表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SPELL NUMBER~強か女子大生と年下バンドマンの一年~  作者: 矢島 汐
第九章 レイジングフィルム
75/76

06 猫メール大作戦

本日のゼミは卒論指導と進路相談です。

もうとりあえず先に卒論進める時間くれってメンバーもいるし、実際来ないで演習室に籠ってるのもちらほらいるけど、私的にはこの時間はちゃんと出るのがお勧めだ。

この時期で焦りたくなるのはわかるけど、先生ががっつり見てくれるのってこの時間だけなんだから。他の時間だとアポとって調整して、ってやらなきゃいけないし。その前に勝手にゼミ休むのは先生の心象最悪ですが。


「おはよ、東」

「おはよー」


半分以上のゼミ生がだらっと待機してる中、今日もおしゃれさんな良平が入ってくる。

さすがに寒いのか、今日はバイクじゃないらしくメットを持ってない。


「ん、何それ」

「フライヤー」


良平が指差す先、机に散らばる小さいフライヤー三枚。

シャドウ。ネイル。ルージュ。

どれも宝石がモチーフになったそれは例のアレだ。スペルの曲が使われたCMのシリーズ。

浮き立つように背景は潔く真っ黒。ちなみにケース部分も一段暗く加工してあるから余計に色が際立つようになってる。


「黒っ、東好きそう」

「あーうん、まぁ」

「あ、これ絵里香が使ってたけど発色いいって聞いた」

「マジで?」


絵里香はちょっとばっかりギャルっぽいけど手話サークルのサークル長までやってたお嬢の親友だ。んでゼミ生です。今日は最初から遅刻予定らしい。

確かに絵里香なら使いそうな系統だ。結構ぎらぎら度あるし、このシリーズ。


「かわいいよね、このアクセっぽいパッケージ」


お嬢、目の付け所いいっすね。

見てほしいのは商品。それをくっつけてる手やら足やら目やらはスルーしてほしい。いや足以外はガン見で結構ですが。

オーディションとかで会う人みたいに“私写ってるんだよ! 見てみて!”って気持ちには一生なれない気がする。まぁあのタイプは自己顕示欲の塊っぽいからなぁ……

自分の足が写ったフライヤーをこっそり裏返しながら、私は昨日来たメールを思い返してた。



From 斎木 佳也

Sub 無題

------------

こんばんは。

ミウさん、あのCMのパンフとかフライヤーって持ってますか?

できればシリーズ全部の。

------------



To 斎木 佳也

Sub ばんわー

------------

持ってるよ~自分が関わってるやつは全部取っといてるから。

------------



From 斎木 佳也

Sub 無題

------------

それって余りとかありますか?

------------



To 斎木 佳也

Sub 無題

------------

あったあった!

で、これどうすんの?

何か宣伝でもすんのかしら。

------------



From 斎木 佳也

Sub 無題

------------

いや、鑑賞用です。

------------



「…………」


佳也クン、最近フェチ隠さなくなってきたよね君……

やーいいんだけどさ。若干もやっとするけど、使用しますって言われないだけマシだ。ンなこと言われたら絶対渡せねぇわ。

まぁ観賞用でも次回部屋に行った時壁に貼ってあったら問答無用で剥がす自信あるけど。どんな羞恥プレイだ。


「良平さん、お嬢。このCM見たことある?」

「えーあんま真剣にCMとか見ないし」

「えぇ? 超流れてるよ。良くん最近テレビ見た?」

「だってバイト今繁忙期でさ」


そのまま話が流れていって、CMの曲について聞く雰囲気じゃなくなった。

まぁいっか。変に熱心に聞いても理由聞き返されたら困るし。曲的にも画的にも。

つーか私が感想聞くのおかしくね?でも気になる……


「おはよー泉」

「はよ」

「おはよう……」


まぁおはようの時間帯じゃないんだけどさ、バイトと同じだよね。

“お疲れ様”と同じぐらい違和感ある挨拶をでろっとした感じに返した泉は表情もでろっとした感じで。


……何かやたらと疲れてんな、お前。


「どしたん?」

「25mプールいっぱいに詰まった猫の群集の中で窒息死したい」

「……幸せな死に方デスネ森下サン」


実際わりとホラーだろ、それ。

まぁ、何が原因でこんなんなってのるかは予想がつくけど。


「本日はどんな美猫さんで?」

「ジュビリーちゃん二歳メス。オッドアイが素敵な傾国のお猫さまです……」


向けられたケータイの液晶。写ってるのは……うん。


「あー……すんごい美形」


真っ白で綺麗な猫。目の色は水色と金色で、物凄い目力が強い。

気位高そうだけどとにかく毛並みも顔も最高。

これは素直に拍手と粗品を贈りたいレベルだ。


飼い主に似るって、マジなのね……この美形度、さすがです、京介クン。


「何匹いんの、この家」

「ジュビリーちゃんにカリナンちゃんにユウレカちゃんにオルロフくんにマタンくんで五匹。ユウレカちゃんとマタンくんはまだお姿を拝見してないです」

「……何、その呼びにくそうな名前たち」

「ダイヤモンドだよ……全員世界的に有名なダイヤモンドの名前! ジュビリーちゃんなんて世界で最も完璧にカットされたダイヤモンドの名前なんだよ?!」

「調べたのかよ」

「だって気になるよ由来とか!」


泉、お前罠だよそれ。

机に突っ伏したおだんご頭さんは気付いてるのでしょうか。多分猫に目が眩んで気が回ってないにレモンティー賭けてもいい。


「何で揃いも揃ってこんなに最上美猫ばっかりなの……」

「まぁ、京介クンちだし」

「納得できちゃうところが悔しい……!」


黎明祭の時、直球でいって見事場外にかっ飛ばされた京介クンは、どうやら戦法を百六十度くらい転換したらしい。

“押して駄目なら引いてみろ”じゃ普通に何事もなく離れて行ってさよならだから、かなーり迂回しつつ近づこうとしてる。


まずワンステップ目は泉の気を引くことから。

ライブお疲れ的会の時に何か見事な思考ナナメウエを発揮した泉に優しくされて、そこにつけこん……いや、活用して自然に抜かりなくアドレス交換して。それからマメにメールをしてるらしい……主に猫の話題を中心に。

勝手に名付けるとしたら『猫メール大作戦』ってか。安直過ぎるな、さすが私。


自分の話題じゃ無理だって予測してたのか、泉の大好きな猫を使ってるとこが計算高い。これだったら泉は即返信する。

……ずるいっつーか、わりと形振り構ってないよね、京介クン。

まぁ興味を引いてメールを続けさせるって目的なら大成功みたいだけど。


「いいじゃん。猫フォルダが眼福ですよ」

「ここまで見せて色々教えるなら触らせてほしい……」

「…………」


だからそれ、罠だって。

この美猫たちがどこにいるのか、よく考えろ?


「……うち来る? 京介クンちには及ばないけどうちも美形さんよ」

「あぁぁ……ふわふわもこもこのシャルロッテさん! 大丈夫あたしはシャルロッテさんもりんごもトトも愛してる!」

「それは実家に帰って叫べ」


禁断症状出てるなぁ。まぁうちのロッテさんで癒されなさいよ。

シャルロッテは数えで御年十三歳になるゴールデンのチンチラです。

ちなみに命名はお母さんだ。私だったらこんな中世ヨーロッパみたいな名前つけない。


「りんご元気? つーかトトは変なもん食ってない?」

「大丈夫、最近ガムテ食べてたって電話は入ってこない。りんごはスズメを狩ってたよ」

「……お前ンとこの猫って逞しいよね」

「放流してるから。ロッテさんは何か新しい芸仕込んだ?」

「最近死んだふりしてくれるようになったよ。一瞬マジでモップみたいでびびる」

「あのモップ度半端ないよね」

「前にお母さんに言ったら“こんなに綺麗にしてるのにそんな汚いモンと一緒にしないで! タクシーの毛ばたきって言って”って」

「……毛ばたきも汚くない? 掃除用具だし」

「ぱっと見汚く見えないならいいんじゃん? それに考えてみりゃ毛ばたきのが似てんだよね」

「思考回路一緒……」


だらだら話してると、いつも通り十分遅れで先生がやってくる。

だいぶ正気に戻ってきた泉を横目にしながら、京介クンがいつ次のステップに進むか考える。

今月中には何か動きがありそうな気もするけど……まだ二人きりで会うには早いか。もし泉が罠にかかっても安心させるために私とか智絵とか誘うように仕向けそう。策士っぽいし、同じ過ちは犯さないだろ。


「……あ」


……つーか。

智絵、来てねぇわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ