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廃屋敷は春風を呼び込む  作者: 赤羽 翼
第1章 岩石消失
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それは何故消える? 4



 移動中、わたしは連太郎に尋ねた。


「連絡してから随分早くきたけど、近くにいたの?」

「うん、まぁね。気になる部活が幾つかあったから」


 この会話に、木相先輩が参戦してきた。


「二人ともどこに入部するか決めた?」

「僕は決めました」

「わたしはまだです」

「だったら、岩石同好会ウチに入部しない?」

「い、いえ……けっこうです」


 そう断るも、しかし木相先輩は引かなかった。


「遠慮しなくていいって! じゃあさ、部室に展示してある石をじっくり見てみてよ。きっと新しい世界が開けるよ」


 石コレクターには別になりたくないんだけど……。文学少女がいいよ。

 岩石研究会の部室は東棟四階の一番右の空き教室だった。窓にはカーテンがかかっている。


 引き戸のすぐそばに渡り廊下へ続く曲がり角があった。その角の向こうから、声が聞こえた。さっきロッテンマイヤーとかピグモンがどうこう言っていた人たちの声だ。


「やっぱここは、捕食中のクリオネかよ! の方がいいと思うぞ」


 やっぱり、出っ歯の人の声はやたらデカい。

 浜町先輩が部室の引き戸を開けた。中には学年のクラスのように、学校机が並べられていた。上にはクッションが置かれ、更に上に大小様々な石が乗っかっている。


 鳥のような形の石、ロケットのような形の石、象のような形の石……というか岩などなど。圧巻、とまではいかなくとも、迫力ある光景には違いない。入部しようとは思わないけど。


「これは、なかなか凄いですね……」


 連太郎は素で興味を持ったようで、興味深そうに水切りに使えそうな石を眺めている。


「どれも削ったりはしていないんですね」

「そりゃそうだよ。石はありのままが一番だからね。削ったりなんかしちゃったら、石が死ぬわ」


 木相先輩が言い、浜町先輩がしきりに頷いている。この人たちは、変人だね。


「盗まれた石はどこに置いてあったんですか?」


 連太郎が尋ねると、浜町先輩は窓際最後列の机を指差した。ジッパー付きの青いハンドバッグが置かれている。中には何も入っていないのかしおれている。

 浜町先輩がその机の椅子を引き、


「朝、この椅子の上に置いておいたんだ。机の下に隠す……ってわけじゃないけど、一応な」

「そうなんですか?」


 連太郎は木相先輩にも確認を取る。彼女は頷いた。


「私がここに運んだから」


 それを聞いたわたしは、浜町先輩にジト目を向ける。


「女の子に荷物持ちさせたんですか? 図書室での様子を見る限り、小さいものじゃないんですよね」


 浜町先輩はわかりやすくうろたえて見せる。しかし木相先輩がフォローに入った。


「あっ、私が自分から持たせてほしいって浜町さんに頼んだんだよ」


 連太郎が眉をひそめた。


「何でそんなことを?」


 木相さんは恥ずかしそうにはにかんだ。


「石の重みを感じたかったんだ」

「石の……重み?」

「うん。石の重み。私、石は形よりも重み派なんだ。いい石って、ただ重量があるだけじゃなくて、何となく温かみとか冷たさとか感じれるんだよ。それが好きなの」


 やっぱり変人だ。連太郎も苦笑するしかないようだ。


「朝置いて、ここから出るとき、鍵は掛けていたんですよね?」


 気を取り直して、わたしが浜町先輩に質問した。


「ああそれは間違いない」

「確認したもん」


 木相先輩も頷く。連太郎が質問を引き継ぎ、


「鍵はどうしたんですか?」

「無くすと怖いから、職員室に返した。放課後、それを取りに行こうとしたところで綾女ちゃんと合流した」

「職員室で鍵を借りて、この部屋にやってきた。それからすぐ、中庭に石を探しに出かけたの」

「そのとき鍵は掛けなかったんですか?」


 浜町先輩は苦々しい顔つきなった。


「完全に油断したよ」

「そうですか。……石探しに出る前には、とっておきの石はあったんですか?」

「あったよ」


 連太郎は数回ぱちっ、ぱちっとフィンガースナップをすると、ハンドバッグに手を伸ばした。


「中、見てもいいですか?」

「いいよ」


 連太郎はジッパーを開けて中身を確認する。わたしも隣から眺める。

 中には紺色の包み紙が入っているだけだった。


「それで包んで持ってきたんだ」


 浜町先輩が呟く。

 連太郎がわたしに包み紙を渡すと、バッグの中を手で探り出した。

 わたしはひんやりと冷たい包み紙の表と裏を確認する。特に何もないようだ。紙の面積から考えるに、石の大きさはわたしの顔くらいはあると思う。


「破片も何もないから、砕け散ったってことはないか……」


 独り言を言って、再びフィンガースナップを行い出す。


「ねえ、風原さん」


 不意に、木相先輩が肩をつついてきた。


「何ですか?」

「間颶馬くん、なんであんなに指ぱっちんしてるの?」

「考え事をするときの癖なんですよ」

「変わってるね」


 あなたもね……。

 あっ、そういえば……。一つ思い出したことがあり、浜町先輩に首を回す。


「先輩、言ってましたよね。犯人はまだこの階にいるって……。どうしてそう言えるんですか?」


 連太郎が指をとめ、興味深そうな目を向ける。


「それはな、下の階へと繋がる階段はワックス塗りたてで通れない。残りの渡り廊下には、漫才同好会の二人組がいた」


 やっぱり漫才系の部活だったんだ。


「そいつらの証言で、俺たちが四階から去ってからは誰も来ていないし、出て行っていないことがわかった。俺たちの外出時間が十五分だってわかったのも、二人のおかげだ。五分間の漫才を三連続でやっていたらしく、ちょうどその始まりと終わりのタイミングで俺たちが帰ってきたんだ」

「その時間が三時四十一分から三時五十六分?」

「そういうこと」


 あの二人、なんとなく怪しい。いや、根拠はまったくないんだけどね。

 気がつくと、再び連太郎のぱちっ、という音がしていた。


「なるほど、ある意味これは密室ですね。……他に部室はあるんですか?」

「ヨーヨー部とオカルト研究会があるよ」


 木相先輩が答えた。


「そこの部には伺ったんですか?」

「ううん。どちらの部の部長もちょっと変な人だから、後回しにしたんだ」


 あなたも変な人ですよ。

 連太郎のフィンガースナップはとまらない。


「その部活は後で行くとして……。先輩方、この学校の鍵貸しシステムはどうなっていますか?」

「鍵貸し?」


 浜町先輩が首を傾げた。


「はい。お二人が来る前に誰かがこの部屋の鍵を借りて、石を盗み出した……とも考えられますから」

「いや、来たときにはまだ石はあったぞ」

「念のため、ですよ」

「そうか……。この学校では、貸し出し名簿があって、それに記入すれば誰でも借りれる。ただ、返す際も同じ名前を記入しないといけないけどな」

「つまり、名前さえ知っていれば誰でも借りれる?」

「そうなるな」


 連太郎はフィンガースナップをとめる。


「一応、職員室で確認してみましょう。お二人はここで待機していてください。帰ってきたら、聞き込みに行きますから」

「わかった」

「うん」

「行くよ、奈白」


 あっ、わたしも行くのね。連太郎の後に続いて部室から出る。するとやっぱり、漫才同好会の出っ歯の人の声が聞こえてきた。

 二人して足早に職員室に向かう。


「ここは絶対、故郷は地球だろ! にした方がいいって!」


 渡り廊下の途中で聞こえた出っ歯の言葉に、連太郎が立ち止まった。後ろを見ている。


「どうしたの?」


 訝りながら尋ねる。


「いや、あの人……ウルトラマン好きなのかなぁ、って思って」

「はいはい行くわよ」


 背中を押して無理やり動かす。こうなると、こいつはちょっとめんどくさい。


「ねぇ、奈白」

「なに?」

「どう思う?」


 階段にさしかかったところで、そんな質問をされた。


「うーん……。ジャミラは可哀想だと思ってるわよ?」

「故郷は地球の話じゃなくて」

「わかってるわよ。事件のことでしょ?」

「そう」


 わたしは階段を下りながら頭を捻る。


「まだ容疑者とは会ってないから犯人については何も言えないけど……」

「けど?」

「犯人がどうして石を盗んだのかがわからない」

「部費のためじゃ、納得できないの?」

「うん。岩石同好会が部に昇格しても、部費の増加なんて誤差の範囲だと思うし」

「酷い言いようだな……」


 連太郎は苦笑した。


「それにとっておきの石を見せなくても入部する人がいるかもしれないから、結局窃盗なんてする必要はないのよ」

「確かにね。じゃあ犯人はどうして石を盗み出したのかな?」

「ほわいだにっと……ってやつ?」

「そうだね」


 わたしは再び唸る。頭の中で事件をひとしき整理し、口を開く。


「浜町先輩は、クラスの人たちにとっておきの石を見せびらかしてはいない。つまりどんな石なのかはわからない。つまり犯人は石の形を確認する必要があった、確認したうえで何か事情があって盗んだ。または、形はどうでもよかったけど、事情があって盗みたかった。その事情は部費とは関係がない」


 ちらっと連太郎を見やる。


「うん。よくまとまってる」


 心の中で盛大にガッツポーズする。


「流石、伊達に何度も事件に巻き込まれてない」

「うるさいわよ」


 会話が終わる頃、職員室に到着した。

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