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02 それって東サン効果

一部お下品注意。

「オレ、カツカレーにするわ」

「俺はきのこのクリームパスタかなぁ」

「……中華丼でいい」

「昭は何食べるかな~」

「ありゃあ何でも食うだろ」

「同感」


月曜の食堂ってのは何でか知らないがやたら混む。規模のでけぇ総合大学だから食堂はいくつかあって分散するようになってるけど、どこも同じくらい混んでるから意味がねぇ。

時間が合えば集まって飯食うし、なければ各自で。今回は昭だけ教室に忘れ物しただかで遅刻してるけど全員揃っての飯だ。並んだり席取ったり分担できるから楽。


「じゃあ並んでるから後でヘルプよろしく~」

「おう。じゃあ鞄」

「……水取ってくる」


鞄を引き受けて席を探しに行く健司と逆方向にある水を取ってくる。コップ四つくらいだったら一度でいけるだろ。


「あの、斎木くん……!」

「あ?」


聞き覚えのねぇ声に振り返ってみれば、やっぱ見覚えのねぇ女が立ってた。俺が覚えてねぇだけで向こうは知ってるみたいだけど。


「……何」


一応礼儀として“誰”とは聞かなかった。つーか後ろ詰まるから用があんなら後にしろ。


「私、行政法で一緒の能戸って言うんだけど……」

「あー……」


黒髪に緩いパーマ、背は多分智絵さんと同じくらい、見た目の印象だと清純系っつぅのか……やっぱ記憶にねぇ。

基本的に講義で用がある時以外、人と喋んねぇし。京介とかは別だけど。


「よかったらアドレス教えてもらえないかなって」

「………」


片手に二つずつコップ持ってて、後ろが二人並んでて……この状況で言うか?それ。

つーか何でアドレス。話した記憶ねぇやつに連絡先教えても。


「……今両手塞がってるし、後ろ詰まってんだけど」

「…あ。ご、ごめん……」


謝んなら後ろの並んでる人に謝った方がいいと思うけど。

普通に歩き出した俺に続いて能戸……だったか?その人が追い掛けてくる。つーか行政法っつったら明日あんじゃねぇか。何で今知りたがってんだよ。


……これって講義関係じゃねぇよな?絶対。ならついてこられても俺はアドレス教えたりしねぇ。

か、彼女がいるのにケータイ教えたりしねぇだろ……まぁあの人は全然気にしなさそうだけど。


ミウさん今何してんだろう。卒論の調査が詰めに入ってきて忙しいっての聞いてるしバイトとかで予定合わないから会えねぇけど、メール見る限りじゃ元気そうだ。

……あれから、あの付き合い始めた日から会ってねぇ。もう半月近くになる。ミウさんに触りてぇ。電話越しじゃない声が聞きてぇ。

付き合ってても全然変わんねぇよ。それどころか更に重症化してる。マジで病気か。


「ま、待って! 斎木くん……」

「……何」


今忙しいんだけど、主に脳内が。

つーか何で俺?愛想ねぇし無口だし。普通こういうの京介担当だろ。


「あれ、佳也ー! 何してんの?浮気?」


……ンなわけねぇだろ。

のんきに登場した昭を睨みながら軽い溜め息が出てくる。


「え、と……斎木くん、彼女……いるの?」

「べった惚れだかんねー佳也狙っても無駄無駄ー」


空気読めないお前のスキル、たまにすげぇ役立つよな。

“そっか、ごめん……”とか言いながらいなくなる能…戸?を見送ったりしないで健司が取った席を探す。

正直言わなくても女から見たら冷たいと思う。けどこれが俺の素で、対ミウさんの時が異常。嫌われたくねぇのは勿論だけどミウさんがいると勝手にああなっちまうんだよ。マジ気味悪ぃ、俺。


「なに? 今の人」

「……さぁ」


適当な返事をして席に向かう。どうして俺にそういう気持ちを持ったのかも謎だった。


「メッシ、メシー!」

「おかえり~何かおもしろいことになってたね」

「佳也、お前女の知り合いいたんだな」

「いや……全然覚えがねぇ」

「お前もうちょい人覚えようよ~あの子確か講義被ってる子だよね? 見かけたことある。何か落ち込んでたよ?」


そこまで見てたらフォローしろよ。俺ああいう状況あんま慣れてねぇんだから。

中華丼を食いながらさらっとさっきの流れを説明して、俺はずっと謎だったことを伝えた。


「……六月入ってからやけにああいうの多い気ぃすんだけど」


何かそういうゲームでもあんのか?ってくらい女が寄ってくる。覚えてるだけで今ので四人目だ、っつってもすぐ忘れるから曖昧だけど。


「佳也ちょっと丸くなったからね~そのせいでしょ」

「は?」

「ああ、確かに。前よかトゲトゲしてねぇよな。“話しかけんな”オーラが薄れてるっつぅか」

「それって東サン効果ー?」

「愛だよ、愛!」


意味わかんねぇ……


「……俺、ンな変わったか?」

「眉間のシワは確実に本数減ってるかな~」

「あ、あと前よか笑うようになったー! ほんのちょっとだけど」

「何にしてもいい方向に変わってんだからいいことじゃねぇか」


思い当たる節は、なくはねぇ。

ミウさんがいなくてもいっつもミウさんのこと考えてて、それがやっと形になったから、か?

…………それって何かすげぇ恥ずかしいんだけど。周りから見たら幸せなのモロバレじゃねぇか。


「……今度からもうちょい顔引き締める」

「ケータイ見てる時気をつけなよ~? お前顔ゆるっゆるに緩んでるから」

「……マジか」

「あ、それは俺も思った。“東さんからか”ってすぐわかっし」

「ちょっと引くくらいにやついたりするしね~」

「…………」


変質者か。真面目に気をつけよう。つーかンな観察してんだったらまず注意しろよ。


「あ! そーだ、佳也にいーモン送ってやんよ!」

「あ?」

「絶対絶対気に入るから! ほら、赤外線ー!」


お前の言う“いーモン”は大抵ロクなもんじゃねぇ。

とか思いながらケータイを出して受信画面にする俺は結局昭に甘ぇんだよな。こいつには何かそういうオーラがある。


「はい、そーしんっ!」

「イメージ……?」

「見て見て! はやく!」

「おい昭、揺らすなよ。コップ落ちるだろうが」


データBOX、マイピクチャ、外部取得データ……ッ?!


ガタタッ、


「なっ、これ……?!」

「佳也もやめてよ~水零れちゃったじゃん」


それどころじゃねぇよ。え、これ何、何で……


「何でお前がアズマさんと泉さんと遊んでんだよ……!」

「「は?」」


プリクラっぽい落書きとスタンプだらけの画像。真ん中に普通に溶け込んでる昭と斜め下にいつものおだんご頭の泉さん、んで昭の横で黄色いハット被って可愛く笑う美人な……ミウさん。

可愛い、待受にしてもいいかこれ。昭画像サンキュー……じゃなくて何だこれ。どうしてこうなったっつーかお前何してんだよマジうらやましい!


「金曜にたまたま地元で会ってーメシおごってもらってーおれがプリクラ撮ってみてぇっつったら一緒に撮ってくれたー! 浮気じゃねーから心配しないで佳也!」

「ンな心配してねぇ。つーか何でおごってもらってんだよお前」

「えーと……秘密だから言えねー! うん」


……それ、理由になってねぇから。

つーかミウさん普段はあの辺で遊んでんのか。ここら辺だと若干遠いしな……暇な時俺もぶらついてれば会えっかな、って何で俺、か、彼氏なのに偶然装って会おうとしてんだ。


「…………昭くぅん」

「なに?」

「その画像、ボクにもくれないかなぁ~?」


うわ、すげぇ猫撫で声……京介キモい。


「えーだめ。佳也だけはいいよって東サンに言われたもん。あ、見せんのはだっけ、やっべぇ間違えた! まぁいっか」

「何でぇ?! 意味わかんない! 俺も見たい泉さん見たい見たいみーたーいー!」

「「「きもっ」」」


今の、お前にオチてる女だったら許してくれただろうけど……ここじゃ無理。


「つーか昭……その、ち、智絵さんはいなかった、のか……?」


……そうだった。

お前しっかり巣に引っ掛かったまんまだったっけ。つーかあれから会ってねぇし連絡だって取ってねぇんだからいい加減目ぇ覚ませ。


「うん。いなかったー智絵さんバイトだっつってた」

「そうか…ははっ……はぁ……」


…………重症だ。いや、俺のがもっと高レベルだろうけど。


「ずるいよ佳也……超らぶらぶの新婚さんなのにプリ画までもらえてさぁ……俺たち片恋組はAV見て女優さんの顔を妄想変換してヌくくらいしかできないんだよ……ねぇ、健司?」


ンなことしてたのかテメェ。顔に似合わず下劣な……


「ななな、なん、ンなことするわけねぇだろ!」

「智絵さんのこと1ミリも想像してない? ほんとに~?」

「うっ、し、して……」


……るのか。まぁ俺もその辺は触れられたくねぇから突っ込まねぇけど。


「佳也なんか本人相手に五時間も好き勝手しちゃってるしさぁ! ズル過ぎ」

「…………え」


「五時間?! おーグレイト! 化け物じゃん!」

「しかもまったり休憩無しで上から下から横から斜めからもうどんな体位もこなしたんだって~! これで下手だったら拷問だけど上手いらしいから何と「京介、それどこで聞いた……?」


俺、言ってねぇよな、ンなこと。つぅことは、だ。


「そんなの本人からに決まってんでしょ」

「……いつ、どこで」

「一週間前くらいに、電話で。俺があのライブ誘ったんだからケータイくらい知ってて当然でしょ?」


当然っつぅか何でケータイ知ることになったのかはかなり気になるけど今は置いとく。俺が聞きてぇのは、“何でそん時のことが筒抜けなのか”ってことだ。

…………ミウさん、よりによって何でこいつに言ったんすか……


「“ヤリ殺されるかと思った。筋肉痛どころの話じゃなかった”って言ってたけど、お前そんな絶倫だったんだね……」

「……違ぇよ」

「三回以上八回以下本番ヤっといて普通とは言わせませんよお兄さんは!」

「何その回数。よくわかんねーじゃん」

「途中から数えるの諦めたんだって~記憶としてはそんなモンだって言ってたけど」


…………数えてたのか、あの状況で。

確か六回目くらいまでは俺も覚えて……いや、それ以上って化け物か。マジ無理させたな、多分。


「段々、佳也が遠くなってくな……ははっ…」

「え、何落ち込んでんのー童貞じゃなくても八回はフツー無理だから! つーか佳也ナニでけぇのに持ちもいーなんて最高じゃん!」

「……頼むからもうちょい小さい声で話そうな? な? マジ勘弁してくれ昭……」


いや、一番勘弁してほしいのは名前出された俺だから。

……童貞バラされんのと甲乙つけ難いか。


「確かに通常でアレなんだからギンギンMAXまでいったらすごいでかそうだよね~」

「き、京介も静かに……」

「あの美脚掴んで開いてガンガンやったんでしょ? いいなぁ~俺も泉さん……」

「京介、さっきの画像三秒見せてやるから黙れ」

「え、ほんと~? 悪いなぁ~」


これ以上妄想で泉さんを汚すな。可哀相過ぎる。つーかミウさんで妄想すんのもやめろ。うぜぇし俺の方まで妄想すっから。


多分京介の思惑通り、ちらっと画像を見せてやる。京介の目がマジ過ぎて怖ぇ。

つーかその前にこいつマジで泉さん狙ってんのか?このままだとかなり望み薄……まぁこいつのことだから何かしら仕掛けんだろうけど。


「かーわいーなぁ~! 黙ってても好み~でも辛辣なのも超好み~」

「……お前従順なのタイプだったろうが」

「あっ! もうちょい見せて!」

「もう三秒過ぎた」


さっさとケータイ閉まって不満そうな京介を鼻で笑う。

だからンな顔しても俺的にはキモいだけだから。テメェの顔の良さが男にまで通じると思うんじゃねぇよボケ。


「俺はね、真実の愛に目覚めたんだよ」

「ドMへの道が拓けただけだろ」

「え、京介いつからMになったのーきめぇ!」

「お前らほんとにやめて……」


つーかこれ、昼休みに食堂でする話題じゃねぇ。今更だけど。


三限まで残り二十分ちょい。健司が逃げ出すか俺が会話切るか京介が逸らすか昭が飽きるか、どれが先だろうな。

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