06 うん、何か、好き
「いいねぇ~ブラックテンペスト! 超情熱的~! きゃー!」
「確かにいい、けど……斎木くんああいうこと考えてたんだね」
「………佳也クン、大丈夫だから、褒めてるから。
お前らもうちの旦那あんまいじめんなよ」
「だっ……!!」
あれ、NG?
呼び方なんてカレシでも旦那でもダーリンでも何でもよくね?普通にカレシってのは何か気恥ずかしいけど。
赤くなったり青くなったり忙しそうね、君。
「いいなぁ~佳也。旦那サマッ、だってさぁ~」
「…………やめろ」
「シールド、ちゃんと巻けてないよ~?」
「………」
こうやっていじられる役にも回るんすか、斎木サン。まぁいじられる要素作ったの私だけど。
だらっと喋りつつライブハウスの時よりたくさん演奏してくれたスペルの皆、ありがとう。オネーサンたち何も差し入れとかなくてごめんね。
「どの曲も好きだけど、やっぱ『Black Tempest』が一番好きだな、私」
「あたしは最初の『Dive into...』が結構好き」
おっと……?何のフラグかね、これ。
いやいや、私の深読みか。そうだよね、うん。
「いずみぃ……まだお嫁に行っちゃやぁよ?」
「あたしメイド級の嫁みたいな婿を貰う予定だから」
「私絶対お嫁さんになる派~専業主婦になって旦那様の帰りを待つのっ」
「お前の性格じゃ無理だろ……私だったら嫁でも婿でも何でもいいけど、家事折半できないと問題外。暮らせない」
って話逸れ過ぎたわ。どうも脱線癖が……いつものことか。
でも泉には全くその気はなさそうだな。まぁ京介クンがこれからどう動くのかで色々変わってくるけど。
普通に向かっていったら完璧シャットアウトされること間違いなし。どうすんのか気になるけど……わざわざ背中押してやるつもりはない。とりあえず泣かせたら苦しませて辱めてやります。
「東サン東サン! 佳也家事出来るよ! めんどくせぇって全然料理しねーけど作ったやつうめぇから大丈夫!」
「え~いいなぁ! 嫁レベル高い」
「いやいや、旦那レベルって言わね? 一応」
「だんなレベル……」
「嫌なら嫁レベルでもいいよ?」
「いや、だ、旦那でいいっす」
ちょ、動揺し過ぎだろ佳也クン。あーもうかわいいなぁ、焦っちゃって。
軽く智絵みたいな感じでにやにやしてる自分がちょっとやだ。
「あ、そだ。東、泉。来週やっぱ木曜が最終だったぁ」
「別に構わないけど」
「あ、あたしバイト「してねぇだろ」講義「木曜休みだよねぇ」具合悪くなる予定「その前に看病してやっから」
「…………」
「諦めって結構大事だよ、泉」
「ちっ」
ちょ、舌打ちしたろ、お前。
三人で遊びに行くのに泉がここまで嫌がるのには、そりゃ勿論理由がある。つーか理由なしに嫌がられたらいくらなんでもへこむわ。
「何、何、どっか行くの?!」
突っ込まれると思ったけどさ、ほんっと期待裏切らないね、昭クン。
「んーまぁ、学生最後の夏休みに一花咲かせようと思ってね。その前の買い物ってか」
「花火大会とー海とープールとー旅行とー遊園地とー全部行っちゃおうって計画立ててるのぉ」
「ちょっと。増えてない?」
「候補候補っ」
「へーおっもしろそー!」
きらっきらの子どもの目で言われて、うっかり“一緒に遊ぼっか”とか言いそうになる。
言ったが最後、どうなるかなんて馬鹿でもわかる。
“じゃあ皆で遊ぼー!”とか言われたら逆らえない気がする。そりゃもうひしひしと。
このメンバーで遊ぶとかどんだけカオス。智絵の網やら京介クンの本気やらで遊ぶどころじゃないわ。あーでも、確実に喜ぶ人が多い提案だわ……個人的には楽しそうでいいけど。一部に被害が出そう、つーか泉絶対来ないって。
「花火か海ならおれも行きたーい!」
う わ ぁ 。
言った……!マジで期待裏切らねぇ!
どうする。止めるか、かわすか、流すか、それとも受け入れるか。
「おれも遊びたいぃー! 行っていいっしょ?!」
…………。
犬より猫の方が断然好きです。それでも、かわいい犬は大好きです。
「うん、別にいいよ」
「ちょ、美雨ぅぅう?!!」
「名前呼ぶなっつってんだろうが!」
つーか真正面からあんな捨て犬の目で見られてみろ!落ちるだろうが!!
「泉サァン、行っちゃだめー?」
「……っ」
「遊びてぇよー砂の城作りてぇよー!」
「~~~!!」
「行きてぇよー! みんなと遊びてぇよー!」
「……………………行こうか」
難攻不落の砦、ついに陥落。
「じゃあまず海ねー!佳也も京介も健司も来るっしょー?」
“しまった”
かわいい顔一面にでかでかとそう書かれてるのがはっきりわかった。
× × ×
駅に向かう五人と別れて、マンションに帰る途中。
「佳也クン」
「はい」
「水着、どんなのが好き?」
「…………はい?」
いきなり過ぎてすげぇ間抜けな返事しちまった。
「智絵が会員になってる水着フェスタがあって。そこで皆で買おうって話なんだけどさ」
「あ、あー……さっきの木曜だかの話っすか?」
「そうそ。んでどうせだから意見を聞いてみようかと思いまして」
ンなこと言われても……服ならまだしも水着なんてよくわかんねぇし。
つーかミウさんの水着姿……いややめろ、妄想から戻ってこれなくなる。
昭、お前の空気読まないごり押し戦法で俺らは救われた。今度好きなだけメシ食わしてやる。
「まぁ形とかはわかんないだろうから、色とか柄とか」
「そっすね……」
妄想じゃなくて想像しろ、俺。ミウさんに似合う色を考えろ。あの真っ白で柔らかい肌に似合う……
ゴッ
「……え、今何したの」
「…………虫が」
「いや、虫潰すのに拳はねぇっしょ」
苦し過ぎる言い訳をしながら、もう一度ちゃんと考える。
普通に考えろ、俺の脳みそ。
「……淡いよりまず濃い色っすね。ハイトーンの色でも可だけどあえて落とした色のが締まると思いますよ。ミウさん肌綺麗だし真っ白なんで尚更。
で、柄とか形はあんまゴテゴテしてねぇ方がいいんじゃないっすかね。スタイルいいからシンプルで充分っすよ」
できればあの脚線美最大限まで生かした感じ……いや、不特定多数の目に晒されんだったら防御の方がよくねぇか?
困るけど見てぇ。迷う…………ってこれまんま自分の趣味押し付けてんじゃねぇか。うわ、す、すんません!
「……佳也クン」
「は、はい?」
「いちいち恥ずかしい」
「え」
「ちゃんと考えてくれんのは嬉しいんだけどさ、何で要所要所褒め殺し入ってんの」
褒め殺し……綺麗とかスタイルいいとかか?
いや、事実だし。もう大っぴらに言える関係になれたんだし。
この人マジで褒められんの慣れてねぇんだな。すぐ頬が赤くなる。
「可愛いっすね、ミウさん」
「だっ、だから……!」
「できれば慣れてください。ずっと言うの我慢してたんで」
「~~っ!!」
とりあえず言う。で、意味わかんねぇネガティブ発言始まったら止める。
そうしねぇといつまで経っても改善しねぇ。自覚持ってくださいよ。こんな綺麗で可愛いのに。
「無理。帰る。心臓死滅する」
「か、帰んないでください! 我慢します! ……三割くらい」
「十割我慢しろ! つーかやっぱ視力落ちてんだって佳也クン!」
「落ちてねぇっすよ――あ、ミウさん」
空き缶転がってんのに気付かないでさっさか歩いてるミウさんの肩を掴んでこっちに引き寄せる。
「いきなりすんません。ちょうど踏みそうだったんで」
「………………佳也クンさぁ」
「はい」
「いや……もーいいよ、うん、何か、好き」
…………は?!
「顔赤いよ」
「………………ずりぃっすよ、それ」
不意打ち過ぎる。何でこうも簡単にンなこと言うんだよ……殺す気か?!
顔が締まらねぇ、くそ。あー、幸せ過ぎる。
「キスしちゃ、駄目っすか?」
「駄目。公共の場」
そっすよね、駄目っすよね!
清々しいくらいすっぱり断られると落ち込むに落ち込めねぇ。明らかに俺が悪いんだし。
学習しろよ俺。前にあんだけ怒られたくせに。
「手ぇ繋ぐくらいならいいよ」
……ほんっと、俺を喜ばすの上手いっすよね、ミウさん。
普通に目の前に出された手に触って、指を絡ませる。
「うわー……何かエロい」
「え? そ、そっすか……?」
「動きがセクシャルです」
そんなつもりねぇんだけど……手は正直なのか。
「コンビニ寄っていい? レモンティー」
「あ、はい。好きっすね、それ」
「紅茶全般好きなんだけどね。パックだとレモンティーが一番好きなだけ」
今度ミウさんが来るまでに紅茶買っとくか。そういや店長がそういうの詳しかったな……
「あとさ、夏休み入ったら佳也クンんち泊まり行ってもいい?」
話がぴょんぴょん飛ぶのはミウさんと話してるとよくあることで。
別に苦じゃねぇし慣れたけど、たまに爆弾投下されるとうまく反応できねぇ。
いいっつーか、むしろ来て下さい。歓迎どころの話じゃないっす。
「……別に今日でも構わないっすよ」
「いや、やめとく。明日バイト早番だから」
ズバッと切って、にこっと笑う。
自分のペース大事にするとこも好きです。たまにつらいけど。
コンビニに入って自然に離れてく手をちらっと見ながら、コーヒーが並ぶコーナーに向かう。
――振り回わされんのが前より更に楽しい、なんて重症過ぎんだろ。
NEXT 第七章 マイティ・フッド
※以前活動報告でこぼした通り、次章より月・木の週二投稿になります。
次回更新は来週の月曜です。よろしくお願いいたします。
そしてマンションに行った後はお月様へ。




