーシャは趣味で作ったアクセサリーを売るらしい。彼女の髪飾りは自分で作ったそうだ。
『私の兄がね、王都で魔細工師をしているの。私も兄の様になりたくて。』
『魔細工師?』
ってなんぞや?
『ユーリちゃん。魔細工師知らないの?』
アリーシャにすんげぇ驚かれた。
魔細工師はこの世界の常識だったのか・・・やばいよやばいよ。
『いやー私、すっごい田舎から出てきたもので、ほら、あんまり都会の業種を知らないって言うか?なんせ、田舎者なもんで。あはははー』
『そうなの?ユーリちゃんお姫様みたいなのにそんな田舎から来たの?人は見かけによらないわね。』
お姫様って、お世辞言っても何もあげませんからね。
魔細工師の説明をしてもらった。
魔細工師とは、魔石等を使った細工をする人達の事を言うらしい。
例えば、毒を無効にする指輪を作ったり、魔力を上げるネックレスを作ったり、装飾系が専門らしい。
私がカルディナさんにもらったこの髪飾りも、きっと魔細工師さんが作ったものだ。
『私は今は何の効果も無いものしか作れないけど、お金を貯めて修行をするの。魔石はお金がかかるからね。』
少し照れくさそうに夢を語るアリーシャの何て可愛いこと・・・ん?魔石?
『火と水のならうちでも扱ってるよ?魔石。』
『え!?』
アリーシャはまたまた驚いたようだが、お客さんが来てしまい、会話はそこで途切れてしまった。
アリーシャのお店のお客さんは若いママさんに、5歳くらいの女の子だ。
ほんわかするのぉ〜。
『ユーリ!無事に登録済んだみたいだね!』
『カルディナさん!いらっしゃいませ!』
なんだか久しぶりに見たカルディナさんは、相変わらずけしからん乳をしている。
『売り上げに貢献してあげるよ。エルヴィスもユーリの作ったものは質が良いって言ってたしね。』
『本当ですか!?さぁどうぞ!じっくり見ていって下さいな!』
カルディナさんはお客様になってくれるらしい。
本当に兄妹そろって良い人達なんだから。
『へー中回復薬もあるのかい?露店で出す様な物じゃ無いんだけどねぇ。毒消しに麻痺治しかぁ冒険者の私にはありがたい品揃えだね。』
『もう少ししたら品物を増やそうと思ってるんですよー。』
そいつは楽しみだ。と笑いながらカルディナさんは、小回復薬5つに中回復薬1つを買ってくれた。
『ユーリ!』
カルディナさんとの会話も区切りが着いたところへ、キルスが走ってきた。
『キルス!どうしたの?』
『あたし、あいつが街中で活動してるの久しぶりに見たよ。』
キルスさんや、アナタ街中で今まで何してたの。
『ユーリの、最初の客になりたかった・・・。』
キルスは見るからにしゅんとしてしまった。
最初の客になりたかったって・・・ヤバい!キュンとする!
『あのキルスがねぇ・・・ふ〜ん。ちょっとユーリ。あたしが見ない間に何があったのさ!』
カルディナさん。すんごいニヤニヤしてますね。確か用事あるとかって言ってませんでした?
『何かって、特に何もな『俺はユーリのものなんだ。』い。』
ちょっと、会話被せないで!てか、誤解招くから!その言い方!
ちょっとどう言う事だい?ってキルスに掘り下げないで!余計ややこしくなるから!
『おい、カルディナ。用が済んだら北門に来いっつったよな?』
突然第三者の低い声が会話に割って来た。
190は在りそうな長身に、黒に近い藍色の髪、鋭い瞳はワインレッドだ。
黒が好きなのか、短めの黒のジャケットの様なものに黒のズボン、黒いブーツだ。
腰には皮袋が2つと背中には大きい剣を背負っている。剣の鞘も黒く、白い宝石の様な石が何個か着いている。
左手には赤や黄色の石が付いた腕輪を2つしている。これも魔細工なのだろうか。
この男を一言で表すなら、強面のイケメンだろう。
『なんだい。どうせ、ここ通って行くんだからどっかで合流したって良いじゃないか。』
『てめーのお喋りが終わりそうもねぇから話しかけたんだろーが。』
カルディナさんとこのイケメンは、親しい間柄でどうやら待ち合わせをしていたみたいだ。
ほほーん。つまり
『恋人ですか。』
『『ちげーよ。』』
二人に否定された。
どうやらこの二人、いつもはソロで活動しているらしいが、今回の討伐依頼が複数人の募集らしく、他の人達はパーティで依頼を受けるので、今回は組んだとの事だ。
なんだ。つまらん。
『大体、こんな品の無い女、冗談じゃねぇ。』
『あぁん?あたしだってアンタみたいなのお断りだね。あたしはラグ一筋さ。』
『えっ?カルディナさん恋人いたんですか!?』
今日一番のビッグニュースだよ!まだ朝早いけど。
『ちげーよ。こいつが追いかけ回してるだけだ。』
『あの職人気質には押しまくらなきゃ気付かないのさ。』
すごい。まさかここでカルディナさんの恋バナになるとは・・・てか、キルス。興味無いからってあからさまに立ったまま寝るな!
『って、あたしの話は良いんだよ。それより、ヴァルト。せっかくだからユーリちゃんの薬買って行ったら?エルヴィスのお墨付きだよ。』
カルディナさんや。ハードルを上げないでおくれ。
『えっと、ヴァルトさん?少し見て行きませんか?』
せっかくだし、買ってくれー。
『・・・あぁ。見せてくれ。』
『はい!どうぞ!』
そして、ヴァルトさん?は中回復薬を5つと毒消しを5つ買って行ってくれた。
カルディナさんは終始ニヤニヤしていた。
何なのさ。私鼻毛でも出てる?
そうして買い物を終えた二人は依頼へと向かった。
『ユーリちゃん。可愛いだろ?』
『・・・・。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カルディナさんと、ヴァルトさんとやらが去って行った後、冒険者らしきお客さんが集まって来た。
なんでも、あのカルディナとあのヴァルト、おまけに、あのキルスが買ったものだから良いものだろうと言うことらしい。
キルスは買ってないけど。
あの、って何なんだろう。
ちなみにキルスはまだ立ったまま寝てる。
器用な奴だ。
初日と言う事で様子見に出した、それぞれ30個はあっと言う間に売り切れた。
明日は数を増やして出そう。私の空間収納術は今のところ無限に近いのだ。
三の鐘もなったので、とりあえずお昼にしよう。
『おーい。キルス。私お昼食べに行くけどどうする?』
『ハッ、一緒に行く。』
私の一声ではっと目を覚ましたキルスを連れてお昼へ向かう。
この後どうしよう?もう少しストックを売ろうかな?
そんな事を考えながら、お隣のアリーシャのお店を見てみた。
若い女の子の二人組が来ていた。
そう言えばアリーシャは私に何か言いたそうだったな、と思い、アリーシャのお店が終わるまで私も店を出す事にした。