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SPELL NUMBER~強か女子大生と年下バンドマンの一年~  作者: 矢島 汐
第七章 マイティ・フッド
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02 平和に終われるかな、今日

何だかやたらとお下品注意。

「いーずみ、チョコ」

「はいはい」


「お茶ー」

「どーぞ」


「……ずるい。ずるいずるいず~る~い~!」


は?何がだよ。


「東と泉ばっかいちゃいちゃして! 私もらぶらぶしたぁ~い!」

「「してねぇよ」」


助手席だから物取ってもらってるだけだろ。何を根拠にンなこと……


「ナチュラルに“あーん”とかしといてどこがいちゃついてないって言うの?! ねぇ、健司くん!」

「えっ? あっ、そ、そっすねぇ」


無理矢理振んじゃねぇよ。つーか健司クン動揺し過ぎ。まだ何もされてないだろ。まぁ確かにあんま経験値なさそうだけど……って。


「………佳也クン後で話あんだけど大して重要でもないけどわりと死活問題的な!」

「は、はい」


この場で聞くには鬼畜過ぎる質問だ。気になるけど後回し後回し……


予想が外れることを祈りたい、けど、無理かも。

もしかしたら統計的に証明できるかもしんないわ――“智絵に本気になる男は、九割が童貞”とかって。


「チェリー食いまくりか……」

「……東、疲れてんの?」

「いや、うん……」

「食いまくりなのは東でしょお?」

「食いまくってねぇよたった三人だろうが!」


…………あ、何か痛いこの沈黙。

やらかした感たっぷりな雰囲気なのはなぜでしょう。あー昭クン今こそ目覚める時だよ。

とか思っても結局昭クンは爆睡なわけで、私は黙って運転するしかないわけで。


「……泉ちゃん、私、いちごのカキ氷食べたいな」

「それは海の家で。つーか彼氏いるでしょう」

「かーやクーン、おねーさんとカキ氷食べませんー?」

「食います」


ちょ、即答。

まぁ今日あっついからなぁ。佳也クン汗なんかとは無縁そうな感じだけど暑いもんは暑いよね。


バックミラー越しに後ろの三人がこちょこちょ話してんのが見える。

昭クンでオチたとは言え、よくこのシャイニングボーイズと海なんか行く気になったよなぁ私。

海ついたら逆ナンの嵐とかだったらどうしよう。面倒臭いっつーか“連れてる女残念”とか思われたら申し訳ないわ。


「京介クン、逆ナンされてもいいけど女の子引っ張ってこないでね」

「え。何で俺限定なんですか~……?」

「一番笑顔で対応しそうだから」


佳也クンは大学で見た通りだろうし、健司クンは申し訳なさ出しつつ爽やかに断りそうだし、昭クンはそもそも逆ナンに気付かなそうだ。

これで昭クンが女食いまくりだったら若干凹む。もし京介クン以上のロクデナシだったら……って京介クンがロクデナシなんてどこ情報って感じだけど。何か女取っ替え引っ替え臭がすんだよね、そこはかとなく。後で田宮のメス的勘に聞いてみっかな。


「今日はちゃんとお断りしますよ~こんな綺麗な人たちと来て目移りなんかできませんからねぇ」


一瞬だけ、助手席のかわいい顔が凶悪に歪んだのに気づいてしまいました。

そんっなに嫌か。今の、一応褒めてんだよ?まぁ若干嘘くさいけど。

京介クン、軽いこと言うと嫌われるってわかってんのか……いや、勘付いてるから今日も特に仕掛けてこないんだな。何かそんな感じする。


今日一日で、何がどう変わってくか。まぁ邪魔はしないけどやばかったら容赦なく入ってくから。


「……東、曲変えていい?」

「ん? あーちょっと待って」


適当に流してたらいつの間にかお父さんの趣味で入れた古い曲に変わってたみたいだ。このジャカジャカした音好きなメンバーで、これはない。

それなりに流れてる高速を走りながら、東さんセレクトのグループまで画面を持ってく。


「まぁいつものなら大体入ってるけど。何がいい?」

「何かギラギラしたやつ聞きたいんだけど」

「私メガラバがいいなぁ」

「あれ全体的にギラギラっつーかドロドロ……」


メガラバ――mDEATH(メガデス) loverDEATH(ラバーデス)は今じゃ珍しいコテコテのメタルバンドだ。智絵とそこそこ仲良くなってからはじめて行ったカラオケで歌われてうちらの中で一躍有名になった、病み気味のデスヴォイスが売りのマイナーバンド。

まさかこんな外見のやつがメタル歌うなんて、ちょっと内面知り始めてた私らでも思わなかった……ありゃ今でも衝撃だよ。


「後ろのオニーサンたちードロドロシャウト流してもいいかなー?」

「はい」

「どうぞどうぞ~」

「メガラバいいっすよね」


健司クン……いや、あんなバンド組んでんだからわかるけど、うん。ちょっとギャップ感じんよ。つーか京介クンもお綺麗な顔してアレだもんなぁ。人は見かけによらないもんだ。


「じゃあ『滅べクリスマスイヴ』で」

「…………何かあったの、泉ちゃん」


よりによってンな病み度高い選曲なんて。つーかギラギラ違いだよ、あれイヴにラブホ乗り込んで包丁でめった刺しにする歌詞ですよ?……私はあの曲好きだけど。


スピーカーからリクエスト通りの重低音といきなりのシャウトが飛んでくる。

いいのかこれ。まぁ、いいのか。


「――……、あ! ジングルベル!!」


…………は?


「そーだ! ジングルベルだ! ねー京介ジングルベルだよなー!」

「昭~一回これ飲んでからもっかい話してみて」


起きぬけなのにやったらめったらテンション高ぇ昭クンにも動じないで、普通にペットボトル渡す京介はかなりの大物臭がする。

つーかジングルベルって何。クリスマスつながり?何の夢見てたの昭クン。


「っぷは! は~すっきりーあれ、今どこーっつーかお前らいつ乗ったのー?」

「お前が寝てる時にね~」

「え、そうなの? つーか何かすっげ狭そー健司何で真ん中なん?」

「これはな……色々あるんだ」


……お父さん!哀愁漂ってんよ!

やっぱ後ろきついかー…健司クンかなりガタイいいし、佳也クンも脱ぐとわりとすげぇし、京介クンだって細身だけど背ぇ低くねぇし……失敗だな、完璧。サービスエリア寄った方がいいか?でもこれ以上遅くなると遠出してきてる群とぶつかるかもだし……


「三列目の方々ー飛ばして早めに着くようにするから我慢してもらってもいい? 特に健司クン、ちゃんと耐えてくれたら智絵がいいコトしてくれるって」

「えっ?!!」


うそうそ。ただ言っただけ……


「何その無茶振り~まぁいいけどぉ。期待しててねぇ、健司くん」


……って。何で引き継ぐかな。無茶振りなんだからスルーしろよ!

今更口が適当なこと言ったとか訂正しても駄目そうだな。健司クンあわあわし過ぎて多分聞こえないわ。


まぁ智絵が手に負えない女だってわかって身ぃ引いてくれんならそれもよし。どう転ぶかはこっちも謎。

…………平和に終われるかな、今日。


「あ、そーだ! ジングルベルだよな?! 京介!」

「だから何が~?」

「ほら年中クリスマスのラブホ! ミッチーがバイトしてっとこ!」


………………うわぁ。

また痛いよ、この沈黙。アクセル踏み込まずにはいられませんね。

つーかミッチーって、あのミッチー?笑顔が素敵でかわいくて若い……って高校生でラブホのバイト?!やべぇんじゃねぇの、それ。


「……昭ちゃーん、君何の夢見てたの~?」

「え、ジングルベルにカリストの皆が遊び行ってー引っ掛けた女と乱交してるとこに京介がかわいい子三人連れて来てー自販で健司が買ってきたバイブ配ってたらー一番すげぇ部屋から佳也がムチ持って出てくんのー」


メーター、100キロオーバー。

何かもう色々吹っ飛んでしまえ。この痛過ぎる空気ごと。



「…………智絵、智絵。チョコを彼に」

「……はぁい。

昭くぅん、チョコレート好き?」

「うん、好きー!」

「じゃあ、あーんして~」


ちょ、どんなサービス?

バックミラーで最後尾確認しちゃうのはしょうがない。ああ、健司クン……こんな程度いちいち気にしてると智絵と遊ぶのすら無理だよ?


「……ねー京介クン、ミッチーって高校生じゃないの?」

「あ、東さんは会ったことあるんですよね~ミッチーは俺たちとタメですよ」


え。あんな若いのに?あーでもそれ言ったら昭クンもか。さん付けで呼んでたのは尊敬の証か?


「ミッチー、東さんに会いたがってましたよ~あんなお人形さんみたいな人はじめて見たって」

「げ。ちょ、それ記憶から消去させといて」

「何、何、二人知り合いなん?!」

「あれだよ、『Black Tempest』お披露目の時に案内頼んだの。浮気じゃないよ~佳也?」

「……ああ」


だんだんバックミラーの用途が変わってきたな……まぁ元から大して使ってないけど。

ちらっと佳也クンの方に目をやると、やったらめったら険しい顔で窓を睨んでた。

あれ、もしかして佳也クンってわりと嫉妬とかする方?ンなタイプに見えないんだけど。


「私、もしかして結構愛されてる感じ?」

「……何当たり前のこと言ってんの。どう考えてもべった惚れだよあれ」

「そう?」

「浅野と緒川くん見てる時、人殺しの目だったよ」

「あー……?」


ぼそっと言った言葉は幸いなことに助手席までにしか届いてなかった。そのまま小声で怖い情報をもらってちょっと考える。

束縛されんのとか重いのとかやだなぁとは思うけど……何か、佳也クンならいいかも。


「うん、私今までで一番恋愛してっかも」

「美雨がいいならいいけど……軟禁されないことを祈る」

「私が嫌がることはしないと思うけどさぁ」

「嫌われたら死にそうだしね、斎木くん」

「え、そこまで?」

「そこまで」


そんな会話に夢中になってれば、二列目からの声も無意識にシャットアウトされてるわけで。


「ゴスロリの東? 私写メ持ってるよぉ、泉渾身のショット。送るぅ?」

「送ってください。つーか売ってください」

「佳也超必死ー!」

「俺も見たいなぁ~ミッチー、モデルさんだと思ってたんだって。どんだけ綺麗だったんだろうね」

「は? 最初から綺麗だろうが」

「堂々と言うなぁ、佳也……」

「愛されてるねぇ~東ちゃん。いいなぁ……あ、佳也くん赤外線でいいかなぁ? ていうかお金とかいらないからね?」

「そっすか? じゃあ、お願いします」

「有料だったらいくら払う気だったの~? 佳也」

「……とりあえず一万くらいから」

「「怖っ!!」」


何か喋ってんなーくらいに思いながらどんどん田舎に向かう高速の終点のひとつ前で降りる。

ったく、ETCじゃなかったら左ハンドルなんか最悪だよ。助手席誰もいなかったらマジ面倒臭いし。


「はいみんなー東オネーサンに注目ー」

「はい」

「はぁ~い」

「はーい!」


元気だな。つーか一番早く反応したよね佳也クン。


「こっから先、確かコンビニ一個しかなかったんで何か足んないもんがあったらそこで買って。んで多分海まで脇道通って十五分かかんないくらいで着くよ。着いたら私車置いてくっから荷物下ろして場所取ってね。一応混んでくる時間帯外してるから大丈夫だと思うけど」

「何か詳しーな! 東サン。よく行くん?」

「さっきから…昭、敬語くらい使おうぜ……?」

「別にいいよ。私大学入るまで毎年ここの海来てたか、らっ――と!」


パッパー!!

キキィ、グォンッ――


逆側の道路だけ見てこっちガン無視のまま出てきた白のセダンをぎりぎり避けて、大きくふくらむ。

ちょ、今の結構危なかったんですけど。つーか何であんな勢いよく出てくるし!


「ッチ、周り見えねぇなら運転すんじゃねぇよ……あ、ごめん大丈夫だった? 後ろの諸君」


「だ、大丈夫です~」

「すっげーかっけー! 東サン!」

「東、あたし死にたくない……」

「危なかったっすねぇ、さっきの車!」

「ひやひやしちゃった……東たまに運転荒いよねぇ」

「でもさっきのは絶対向こうが悪ぃよなー!」


あれ、ひとりだけ会話に参加してない人が。

バックミラー確認で何でか後ろ向いてるダークレッドの頭に声をかける。


「……何してんの? 佳也クン」

「あ、ナンバー確認してました。ぶつかってねぇけど何かあったら控えとくと話進めやすいんで」


何だ、その若干本気な感じは。


「それ、父さん思い出してヤな感じになるなぁ~」

「つーか俺の親父とお前の親父さんにこの前語られた」

「え~マジで? 今案件被ってたっけ?」

「いや、当て逃げがモメて親父の方まで引っ張られたって」


……君らの親は一体何をしてる人なんですか。

気になりつつもとりあえず保留。一応田舎特有の飛び出しに注意してアクセルを踏み込んでみる。


「ねぇ東~」

「あ? 何」

「ジングルベルってぇ、一時期東がよく行ってたっていうラブホじゃない?」

「「「「…………」」」」


今更引っ張り出してくんじゃねぇよその話題!!


「……サービスタイム2800円にビール一杯サービス、コスプレ衣装借り放題のフェアだったんだよ」


もうどうにでもなれ。黙ったら逆に沈黙が痛過ぎてどうしょうもないんだよ。

バックミラー確認しなきゃいいんだ。うん、多分、きっと。


「安いですね、2800円……」


……今普通に感心しなかった?京介クン。

そうだよ安かったから会うたび会うたびヤリまくりだった元カレのお気に入りだったんだよ。あいつコスプレ大好きだったし。


「私も一回行ったけどぉ、あそこ超壁薄くない?隣がすんごいのヤってんの丸聞こえだったしぃ」

「どうせ置いてある電×で遊んでたんだろ。私なんか隣がフィ×トやってんの聞こえたんだから……何かかわいそうだった」

「フィ×トってあれ?腕ぶっ「具体的にはやめようね~昭」

「うわぁ……私そういうのは無理~!絶対痛いし」

「私だって嫌に決まってんだろうが。あ、でも佳也クンのかなり長いよ。平均よか結構太いし」

「え」


…………あ。

や っ ち ま っ た ぜ !!


「ごめん今のナシ。ほんとナシ。マジでごめん」

「……わかった。これ以上聞かないからいっこだけ質問させて?

佳也くん、馬並みなの?」

「本人に聞くんじゃねぇよボケが!!」


答えにくいに決まってんだろうが!つーか怖くて後ろ見れねぇよ!!


「佳也のはねー! 普通にしてても何か違うって感じ? 見りゃわかるって!」

「「誰が見せるか」」

「……東、仲良くてもすることしてても何でもいいけどさ」


冷静にひややかーに泉が私を見る。

私だってやらかした感たっぷりですよ。自分から嬉々として話したわけじゃねぇからやめてその目……


「さっきから、健司くんが小鹿みたいになってるよ」

「…………窓を開けよう。生まれ変わろう。ほんとにすみません」


見なくてもわかるよ。(多分)チェリーにこのディープな話題はなかった。泉は慣れてるから大丈夫だけど耐性がないときつ過ぎる。


「東、今日は控えてね」

「それは田宮さんにも言ってくれませんか……」

「え~? 私ぃ?東がフ×ストとか言うか「やめてもうやめて! 今すぐ事故りてぇか?! これ以上言うならお前ひとり歩きで帰らせっからな!」


私が口すべらせたのも悪ぃけど、発端はお前だかんね?!

これだったら黙ってた方がよかったとか思ってももう遅い。今カレの前で元カレとの性生活の片鱗を語ってしまいましたねワタシあーもう馬鹿じゃねぇの。


「昭くぅん、東がいじわる言う~」

「悪いけどネタ引っ張るなら昭クンも同罪にすっからね」

「え~?! おれ何も言ってねーよ!」

「うん、そのまま言わないでいてくれんなら昼ごはんおごってあげる。海の家のね、焼きそばがすげぇうまいんだよ。馬鹿盛りでちょっと有名なの」

「マジ、マジ?! やりぃ!」


それで黙ってくれんなら安いもんだ。

一息ついて、ふっとバックミラーを見た瞬間若干心臓が縮みそうになった。

こんだけイケメンが揃ってる中で一番好みの鋭い目と、確実に視線が合う。

いつか見た時みたいに、何かすっげぇ色気っつーかフェロモンを出して一瞬だけ笑って。


二度目になりますが。

…………平和に終われるかな、今日。

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