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04 想像以上に好きなんだなぁ

若鶏の甘酢あんかけ定食、四百円。


「うまーやっぱうちの大学よりこっちのがいいわ」

「ピロシキもおいしいっ! さすが限定復刻版」

「限定とかつくとやたら買いたくなんだよね。日本人って」

「…………早く食べて帰らない?」


せっかくのランチなのに泉のテンションはマジで地を這う状況。

さっき見たダークレッドとライトブラウンの頭が原因、らしいけど……


「えぇ~? もうちょいゆっくりしようよぉ」

「別にバレたって死ぬわけじゃねぇんだからさ」

「東は最近美形に慣れてるからだよ! もし見つかって寄って来られたら……あー! 爆死すればいいよもう!」

「泉が嫌がるからわざわざ遠くの食堂に来たのにぃ~」


今いるのは佳也クンたちを発見したとこから一番遠い食堂。

正直元カレのとこ遊び来た時何回も使ったんだよね、ここ。まぁ今なら変装してるし平気だけど。


そういや私、佳也クンに全然会ってないな。

メールとか電話とかしてるからあんまそんな感じしないけどさ。

やっぱ何かこう、わりとドライなんだよなぁ私。連絡とか取んなくても結構平気だし。

佳也クンはこういうのどう思ってんのかな。ンなベッタベタ束縛するタイプには見えないけど、うーん……


多分、自惚れじゃなくあの人は私に対して優しい。デロ甘ってレベルで甘い。

京介クンとかと対応違うのくらいわかる。だったら他の女の子にはどうなんだ?あーでもあの感じじゃ女の子にも愛想ないか、やっぱ。

……私以外の前だとどんな感じなのか、ちょっと見てみたい。これで物凄い紳士だったらそれはそれで楽しい……って性格悪いな私。


「ねー私カレシウォッチングしたいんだけどさ、探してきていい?」

「……会いに行くんじゃなくて観察?」

「別に会いたくて来たわけじゃないし。大体連絡なしに発見出来たら奇跡だし、まぁちょっと様子見っつーか」

「佳也くんかっわいそ~じゃあ私も健司くんに会ってこようかなぁ」

「「それはやめろ」」


お前は引っ掻き回して蜘蛛の巣強化するつもりだろ。


「じゃああたしはしばらく身を隠すよ……」

「自由行動っすか、泉サン」

「だってむやみやたらに動き回ってもしあのきらきらクソ王子に出くわしたら……失神する!!」

「そんっなに嫌か」

「嫌」


美形嫌いは知ってるけど……こんな酷かったっけ。まぁ彼は中々お目にかかれないレベルだけど。

そんな嫌なら長居させるのもかわいそうだな。しょうがない、さっさと帰る、か………………あれ?


「…………佳也クン?」

「だね」

「修羅場? 修羅場っ?」

「嬉々として言うんじゃねぇ」


立ちふさがる女と、ダークレッドの髪の男。顔ははっきり見えないけど、出入り口のとこにいるのはまさしく私のカレシさんだった。

まさかのタイミングですねぇ。奇跡起きたわ。ちょっと運命感じるよ。


「美雨、智絵、あたしを隠して。石ころ帽子貸して」

「大丈夫だって……京介クンいねぇから。ちょっと行って来るわ」

「三つ巴~?」

「いや? 観察」


ちょっと女に言い寄られてるくらいで目くじら立てるほど心狭くないもんでね。

つーか女とメールしても二人で出かけても別に浮気認定しないから。ヤることヤったらそりゃアレだけどさ。


二人の会話が聞こえるくらいまで近付いて、通りたくても通れない人達に隠れるようにして観察開始。


「……俺、急いでんだけど」

「待って! ちょっと付き合ってくれるだけでいいの、お願い」


……こりゃ、予想以上に無愛想…つーか冷たい。

おいおい佳也クン、女の子にはもうちょい優しく……って誰彼構わず優しくするキャラじゃなさそうだし、まぁこんなもんか?

女の子の方も余裕ないなーこんな目立つ場所で縋るみたいな声出して。


「話すことねぇし。彼女いるっつってんだろ」


苛々した感じの佳也クンは私の前での佳也クンと全っ然違って、普段どんだけ優しくされてんのかが身に染みた。

こっちが素かー……顔の通り、超ツンツンクール。結構こっちも好きかも。


つーかそこのお嬢さん、もしかしなくても一度アタック済みですかね。

一回失敗してんだったらやめようよ、マジで取り付く島もないじゃん。佳也クンすげぇ嫌がってるよ?

自分に余裕があるからってふざけたこと思ってんなーとか自分でわかってるけどね。でもそこの人、私のカレシだかんね?しつこく言い寄るのはNGだろ。


「ひどい……っ」


…………いやいや。

確かに言い方はきっついけどさ。“テメェと話すなんざ時間のムダだぜ!俺彼女いるしな!出直せこのブスが!”とか言われたわけじゃないじゃん。彼女いたらそこで終了、な話でしょ。


「私っ、斎木くんのことが……本当に好きだったのに…」

「けど俺は付き合えねぇから。悪いとは思うけど」


どストレート。ここまできっぱり断られたらむしろ清々しい気分に……ならないか。

泣き出しそうなお嬢さんを見て、佳也クンが軽く溜め息をつく。

クール過ぎる。クソめんどくせぇって丸出しの顔だよ……何か、私が見ていいのかわかんない表情だ。


私のこと好きじゃなくなったら、こういう顔すんのかなぁ。あーそりゃ結構嫌かも。いつもがいつもなだけに。

……愛想つかされないように、今度からもっとマメに連絡しよっかな。

自分がそんなこと思う男って、多分佳也クンが初めてだな、うん。


あー……ほんっと、想像以上に好きなんだなぁ。

めちゃくちゃ別人ってくらいの対応見ても、何とも思わないんだから。


「……そんなに、その人がいいの? 私じゃ駄目なの?」


いや、駄目だろ。

思わず脳内ツッコミせずにはいられない。


何で“私ならその心の隙間を埋めてあげられるわ”みたいな感じなんだよ。佳也クンそんなこと言ってないよ?

これだけ聞くと女が結構彼女といい勝負してるみたいに聞こえるよ?ギャラリーが勘違いすんだろ。


「……さすがの能戸も相手が悪かったね。あれ、法学部の斎木くんでしょ?」

「あ! この前リッコ先輩フったのってあいつ? うわー……やだけど納得。確かにかっこいいわ」

「ね。まぁあたしはいつも一緒にいる谷崎クンのが好みだけど」

「能戸の連戦連勝・怒涛の男漁りもここまでだねぇ」

「ちょっと痛い目見た方がいいんじゃん? 男の前だとキャラ違うしさ。同じ学部だったらあいつのビッチっぷりなんて皆知ってんのにさぁ」


…………能戸さん?あんた智絵より遥かに悪女臭すんよ?

あいつこんな同情買って周り味方につけようとしたり泣き落としとかしないけど。その前に女子からかなり敵認定されちゃってるね、あんた。

つーか佳也クンと京介クン、わりと有名人なんだねぇ。まぁこんだけ顔が良けりゃ女子の間で勝手に伝わるか。うちの大学もそういうのあるし。イケメンは共有財産ですね。


隣の女の子たちの内緒話を聞きながら、繰り広げられる昼ドラを半ば呆れつつ観覧する。

自分のいいとこ挙げて“だから私の方がお徳だよ”って勧める女に段々苛々しつつ。


「ちょっと出会うのが早かっただけじゃない。私が先に会ってたら、絶対私の方が……」


もう、何かさぁ……見てて痛々しいし、気分悪いからやめてくんね?遠回しに私のことけなしてんよね、それ。


「…………うっぜぇな」


うっかりぼそっと言った言葉が隣の子たちに聞こえたみたいで何となく視線が来たけど、そんなの関係ない。

女の子には優しくしたいしかわいい子は大好きだけど、それが全員に適応されるわけじゃないんだよ。


あと一言二言言われたらマジで割って入るかもしんねぇわ。他大学まで来て修羅場とか勘弁なのに……


「……いいとか駄目とか、そんな問題ですらねぇんだよ。俺はあの人以外いらねぇ」


更にどストレート。

ちょっと重過ぎるくらいの言葉が、ドラマみたいにかっちり決まった。


………ちょ、斎木クン?あんた公衆の面前で何言ってんの?!


「……っ!!」


とうとう何も言えなくなった能戸さんが悲劇のヒロインぶって走り去って行って、残った場には異様に静かな空気が流れる。


「……すっごいね。何かすかっとしたってか……何か俳優みたい、斎木くん」

「わかる。今の映画見てるみたいだった……これで能戸もちょっとはおとなしくなるでしょ」

「てかさ、斎木君にここまで言わせる彼女ってどんなんなんだろ」


その先は意識からシャットアウトした。

こんな地味顔のおばさんです。なんて名乗り出られる奴は鉄の心臓の持ち主だと思う。

……今絶対見つかりたくない。視線とか恥とか色んなので死ねる。

そうですよね。こんなイケメンにここまで言わせる女って、やっぱ超美人で性格のいい聖女のような女ですよねー……


む り !!


ふかぁい溜め息をつきながら視線でギャラリーを散らす佳也クンに気付かれないように、一歩ずつ着実に下がっていく。

そこのでかい観葉植物の陰まで下がったらダッシュで消えよう。もうさっさと帰ろう。


「やーお久しぶりです、東さん」


軽ーい声と肩にかかった手に叫び出さなかった自分を褒めてやりたい。


「かーや、いらっしゃったよ~」


呼ぶな馬鹿野郎!!ギャラリー散りきってねぇだろうが!


不機嫌丸出しでだるそうにこっちを見たあと、佳也クンの切れ長の眼が限界まで見開かれる。

たっぷり三秒くらいおいて、何を言うのかと思いきや。


「……何触ってんだテメェ。離れろ」


……そんなことどうでもいいだろうが!

つーか悪いけど視線くっつけたまま近付いてこないでくれる?!いっくら普段意味不明に注目されること多いからってこういう類の視線は嫌なんだよ!!


「お久しぶりです、アズマさん」

「あ、はは……久しぶり」


逃げ道、完全封鎖。


さっきとはきっかり百八十度違う笑顔を真正面から受けて、私は表情筋を酷使して笑った。


「……会いたかったです」


囁きくらいのボリュームでそう零されて、顔を赤くすべきなのかこのまま青くしといていいのか、めちゃくちゃ悩む。


「どうしたんすか? 電話でもメールでもくれれば迎えに行ったのに」

「い、いやいや……ただ智絵が遊びに来たいって言うから、ね。そんだけだから」

「けど、会えてすげぇ嬉しいです。この後、時間ありますか?」


周りが固まってるから今すぐそのデロ甘トーンの声をおやめなさい斎木サン。お隣の女子たち特に固まり様ひっどいから。


まぁ、その前にとりあえず……逃げ出すのは無理だってわかったからさ。

せめて、頼むからここからさっさと連れ出してくれ。

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