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09 衆人環視でラブシーン披露

少しばかりR15。

――佳也クンのことは別に嫌いじゃない。

つーか好きか嫌いかはっきり判断して分別できるほど仲良くなってない。けどまぁ現時点じゃ好きの部類に入るんだと思う。私好みだし可愛いし特に嫌いになる要素もないし。


私の線引きは他の人よりズレてる。

手を繋ぐ、抱き締める、キスまでは好きか嫌いかの単純な基準で許可する。それ以上は無し。

智絵のがもっと緩いけど、私も大概だ。でも、特定の人がいない時はずっとそうしてきた。


そして、今も――


「っふ……ん、ン…」

「は…ッ、アズマさ……」


ローテーブルを挟んでソファーに座ってた状態から、佳也クンはテーブルを乗り越えて私にキスしてきた。

初っ端から正直がっつき過ぎだろってくらいディープなやつをしたまま、ずっと離してくれない。顔背けても体引いても追っ掛けてきて捕まえられる。

許可しても軽いキスしかされたことないし、いきなりこれは考えてなかったわ……


あー何か……彼女どうしたんだろ。浮気は反対……ってもしかしてフリーなのか?セフレだったら断固拒否なんだけど。酔った勢いとか?ビールちょっとで?んなアホな。

まぁマジってことはないっしょ。だって今日の昼会ったばっかだし、いや正確に言えば昨日か。

とにかくこんな男前がこんな鄙びた旅館で私みたいなの相手にしてるとか何かの冗談か奇跡だ。


「はぁ、ちょ…待っ……」

「待たねぇよ……」


…………。

ち ょ う え ろ い 。


掠れた吐息で言わないで。本気でクるから。

あーもう待たなくていいですガンガンいっちゃってくださいってくらいやばい。

何、私強引系好きだったのか。マジ新世界。やっべ、きゅんきゅんきた。今ならセフレになって流されてもいい。


「アズマさん……俺の、名前…呼んで」


ンなベロチューされてる最中に呼べっか馬鹿。だったらキスやめろや。

つーかキス上手いな。ねちっこくてしつこいけど。クールを装ってエロ担当か。


「…はぁ……呼べよ」


うわぁ……ドS降臨してやがる。

元々こっちが素?他のイケメン達にはこんな感じだったかもしんない。

息継ぎのタイミングが微妙に合わなくて、ダークレッドの髪を引っ張る。爪に何かが引っ掛かったけど確認してる余裕はない。


「ふ、ぅ……佳也、く…」


ドサッ


…………あれ。何かこの体勢には異議ありなんですけど。

背中には合革ソファー、視界にはギラギラした目をした私好みの鋭い顔。ついでに頭の先には真っ赤な自販機。まぁ簡単に言えば押し倒されてんね、私。


「な、待っ、佳……」

「可愛い。すっげぇ可愛いアズマさん」

「っ!!」


可愛いはねぇよ!マジ酔ってんのかお前!

ガッと赤くなる顔が抑えらんなくて、手で隠そうとする前にまたキス。今度は押し返そうと動かした手を掴まれて指が絡んだ。

こ、恋人つなぎ……うわぁ地味に恥ずかしいんだけど。ってそんな場合じゃねぇだろ。


「や、だ……待っ、ふァ…」

「可愛い…甘ぇ……」


耳元で喋んじゃねぇよ正直かなりやばいから。お前の声エロ過ぎんだよ馬鹿。


つーか耳、舐め……やがった!


「アズマさん……」

「……っンの、やろぉ!


待てっつってんだろクソボケェ!!」



ゴスッ、ドスッ!


「~~っ?!!」


ハイ、頭突き失礼しまーす、鳩尾に膝入りましたー。


ようやく止まった佳也クンを蹴り飛ばして安全地帯を確保。

こちとら黙ってヤられてやるほどしおらしくできちゃいねぇんだよ。ナニ蹴らなかっただけマシだと思え。


「……………あ、え? は……は?「ハイ、お名前は?」


状況が全く把握できてない感丸出しの表情を見ても私の眉間には盛大な皺。

ちょっとトんじゃったんだーそっかーじゃあしょうがないねー。ってそれで済んだら警察いらねぇし。世の中から強姦罪消えるし。


「は……?」

「は、じゃねぇよ。名字と名前。自分のフルネーム言えねぇのか」

「さ、斎木佳也です」


言われなくても床に正座してるのは何でだ。まぁ手間が省けるけど。


「斎木。お前には耳がついてねぇのか? さっき私何回待てっつった?」

「わ、わかりま、せ……」


「三回だよさーんーかーいー。

仏の顔も三度までって知ってっか? 私は仏じゃねぇけどわりと広い心でがっついてるお前を許したよ? それは自分でキスしていいよっつったからね。でもお前はその先まで突っ走ろうとしたよね。私が嫌がったのにやろうとしたよね。ハイここまでで反論は? ねぇよなその通りだもんなじゃあ次ね。

別に回数もやり方も指定してねぇけどしつっこいんだよ。酸欠で殺す気ですか新手の殺人ですか相手気遣う余裕すらありませんかですか。チェリーちゃんでもあるまいしねぇああ童貞だったらごめんねでもそれっぽくねぇし充分上手かったから胸張って生きろ。

それと一番の問題点は場所ね。目ぇ見えてる? ここ部屋じゃねぇから廊下の空いてるスペースだからパブリックな場所だから。


以上を踏まえて私が何を言いたいのかお前が何を言うべきかわかったよねぇ斎木佳也クン」


「…………本気ですみませんでした」


当社比三割増しの笑顔で首を傾げると、目の前で綺麗な綺麗な土下座が披露された。


「……顔上げろや」


脚を組み直して言い放つ。ってこれじゃまんま女王様だ。


あらら。ものすんごーく情けねぇ顔してんな。もし犬だったら耳がぺったんこだ。

うん、これは本気で反省してる。


「………立って。んで元の位置に戻る」

「…………」

「早くしろよ?」


怒るのって疲れるから嫌いなんだよ。面倒臭ぇし。だから大抵はいつまでも引きずって喚いたりしない。

肩を落としておずおず席に着く佳也クンにももう別に怒ってない。開き直られたらもう二発くらい殴ってたけどさ。反省してる人に怒る必要性を感じない。私の言いたいことは全部言ったし。


「……出てきていいよ。もう終わった」

「え……?」


「もぉマジちゅう長過ぎ~こっち大変だったんだから」

「み、東ッ大丈夫?! 殺そうか?!」

「………とりあえずその鈍器返してようか泉チャン」


羽交い締めにされた泉とそれをやってる智絵。楽しそうな智絵とは正反対の顔をした泉の手にはしっかりと古めかしい……家庭用体重計が握られてた。

さすがに押し倒されてる時にそれで殴られる瞬間見たら軽くトラウマになんだろ。

サァッと青くなった佳也クンを見て微妙な気分になる。


「ていうかぁ~見てるってよくわかったねぇ」

「だって泉長湯嫌いだし、智絵がこんな場面見てないわけねぇし。確信はなかったけど」

「ご名答~」

「……ねぇ、本気で殴っていい? 指三本くらい折っていい? こんな小汚いところで美しい東さんに手ぇ出して土下座なんかで済むと「浅野と同じパターンかよ」


「んじゃあっちも気付いてた?」


智絵が指す方向を見て、更に微妙な気分になる。

気付くも何も……意識外だったし。


「こんばんは~すみません、この馬鹿が突っ走っちゃって」

「佳也……お前だけは違うと思ってたのに…!」


きらきら笑顔と真っ赤な涙目。風呂にいたのはこいつらか。

ちいさいワンコがいらっしゃらないけど、もう子供は寝る時間ってか?

つーか衆人環視でラブシーン披露したのかよ、私ら。さすがに恥ずかしいんですが。


「………テメェらいつからいた」

「“待たねぇよ……”の辺りから。いやぁん佳也くんマジえっろぉい~ケダモノ~」


うわ、人間ってマジでピキッて青筋立つんだ。すげぇキレてんだけど佳也クン。

あの辺りからってことはもう結構序盤からか……いい趣味してんな王子とアニキ。


「私らなんか“おいで、佳也クン”のとこからだからね! 最高のタイミングッ」

「え、何それ詳しくお願いします智絵さん!」


「「テメェら黙れ」」


あ、被った。


「智絵、お前仕組んだだろ」

「なぁんのことでしょ?」


絶対男湯にこいつらがいるのわかってて変な話振ってきたんだろ。お前のメス的勘マジ半端ねぇし。

新しい煙草をくわえながらジト目で見ても智絵の笑顔は崩れない。


「東、あたしも」

「んー」


あーオイル切れそうだったんだっけ。点き悪ぃな。

何度かやってやっと火がついて、役目の終わった百均ライターくんを横のごみ箱にポイ。泉がくわえてる煙草の先に自分のをくっつけて同時に息を吸う。


「……何か新たな扉?」

「アリなのか、アレ……」


「えぇ~田宮の分はぁ?」

「ねぇよ」

「……森下さんと扱い違い過ぎませんか東ヶ原さん」

「あーはいはい愛してんよ」

「じゃあちゅー」

「はいはい」


煙草を置いてからご要望通りほっぺにキスしてやる。


「えーと……東さん?」

「はい?」

「もしかして~東さんって女の子が好きだったりします?」

「はぁ?」


両脇に泉と智絵を置いた状態の中、やけにマジな顔した王子が身を乗り出してくる。


あー……まぁたまに勘違いする人いるけど、女の子は愛でる対象なだけだから。

自分でもバイっぽいとか思った時期あったけど多分ノーマルだから。


「女の子は好きだけど恋愛対象は異性オンリーですが」

「そっかぁ。よかった~」


何でお前が安心すんだ。


「ねぇ、佳也~?」

「あ? ああ……」


んで何でこの子は私を睨むし。


がっつり視線を合わせる寸前で、古臭い壁掛け時計が一度だけ鳴った。

それに全員が意識を持ってかれて。


「一時だねぇ」

「……よし、飲み直すかな」

「え、日本酒五合はどこいったの?」

「湯舟での深夜枠とさっきの超ディープキスで全部消費された」


ゴンッ!


「東ぁ、あんま年下クンいじめちゃだめよ」

「だってほんとのことだし。

じゃあ私ら戻るから。おやすみ」


半分くらいに縮んだ煙草を揉み消してソファーから立ち上がる。

んー…何かモヤモヤすんなぁ。欲求不満か、私。久々にあんな濃いキスしたかんなー……


「あ、ずま、さん」

「うん?何」


「……いや、おやすみなさい」


……多分今“ちょっと話があるんですけど”とか言われたら確実に誘い乗ってた気がする。

マジな話、気分ノってっし場所さえ変えれば続きしてもオッケーかもしんない。


一夜の関係か、セフレか、もうちょい上がって浮気相手か。そういう関係は基本お断りだけど佳也クンならいいかもしんない。そう思えるくらいには私はこの子のこと気に入ったんだと思う。


変なモヤモヤとちょっとムラムラと何となくなイライラを抱えて。


「うん、おやすみ」


それを苦笑に変換して、私は手を振ってさよならした。

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