プロローグ
暗闇に包まれた寝室の一角で、ギルバルト国王は自らの赤ん坊の首に手をかけていた。
今朝方生まれたばかりの何も知らない赤ん坊の首を。
三人目の子供だった。しかし、その内、二人は血がつながっていない。母親の体を支える骨が弱く、出産に耐えられないと言われ続けてきたからだ。だから子を作ることができず、養子を引き取り育てていた。
だから、ギルバルト王家の正当な血を引く子供が産まれたのはこれが最初となる。その出産のため、長期の治療が行われた。その末に産まれた我が子だった。
喜ばしいはずだった。本来なら祝福されるべき存在であるはずだった。
しかしギルバルト王はショックを受けた。なぜなら、産まれた赤子は将来この国に災いをもたらすからだ。
灰色の目。言い伝えによれば、ドラゴンを使役し、国を滅ぼすと伝えられている。
実際歴史をさかのぼれば、灰色の目を持った人間とドラゴンによって幾たびもこの世に災いをもたらしている。
母はもう子をなすことはできない。つまり、今赤ん坊を殺してしまえば、正当な血を引くギルバルト王家の血筋が絶えてしまう。
それでも、王は娘に手をかけた。国が滅ぶことと、子供の命。天秤に掛けざるを得なかった。
「許せ……娘よ……!」
涙を流しながら、王は首を絞める力を強めた。
その時だった。
ドサリと。ベッドの上から何かが落ちる音がした。
「あな……た……」
「……!」
直後、愛する妻の声が聞こえた。ギルバルト王は手の力を緩め、振り向く。
王妃はか細い声で懇願する。
「お願い……その子……殺さないで……」
ギルバルト王は王妃の側に寄る。下半身は血で塗れていた。
「初めての……子なの……お願い……コホッ!」
口から血を吐く。さほど強くない握力で、王の袖を握りしめる。
「しかし……」
王は苦悩に顔をしかめる。胸が締め付けられる思いがした。
「おね……がい……」
体の弱かった王妃の出産は、文字通り命がけだった。出産直後はまさに息も絶え絶えで、死ななかったことが奇跡だと言われ、主治医から絶対安静を言い渡された。
そんな状態で無理に体を動かしたからか、王妃は数分と立たず、命を引き取った。