仲間達
別に無理に引き伸ばしてるつもりはないんですけどね。
中々書けなくて、時間かかって申し訳ないです。
もう少しお付き合いくださいな。
うつ伏せに倒れたリーナの体が、自分自身の血で汚れていく。
普通の人間なら間違いなく即死だ。
――リーナ樣、私の声が聞こえますか?
フィーネの声。声を介さない、テレパシーによる念話。
しかし反応がない。できない。意識を失った人間は、テレパシーであっても、会話が成立しない。
『終わったなぁ』
ゼブルが嗤う。ニタニタと嫌な笑顔を張り付けながら、口許だけで嗤う。
『楽しかったぞ、人間』
フィーネは睨み付ける。しかし、人の体でありながら人外の存在は、人ならざる顔のまま、メイドを嗤う。
『お前のその格好は……たしかメイドとか言ったな。人間の言葉で』
コツコツと足音だけが響く。フィーネの睨みなど、まるで利いてない。
『そんな可愛い顔で睨むな、こそばゆいぞ』
――リーナ樣! 起きてください! リーナ樣!
念話でリーナに呼び掛けながら、フィーネはゼブルにいい放つ。
『それ以上近づかないでください!』
『無理だな、ソイツの首を撥ねなければ、我々も安心できん』
フィーネにも戦闘力はある。たしかに戦う力はある。しかし、リーナほど強くはない。フィーネ自身単身で戦っても返り討ちに会うのが関の山だ。
――このままでは……!
万事休す。そう思った時だった。
光の槍が降ってきた。槍はゼブルに間違いなく直撃した。
フィーネは見上げる。その先には、十字一角竜、イコロスの姿があった。
――リーベ樣!
――私だけじゃない。
直後、竜獣フレアムと、竜人アヴァルがその姿を表した。
――待たせたな!
――状況はどうなってる!
竜を駆るもの達が揃う。目の前の小さなマモノを倒すために。
――死んでるの?
真っ先に気づいたのはリーベだった。
――いいえ。まだ死んではいません。ですが、とても危険です!
――時間稼げば、まだ戦える?
その続きを、フィーネはいい淀んだ。誰もが次の言葉を待った。
――なんとかします。
――わかった!
ゼブルに直撃したはずの光の槍。それで発生した土煙は、すぐに晴れた。ゼブルには傷ひとつついていなかった。
その手には盾が構えられていた。本来なら壊れやすく、それゆえに戦いのサポートとなり得るバックラーが。
一見するとそれだけで今の衝撃を防げるとは到底思えないが、それができてしまっているのが奴等だ。
――ワシ等に出来ることはそう多くはない。だが、今こそこの命をかけるときだ!
――そうだな。ここで自分可愛さに逃げるわけにはいかねぇ!
――フィーネ、あなたは寝ているお姫様をなんとかなさい!
三人は意を決する。三人とも、逃げるという選択しはなかった。
少なくともフィーネはその意思を感じた。
――はい!
竜達が咆哮を上げる。それぞれが、戦う覚悟を秘めた、雄叫びを。
『少し骨が折れそうだ。面倒ではあるが、相手をしてやらないわけにもいかないか』
ゼブルはひどく面倒くさそうに、言った。そしてふわりと浮遊した。
浮いた直後の隙をついたのはイコロスだった。その細長い巨大な角でゼブルを串刺しにせんと迫る。
ゼブルはこれをひらりと回避した。空中で自在に動けるというのは、上からものを見るということ。それだけ自分以外の動きを関知しやすいのだろう。
『お前達に私を捉えられるものか!』
直後、またも黒い靄が発生した。今度は人間の視界を奪うとかそんなちゃちなものではない。雲の中にいるのではと錯覚するほどの大量の靄が一斉に景色を変えた。
『でかいだけの木偶の坊ども。せいぜい霧の中に溺れるがいい』
『ギィィィィィィ!』
靄で埋め尽くされた視界の中で、イコロスがその角を光らせた。
その瞬間。小さな爆発が何百も同時に発生した。
『これは……!』
イコロスの体を這い回るように発生する爆発は、竜の固い皮膚をも焼き焦がした。
イコロスの声が小さくなっていき、飛行を維持することができなくなっていく。
フラフラと黒霧の中をさ迷い、地面を滑った。
「イコロス!」
力なく十字一角竜は鳴いた。全身が傷だらけで、首を動かす力さえ失っているように見えた。
「こんなにも、簡単に……!」
『あと、二匹』




