表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SPELL NUMBER~強か女子大生と年下バンドマンの一年~  作者: 矢島 汐
第七章 マイティ・フッド
50/76

07 これが熱視線か

童心に帰るっつーか。


「やっぱもうちょいここ削った方がいいって」

「でもバランス的にこれくらいがベストだよ」

「ペットボトル空けたやつあったよー!」

「ナイス昭クン!」


砂浜に座り込んであーでもないこーでもないって論議してる女子大生二人。

手にはヘラとナイフ、前には八割方できつつある――砂の城。


ありなのか?いや、目の前にあるんだからありか。


「トンネルはやっぱ王道だろ。あ、この右の壁もうちょい削ろっか」

「そっちの塔危なくない? 昭くんありがと」

「あれ、泉サンこっち崩れそう」

「えっ」


朝荷物降ろした時、何であんなでかいバケツがあんのか謎だったけど……こういうことか。


やけにディディールに凝った砂の城作ってる三人は何かすげぇ楽しそうだ。

こういうのは一緒になって作るより見てる方が楽しい。

つーか個人的に真面目に砂の城作ってるミウさんが可愛過ぎてどうしようもねぇから見守ってたい。

子どもみてぇにはしゃいだりしてんのにギャップ感じて一層可愛く見える。いや、いつも可愛いけど。美人だしかっこいいし綺麗だし可愛いし、あーもう最高。三つも上の女がこんなに可愛いなんてどういうことだよ。


「かわいいなぁ~……」


観覧席になりつつあるシートに男二人。

俺と似たようなこと思ってる奴がいた。


「俺、女の子こんなにかわいいって思ったの初めてかも」


ぽろっと零れた本音にちょっと驚く。

色んな女に“可愛い”とか“綺麗”とか挨拶みてぇに言うこいつの言葉が少し重く感じた。


「……お前、マジなんだよな」


確認の意味が強い聞き方してんのが自分でもわかった。

俺の記憶が確かなら、こいつが好きになった女はいねぇ。

自分で好きになんなくても相手は腐るほどいたとかいう嫌味な立場だったし、本人もそれで特に不満もなかったはずだ。


何で、泉さんなんだ。

特に追求する気はなかったけど、やっぱ引っ掛かりはするわけで。


「うん、マジだよ~」


いつもみたいな答え方でも、それが冗談かそうじゃないかくらい簡単にわかるくらいの付き合いだ。

女でも勉強でも、普通の生活しててこいつが本気になることは滅多にない。大体何でも要領よくやるし大抵のことはさらっと切り抜ける。

珍しいこと過ぎて理由がわかんねぇ。冷たくされたいのか元からドM願望があったからか……


「お前爆発したかったのか」

「…………はぁ?」


だってあの一件で目覚めたじゃねぇか。

あれじゃなかったら何だってんだよ。


「確かにあの一言が引き金だけど、俺別に死にたいわけでも何でもないし~」

「別に自殺願望がねぇことくらいわかってる。けどお前それ以外で泉さんとちゃんと接触してねぇだろ」


大学で再会した時には既に“わりと本気”状態だったろうが。

どうやっても結びつかねぇんだよ。お前がただ惚れっぽいだけなら色んな女に本気になってたはずだし。


「恋に時間なんか関係ないって。佳也もそうだったじゃん」


そりゃあ……一目惚れとかってやつだったし。

時間もクソもねぇ、ほんとにただの一瞬で持ってかれた。


「いいよね。そういう風に周りが見えなくなるくらいの愛し方。うらやましい」


ンなこというくせに、何でそんな楽しそうなんだよテメェは。

話もしねぇ、近づきもしねぇ、ただ見てるだけのこの状況で。

まぁ近づいたら近づいたでまた後ずさりされんだろうけど。


「嫌われてんのに何で笑うんだよ」

「それが嬉しいからだよ」

「意味わかんねぇ。だったら嫌われたまんまでいいのか」

「それはまぁ……矛盾した感じで」


“複雑なんですよ、男心ってやつは”とか言うけど、それはお前が特殊なんであって、普通の男ってのはもうちょい単純なはずなんだけど。

見ろ、あの昭の何も考えてねぇ具合を。あんだけ水着姿の女、つーかミウさんと密着してて砂の城しか見てねぇ。クソうらやましい。

ノリで彼女作ったり行きずりでヤったりしてっけどそれ以外は女なんて意識してねぇよ、あれ。

…………あいつは単純過ぎだ。普通よかだいぶ。


「まだこのままでいいよ。見てるだけで楽しい」

「……熱でもあんのか」

「ないですぅ~!」

「キモい」


どんな考えがあんのか全然わかんねぇけど、別に一から十まで知ってどうする問題でもねぇ。好きにすりゃいい。


ただ、ここまで京介が本気だと――残念ながら、泉さんに逃げ場はねぇだろう。

本気になったモンは冷めねぇんだよこいつ。音楽がいい例だ。


「……頑張れ、泉さん」

「そこは俺に頑張れって言うべきじゃな~い?」

「お前は言わなくても勝手にやんだろ」

「さっすが~よくわかってらっしゃる」


「佳也く~ん京介く~ん! ティッシュとかもらえないかなぁ?」


お互い砂山付近に固定したままだった視線を上げて、声の先を追う。

小走りに寄ってきた智絵さんが珍しく困った顔で笑う。

この人と言いミウさんと言い、泳いでんのに何で化粧が落ちねぇんだ。

つーか何でティッシュ。健司と沖に泳ぎに行ったんじゃ……


「おかえりなさ~い。一緒に出てったガードはどうしたんですかぁ?」

「んん~健司くんが鼻血出ちゃってぇ、何か止まらなくて大惨事!みたいな」


…………健司。健司……!

どっかにぶつけたとかそういうんだよな?精神的なもんじゃねぇよな?!


「美雨みたいにエッチな体してないのにねぇ? 佳也くん」

「え、えーと……」


確かに智絵さんは全体的に細過ぎるくらい華奢な体型だけど。んでミウさんは確かにこう、凹凸が激しくてエロい体のラインしてるけど!

ここで頷いたら俺ただの変態じゃねぇか。内心全力で同意してっけど。つーか健司、マジでそういう理由で鼻血……?純情とかそんなレベルじゃねぇよそれ。


「まさかあそこまで純情ボーイだったとは予想外……ぼうやの調教は範疇外なのに。でもたまにはいっか」


ティッシュ受け取りながらぼそっと智絵さんが言った独り言がやけに低くて女の恐ろしさを感じた。

健司、このままだとお前やべぇかもしんねぇ……


女三人の会話聞いてる限りじゃ、智絵さんの好みは超ドSだ。

“女には優しく”の健司にはちょっとレベル高ぇ。もっとガツガツいかねぇと智絵さんに味見されてポイ、なんてことになったり……結構シャレになんねぇな。

もうちょいオス見せてけよ、健司。


フォローする言葉が思いつかない中、誰かのケータイが鳴る。よく聞けばロスエンの曲だ。


「あれ、みーうー! ケータイ~」

「名前呼ぶんじゃねぇよ馬鹿。音、何?」


名前呼び、やっぱ駄目なのか。

何か普通に呼んでるから俺も平気かと思ったんだけど……もうちょい我慢すっか。


「多分ロスエン、かなぁ」

「『はなび』ですよ、これ~」

「あ、じゃあ貸して。出る」


砂払いながらこっちに来るミウさんにケータイ渡して、入れ替わりで智絵さんが海の方に向かう。

図体のでけぇあいつが中々こっちに戻ってこないせいだ。どこまで格好悪ぃとこ見せてんだよ。鼻血のままでもいいからちゃんと戻って来い……つーか健司どこいんだ、マジで。


「もしもーし、何? ――え、海だよ。言わなかったっけ? ……あーはいはいすみませんでした学生で。はぁ?! ――何それ、じゃあ完璧向こうの独断じゃん。え?……意味わかんない。来月の予定でしょ――また別口?! やめてよほんっとさぁ! ……ハイ、調子乗りましたすみませんでしたお兄様」


…………健司の捜索よりも電話の内容が気になってしょうがねぇ。

何してんですか、ミウさん。しかも兄貴?どういう会話だ。


「どうしよ、入ってないと思ったから海来たのに……ミカさんとかじゃ駄目なの? ――何だってそんな気に入ってくれんのかなぁ……わかった。帰ったら詳細よろしく。じゃあ仕事頑張ってね」


俺も“仕事頑張ってね”とか言われてぇ……って、トぶな、俺。


何の話なんだか気になりつつも詮索はできねぇ。

午前の時点で結構自分でもうぜぇ男だと思ったのに、色々首突っ込んで更にうざがられんのは嫌だ。


「砂のお城、完成間近ですか~?」

「うん、あとトンネル開通の儀だけ。あー手ぇ結構汚いわ」

「作り終わったら泳いで来たらどうです~? 強ぉいガード貸し出しますんで」


……俺か。まぁお前よか全然強ぇけど……マジで最近鈍ってるし本気で鍛え直した方がいいかもしれねぇ。

なるべく手は出さねぇっつったけど、やっぱミウさんが絡まれてたら一発で相手仕留められるくらいじゃねぇと駄目だ。手より足で片付けられるように……正十郎と組手すんのが一番いいか。


「つーか京介クン全然泳いでなくね? 私、佳也クンと留守番しててもいいよ」


こいつ、体動かすのあんま好きじゃねぇんだよな。見た目の通りひ弱だし。

まぁ京介が普通で俺らの体力がありあまってるってのもあんのかもしんねぇけど。健司は図体に見合ったスタミナだし、昭はただの体力馬鹿だし、俺はだりぃけど無駄に鍛えた分の体力がある……そう思うとやっぱ京介が基準値なのか?

俺はミウさんといられんなら泳がなくても大いに結構だけど……


「大丈夫ですよ~この時間、一番暑いし……下手に動くと声かけられて大変なんで」

「嫌味でも何でもなく普通に聞こえるわ、それ」

「ふふっ……それに、目離してるのが勿体ないんです」


眩しそうに見てる先に何がいるのか確認しなくてもわかる。

お前、何青春映画みてぇなことしてんだよ。いつから純愛路線になった。いや、発言からしていつも発禁ものだけど。


意味わかんねぇけど、こいつが本気なのはミウさんにも伝わってるのか。


「これが熱視線か……」


妙に納得した感じに頷いて、ミウさんはそれ以上何も言わずに砂の城制作に戻ってく。


かなり鋭そうな泉さんが気づかねぇのは京介がわざとそうしてんのか、それとも泉さんが無意識にシャットアウトしてんのかはわかんねぇけど。


「俺、お前のことは特に心配してねぇ」

「え~一応形だけでも心配と応援ちょうだいよ」

「貰ってどうすんだ。お前よりやべぇのは……もうひとりいんだろ」


周り見渡してもやっぱそれらしき姿はねぇ。


健司。お前どこで何してんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ