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SPELL NUMBER~強か女子大生と年下バンドマンの一年~  作者: 矢島 汐
第七章 マイティ・フッド
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03 理性vs本能・絶賛戦争中

「やだ。帰る」

「はっ……帰さねぇよ」

「何そのセリフ! 田宮にも言って! 浴びせて!」

「キモい」


シート倒せばかなり広い車内で、女性陣着替え中です。着替えっつっても下に着てるからただ脱ぐだけだけど。

向こうでそのまますぽーんって脱いでもいいけど何か危ない感じがして。京介クンとか、健司クンとか。


「いずみーお前ほんっとかわいいよー」

「あたしが喜ぶとお思いですか」

「でもかわいいし。引きずり回して選んだかいあったわ」


パステルカラーのスカート付きチューブトップビキニ。ちょっと甘過ぎかなーとか思ったけど、ありだ。大有り。


「私のもかぁいいでしょ~?」

「あーはいはいかわいいかわいい。つーか試着ン時嫌ってほど見た」


どこもかしこも華奢な智絵には合う、花柄のビキニ。もうモロ女子大生って感じ。

アクセなんかもつけちゃってどこの読モですかあんた。まぁ私もつけてっけどさ。あんま泳ぐ気ないし。


「美雨はかわいくないねぇ」

「つーか性的」

「……もうちょい別の言葉使って表現してくれませんか、泉サン」

「でもポロリしそうだよぉ?」

「しねぇよ」


普通のホルターネックのビキニだろうが。下のサイドと谷間がリングになってるだけで。

よくあるよこういうの。つーか普通の水着のコーナーに普通にあったんだから普通だ。


「また胸おっきくなったんじゃないのぉ?」

「……1サイズ変わった」

「あー……」

「彼が頑張ったのねぇ」


なるほど、みたいな顔しないで泉。んで深読みすんな智絵。違ぇから……多分。


「だんだん乳が重くなってく……」

「それがあたしの苦しみだよ」

「そのお言葉も重いっす」

「私にくれればいいのにぃ」

「お前貧乳だもんなぁ」


今時モテ女的な細々華奢体型の智絵と、マニア受けしそうな巨乳むっちり体型の泉。正反対過ぎる。

そこに私が加わって更にまとまりがなくなる、と。


「失礼な! Bはあるもん」

「泉と比べたら平地と山地だろ」

「言わないで。美雨――ん?」


泉がふっと見た方の窓に影がかかる。

スモークで向こうからは見えないけどこっちからは結構見えんだよねぇ。

結構車止まってたのによくわかった……って当たり前か。この車目立つし。


「お迎え頼んだっけぇ?」

「いや? 何かあったのかもしんないし。二人トランクの方から出てね」

「はいよ」


一番肌隠れてんのにきっちりカーデ着る泉は本能で危険を察知してるのかもしれない。まぁ私も後で一応パーカーくらい羽織るけど。


座席またいでエンジン切って、鏡で軽く化粧チェックしてからドアを開ける。

まだ朝って言ってもいいくらいの時間なのにやたら暑くてちょっと出る気が失せるけどそこは根性で。つーか出ないと来た意味ないし。


「――ん~私は別にいいけどぉ」

「ていうかそんな気にしなくてもいいんじゃない? 今更動かすの面倒だろうし」


「何が?」


やっぱ何か問題発生かー……って。


「えーと、佳也クン?」

「…………」


脱いだらすごいの代名詞みたいに絞ってある体が目の前に無言で立ちはだかる。

後ろには格闘家みたいなボディもちらちらみえます、が……


「ほら、だから言ったのに。性的だって」

「健司くん? 顔、赤いよぉ?」

「いっ、いや、これは、暑くてっ」


何、そんなやべぇの私。乳ポロリしそうなわけ?

水着引っ張って確認しても危なそうな感じはないし、何回かジャンプしてみても揺れるだけで出てきそうなようには見えない。

何がまずいってーの?


「大丈夫だって。動作確認済み」

「パソコンか。ていうか何で今それやったの……」

「お前らが言っ「すんません先行っててもらえますか」……は?」


「はいはぁい。最後までしちゃだめだよ、青少年っ」

「さっ?!」

「いちいち気にしてたら前に進めないよ、健司くん」


健司くんハーレムだなーとか予想通りのマッチョだったなーとか思ってる暇もなく、閉めたばっかの運転席に引きずり込まれる。

えーと、これはあれですか。


「……ムラムラしちゃった?」

「わかってんなら無防備に誘うようなことしないでください」


冗談のつもりだったのにやけに真面目な顔で返される。

ああ、何か今日“やらかした”って感じのが多い。

でも誘ってなんかいませんよ。私は普通に通常運行です。多分。


「何でよりによって黒なんすか……」

「私よく着てんじゃん。つーか黒は女を美しくみせてくれるんですよ?」

「ンなことしねぇでも十分綺麗っす」


……馬鹿か。変なこと言うなっつーの。ンなギラギラした目でさ。何か引っ張られんだろうが。


「佳也クンこういうの嫌い?」

「好きとかはよくわかんねぇっすけど……ミウさんに似合い過ぎてて困ってます」

「智絵みたいな形の着たかったんだけどねー完璧ポロリすっからやめた」

「……マジでこれでよかったっす」

「でしょ?」


シートに沈められて覆いかぶさるギリギリでの会話。

別に苦しくないからいいけど、このままおっぱじめんのは勘弁。親の車でヤるとか有り得ないし、その前にンなことするために来たんじゃない。


「ミウさん、三ヶ所だけ、痕つけていっすか?」

「えー? いいけど普通に泳ぐよ私」


それ何のためよ。

キスマークくらいで恥ずかしがって隠す東さんじゃありませんよ?

つーか何で数指定なんだ。今日のラッキーナンバーとか?


「隣のスペースに陣取った奴らが見るからにナンパ目的だったんで。虫よけとか除草剤代わりにしてください」

「は?! だったら泉につけなきゃ駄目だろ!」


「………………俺が、つけるんすか?」

「あ、ごめん」


そりゃ無理だよね。

京介クンに頼むなんて恐ろしいことできないわ。ひとりにしないように注意しなきゃ。


左胸の、ギリギリ隠れないくらいの位置に“虫よけとか除草剤代わり”がくっつく。

言われるままに後ろ向いて、背中もぎりぎりの場所に。

それと……


「え。そこ?」

「絶対ここっす」

「マニアックー……」

「……何とでも言ってください」


ちょっと強気なのはさっきの車内の痛い失言のせいだろう。うん、絶対そうだ。


嫉妬する男は面倒臭い。女を所有してるみたいに勘違いする男も大嫌い。

そう思って色んな男と別れたのは、ただ単に私の気持ちが足りなかったせいなのかもしれない。

だって、今全然嫌とか思わないし。むしろ何か、楽しいとか嬉しいとか?そんな感じ。

縛られたくはないけど、縛ろうとしてるのを見るのが楽しいっつーか。

まぁ所有してるなんて佳也クンは思ってないだろうけどさ。キスマークって“俺のもん”って言ってるようなもんでしょ。


「変なのが寄ってきたら正拳突きでやっちゃってよ。私はないだろうけどあの二人は危ないから」

「何で自分だけ除外なんすか……マジでやっていいなら骨何本か折れますよ」

「……海難事故以外で救急車呼ぶのはやめよう?」


本気でやりそうな目ぇしてたのを見て、泉の怖い情報の信憑性が高まったことは言うまでもない。




× × ×




――失敗した。

絶っ対、失敗した。


「見てんじゃねぇよクソが……」

「見たくなる気持ちもわかるでしょ~?」

「テメェも見んじゃねぇ」

「俺見てんの泉さんのお尻だも~ん」

「まず死ね」


普通に許可してくれたキスマークは宣言通り三つ。

前から見た時に見える位置にひとつと、後ろから見てすぐ視界に入る位置にひとつ。

それと座ってたり寝そべってたりする奴の視線が行く、太ももの際どいところにもうひとつ。


一応考えてつけたし、実際計算ジャストだ。

けど、どうしようもねぇ問題点があった。


「あのスタイルでデフォルトのエロさに加えてあの位置にキスマークだよ? もう三度見だよね~彼氏いるだろうけど目の保養っていうか~」

「……三度も見たのかテメェ」


「こうやって見ると東さん脚長くて本気でモデル体型だよねぇ若干エロいけど~智絵さんも健司が守りたいっていうのわかる華奢さだし、何か突っ込んだら壊れちゃいそうだよねぇ~……あーでもかわいさだったらダントツ泉さんだねぇ! 見てよあれ、あんなはしゃいじゃってさぁ、俺が近づいたらすんごい苦い顔すんだよ?いいよねぇ……何かもう全体的にごちそう様って感じ。うちのオネーサマ方、ほんと素敵~」


「お前が変態なのはわかったから黙れ」


コメントがいちいち下衆なんだよお前。

つーかやっぱあの三人、レベル高ぇよな。通りかかった男が見るのもわかる。


観察してて気づいた。

まず一番一般受けしそうな智絵さんが見られて、次から反応が分かれる。

顔見てる奴は全員見た後にもっかい智絵さんを見る。“今時の綺麗な女”って感じだし、言い方アレだけど一番ナンパしやすそうだ。

胸好きな奴はミウさん、泉さんの順で見て、そのまま視線が固定される。まぁ普通にでけぇし……顔とのギャップもあるからだろうな。

んで、尻とか脚が好きな奴はもうあからさまに視線がミウさん狙いだ。うぜぇ。


彼氏の欲目でも何でもねぇ、ミウさんは美人だしスタイルいい。

顔小せぇし出るとこ出てて締まるとこ締まってる。確かに京介の言うとおりエロい体してんだよ。

顔も胸もくびれも何かもう色々やべぇけどやっぱ腰とか脚は最強にエロくて綺麗だ。正直男が見んのも当たり前っつーか。


だからみっともなく“虫よけ”とか言って主張したのに。何か、普通にエロさが増しただけだった。

目ざとい男が見つけて凝視する度に走ってって殴りたくなる。すげぇ心狭ぇ、俺。

つーかキスマークつけても堂々と普通にしてるミウさんが男らし過ぎる。もうさすがって言うしかねぇ。


「それよりさぁ……初っ端から荷物番なんてないよねぇ~」

「……しかもお前とだし」

「俺だって嫌だよ~せっかく海に来たのにラブアクシデントのひとつやふたつあったって……あれ?」


“あんま泳ぐ気ない”とか言ってたのに泉さんに引っ張られて楽しそうに波に向かっていったミウさんが、何でか戻ってくる。今度は智絵さんに引っ張られて。

つーか昭以外全員戻ってきて……何でだ。まだ荷物番してから十五分も経ってねぇけど。


「有り得な~い! 何で忘れるのぉ?!」

「一部だけだってーの! お前だって忘れてんだろうが。つーか泉! お前が一番やばい! 紫外線ナメてんだろ……」

「だって面倒だし」

「シミシワの元!! ここで踏ん張っとかないと後でひどい目合うかんね?!」


だんだん聞こえてきた声で何となく状況を把握できた。

そういや車から来て荷物置いてジャンケンしてすぐ海出てったよな。


京介の妄想にあった“日焼け止め塗り合いっこ”が浮かんだ。あいつの妄想、非現実的なようで妙にリアルなのが気持ち悪ぃ。


「もーあっついしべったべただし海から塩分消えればいい!」

「ははっ、そりゃ無理っすよ東さん。まぁ沖までちょっと泳げば涼しくなりますって。浮き輪に乗ってりゃ連れてきますよ?」

「え、マジ?! さすが逞し系!」


…………健司?誘う相手が違ぇんじゃねぇか……?


「佳也、他意はないんだよ」

「ンなのわかってる」


みっともなく割って入ったりしねぇよ。ちょっと目がきつくなるだけだ。無意識だから許せ。

今だって多分何か変なの寄らねぇようについてきたんだろう。

お前が気遣いの男なのはわかんだけど、今日の目標は智絵さんと話することだろ。遠目で見てっけどうまくいってねぇよな。

何でそこで東さん誘うんだよ。全体的に声かけりゃ絶対智絵さんノってきただろ。


「ごめん佳也クン、タオルちょうだい」

「……は、い」


前髪かき上げながらミウさんが軽くかがむと、動作につられて揺れた胸と、水滴が落ちていく太ももの外側の綺麗なカーブが目に入る。

うわ……すっげぇいいアングル。何つぅ眼福……って変態か俺は。

つーか水に濡れてる姿って何でこうもエロく感じんだ。また色気割増されてんだけど。


「あ、ついでに塗ってもらってもいい? 日焼け止め」

「え」

「うそうそ。荷物番してるから泳いできていいよ。泉にでも「塗ります」そう?」


隣で京介が背中つねってくるけどンなの関係ねぇ。降って沸いたチャンスだ。逃す手はねぇ。つーか絶対逃せねぇ。


「泉体拭け。塗ったくるから」

「自然の摂理に任せようよ」

「人類の力なめんな。ちょっとは逆らえ」

「めんど……」


ほんっと顔に似合わず男らしいよな、この人。

ある意味感動してる俺にチューブ状の日焼け止めが手渡される。


「アズマさん、どこ塗ればいっすか?」

「とりあえず背中。手ぇ届かなそうなとこは多分塗り忘れてるから。パーカー貸して」


めんどくせぇから着てたパーカーをそのまま渡すとミウさんはそれを胸の前で持って。

普通に、背中にある後ろの留め具を外した。


え。ちょ……ぇえ?!


「手早くムラなくお願いしまーす」

「…………京介向こうむいてろっつーかどっか行ってろ」

「はいはい(佳也も大変だねぇ)」


ぼそっと囁かれた言葉に全力で同意してぇ。


何でこの人は異様に警戒心がねぇんだ!普通に他の男だっているし、横のナンパ目的なチャラい奴らもこっち見てんだろうが!

つーかそういうことすんならまず前もって言え!いやムラなく塗りてぇならそうすんのはわかんだけど、わかんだけど……っ!


「斎木くん、あたしやろうか……?」

「大丈夫、っす……ありがとうございます」


何か同情されてるっつーか。多分泉さんも俺と同じ気持ちを何度も味わってんだろうな……目が生暖けぇ。


「健司くぅん、これ塗ってくれないかなぁ?」

「どぅえ?! いうあ、ちょ、そそそっそれは、ちょっと!」


「……東、ぶっ叩いてもいいかなあれ」

「脳天に一発どうぞ」


わざとやる悪女と、素でやる悪女。


「どっちもたち悪ぃ……」

「ん、何か言った?」

「あんま動かないでください」


結局先に惚れた方が負けだ。


健司、悪ぃけどお前のフォローに回る余裕ねぇ。

こっちは自分のつけたキスマーク見ねぇようにすべすべの肌触って……理性vs本能・絶賛戦争中だ。

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