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廃屋敷は春風を呼び込む  作者: 赤羽 翼
第1章 岩石消失
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それは何故消える? 3



 岩石同好会とは、拾ってきた石をありのまま飾るという、いたってシンプルな部活である。


 ようは、『おじゃる丸』のカズマみたいな人が入る部活だ。そしてそんな高校生は滅多にいないため部員は二人しかいない。逆に二人も部員がいることがびっくりだ。というかこんな部活があること自体が奇跡である。ちなみに部室は、この図書室と同じく東棟の四階にあるらしい。


 図書室にアリバイを尋ねにやってきた上級生は、浜町はままち拓郎たくろう木相きそう綾女あやめと名乗った。


「二人とも一応はアリバイあり、か……。けど結託している可能性もあるから、カバンの中を探させてもらっていいかな?」


 浜町先輩の要求に、わたしたちは応じた。特にやましいものは入ってない。隠したジャンプが入ってるけど、まぁ、これは恥ずべきものではない。だって面白いもの。


「あっ、ジャンプ読んでるんだね」


 木相先輩が嬉しげに微笑み、わたしもつられて微笑んでしまった。


「カバンの中はなし。綾女ちゃん。この部屋を探そう」

「了解しました」


 浜町先輩はここにあると思っていないのか、動きが遅い。対して木相先輩は血なまこだ。

 図書室には本棚とゴミ箱くらいしかない。二人は本棚の合間やゴミ箱、ベランダなどを探していく。二人の動きを見るに、石はけっこう大きいようだ。本棚の中や、壁際にある本棚の裏を見ようとしていない。


「ありませんね」

「そうだな。ここじゃなさそうだ」


 二人はカウンターの前で落ち合った。無視してもいいのだが、わたしのお人好しの性分が作用してつい言ってしまう。


「あの、犯人はもう帰ったんじゃないでしょうか。人のものを盗んでおいて、その場に居残る人間なんていないと思います」


 そもそも宝石でもなんでもない石を盗む人間なんていないと思います。とは、流石に言えない。


「それがそうでもないんだ。犯人はまだ、この階にいるよ」

「どうしてですか?」

「容疑者にそこまでは言えないよ」


 どうやら嫌疑が晴れたわけではないらしい。顔をしかめてしまう。

 わたしは連太郎との約束を守るため、カウンターから身を乗り出し、


「犯人捜し、協力しますよ。こういうの、ほっとけないたちなので」

「いや、だからね――」

「部長」


 木相先輩が浜町先輩の裾引っ張った。


「彼女、一年生ですよ」

「え? ほんとだ」


 二人の視線が、制服の胸に付いている徽章に注がれる。別にいやらしい視線というわけではないけれど、何か嫌な感じだ。


「一年生なら、大丈夫かな……? いやでも一年生といえども――」

「いいじゃないですか! 味方は多い方がいいです!」


 木相先輩が図書室にはふさわしくない大声を発する。彩坂先輩が顔をしかめたが何も言わなかった。

 木相先輩の説得に、浜町先輩は折れたようだ。なぜ一年生ならいいんだろうか?


「わかった。ではありがたく協力してもらおう」

「はい。ではちょっと待ってください」


 わたしはポケットからスマートフォンを取り出した。


「誰か呼ぶの?」


 木相先輩が首を捻っている。わたしは頷き、


「こういうシチュエーションが好きな友だちがいるんです」


 電話帳からあいつの番号を呼び出し、スマホを耳に当てようとしたとき、


「待った!」


 浜町先輩にとめられた。


「何ですか?」

「その人、一年生?」

「そう……ですけど」

「ならいい」


 なんなのよ。



 ◇◆◇



「失礼します」


 連絡を入れて数分で、嬉々とした表情を浮かべた間颶馬連太郎がやってきた。

 連太郎と目が合う。彼は口の端をつり上げて、にやりと笑みを作った。


「高校でも健在だね。奈白」

「うるさいわよ」


 こんな迷惑極まりない体質を喜ぶのはこいつくらいだ。

 連太郎は颯爽とわたしたちに近づいた。


「初めまして、一年A組の間颶馬連太郎です」


 連太郎の挨拶に、上級生三人は各々応じた。一通りの挨拶が終わると、少し前のめりになり、


「で、何か事件的なことが起こったんですよね? いったいどんなことが?」

「か、彼はいったい?」


 グイグイくる連太郎に、浜町先輩は困惑している様子だ。


「ミステリー小説を読み過ぎて、こういう状況にテンションが上がってしまうんです」


 わたしは簡潔に答えた。連太郎はミステリー小説で文字を憶えたと豪語するくらいミステリーを読んでいる。わたしが幾度となく謎や事件に巻き込まれると、毎回必ずその知恵をもって解決に導いてくれるのだ。何度も助けられている。

 浜町先輩は軽く咳払いすると、わたしたちに語り出した。


「明日、部活説明会があるのは知っているな?」

「はい。確か、体育館で五時限目から放課後まで部活の勧誘をするんですよね」


 連太郎の答えに、浜町先輩は神妙に頷いた。

 

「我が岩石同好会は活動内容が地味だから、現在部員が二人しかいない」

「どうしてもあと一人入部してもらって、部に昇格したいんです!」


 木相先輩が横から入ってきた。


「綾女ちゃんの言う通りで、部に昇格したいわけだ」

「部になると何か変わるんですか?」

「部費が増えるんです」


 わたしの素朴な疑問に、隣に座る彩坂先輩が答えてくれた。しかし新たな疑問が湧く。


「部費なんて、その……必要なんですか?」

「必要に決まっているだろう。電車とかで別の街に行って石を探すんだから」


 浜町先輩に憮然とした表情で返され、


「この辺りの石は殆ど見ちゃったのよ」


 木相先輩が胸を張って答えた。

 連太郎も愛想笑いを浮かべている。しかしすぐにいつもの顔に変わった。


「それで、部に昇格させるためにどうしたんですか?」

「明日に備えて、とっておきの石を持ってきたんだ。で、俺らが外出中の十五分の間にそれが盗まれてしまった」


 連太郎はそこで首を傾げた。


「どうかしたか? 間颶馬君」

「いえ……。盗んだ……って、どうして犯人はそんなことを? 先輩はその石を見せびらかすようなことをしていたんですか?」

「いや、見せびらかしてはいないが、言いふらしてはいた。とっておきの石を持ってきたって、クラス連中には」


 それで普通盗むかしら……。そういえば犯人はまだこの校舎にいるとかって言ってたわね。これはどういうことなのかしら。

 わたしと連太郎が沈黙していると、木相先輩が説明してくれた。


「たぶん犯人は、私たちの部活に新入部員を入れさせないために浜町先輩の石を盗んだんだと思う」

「どういうことです?」

「私たちが部に昇格すれば、その分他の文化部の部費が減っちゃうから……」

「なるほど……。自分の部活の部費を減らさせないためか」


 そうか、だからまだどの部にも属していない一年生は大丈夫なのか。


「盗まれたときの状況を教えてもらっていいですか? できれば、事件現場で」

「ああ。構わないよ」


 連太郎、浜町先輩、木相先輩が動き出す。わたしも付いていっていいかと彩坂先輩に目で問うと、微笑んで頷いてくれた。

 三人の後を追って廊下に出る。連太郎の横に並んだ。


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