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SPELL NUMBER~強か女子大生と年下バンドマンの一年~  作者: 矢島 汐
第七章 マイティ・フッド
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06 一応お膳立てはしたから

「『君 どうぞ心おきなく死に給うことあってください~』……はぁ」

「ロスエン?昼にそのチョイスはないよ、東」

「だって全年齢向けのド健全だったのに! 一気に発禁もの扱いだよ」


それもこれもあの無駄にフェロモンまき散らしてる男のせいだ。


くっそ、落ちてたと思ったらわがままになったり男になったりデレたりしやがって!心臓のスペアがほしいのは私だっつーの!

今更気付いたっつーかよくよく再確認したら顔といい声といい体といい性格といい……びっくりすることに理想と遜色ない男なんだよ、あんたはさ。だからもうちょい言動に注意してください。死ぬわ!


「あたしより心配してたんだよ、斎木くん」

「そりゃわかってるけどさぁ……つーか珍しく男の肩持つね、泉」

「何か応援してやりたくなるオーラが最近強いんだよね……」

「なにそれ。つーか泉、キラキラが激しい彼はだいじょ――」


ガンッ!


色々あって聞けなかったことを聞こうと思った瞬間、目の前にどでかい皿にこれでもかってほど盛られたやきそばが登場した。


「……アメちゃん」

「何? これ頼んでないよ」

「もう、オトナなんだなぁ……でも海はほんっと感染症とか怖いからやめた方がいいよ?」

「は?」

「カレシの方は今ちゃんと個別指導してっから。次からはこんなこと起こらねぇように」

「…………はぁ?!」


もしかして、さっきの昭クンの拡声器級の発言から派生してます……?

ちょ、それ大勘違いだから!つーか佳也クンは?!

今更席にいないことに気付く私も私だけどさ、ンなくだらねぇことでガキみたいに呼び出すあんたらもあんたらだよ!

捜しに行こうと席を立つ前に、ぶち抜きの入口からダークレッドの頭が…………って!!


「ぎゃー! ちょっとどういうこと?! 大丈夫佳也クン!」


椅子蹴っ倒して駆け寄って思わず半ムンク状態。

怪我してらっしゃるんだけど!しかも顔に!ちょこっとだけ唇切れてるよあああ!


「ほんっとごめん! 擁護するつもり全くないけど血の気多くて勢いすごくて頭少ないのがここの人たちの特徴なんです! あーもーマジでごめん……!」

「別にこれくらい平気っすよ。ちゃんと向こうもわかってくれたみてぇだし……あ、すんません、ミウさん」

「何? 佳也クンが謝ることなんてなんっにもないかんね? むしろ向こうに土下座して謝ってもらってもいいくらいだよ」


「そうじゃなくて……

すんません。やっぱ手ぇ出ちまいました。正当防衛ってことでも大丈夫っすか……?」

「……ウン、ダイジョウブダヨ。セイトウボウエイワルクナイ」


黙って殴られたわけじゃないんですね、やっぱ。


「何、何、佳也誰とやってきたん?! つーか何でおれ呼ばねーの?!」

「お前が参戦したら大乱闘間違いなしだからやめてね~」

「珍しいなぁ、佳也が血ぃ流すなんざ」

「……久々だったからかなり鈍ってた」

「正十郎ンとこ通えば~? ジム的な感じで」


だからこの子たちの高校時代って一体……!!

つーか誰も心配しないとかどういうことなわけよ。佳也クンそんな強いわけ?

智絵いわく、こう、“刺客”って感じらしいけど……私の精一杯のイメージじゃ秘孔ついて爆発とかしか浮かばないんだよ!あれ元々暗殺拳とかだったよね?


「おい、この小僧強ぇぞ! さっすがアメちゃんが選んだだけある」

「つーか俺らも歳食ったなぁ……体が反応しねぇわ」


ライフセーバーの中でも一、二を争うマッチョたちが楽しそうに佳也クンの肩を叩いて店に入ってくる。

腹筋にくっきりついた拳っぽい跡と色が変わってる顎が痛々しいけどそれを上回る陽気さで奥の席に座って。


「ヤスさーん、やっぱ違ぇらしいっすよ!」

「当たり前だろうが……ひょっとこ野郎ども」


厨房から呆れ顔で出てくるヤスさんに一言言いたい。


わかってたんだったら自分の舎弟の暴走くらい止めろよ!


「はぁ……」


何かすっげぇ疲れた。何このノリだけで生きてるおっさんたち。勢いだらけの私を疲れさせるなんてツワモノ過ぎる。

お父さんどうやってこっから今の感じに進化できたの……

つーかこれって佳也クン確実に殴られ損。


「うちの知り合いがマジですみませんでした……」

「ほんと大丈夫っすよこんくらい。それにミウさんが大事にされてて嬉しかったんで」


それでいいのか斎木佳也。心広過ぎないかあんた。


「……後でちょいちょい手当てするから…とりあえず、食べようか」

「そっすね。久々に動いて腹減りましたし」

「…………」


それって泳いだからだよね?そうだよね、っつーかそう思わせて。


今度こそ全員揃ったテーブルにおっさんたちがさっきのお詫びと言わんばかりに無差別オーダーをしてくる。

大皿がどんどん運ばれて、どう考えても食えない量の……


「うっめー!! 焼きそばうめーよ東サン!」

「そう……よかったねぇ」

「……真面目にどこに入ってるのあれ」

「田宮の贅沢お肉も食べてくれないかなぁ」

「肉ねぇし何か卑猥に聞こえっからやめろ?」

「だったら健司くんにお願いしようかなぁ~」

「「何をだ」」


午前中は自分のことで手いっぱいだったけど、午後からなら君らの動きを観察する余裕ができそうですよ。


元々遊びながら京介クンの手腕と智絵の網を見るのがメインの目的だったんだよ、この海。

あと泉の水着姿とかマッチョ二人組の肉体美とかマイティ・フッドも面々に会ったりとか。

まさか自分が一番面倒事に巻き込まれるなんて思わなかったしさぁ……ほんと、皆さんにはご迷惑をおかけしました。確かに周りから見たら無謀な上に軽率でした。


「智絵、智絵」

「ん~?」

「今回の巣はうまく張れてますか」


ポテトを振りながら一応そこから聞いてみる。

気づいたら何かすげぇ距離が近くなってるとかは智絵にはよくあることだ。


「そうだなぁ~上々って言えば上々なんだけどぉ。常に引き気味っていうかぁ」

「…………お前がギラギラしてんのバレてんじゃねぇの」

「夏の海でギラギラしないなんて女じゃないも~ん」

「……泉?」

「あたしは解脱の域だから」


問題だらけじゃねぇかよ。


基本的に智絵は人との距離が近いしボディタッチも多い。まぁ気分による感じも多々あるけど。

健司クンは明らかに女慣れしてないかんなー……意識すると駄目駄目っぽい。


それよりどうしょうもないのは京介クンと泉だ。

どうすんだ京介クン。だんだん私ですら心配になってきたよ。


…………何か、こう、無性に男衆を応援したくなるのは何でだろうか。

私の友達、厄介過ぎませんかー……?


「お前ら強敵過ぎんよ……」

「それ、斎木くんだって思ってたはずだよ」

「東のスルー具合ったらなかったもんねぇ」

「今もだけどね」

「えー私一番低い砦だと思うんだけど」

「どこが」


「アメ、股おっぴろげてメシ食ってんじゃねぇ」


野菜炒めをテーブルに置きながらヤスさんが心底呆れた感じで私を見る。

おお、いつもの調子で座ってたよ。失礼しました。


「ヤスさんカキ氷食べたいよー」

「まだ料理残ってんだろうが。残すんじゃねぇよ」

「食べきれないってーの」

「おめぇの連れはまだ食い足りんねぇみてぇだなぁ」


「おっちゃんそれこっちちょーだい!」

「あーもう食い散らかすなよ昭」

「つーか自分で取れ」

「焼きそばおいしいね~」


君らいつまで成長期なの。つーかやっぱおかしいって、明らかに食い過ぎだろ昭クン。何か見るだけで腹いっぱいなんですけど。

ヤスさんもういいから厨房戻んないでいいから。

とか思ってもここばっかに構ってらんないヤスさんは普通に帰って行って、代わりにまた大皿が届けられる。

忙しいならそんな思いっきりサービスしなくていいよ。つーかこれで代金請求されたら私いくらなんでも怒るけどその辺は大丈夫っすか。


「アメちゃん、後でちゃーんとスペシャル馬鹿盛りカキ氷用意すっからさ!」

「いや、馬鹿みたいに盛らなくていいから」


「……東さん、何で“アメ”なんすか?」


一旦箸置いた健司クンがすんごい今更なことを聞いてくる。

つーかこんだけ呼ばれてて誰もツッコまなかったのも謎だけど。あ、でも名前知ってりゃわかるか。

前に泉が絶叫したし、今日も電話口で呼んでたし……私の名前は知られてるって思ってもいいだろう。せっかく隠してたのに。


「私の名前、美しい雨って書くんだよ。だから」

「へぇ……綺麗な名前っすね」

「…………健司?」


他意はない、んだろうけど……ふっつーに照れるんですが!


佳也クンが超低音で釘をさせば、あわあわしながら訂正っつーかフォローっつーかそんなんをしようとする。

でも佳也クン、別に口説いてるわけじゃないんだからこれくらい許そうよ。今日は過敏になってるだけですか?


「……美雨、逆ハーレムは駄目だからね?」

「マジ顔で言わなくてもありませんから田宮サン」


佳也クンだけで心臓も体も手一杯だっつぅの。

純情ボーイはお前に任せるよ。心に傷負わせない程度にしてくれ。つーか健司クンって結局童貞なのか。


「……健司クン、昼食い終わったら沖まで智絵連れてってやってよ。こいつあんま泳げないからさ」

「えっ?! あ、あのっ」

「行く行く~っ! いいかなぁ? 健司くん」

「ああ、あー、えーと、はっ、はい!」


よし。一応お膳立てはしたから頑張れ。

……今どっちに対して“頑張れ”って思ったんだ、私。


そりゃ智絵には幸せになってほしいよ?

でもこいつ、変なのしか好きになんないんだよね。普通の“いい人”は好きになれない、つまんないから。

私も相当だけど智絵もかなり歪んでる。だから正直、健司クンじゃちょっと無理だと思う。健司クンが私の思った以上に“いい男”だったらまた話は別だけど。

普通の恋愛じゃ満足できない奴だかんなぁ。元々私と逆で愛されるより愛したい派だし、愛されるにしても“所有する勢いで愛してくれなきゃ愛なんていらない”とか名言残してるし。すごい女だよ、お前。


「お前、面倒臭ぇよな」

「何を今更~」


いや、全っ然、褒めてねぇんですけど。


「……アズマさん」

「はい?」

「…………脚」


二つ飛ばした向かいの席から注意が飛んでくる。

片膝立てて普通にオープンに座ってました。もう癖だな、これ。


「あはは、お見苦しいとこをお見せしまして」

「…………はぁ」


ちょ、そんなでっかいため息つかなくても。

見苦しかったのしまったから許してよ。


「斎木くん、頑張れ」

「“自分は役目終えた”みてぇな顔しないでもらえますか……」

「何それ私のお守り役?」


顔見合わせて、絶妙に微妙な顔をされる。

あんたら何でそんな仲良くなってんの。つーか佳也クンだって美形なのに何で平気なんだ。キラキラ度の違いか?


「教育的機能を備えたついたて?」

「喋る自動ハエ叩きみてぇな」

「ふふっ……すっかりナイトさまだね~佳也」


何のことですか。抽象的表現はやめましょう……って自分も相当感覚で喋ってるけど。


「美雨、美雨、私ちょっと発見しちゃったんだけどぉ」

「何。つーか名前……」


もう今更だけどさ……全員にバレたし、もう何かいっかなって感じだし。

でもせめて不特定多数がいる場所ではやめろよ。


何か興奮してる智絵は私の微妙な諦めにも気づかないで、腕を掴んで内緒話の体勢を作る。


「京介くん、マジじゃない?」

「へ?」

「泉に。たまーに視線の感じが違うんだよねぇ」


…………私、お前にその話したっけ……?京介クンが“わりと本気”とかっての。


「……メス的勘とかで察知したんですか」

「違う違う~普通に観察してただけ。不用意に話しかけたりしないのに一瞬だけ熱視線なの。多分泉も気づいてないと思うけどぉ」

「普通の観察レベルじゃねぇよ、それ」


京介クン隠すのうまそうだし、泉だって結構鋭いし……何でそこでお前が気づくかな。恐ろしい女だ。

でも熱視線かー……私が観察してても気づかなそうだけど午後から見てみっかな。


何でほとんど接点のない京介クンが泉のこと好きになったのか、正直全然わからない。

翠星館の時から?だったら智絵が気づいてたはずなのに。

“ヒミツ”とかって流されたけど、マジなとこは?何で何ともなかった状態から熱視線になるんだ。


「わっかんないなぁ……」

「アメちゃんとお友達とちびっこどもー! おっさんたちから最後のサービス品だオラ!!」


でてきたカキ氷にイチゴと練乳がたっぷりかかってんのを見て、考えるのをやめた。


あんま首つっこんでかき回す問題でもないな、多分。

緊急事態以外は見守る感じでいこう。


午後は平和に終われますように。

どうでもいい話ですが、今回のサブタイを「焼きそばうめーよ」にしようと思ったんですけど前話との落差が酷かったので泣く泣く変更しました。

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