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14 歯ぁ食いしばっとけよ

明けましておめでとうございます!

初っ端から物騒なサブタイになっておりますが、本年もよろしくお願いいたします。

さっさと八号館から撤収して。

ミウさん達と合流したサークル棟で、辻本さんから送られてきた熱烈メールを読みながらだらっと片付けしてたら。


帰ったはずの正十郎が、輸送されてきた。

大学内で道に迷ってたところをライブに来た奴に保護されてわざわざこっちに送ってもらったらしい。

古参の中じゃ有名だしな、こいつの体質……まぁライブ後に発揮されてよかったっちゃよかったんだけど。

で、どうせ放流してもまた戻ってくるだろうし、誰かが正十郎を送り届けなきゃいけない訳で。

じゃんけんで負けた昭がテンション高いまま付き添うことになって、それじゃいくら何でも不安だってことで結局健司自ら犠牲になっていった。


「私、行く」

「却下」

「やめろ」

「えぇ~?! 絶対行く! 行くの! だって……

正十郎くん、ひとりで電車に乗ったことない超希少種なんだよ?!」


“だから絶対見送りについていく”

そうやってゴリ押しして智絵さんも見送りメンバーになって。

何か変な取り合わせで正十郎を電車に乗せて家の最寄駅まで送る流れになった。


正十郎は別のとこで待機してる。

ミウさん達と部室で合流する前に隔離しといた。

ミウさんは会いたがってるけど……駄目だ。俺の心が狭ぇとかンな問題じゃなく。


「つーかさ、何で智絵はよくて私は駄目なの」

「東さんは……何というか~正十郎が大変なことになりそうな雰囲気をお持ちなんで」

「はぁ?」

「そのワンピース見て“ふしだらな! 下着なんぞで出歩きおって!”とか言います、多分~」

「うーん…会いたいのと面倒臭ぇの半々」

「……やめといた方がいいっすよ、アズマさん。あいつ女の格好には特にうるさいんで」


ひらひらふわふわした、真っ赤なワンピース。かなり丈が短い。しかも胸元結構出てる。かがむと色々やべぇ。

ジャケットとブーツでがっつり辛めに黒入れてるからミウさん的には全く問題ないけど、あくまでミウさん的にって話だ。

デフォルトでエロい雰囲気持ってるのに今日は若干セクシー系だ。

……正十郎の耐性外過ぎる。


ちょっと頬膨らまして諦めてくれたミウさんが泉さんと一緒に三人を見送る。

この人ほんっと可愛いな。くそ。あのワンピース着せたまま押し倒してガツガツ突っ込みてぇ……


「佳也~今お外ですからね?」

「……脳内読んでんじゃねぇよ」

「顔に出てんの。野獣オーラが」


何だそれ……って否定しきれねぇ。

ライブ後は妙にこんな気分になる。端から見たら何かギラギラしてるらしい。

ミウさんとライブ後に会うのは初めてだ。

あの人がいると俺、サカるんだな……今知った。


「あっちは智絵が話すと思うけどさ、君らこの後暇?」

「え?」


この後……普通だったら飯食いに行って解散だけど、今日はミウさんが泊まってくれるって。


「打ち上げしませんか? 幹事と金はこっち持ちで」

「東、あたしお金ないよ」

「お前に払えっつってないだろ。私が普通に持つよ。たまには気前よく……ひとり七千円くらいで」

「「気前良過ぎ(ですよ)!!」」


泉さんと京介がツッコんでる時に、俺は全っ然違うこと考えてた。

つーか、まずそれしか浮かばなかった。


……二人っきりの時間への突入が、延びた。


その心遣いとかすっげぇ嬉しいけど、飯行って騒ぎたい気分もあるけど。

早くミウさんに触りてぇのに……!

せめてキス、いや抱き締める時間くらいください!


「佳也クンも行くでしょ」

「…………はい」


ミウさんの隣に座ろう……手ぐらい触れる、はず。


ひとりで頷いてると、誰がのケータイが鳴る。

聞いたことない曲。洋楽っぽいな。

鞄をごそごそやって、ミウさんが音源を出してくる。

着信音変えたのか?いつもは家族とそれ以外分けてて、確か……


「…………はい」


こっちに背ぇ向けて、窓の方を見るミウさんの声がいつもより何となく硬い。

ちょっと嫌な予感がする。


「――電話してくんの、久々だね。何か用?」

『――――』

「はぁ……私、もう話すことなんかないけど」


相手が誰か、多分ここにいる全員がわかった。

一気にテンションが落ちる。

何だこのタイミング。


「斎木くん」

「……は、はい?」


まさか声かけられるなんて思ってなかったから、微妙に声が上ずる。

泉さんはいつも通り、クールな顔して俺を見上げた。


「見届けるならまだしも、決戦の邪魔しないでね」

「え?」

「美雨は基本的に優しいけど、自分で始末つけられるから」


それって、これのこと言ってますよね。

俺が出る幕じゃねぇっつぅのはわかってるけど……けど。


「あたしが直接会ったのは一回だけだけど、あの人は暴力とかに訴えるタイプじゃないと思う」

「けど、ミウさんが困ってます。それに暴力とかじゃなくて、もっと違う感じでくることも……」

「だから、見届けるんでしょう。美雨はそれも嫌がりそうだけど、不測の事態に駆けつけるために」

「不測の事態……」

「美雨を襲ったら、潰せ」


右手で力強く何かを握るジェスチャー。

……どこの部位を潰すのか、怖くて聞けねぇ…


ケータイを閉じた音がやけに強く響く。

あえて会話を拾おうと意識を向けなかった窓の方に目をやると。


「……東ヶ原美雨、参ります」

「いざ鎌倉?」

「敵は本能寺にありって感じ」


全然時代違ぇ……!

けどこの人達それで成り立つんだから、不思議な仲だよな。


「佳也クン、京介クン、三十分以内に戻るから」

「……はい」

「いってらっしゃい~」


ヒール鳴らしながら部室から出ていくミウさんを一旦見送る。

ついてくって言ったら泉さんの言う通り嫌がりそうだ。


ミウさんは守ってもらおうとする女じゃない。自分でカタつけにいくタイプ。

そういうとこ、すげぇかっこいいと思うけど……あんま無理し過ぎないでほしい。

海のチャラ男達に連れてかれた件とか、ほんっとやめてほしかった。


「じゃ、俺も行きます」

「多分この建物の裏とかにいると思うよ。誘いに乗るのにわざわざ遠くまで行かないし、長引かせないなら腰落ち着ける必要ないはずだから」

「……泉さん、本当に東さんのことよく知ってるんですね」

「大学一年の時からずっと一緒にいたし。波長合うから」


……普通に会話してる。

真面目な話だとこうなんだな、この二人。


ふたりっきりにしていいのか、ほんの少しだけ考える。

けど、俺の優先順位なんか決まりきってる訳で。

男らし過ぎる泉さんに軽く頭下げて、俺は静かに部室のドアを開けた。




× × ×




「――み…東、センパイ」


懐かしい呼び方。

こいつはしつこいくらい私を呼んで、付きまとってきた。

何か犬みたいでかわいいレベルだったし、嫌いじゃなかったから許せてた。

あの頃から、あんたは私のことが好きだったんだよね。


「向、話って何?」


終わった話はもうしたくない。

ずっとそう思ってた。んで、こいつはずっとその話をしてくる。

こいつにとっては、まだ――終わってないから。


「……俺達、本当にやり直せない? 今の男より絶対大事にするし……一度冷静になったから、次は絶対うまくいくと思うんだ」


ほら、わかってない。

こんなに食い違ってるのに、それもわからない。

“絶対うまくいく”って、何でそう思えるのか、むしろ私にはそっちがわからない。


溜め息が出る。

何度も、何度も何度もなんっども同じやり取りをした。

なのに、何で理解できないのかな。もう“絶対うまくいかない”って。


「私らさ、何で別れたか覚えてる?」

「センパイが“もう本当に付き合えない”って頭にコーヒーかけた」

「……そうだね」


コーヒー……かけたわ、私。

うわーすげぇ鬼畜。公衆の面前でよくそこまでやったな。相当ブチギレてたんだろうなぁ……

って、ンなことが問題なんじゃない。つーかそれでも諦めなかったお前がすごいわ。


「私はあんたが向けてくる気持ちが重かった。距離がなさ過ぎて、すごく息苦しくて、つらかった」

「……でも、俺は美雨が好きなだけで」


あーあ、呼び方戻ってる。

まぁ、いいや。


「向、好きだけじゃどうにもなんないんだよ。自分の考え押し付けて、無理矢理中に入ってこようとして、私がいい気分だったと思う?」

「…………」

「言ったよね? “恋人は一心同体じゃない、他人だ”って。意味わかった? わかんないよね、だから私に電話なんかできたんでしょ」


“もしかしたらまだやり直せるかも”

そう思ってるから、私のアドレス消さないんだろ。

やり直せないよ。無理。

私はこの価値観捻じ曲げてまであんたと恋愛続けられなかった。


「何度も言ったけどね、無理だよ。私とあんたじゃスタンスが違い過ぎる。うまくいく訳ない」


あんたのこと別に嫌いじゃない。でも男としては、大っ嫌い。

だからどれだけでも傷つけて終わらせてやる。

悪女くらいいくらでも演じてやる。

そうしないと、こいつはいつまでだって私を追い続ける。そんな気がする。

こいつの恋愛観に合った子だってきっといる。私が全く合わなかっただけで、こいつが一生誰とも付き合えないなんてことはない。


「それにね……私、今すごく好きな人がいる。もしあんたが私の言ってる意味わかったとしても、今後あんたと付き合う気は一切ない」


だから、諦めて。

そう言いたかったのに、奴が先に声を出した。


「あんな、適当なバンドなんかやって……チャラい顔だけの奴のどこがいいんだよ」


…………あ?


「ああいう奴、女とっかえひっかえだって言うし……きっと後悔する。そんな奴じゃ美雨が可哀相だ!」


何?

バンド“なんか”?

佳也クンがチャラくて女とっかえひっかえ?

後悔?私が可哀相?


笑える。


何か自分を推すんじゃない方向にきたのはよかったけど。

馬鹿だね、向。見当違い過ぎんだろ。

佳也クンはね、そんな男じゃないんだよ。

スペルもそんなモテたい目的のバンドなんかじゃない。


貶めようとしてるのか僻んでるのか、何でもいいけどさ。

こっちは冷静に、ゆっくり語って終わりにしてやろうと思ったのに。


「しっかり歯ぁ食いしばっとけよ、テメェ」

「ぇ?」


ガッ――

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