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10 両手に花?

憧れのメンバーに会って恐縮したのかよくわかんないけど、ミッチーは私の案内をすんごい勢いで謝りながら断ってメンバーを引っ張って消えてった。

健司クンが渡したパンフと佳也クンの簡潔な口頭案内を頼りに学祭を回ることにしたらしい。


でも、何か……何か顔引きつってたんだけど。


「……私、何かした?」

「東さんが何かっつぅ前に……佳也にビビったんじゃないっすか?」

「え、佳也クンいつも通りじゃね?」

「はい」


「……お前、さっきのいつも通りっつぅのか?」

「いつも通りだろ」

「いつも通り……まぁ“いつも通り”だな、確かに。(一緒にいたのくらい許してやれよ…)」

「あ?(別に殴りかかったわけじゃねぇし)」


ちょっとそこ、意味わかんない会話やめるように。それに内緒話も。私置いてけぼりっすよ。

まぁいいや。どうせライブの時にミッチーいるんだろうし、覚えてたら探して聞いてみよ。


「コンビニっつぅことは正門行くよね? ご一緒していいかしらー?」

「勿論っす」

「佳也、反応早ぇなぁ……んじゃ行きますか」


呆れ顔の健司クンが頭を掻きながら歩き出して、私と佳也クンもようやく喫煙所から動き出す。

また人ごみに飛び込むのはだるいけど、いつまでもこんなとこにいるわけにもいかない。

改めて見るとマジでテーマパーク級な密集地帯に、ついその辺にあった佳也クンの服を掴んでみたり。

あ、これ何か普通の女子っぽい。キモいやめよう。


「ミ、アズマさん」

「あーごめん」

「いや、構わねぇんすけど……掴むなら、こっちで」


差し出された手を見て、佳也クンの顔を見て。

こうやって宣言して自主的に差し出してきたのって初めてなんだけどさ……何かすんごい照れるんですが。

控えめな笑顔に、綺麗な手。それにプラスして“どうぞ”って艶々の美声。

忘れてない、忘れてないけど再確認した。この人イケメンだわ。やべぇ。

やめておばさんいじめないで……直視できん!耐えられん!


「えーと、や、やっぱいい……」

「俺が心配なんです。人すげぇ多いから」


どっかの青春少女みたいにしどろもどろ手ぇ離した私におかまいなしで手を繋いでくる、強敵兼カレシさま。

離す気ないですってくらいしっかり指絡ませてくるところが何ともエロい。相変わらず動きがセクシャルで。たかが手ぇ繋ぐくらいなのに。


「あー、あー…おふたりさん……その、あんまいちゃつかれても…」


逸らされた顔にプラスして、むちゃくちゃ気まずそうな声。

……ごめん健司クン。潔く言おう。君の存在ちょっと忘れてた。

あんまりにうちのカレシさまがイケメンだったせいで……って馬鹿かノロケか。いい歳して動揺してんじゃねぇよ私。

落ち着け、落ち着け。大体手ぐらい保育園のガキんちょでも普通に繋ぐだろ。


「……これでいちゃついてたってジャッジなら、ああいうのは?」


視線と指で丁寧に示した方向には、人ごみの外れの隠れそうで隠れてない場所で抱き合いながらキスするギリの距離で話してるカップル。

あれこそ“いちゃつき”の代名詞だろ。つーか公共の場であんなことできるとは……若いな。いや若くてもやったことないけど、ああいうの。


「えっ、あーあれは、ちょっと、慎みがないっつぅか……」

「ほうほう。健司クン的にはアウトか。日中デートの帰り、駅前とかじゃよくある光景だけど。あれ見た後だと手ぇ繋ぐのなんか屁でもないっしょ」

「いや、そうなんすけど、そうなのか……?」

「だよねぇ、佳也クン?」

「そっすね」


こらやめなさい。ちょっとやりたそうな雰囲気出すのやめなさい。まぁ実際やらないだろうけどさ。

最近ロクに会ってなかったからなぁ……ちょっと反動がありそうですね。


「健司クン、いちゃつきジャッジのレベル緩めとかないと智絵の相手なんか務まんないよ?」

「っえ?!! なっ、何で……!」


え、それ今更言う?

確かに直接聞いたことなかったけどさ、わかりやすいじゃん、君。

つーか夏休み中ずっと何となくフォローしてただろ。それについて何とも思わなかったのかよ。


「まぁまぁ。私、応援側だから気にしないでいいんじゃね? さー行こう、もういい加減たこ焼き買えた頃だろうし」


右手にクール系イケメン、左手に爽やか系男前を確保して、勢いで人ごみに飛び込む。

両手に花?花っつぅにはちょっとごつめだけど。


「どぅえっ?! ちょ……」

「ッミウさん?!」

「ハイ佳也クン気を付けようねー次言ったらヒールで思いっっっきり足の小指踏むよー」

「それ地味に痛ぇっす……つーかそうじゃなくて!」


何言いたいかくらいわかりますよ。でもこうでもしないと埒が明かないっつーか。

私が最初にキモい照れ方したせいなんだけどね。だからその分動かそうと思いまして。

ついでに健司クンがもうちょい女慣れすればいいっつぅ期待も込めてます。手ぇ繋ぐだけで女慣れしたら世の中タラシ人口激増だけどさ。


「手ぐらいでガタガ言うなや。減るモンでもねぇだろ」

「男らし過ぎます、アズマさん」

「特定の意味を持って触らなきゃいいわけよ、こういうのは」


右手の親指で佳也クンの手の甲を撫でながらちょっとご機嫌取り。

こっちを見たのがわかったけどあえて無視で通す。

大体佳也クンは恋人繋ぎで健司クンは手首掴んでるだけ。これだけでも結構な差だと思うんだけどね。


意外に嫉妬しやすいタイプだよね、佳也クン。別にいいけど。

これでいきなり公共の場で無理矢理チューとかしたら殴るけど、確実に殴るけど。

さすがにそれはないってわかってる。佳也クンは私が嫌がることは絶対しないし……ってこれ、何か自意識過剰だったらヤだなぁ。

勘違いじゃないことを祈りつつ、周りにアイスかクレープの屋台がないか探すことに専念する。


「アイスーチョコ~あずき~チーズケーキ~」

「…………佳也、東さんって…自由だな」

「言うな」


聞こえてんぞ、テメェら。

自由の何が悪い。社会に出て窮屈な思いをする前に自由でいることくらいいいだろ。


「本気で自由モードになったら健司クンにガチなディープキスの手ほどきした後佳也クンと一発ヤりに消えるけど」

「「えっ?!!」」


仲いいよね、君ら。驚き具合まで一緒。


「嘘だよ、うーそ。どんな痴女よそれ。

あ、健司クン。もし智絵と手ぇ繋ぐ場面あったらさ、伺いたててから繋ぐのはNGだから。覚えといて」

「ぅえ? あ、ハイ? な、何でっすか?」

「あいついちいち顔色窺われんの嫌いだから。そこは強引もしくはズルくいってオケ」

「む、難しいっす……」


恋愛初心者に近い君にはちょーっと難易度高いかもね。

でもアクション起こすにはある程度の勇気が必要だし、いきなりキスしろっつってるわけじゃないんだから頑張れ。

……その前に、海の時みたいな非常事態以外でくっついてんのが想像できないんだけど。

とりあえず話しかけてデート、って流れが先か。何か考えるかな。


まぁまぁ、それは後にして……


「……アズマさん」

「…………はい」


さすがにこっちまではうやむやにできなかった。

“ライブ前後は妙に気が高ぶる”って、京介クンが言ってたのを思い出す。

全員その傾向があるけど、この人は特に、って。


「今日、よければうちに泊まっていきませんか」


肉食系フェロモン全開で囁かれたそれの返事は決まってる。

つーか疑問形で聞いてるくせに語尾が上がりもしなかったのはどういうことでしょうか。

まぁ、煽った後の後始末くらいちゃんとつけるかね。


「どーぞ。As you like it」


ライブで盛り上がった気分を引っ張ったままガチ野獣な彼に食い尽くされるコース、決定。

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