第十話 金さえあれば、な〜んでも出来る。
冒険者、近所のおじさん、はたまた一人で来ているお姉さん。
石造りのその店は昼も夜も賑わっている。
『えーと・・・つまり、貴方は所謂、冒険者と呼ばれている職業?なのね?』
『うん。名前はキルス。好きに呼んで良いよ。』
モブに絡まれた後、キルスは私に引っ付いて離れなくなってしまったので、しかたなく、一緒に食事でも〜と言う事になった。
『私はユーリ・カワシマ。変なあだ名じゃなければ何でも好きに呼んで。』
『わかった。ユーリ。』
キルスは嬉しそうに頷いた。
効果音をつけるなら、パァァァ!と言う感じである。
このキルスと言う男は、あまり表情を動かさないみたいだが、何となく、雰囲気で察する事が出来る。
ある意味、分かりやすいっちゃあ分かりやすい。
『えっと、キルスは何で私に引っ付いたの?』
『ユーリが言った。拾ったから私のだって。』
うん。勢いで意味解んない発言したね。
某猫型ロボット漫画のガキ大将もびっくりな発言だったね。
『あのね〜・・・そんな事言ったら、誰だって拾おうと思えば拾えるでしょ。
私と同じ発言した人誰にでも着いてくの?』
『違う。ユーリが初めて。』
キルスは首をフルフル横に振っている。
首を動かすたびに、黄金色のイヤリングが揺れるのが綺麗だ。
『ユーリが初めて。
俺を背中に庇ってくれた人は。』
声が出なくなった。
今の一言がとても重く聞こえたからだ。
『キルスは、どうしたいの?』
『どうしたい・・・?』
キルスは少し驚いた様な表情をした。
考えてなかったんかい!と、思わなくもないが、とりあえず目を会わせる。
『何か自分で決めたから、私に引っ付いて来たんでしょ?』
軽いノリで何でもかんでも受け入れられないし。
私にも警戒心くらいあるわ。
それと、どうしたらこんなに表情が乏しい人間に育つんだろう。
家庭環境が関係しているんだろうか。
おばちゃん、ちょっと心配。
『俺はユーリと同じものが見たい。
ユーリの側にいたい。』
黄金色の瞳が真っ直ぐ、私の目を見ていた。
ここでひとつ問題が発生。
一見、愛の告白とも見える、側にいたい発言の後、側にいたい。パーティー組もう。→無理。私冒険者ギルドじゃない。→じゃあ護衛として雇って←イマココ。
『雇ってって言われてなぁ〜確かに森に行く時とか誰か雇う予定だったけど・・・。』
『じゃあ、問題ない。俺を雇って。』
雇って雇って言うけど、コイツ大丈夫かなぁ。
その辺で平気で寝る奴だぜ?
まぁ、それはおいといて。
『私はこの街に来たばっかで、一応商売する予定だけどちゃんと稼ぎになるかわかんないよ?
高い給料なんて払えないよ。
そう言えばギルドに入ってんなら、更新料払わなきゃいけないじゃん。幾らなの?』
『金貨5枚。』
金貨5枚!?30日毎に?
『いやいやいやいや。無理だよ雇えないわ。
金貨5枚って高いわ。
生活するにはそれ以上のお金が必要でしょ?
その倍なんて私には払えないわ。』
こっちが生活出来なくなるわ。
『・・・。』
『怒っても駄目なものはダメ!』
とまぁこんな感じで、ぐだぐだした話し合いをしていると、注文していた料理が運ばれて来た。
『ほら、とりあえずこの話は終わりにして、食べよっか?』
『・・・。』
運ばれて来た料理は、スパイシーなウインナーや、お肉を焼いたもの、ちょっとした果物の盛り合わせ等だ。
夜はお酒も出している店だが、私もキルスも飲む気にはなれず、果物のジュースの様なものを頼んだ。
そのキルスと言うと、表情は相変わらず変わらないが、いかにもイジケてます。と言う雰囲気を醸し出している。
少し可愛いと思ってしまった。
『・・・ユーリ、さっきの話だけど。』
『ん?護衛の話?だから、ずっと専属で雇う何て経済的に無理だよ。』
あれから時計なんてものないからわからないが、30分以上は経っていると思うけど、まだ考えていた様だ。
『ずっと雇って貰えなくても良い。俺もギルドの仕事をする必要がある。ただ、危ない所に行く時は幾らででも良いから雇ってくれ。ただの付き添いとして無料でも良いから。』
あのキルスが長い文章をしゃべっている!?
出会って数時間だから、どんな奴か良く知らないけど。
いや、そうじゃなくて。
『何でそこまでして私と行動したいの?』
『・・・ユーリと射れば、わかる気がするから。
俺に、必要だと言われた事が。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の所はお開きになった。
キルスは私の部屋に泊まりたがっていたが、お引き取り願いました。
出会って数時間のヤローと同じ部屋に寝れるわけないでしょう。
え?エルヴィスさんはって?
あの人は超絶良い人だから大丈夫。
そもそも私を女として認識してたかも怪しい。
ただのアホだと思われていた可能性があるしね。
キルスには、明日、ギルドカードを受けとった後の材料の採取と言う名の草むしりに付き合って貰う事になった。
回復薬シリーズを売ってお金を稼がなくては。
魔石シリーズも売ろう。沢山作ればまた種類を増やせるかもしれない。
なんか楽しくなってきたぞ。
とりあえず何か始めるなら明日以降だ。
先ずは身体を綺麗にしよう。
宿に戻って来た私は早速、女将さんにお風呂、もとい、人一人が入れる桶にお湯を入れてもらった。あとは、小さい桶を2つ借りた。
小さい桶にお湯を入れ、濡らし用、濯ぎ用にする。
ちなみに、石鹸は有るかと、試しに聞いてみた。
石鹸と言う物は存在するらしい。
しかし、結構高価な物らしく安い物でも、金貨1枚はするらしい。
ここまで、ギルドやなんやらの支払い金額が銀貨だの金貨だのばかり出たせいでピンとこないが、この世界、実は庶民の生活必需品は鉄貨や銅貨があれば何とかなるのだ。
野菜や果物は、よっぽど良いもの意外は安いのだ。
これでお分かり頂けただろうか。
そう、商人ギルドは金さえあればなんとかなる、組合なのだ。
まあ、それはおいといて石鹸の話に戻るが、そんな高価な物を安い宿に置けないと言われた。
仕方がないので、例の面白ハウスから拝借してきた物を使う。と、言っても、無限に在るわけではない。残り3つだ。ちなみに固形石鹸。
この問題も早々に解決しなければならない。
試しにこの石鹸を鑑定してみたところ、材料はわかった。
植物油と洗浄花と言うものが必要らしい。
もしかしたら、私のお薬製造能力で作れる様になるかもしれない。
明日、洗浄花も探してみようかな。
自分の生活の質を下げるなんて、絶対に嫌!!!
そう言えば、人に対しての鑑定はエルヴィスさん以来してないな。
軽い気持ちでしてみた、人への鑑定は何だか他人のプライバシーを勝手に覗いているようで気が引けるのだ。
しかしこの力、相手の事を知っておけば、危険も回避出来るんではないか。
試しに明日、キルスを見てみよう。
そんな事を考え、ルクスヴェルグ1日目の夜は更けていった。