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SPELL NUMBER~強か女子大生と年下バンドマンの一年~  作者: 矢島 汐
第七章 マイティ・フッド
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08 つまり、もう爆発してます

一部お下品注意。

私、目は悪いけどさ、ぱっと視界に入ったもんはやけに見えちゃうんだよ。


視線の先には……午前にやらかしてくれたチャラ男と同系統な男と、見覚えのある華奢な女。

せっかく二人になれるようにセッティングしてやったのにどこ行ったんだよ、健司クン。


ため息をひとつして、あと十歩のとこにある砂の城・トンネル開通の儀を諦める。誰もいないなら助けるしかないだろ……まぁあいつひとりで切り抜けそうだけど。

……これ、一人で勝手に助けに行ったら多分じゃなくて絶対怒られんだろうなぁ。


「…………うん」


佳也クン、真面目に怒ったら恐そうだし、オンナノコらしく頼ろうかね。


うざったい髪をかき上げて、ただ座ってるだけで何かオーラ出てる美形二人組のとこにUターンする。

ほんと、水もしたたるいい男だよなぁ。京介クンはもう画面の向こうっつーか撮影中っつってもおかしくないし、佳也クンは色気っつーかエロ気半端なくダダ漏れだし。

周りにたくさん人がいるとレベルの違いがわかる。系統違いでも間違いなく二人ともかっこいい。あーあ、やっぱお道行く嬢さん方も見てるわ。


私もおこがましくも結構顔のいい人と付き合ってきたつもりだけど、ここまでの人はいなかったなぁ。

何の奇跡で好きになってくれたんだかはわかんないけど……ほんっと、変わってんよね。こんだけ色んな女の子がいるのに私選ぶなんてさ。

それどころじゃないのにぼけっと佳也クンを眺めてみる。声かけにくかったのもあるけど。


どうして、何で私を選んだのか。

あの感じだと一目惚れ、なんだよね?私一目惚れしたことないからよくわかんないんだけどその辺。

つーか私、ちゃんと好きになった人いたっけ……?え、あれ?

告られた時は“まぁ好きな部類だし別にいっか”って感じだし、告った時は“何となく好きかもしんない”状態だったし……


「……えー?」


マジではじめてかもしんない、本気の恋って。

う、わぁ……クソはずかしい。


思わず頭を抱えたくなる。

確か前にも同じようなこと思ったような気ぃするけど!これは、ちょっと……


「――ミウさん?」


あー……なんで呼ぶ前に来るかな。こっちにも心の準備ってモンが……いや、準備なんかしてる場合じゃないけど。

お嬢さん方の視線がちくりちくりと……いや、ぐっさぐさときます。でも私のカレシだから、優先的に話す権利あると思うんだ、うん。


「ひとりで立ってると危ないっすよ」

「いや、あー、うん」

「……どうかしました?」

「ん、あんさ……できるだけ穏便に助けてほしいんだけど、アレ」


ひとり恥ずかし妄想劇場+一時の痛い視線<友達の安全確保。

何の式だこれ。でも一瞬で弾き出したにしては合ってるわ。

指差した方を佳也クンが見て、軽く頷く。


「多分大丈夫だと思いますけど。ちょっと違う意味でやべぇかも」

「は?」

「昭とか俺よりはマシだけど、あいつもそれなりにアレな面あるんで」

「はぁ?」

「一応行きますね。ミウさんは危ないんで離れててください」


かなり意味不明な発言かまして慌てず騒がすゆっくり向かってく佳也クン。

わけわかんないけど……この状況で、私がおとなしく待ってると思うのかね、君。


「ねぇ佳也クン」

「ミウさ「東」……アズマさん、危ねぇから砂の城作って待っててください」

「友の危機を見物しないでどうすんの」

「見物……」

「まぁやばそうな空気になったら遠慮なく参戦すっけど」

「どっから持ってきたんすかその角材!」


どっからって……その辺に落ちてたんだけど。

せっかく手ぶらじゃないよって主張したのに“道端に落ちてたものなんて拾うんじゃありません!”って子どもに怒る母親みたいに角材をぺいっと捨てられる。


「スデゴロかぁ……」

「やんなくていっすよ、ちゃんとこっちで処理しますから……つーか何でそんな不穏な単語知ってんすか」

「これがわかる君もアレだよ、っと」


手で制されて一時停止。妙に静かな目的地に目をやると。


「……わぉ」


午前にやらかしてくれたチャラ男と同系統な男と、見覚えのある華奢な女と、頭いっこ近く飛び出てる格闘家ボディの男。


一触即発?いやいや、ンな甘いモンじゃない。

もうちょい詳しく解説しようかね。

チャラ男が女の手首を掴んでて、格闘家男が女の肩を抱き寄せてチャラ男の顔面をわし掴んでます。


……つまり、もう爆発してます。


「――テメェ、誰に、手ぇ出してんだ、あ゛?」


…………健司クンが、進化した。


え、ちょ、あの爽やか健司クンはどこいった?まさかこっちが素とか言いませんよね智絵的にゃアリだろうけど何かショックだよ!


「……やっぱな」

「健司クンは実はホワイトじゃなくてブラックなんすか?!」

「え? いや、よくわかんねぇすけどそういう話じゃなくて……」


じゃあどういう話ですか。あれは健司クンの眠れる別人格とでも言うんですか。

言っとくけど一応心理学専攻してんだかんね私。精神医学とかもかじったんだから下手な言い訳しないように。


「あいつ、“女は守るもの”ってのが信条なんすよ」

「はぁ、ご立派で」

「それに加えて智絵さんはあいつにとってアレじゃないっすか」

「はい、アレっすねぇ」

「そうなると、ああなりやすいんす。健司は」


やけにぼかした佳也クンの言葉でもちゃんと理解できた。

好きな女守るためにキレたりすんのね、しかも結構激しく。


……こりゃ、もしかするともしかしちゃう、かも。


「昔彼女が絡まれた時に同じことやって、逃げられたんすけどね」

「……逃げるどころか齧り付いてくんよ、今回」


“俺様ドS”“策士”“草食に見せかけた肉食”辺りがお好みワードだから、あいつ。

どれかひとつでも当てはまれば望みはつなげる。健司クン、グッジョブ。

いい人寄りのいい男か……いける。この感じで迫れば智絵はオチる。いや、常時こんな感じじゃないのももちろんわかってるけどさ。とりあえず認識の変化はありそう……って!!


「斎木クン、ちょっと東さんから質問なんだけど」

「はい?」

「見事なアイアンクローかましてらっしゃる健司サマの御手に明らかに血液だと思われるものが付着しているのは何故なのかおわかりになりますか?」


顔面掴まれてる男の足がちょっと浮いてんのなんか気にしない。気にしちゃダメだ。

私がちょっと目ぇ離した時に殴った?いやそれにしちゃ倒れた音なんかしなかったし……まさかもう誰かと一戦交えてきた後?!

健司クンは無益な喧嘩とかしないよね?あんな爽やかな顔して好戦的とかオネーサン認めねぇよ?


「いや、あれは……多分、違います、血だけど、そういう血じゃなくて」


さっきから煮え切らないな……てめぇの目で見て判断しろってこと?


ワンモア観察。

“ギラギラ”と“きゅんきゅん”が同居した感じの顔してる智絵を守る感じに抱き寄せて、でっかい手で盛りに盛ってる頭を潰しにかかってる健司サマ。

やっぱどう見ても……手の甲に擦ったみたいな血痕らしきものが付着しています。怖いです。大変怖いです。

返り血じゃないって何よ?殴った相手が岩みたいな硬さで負傷したとかそんなん?


「……美雨わかんなぁい。教えて~?」

「…………」


智絵に勝てるレベルのかわいこぶりっこ+上目遣い付きで言った瞬間、目の前の鋭い美形顔がものの見事に固まった。


…………やっべ、すべった。

いってぇ……イタイ女過ぎる。やっちまったなあはは……謝罪で取り消せるか?


「ご、ごめ「ミウさんそんっなに俺の理性試してどうなるかわかってるんすか?」へ?」

「ンないちいち可愛いこと言ってっとマジでクるんで、つーかキたんで」


…………はぁ?

何、今のどこがツボったん。

顔かっこいいのに残念だよ、佳也クン……


「今日キスとかしたら殴るかんね」

「今だったら殴られてもいいっす」

「……どしたの佳也クン熱中症?」


じりじり迫ってくる狼もとい佳也クンのせいで健司クンの観察に戻れない。

連れが一応厄介なことになってんのに盛ってる場合かボケ。

何でどうしてこんなことになった。誰かバイオレンスな事態を見守るよりこっちのセクシャルな事態をどうにかしてくれ。


「ミウさん、やっぱかわいー……」

「っ」

「顔、真っ赤」


うわぁやめろその顔と声!!何かよくわかんないよこの人あたまおかしい!ドSなのか羞恥プレイなのか衆人環視のラブシーン再来なのか?!ヤられてたまるかクソが!


「ッ意地悪な佳也クン、きらい」


何とか反撃の槍を投げると、


「…………………………え?」


ものの見事にぶっ刺さった。


一瞬にして鋭い顔がサァッと青くなる。

あんまりにマジな反応を見てある会話を思い出した。



『私が嫌がることはしねぇと思うけどさぁ』

『嫌われたら死にそうだしね、斎木くん』

『え、そこまで?』

『そこまで』



…………これってあの、地雷ってやつデスカネー……


「ちょっ嘘だかんねウソ! 若干本気だったけど本心かって言われたら違うから!度が過ぎると勘弁してほしいけど意地悪なのも好きだから! 男は肉食! 優しいだけじゃ駄目だよねやっぱ! 大丈夫愛してるよ佳也クン!」

「……は、い…」

「うわーもーほんっとごめん失言だったマジで死にそうな顔すんのやめてー! ちゃんと好きだよ! ほんとだよ!」


精一杯のフォローがぎりぎり合格ラインだったみたいで、ナメクジみたいに縮みそうなくらいしおしおだった佳也クンが何とか持ち直してくる。

まさかこんなどうでもいい感じの一言であんなんなるなんて思わなかった……ナメてたな、佳也クンの愛。半端ねぇ。


「今度立ち向かう時はき……あれ以外の言葉にすんね」

「……いや…俺の方こそ、調子乗って、すんませんでした……」


くたびれた細い声に私の方が申し訳なくなってくる。

ここで今までの私だったら“嫌いっつっただけでこれ? はっ! メンタル弱ぇな出直してこい”だ。歪みなく。

それが自発的に謝っちゃうんだから……凄ぇな、佳也クン。つーか今までと比較にならない私の対応もとい愛。


怒ってないからさ、ンな顔されると何か困るよ。

自分で落としたくせにいつもの控えめな笑顔が見たいって、わがまま?


「かーやくん」

「……はい」

「後でちょっとだけ抜けよっか」

「………え?」

「前言撤回していい?」


“前言”をどう受け取るかはお好みで。


ちょっと血色がよくなったのを見て“単純だなぁ”とか思ったのは内緒にしといた方がいっかな。

腕に絡んでみればますます血色がよくなって、ほんのすこーし笑いそうになった。


「ちょっとぉ~! こっちが大変だったっていうのにイチャつかないでよぉ!」


……おっと。

ごめん若干頭から飛んでた。


「お前こそ何なのその体勢」


しっかり抱き着いて胸板堪能してんのわかってんだからんな?

つーかお前細マッチョ好きじゃなかったっけ。趣旨変え?


「ひどぉい! さっき怖かったんだからぁ! 健司くんが来てくれなかったら、私……っ!」

「だ、大丈夫っすよ! 智絵さんはオレが必ず守りますっ」

「健司くん……」


ど、毒されてる……!

しまった……ごめん健司クン、守るべきは君だったか!!

つーか智絵、お前ナンパ怖いとか思ってねぇだろ。100%思ってねぇだろ。本気出せばお手玉コロコロだろ。


「悪女って怖いねぇ、佳也クン」

「……、そっすね」

「…………何で今間があった?」

「気のせいっすよ、多分」


めちゃくちゃ目ぇ泳いでますが、斎木クン。まぁいいや。覚えてたら後で問い詰めよう。

それよりも初心に戻って、健司クンに聞きたいことがあります。

全てはここから始まった、っつったら大げさ過ぎけど。


「健司クン健司クン」

「あ、はい何すか?」

「それ何の血?」


「「「…………」」」


なにこれいじめ?

何で全員シカトなん。つーか水面下でアイコンタクト取ろうとすんじゃねぇよバレてるからな?

しょうがねぇな……ここは一番オトしやすそうな佳也クンか、それとも普通に喋りそうな智絵か……ん?


「…………鼻」

「っ! あの、そのっここここここれは……!!」


鼻の下に、赤い跡。

血がついてる右手に向かって斜めに引っ張られてるそれは明らかに血で。


…………まさか、ね。

どっかにぶつけたとかそういうんだと思いたい。

でも真っ赤な健司クンの顔と今にも笑い出す手前の智絵の顔を見れば何かもう事実が見えてきた気がする。

一応佳也クンを見ればそれはそれは気まずそうな感じで。


もう、確認なんかとんなくてもいいや。

“健司クンはとんでもなく純情なチェリー説”、ここで成立しました。


「……健司クン」

「は、はい……」

「オネーサンが色々慣れさせてあげよっか?」

「「はっ?!!」」


もうちょい色んなスキルないと智絵なんかと渡り合うのは無理だよ。

飲みながらとっくり教えてあげようか。あれ、未成年だっけか。


「やぁだ~マジでAVっぽい」

「あ? 調教モノとか教師モノとか? 違うし」

「教師! うける~“イケない放課後”とか? キャハハッ!」

「アレだろ、“上手にできるまでイカせてあげないわよ”とか言う感じの……」


「「ほんっと、勘弁してください……」」


間の取り方まで一緒。

さっきから仲いいね君ら。

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