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SPELL NUMBER~強か女子大生と年下バンドマンの一年~  作者: 矢島 汐
第七章 マイティ・フッド
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04 何その怖いボランティア

「どっから来たのー?」

「かっわいいよねー」

「何か雑誌出てたりしない? 見たことある気ぃすんだよねー」


うっぜ。


「私たち男連れなんだけどぉ」

「……つーかカレシだし」


ジャンケン二回戦目で私と智絵が荷物番になって、女二人は危ないと言われつつもジャンケン神のおぼしめしに従って皆が出払ったと同時にわいてきた隣の諸君。

副業・ホストみたいな、泳ぐにしてはだいぶ髪盛ったチャラ男……明らかにこりゃ智絵狙いだ。私はおまけか。

つーか三人で一人ナンパするとか何事。タイマンでいきなさいタイマンで。


波打ち際をちらっと見てみると、目立つ白金頭がしゃがんで何かしてて、そこにおだんご頭も一緒になってる。あれ絶対砂で何か作ってる。もしくは貝拾ってる……後で混ざろう。

顔までははっきり見えないけど、その近くで女の子と話してんのは京介クンだ。さっそく逆ナンか。まぁあんだけ美形ならわかるけど、泉の近くでそれは痛い。さらに遠ざかる。

美形が苦手で嫌いなだけで、京介クン自体はよくわかんないけど……軽い男は嫌いだかんなぁ、泉。こりゃ難しいわ。

健司クンと佳也クンはーいないな。泳いでんのか?佳也クンさっきだるそう海入ってったけど……まぁ武術やってたくらいだから体動かすのは好きなのか。


「そっちのおねーさん、もしかしてエロビ出てない?」


ちょうど観察が終わって何となく意識が戻ってきた瞬間、めちゃくちゃ聞き捨てならない爆弾を落とされる。


エロビ?AV?

……出てるわけねぇだろうが何を根拠に言ってやがるこのウスラボケ!!


「出てません」

「えーでも医療モノでソックリな女優見たんだけどなー」


にやにや笑って、私がAV女優だって決めつけてるみたいに詰め寄ってくる。

どうせ“彼氏にバレたくないっしょ?一発ヤらせてよ”みたいなノリなんだろうけどさ。

オネーサン、初対面の人にここまで失礼なこと言われたのはじめてだよ?かなーり、イラっときましたよ?


「智絵、向こう行ってな。誰も呼ばなくていいから」

「え。大丈夫なの……?」

「大丈夫。一応考えはあるから。ほら行った行った。

んで、君らは私と遊びたいわけ?」


ちょっとくらい痛い目見りゃあ今度から女の子にンな不快なこと言わねぇだろ。

佳也クン呼んだら確実に救急車行きだし、さっさか片付けましょうか。


「遊びたいっつーか~まぁ一時間くらい付き合ってくれれば」

「こんなとこで女優さんに会えるなんて思ってなかったしー」

「できればさっきのおねーさんも一緒が良かったけどーおねーさんが頑張ってくれりゃあいいし」

「じゃあその前におごってよ。そこの海の家でいいからさ」


あーうっぜぇうっぜぇ。

でもこいつらがさっさといなくなってくれりゃ、あと半日以上平和に過ごせるわけだ。

かわいい泉ちゃんとまぁかわいい智絵ちゃんのためにちょっとだけ頑張りますよ。チャラ男が思ってんのとは違う方向だけど。


智絵が向こうに言わないうちにさっさと立ち上がって先に歩き出す。

まぁ誰かすぐ戻ってくるだろうし、荷物番は大丈夫だろう……多分。


「やっすいねーおねーさん、いつもいくら貰ってんのー?」

「ご想像にお任せします」

「んな急がなくてもさぁ、ゆっくりやりゃーいーじゃん」


急いでんのはね、あんたらに体触られたくないし何より殴りたいのを抑えてっからだよ!

こんなとこで傷害罪とか勘弁だからね。でも事情話したらこの浜にいる人ほとんどが私の味方してくれると思うけど。


向かう先はありがちな古い海の家……じゃなくてやたらとファンキーな落書きだらけの海の家、『マイティ・フッド』

四年振りだけど、覚えてるよね?

だって三歳の頃から毎年毎年何回も来てたんだし、結構仲いいし、何より――ボスがお父さんの悪友だし。


入ってそこそこ賑わってる中で見覚えのある人を何人か見かける。

店員にこの辺のライフセーバーさん。うん、味方は結構いらっしゃる。


「すみませーん、おにーさんコーラひとつ」

「はいよー……って!」


覚えてた。やっぱ数年で忘れるわけなかったか。


「ヤスさんヤスさーん! アメちゃんっすよ! ダイチさんンとこの!」

「おぉ! おっきくなったなぁ!」

「年々母さんに似てきてんじゃねぇか! なぁ?」


懐かしいおっさんたちがわらわら出てくる。

気はいい人たちなんだけど……何せ皆海の男だから日焼けしてるしムキムキだし目つき悪い。正直強面ばっか。

その中でも一際威圧感のある、スキンヘッドの大男が厨房からぬぅっと出てくれば、もう後ろのチャラ男たちはわかるだろう。“失敗した”って。


「何だぁ、アメ。おめぇ……ンなちゃらちゃらした奴と付き合ってんのか」


小さい頃はこの顔が怖くて泣いたもんだ。つーか今でも怖いよ。昔やんちゃしてたのが丸わかりだよ。

この人見るとお父さんがどんだけ丸くなったのかがわかる。昔の写真この人と張るし。


「違う違う。何か脅されてマワされそうになってるから助け求めに来たの」

「……ぁあ゛?」

「ひぃ!」

「ちょ、話が……」


私あんたらとヤるなんて一言も言ってないし。


逃げ出そうとしたチャラ男たちの前に立ちふさがる筋骨隆々のおっさんたち。

いや……勝負あり過ぎだろ。


「最近の若ぇのは駄目だな。こんっなおかしな頭に紙っぺらみてぇな体してよぉ」

「おれらの青春のマドンナの面影を汚そうたぁいい度胸じゃねぇか、小僧ども」


マドンナって……死語だよおっさんたち。


そのままふん捕まえられて店から出ていくチャラ男とおっさんを見送る。はぁ、一件落着。


「えげつなさは大地譲りか、アメ」

「お兄ちゃんのがもっとえげつないよ。私はまだマシな方」

「ユキか……あいつはツラも中身も大地寄りだからなぁ。それに比べて、おめぇは変なとこばっか美春に似やがって……」

「えー私もどっちかっつったら結構お父さん寄りな気がするけど」

「笑うと美春によく似てるぜ、おめぇは……何か食ってくか」

「いや、昼頃にまた来るよ。今日友達とカレシと来たから見せんね」


「…………ぁあ゛?」


若かりし頃にお母さんを巡ってお父さんとガチでバトった大親友……いや、大悪友。

やたら私を可愛がってくれるヤスさんは、正直親より私のカレシに対して過敏なことが多い。

ちなみに前の前の前のカレシはこのおっさんの威圧感に負けて別れました。頑固親父かっての。


「その彼氏ってぇのはよ、おめぇがこんなことになってんのに何やってんだ? あ?」

「あの人に助け求めたら間違いなく救急車出動するから。ついでに友達も出てきて大乱闘だから」

「ほぉ……」


どことなく嬉しそうなのは何でですかね、ヤスさん。

武術やってたとか言っても実際には見てないけどさ、でも何となくわかるんだよ。智絵からもちらっと聞いたし。

佳也クンはやると言ったら本気でやる。そんな感じがする。

せっかく遊びに来てバイオレンスなのは……って連れて行かれたチャラ男たちはすでにバイオレンスな目にあってんだろうけど。まぁちょっと脅すくらいだろ……多分。


「前より骨のあるガキだといいがな」

「あれよか全然ガッツあるよ。そろそろ行くわ。捜してたら悪い、し……」


開けっ放しっつーかぶち抜いてある入口から勢いよく背の高い人が飛び込んでくる。

…………おっと、お迎えですかー……?


「っミウさん! 大丈夫っすか?! 何かされてたりしないっすか?!」


詰め寄ってきて肩掴まれてあちこち点検される。

あーあ、心配させちゃったよ。智絵、どうやって話したの。


「大丈夫、五体満足だからちょっと落ち着いて」

「……あのゴミ虫ども、マジで何本か折りましょうか?」


ちょ、泉いわく“人殺しの目”ってもんが一瞬見えたんですけど。


「ぶぁっはっはっ! すげぇ剣幕だなぁオイ。愛されてんじゃねぇか、アメ」

「だよねぇ」

「……お知り合いですか?」


今やっと気づいたって感じに佳也クンがヤスさんを見る。

何でこんだけ存在感ある人が視界に入ってないの。どんだけ必死……ってそうさせてんのは私か。


「ここのオーナーで、うちのお父さんの大親友。ヤスさん、こっち私のカレシ」

「あ、どうも、お世話になってます……?」

「世話なんか大してしてねぇよ。

おい、ぼうず、あんまこいつから目ぇ離すんじゃねぇぞ。母親に似てふらっふらしてっからなぁ」

「はい、すんません」

「えー私もうちびっこじゃないんだからさぁ」

「だからまた違う角度から危険なんすよ……」


は?何それ。

聞く前にヤスさんが笑い始めて更に意味不明になる。


「ぼうず、おめぇ苦労すんぞ」

「それも慣れっつーか……楽しいからいいんです」

「ぶぁっはっはっ!」


私抜きで会話すんのやめてもらえますかー……つーかヤスさんがこんな大爆笑すんの珍しい。

そんな佳也クンのこと気に入ったのか?この会話で?どこを?わっかんないなぁ。男の世界ってやつ?


笑い声に大音量の音楽が混じる。あ、何か聞いたことあるこの曲。


「ちょっとすんません。はい――」

『ちょっと斎木くんあんたどこいるの?! つーかあんたより美雨は?!! 見つかったのどうなの!!』


泉さん、電話通してんのに丸聞こえっすよ。

つーかやっぱ捜されてる。ごめん皆、私わりと無事。


佳也クンが急いで受話音量下げまくってあわあわ報告する。


「すんませんちゃんと見つかりました! ――はい、大丈夫っす! いやそのそれは見つかんな……え?」


思いっきり眉をひそめてからちょっとケータイを離して。


「ミウさん、何か……隣にいた奴らのシートとか荷物とかがライフセーバーみてぇなマッチョたちに一切合財持ってかれたそうなんすけど……マジで何かありました?」


……あれ?


「ヤスさん?」

「俺は何も言ってねぇだろ。あいつらのボランティアだ」


何その怖いボランティア!ボランティアすんならその辺のゴミでも拾いなよ!


「はい――の、方がよかったっすね。昭、仲間内に何かされっとマジ容赦ないんで……いや、ミウさんさえよけりゃ俺は追いませんし――はい、そっすね」


久々にきた、名ゼリフ。でも言葉の端々が怖いよ佳也クン。


私の周りはどうしてこうもバイオレンスな感じなんだろう。

お父さんと言い、お兄ちゃん――はバイオレンスよりもサスペンス寄りだけど、佳也クンたちもそこはかとなくやんちゃしてた臭がするし、自分の男友達もそんなんが結構いる。

まぁ平和過ぎるより波乱万丈な方が面白いけどさ。


店内にいる普通のお客さんたちに若干遠巻きに見られながら、私は後払いでコーラを頼んだ。

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