07 ここで博打打つか
「――うん、まぁ上出来でしょ」
………………。
「……死人出すつもりか」
お前の“上出来”はどこレベルだ。
「いや、こりゃ生き地獄ってヤツだぜ佳也……」
「偉いねぇ昭~よく集中力持ちました」
「うえー……おれ水のみてー……」
本番前日、夜十時。
学祭一日目の大人数音楽サークルの演奏そっちのけで、ようやく練習終了。
…………テメェの前世は鬼とか悪魔かよ。
こんな練習詰め込んで、本番までの体力どうすんだ。
まぁ、本番で一番へたれたプレイする程馬鹿じゃないし、その辺は何とかなるか。
ミウさんとのデート断って……断腸の思いで、断ってまで練習したんだ。下手な音出すわけにはいかない。
本当だったら、こんな切羽詰まらなくても平気だった。
京介がとんでもなく鬼畜な提案して、昭がノりにノんなきゃ、俺はバイト行ったりミウさんと映画行ったりできた。
お互い色々忙しくて久々のデートだったのに……いや、考えんな、キリねぇ。学祭終わったら仕切り直しさせてくれるっつってただろ。それで満足してろ俺。
コピー三曲にアンコール用一曲。その、アンコール用が本当の地獄だった。
いつものうぜぇくらいの笑顔でさらっと、バラード以上の博打打ちやがった。
案自体は別によかった。それくらいのカード切るのは皆了解できる博打。ただ、時間が足りなかった。
切れる時間はどんどん切って、練習量を最大限まで増やして。マジでぎりぎりだったけど何とか間に合った。
地獄開始からここんとこ、何回弦張り替えたか……何で俺、昭の弦まで交換してやってたんだろうか。
「何か、ねみー……」
「あー……電池切れか? 正十郎とかとっくに寝てんだろうなぁ」
「毎晩九時就寝だからね~」
「げぇー」
ちなみに朝は四時半起きが日課らしい。ジジイかあいつは。
その後水行と乾布摩擦と鍛錬と掃除と……いや、ジジイがやることじゃねぇな、修行僧か。
正十郎は一曲キーボ使う曲があったから引っ張ってきた。
うちの学生じゃないから手続きは必要だったけど問題はない。最近は怪我もなく健康らしいからあいつ自身も問題はなし。
大体学事部で手続きやったの辻本さんだし。あの人本当に見た目に寄らず面倒見いいっつぅか健司以上の貧乏くじ体質っつぅか。
頭の固さと怪我しやすい不幸体質だけ目ぇ瞑れば、正十郎はいいキーボだ。
譜読みは京介と張るくらい正確だし、こっちの要求通りにほぼ完璧に指が動かせる。
鍵盤触ってるより武術やってる時間の方が絶対的に多いのにキーボの腕が落ちないのは……未だに謎だけど。まぁ練習は日常的にしてんだろうし、そういうタイプなんだろう。
演奏面では特に心配はしてない。ただ、ひとつだけ気がかりなのは……あいつが当日抜けることだ。
うざってぇくらい几帳面で真面目な奴だから自主的に穴開けることはまずない。そういう場合は、大体不幸体質が絡んできてる。
正十郎はイベントごとの前によく怪我する。小中高の腐れ縁だけど、あいつが修学旅行に無事参加できたことはない。体育祭とか始業式とか、よく救急車の音で目が覚めた。ちなみに俺の家はあいつの家と最寄りの大病院の最短ルート上にある。
…………明日、大丈夫だよな、ほんと。明日大学来る途中で変な事故に遭わねぇように、今から祈っておこう。
「つーか……この曲よぉ、出したら客がポカーンってなんじゃねぇか?」
「いいのいいの。上げといて最後の最後で度肝抜かせる目的だからね~」
「でもノリ悪過ぎんのはやだー」
「……多少はしょうがねぇだろ」
先の三曲でどんだけ会場のテンション上げられるかにもよるけど……よりによって最後にバラード入れてるし、正直微妙なとこだ。
会場も客層も、慣れたライブとは全く違う。俺らがいつも通りやってても、環境が違えば勢いだけじゃどうにもならないことだってある。
しかも今回はサークルの立場から言って若干アウェー感が漂ってる。色々と気になる要素は多い。
「ん~…ちょっと俺から提案、じゃなくて報告があるんだけど?」
「……これ以上博打打つならその前にテメェ沈めっからな」
「か、佳也、目ぇ据わってんぞ……」
ガンつけてやっても京介は慣れたもんで。
それどころか気にせずケータイをいじった挙句、俺の方に放り投げてきた。
……これで余計な博打だったら、明日の朝までその辺の路地でぐっすり寝かせてやる。
From SPELL NUMBER
Sub 【SPELL NUMBER】メールマガジンVol.64
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こんばんは^^
スペルのケイです。
この前のライブはいかがでしたでしょうか~?
聞いたことない人の方が多かったかな?今とは結構テイスト違いです。V系意識してた頃もあったんですよ俺ら(笑)
にしても『SPELL NUMBER回顧録』ってもっとかっこいい言い方なかったんでしょうかね、イヤだわコウったら。
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なんてことねぇ、バンド結成からちょくちょく出してるいつものメルマガ。
ただ日時は今日っつぅか……今送ったばっかだ。
そのまま画面を送ってくと。
「…………」
「こりゃ、また派手にやったなぁ」
「えー、何、何?!」
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――ってことで、
メルマガ登録者さんだけに、スペルからサプライズ♪
明日、
清黎館大学・黎明祭でライブやります^^
というか、軽音サークルのライブにちょろっと出ます。
場所は8号館ってとこで、
他のバンドも含めてスタートは13:00から、
スペルは16:30からの予定で~す。
曲はコピーだけど、しっかりスペル味を染み込ませたんで楽しんでもらえると思います。
勿論タダなんで、暇な子誘って遊びきてね~(≧3≦)
駅近の大きい大学だからきっと迷わず来られる、はず!キャンパスは広いから迷うかもだけど(笑)
来てくれたら、もれなく俺のエアキスプレゼント……したらキユに蹴り飛ばされるから心の中で歓迎します。
ではでは、毎回ドSギターに蔑まれてるケイからでした彡☆
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「……思いっきり事後報告じゃねぇか」
一応実名とか通ってる大学とかは公開してなかったのに、ここで博打打つか。
呆れながらも、テンションが上がってる自分がいるのがわかった。ところどころキモい文面も今なら気にならない。
「いやいや~“半端なことはしない”って言ったでしょ? 楽しむ方も全力でやりたいからね~」
「う・わーっ! マジマジマジ?! やっべ、超楽しみ! 早くおれらの番になんねーかな!」
「おいおい、まだ明日にもなってねぇぞ」
これを見てどれだけの人が来てくれるのかなんてわからない。
けど、俺らの音楽を楽しみにしてくれてる人がひとりでも増えるなら、バラードとかアンコールとかぐちゃぐちゃ考える必要もない。
会場を盛り上げるとかそんな前に、ただ、楽しむだけだ。
――今日はよく寝れそうだ。
ケータイを京介に投げ返して、俺らはようやく片付けに入った。




