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与えられた罰

 謁見の間。その名の通り、王都の外にある貴族領地や国外からの使者を招き入れ、国王と謁見するためにある部屋だ。

 青い絨毯じゅうたんが敷かれたか大きな部屋で、奥まった場所にテーブルと椅子、そしてその椅子に腰かけた国王がいる。

 謁見を申し出る側は、この部屋の中央にて国王と対話をすることになる。

 国王の眉間にはかなりシワが寄っている。相当怒っているのだろう。少なくともフィーネにはそう感じた。

 フィーネの後ろには、メイド長も控えている。

 対峙するギルバルト王の机には書類の類はなく、整然と片付けられていた。

「フィーネ。何故呼び出されたか分かっているな?」

「はい」

 フィーネは緊張の面持ちでギルバルト王を見た。

 ギルバルト王の表情はどこかやつれているように見えた。その目はフィーネを見ておらず、虚ろにさえ見える。

「この国の未来。そして国民を守るために私達が下した決断を、お前は独断で無視し、私情を優先させた。少なくとも、私はそう解釈している。間違いないか?」

 ギルバルト王の言う決断とは、言うまでもなく、リーナの監禁であろう。それくらいは容易に想像がついた。

 ギルバルト王の言葉には嫌みも皮肉もなかった。もしこれが小説等で見るような、意地悪な継母ままははだったならもっと婉曲えんきょくな言い方でフィーネを追い詰めていたかもしれない。

 だからこそ。フィーネは申し訳ない気持ちを素直に表すことできた。

「はい。申し訳ありません。私にはリーナ様の自由を奪う選択はできませんでした」

「お前の主義主張を許さないとは言わない。しかし、そうすることが本当に、リーナのためになったと思うか?」

 そういわれてしまえば、返す言葉がない。よかれと思ってしたことが、思わぬ失敗に繋がることはよく聞く話だ。

 果たして自分もそうなのだろうか?

 否。フィーネはそうは思わない。少なくとも、自分のしたことに後悔はない。

 だがギルバルト王の言っていることも理解できる。

 だから、ギルバルト王の問いには正しいとも間違っているとも言えない。

「どうやら……答えは出ないようだな。それがお前の本音であるならば、私も本音で話そう。正直言ってな、私にも何が正しいのかはわからない」

「え? それは、どういうことなのでしょうか……?」

 フィーネは思ったことをそのまま口に出した。今回のドラゴン騒ぎで、フィーネがとった行動も、ギルバルト王が王宮兵士達に出した命令も、それぞれの正義に乗っ取って行われたものであったはずだ。

「この世の中に、完全無欠で正しい選択と言うものはない。いかなる判断も選択も、あとになってそれが正しかったと、後付けで正解を決めるに過ぎない。故に、私には私のとった行動が必ずしも正しいと言い切ることはできない。あとになって結果だけを見れば、あるいはお前の方が正しかった……とも言えるかもしれない。

 だが、あくまでもそれは結果論だ。現状どの選択が正しいかわからないからと言って、お前に罰を与えぬわけにはいかぬ」

 若干の間を置いてから、フィーネは、「はい」と頷いた。

 その罰は、きっと他のメイドや使用人への示しをつけるためのものでもあるかもしれない。そう思えば、自分が罰を受けるのは致し方ないことだと思う。

 フィーネが罰を受ける覚悟ができていると判断したのか、ギルバルト王は間髪を入れずに続けた。

「フィーネ、お前への罰は、一週間の暇だ」

「?」

 一瞬、いっていることがわからなかった。ギルバルト王はさらに続ける。

「お前には一週間、王宮から姿を消してもらう。一週間後に戻ってくればそれでよい」

 それは普通に考えたら、罰でも何でもない。一週間休まされるとはいえ、給金は十分にある。王都のどこかにある宿屋に身を置くくらいの金ならフィーネとて持ち合わせている。

「そ、そんな……」

 しかしフィーネにとっては残酷な罰だった。一週間王宮で生活できないと言うことは、リーナと接触する機会を失うに等しい。リーナの安否が気になる今のフィーネにとってそれがわからないまま一週間も暇を与えられることは苦痛でしかなかった。

「お前に言うことは以上だ。くれぐれも、リーナを探したり、会いに行こうなどと思うな」

「……」

 フィーネは押し黙った。言いたいことはある。はっきり言って不服ではある。しかし、これが自分に課せられた罰であるのなら、それを受け入れないわけにはいかない。これ以上のわがままは許される道理がない。

 頭ではわかっている。しかし……。

「返事はどうした?」

 黙ったままでいると、ギルバルト王がそう言ってきた。ややドスの聞いた、聞いたものを震え上がらせる声だった。しかし、チンピラや無法者が威圧のために言っているものとは違う。

 軍人として前線で戦ってきた経験からくる、部下への命令の言葉。あるいは、捕虜の命を投げ捨てることを厭わない、冷酷さを含んだ言い方だった。

 背筋が寒くなるのを感じた。血の気が引いてくるのが自分でもわかる。

 そしてギルバルト王の瞳は熊さえも射殺さんばかりに殺気をはらんでいた。だから、

「は……はい……」

 と、震える声で答えるしかなかった。

「分かったなら、今すぐこの城を出るがよい」

「畏まり……ました……」

 うなだれる。自分の無力さを実感するには十分なやり取りだった。

「あ、」

 そこでフィーネは思い出した。ギルバルト王にするべき質問を。

「あの、陛下!」

 その声は自然に大きくなった。どうしても気になることがあった。今のギルバルト王が答えてくれるとは思っていない。それでも、どうしても最後に聞かずにはいられない質問があった。

「リーナ様は……今、どちらにいられるのですか?」

 返ってきた答えはとても無慈悲で淡々としていた。

「お前にそれを言う必要はない」


 それ以上、フィーネはいかなる質問も許されなかった。メイド長はもちろん、グレイスやアルトに対してさえも。

 ただひたすらに、この城を出ることだけを強要された。

 フィーネは王宮より外に足を運んでいた。メイド服でもなんでもない、村娘風のチュニックを身につけている。

 自分が六年もの間、時を供にした城を見る。六年に比べれば一週間なんて瞬きするほどの時間でしかないかもしれない。しかし、それでも思う。今リーナのために、自分にできることはないのかと。

 王宮の一歩外に出ると、あとは特別な理由がない限り一週間は帰ってくることを許されない。王宮の警護をしている門番だって、そう簡単には通してくれないだろう。

 諦めるしかなかった。

 ――リーナ様……。

 心のなかでリーナの身を案じながら、フィーネは王宮を後にした。



今回はいつもより少なめの更新になります。どうしても加筆したい箇所があり、そこの執筆のためです。


来週また更新しますので、少しお待ちください。


また、よければ感想なども下さるとうれしく思います。

ではまた、来週~。

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