09 ミウさんさえよけりゃ
白黒の変形ロンT+ストールと、黒灰ストライプのワイシャツ。佳也クンが出してくれた着替えだけど、どっちも捨て難い。マジでいいセンスしてんよね。
早くしないと佳也クン風呂から出てきちゃうし……さっきまでワイシャツだったからロンTでいいや!
さすがに下とかはサイズ的に借りれないかんね。ブラとパンツなんかあるわけないし。上だけでも着替えられてマジよかった。
若干だぼつくロンTの端っこをちょっとベルトに挟んで、プラスでスカーフを適当に下げる。全身鏡ないからよくわかんないけど、多分変じゃないと思う。いつもよりだいぶ薄いけど朝よかもうちょいマシな化粧と香水……よし、大丈夫、外出れる。
って、あれ、ケータイ鳴ってる。
From 森下 泉
Sub 無題
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緒川くんにさわりだけ聞きました。
もしつらいなら飲み行こう!
話聞くよ。
それで、
いつ闇討ちすればいいですか^^?
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「ちょ、おま……」
家帰ったら報告がてら電話しようと思ってたのに……つーか闇討ちはやめろ。
To 森下 泉
Sub 無題
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何とかハッピーエンドまで持ってけたから大丈夫!闇討ち無用!
つらいってか若い子の体力についてけない的なつらいしかないから平気よ(笑)
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あれ、これ親父的発言?まぁいっか。
ドアが開いて、タオル被って上半裸のままで佳也クンが入ってくる。
おお……何というフェロモン。つーか腹筋割れてるし腰締まってるしマジいい体してんな。ソフトよりもうちょいマッチョだけど。やっぱ男は筋肉ないと駄目だよ、うん。
「服ありがとね、洗って返す」
「別にいっすよ……ミウさん、ストールしてくださいね」
「え、バイク乗ったら絡まって死ぬよ」
マフラーが原チャに絡まって死んだって事件あっただろ。危ねぇよ。
「じゃあ乗ってる時は最悪しなくてもいいから、それ以外はしててください」
「……もしかしてさ、これ気にしてる?」
さっき風呂場で見てマジびっくりした、尋常じゃない数のキスマーク。でもさ、これ首とかだけじゃないんだけど。
「佳也クン、ちょっとご覧なさい」
ガーター外してニーソ下げて、ぱっと見で軽く二桁はキスマーク見つけられますけど。ちなみにニーソきっちり履いても見えますよ。
「これ、内側とか足の付け根とかかなりあるんだけど、見る?」
「い、いや、いいっす!」
何赤くなってんだよ。お前がやったんだろうが。
つーか佳也クンもしかして脚好き?胸とかじゃなくてこんなつけられたの初めてなんだけど。
「見えるとこだと手首、手の甲、腕の内側。見えないとこはほとんどっつーかキスマークないとこ探す方が難しいわ」
「スミマセン……」
無理矢理見ようとして風呂場でアクロバットポーズしちゃったよ。
まぁつまり何言いたいかっつぅと、隠しても無駄。やるとしたら顔の下からつま先まで全部隠さなきゃなんねぇし。さっきコンビニ行った時も多分隠れてなかったな……せっかく一応ボタン閉めてったのに意味なし。
「佳也クン、これつけんの好きなの?」
「いや、ンなことねぇと思ったんすけど……ミウさんの肌白くて、つけたらすげぇ綺麗だったからもっと見たくなって……すんません、調子乗りました」
出すのが面倒臭いのか、私が着なかったワイシャツを着ながら謝ってくる。
……うん、いや、いいよ、もうコメントしないで。恥ずかしい人種め。
From 森下 泉
Sub 無題
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斎木くんに「祝いに二発くらい殴らせろ」ってお伝えください。
今回は斜め上な感じじゃなかったんだね、おめでとう!
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「佳也クーン、『祝いに二発くらい殴らせろ』だって」
「は?」
「ほら」
ケータイを見て、佳也クンが苦い顔をする。
「……わかりました」
「え、いやそこ避けようよ」
「昨日ミウさんに誤解させたし。殴られるくらいのことしましたから」
それは私が勝手に先走ったからで……
「そういやお母さん、あれからどしたの?」
「起きたらすっかり記憶飛んでたんで普通でしたよ。始発で帰っていきました。たまにあるんすよ、ああなってる時」
「そっすか……」
忘れてくれててよかったんだけど、できればちゃんと謝りつつ今更ながらの挨拶したかった。まぁ記憶ない時の話されても困るだろうからやめよ。ンなのただの自己満足だわ。
いつか素面の時に挨拶……って、ないない、早ぇよ。現時点じゃノータッチしかないな。
「……つーかその、斜め上って…?」
メールにあった単語が聞き慣れないのか、佳也クンが何となくそわそわしながら聞いてくる。まぁ文脈からして自分のこと言われてるってわかってるから気になんだろうけど……
「あー…ほら、お薬とかオモチャとかお着替えとか、一般人がちょっとためらいそうなのを嬉々としてやっちゃう感じ?」
「…………ミウさん好きなんすか? そういうの」
おっと、そうきましたか。
勘違いしないでくださいよ。今まで全部私が進んでやったわけじゃねぇかんね?
「いや、特には。大体は受け入れられるけど……やりたい?」
これで“じゃあ縛って叩いていっすか”とか言われたらどうすっか……って佳也クンはンなことしないか。何か私を叩くなんて絶対有り得なそう。
軽く眉毛寄せながら佳也クンが考え……んのかよ、そこ。
「…………ミウさんさえよけりゃ」
……そこでその名ゼリフ出ますか。
「まぁ、そのうちそんな気分になったらね」
微妙に逃げとくに限る。通常でほぼライフ0にされんのに、これで変なのが加わったら確実ヤリ殺される。
ちらっと見たでかい窓の外はいつの間にかわり少し暗くなってて、帰ろうと思ってた時間を結構オーバーしてんのに気付いた。
「……そういや佳也クンは今日講義なかったの?」
「あー…別に一回くらい出なくても大丈夫なんで」
「バイトは?」
「今日はないっす」
「じゃあさ、ちょっとわがまま言ってもいい?」
年下にわがまま言う私って、とか思うけど今更。
ちょっとだけ自信がある。佳也クンは私が甘えんのを許してくれるって。
「俺にできることなら、どうぞ」
ちょっと口の端が上がって、目元が和らぐ。優しい控えめな笑い方。
「えーと、改めて言うの何か恥ずかしいんだけど……
もうちょいここにいていい? んで、もうちょい近くにきて」
さっきから微妙に遠いんだよ、この距離。
口に出すのは羞恥心で死ねるから勘弁だけど、何かちょっと寂しい。
「……それ、わがままじゃなくてただのご褒美っすよ、俺とっては」
黒い革のソファーが軽く沈む。
シャンプーのにおいがして、何かくらくらした。
「すげぇ今更なこと言ってもいっすか」
「ん、何?」
「俺と、付き合ってもらえますか?ミウさん」
……そういや言ってないわ、それ。
お互い余裕なさ過ぎ……ちょっと笑える。
「あはは、うん、付き合う、付き合おう」
「……笑い事じゃねぇっすよ」
「いや、だってこんだけ色々やっといて最後にこれって……」
「確かにそっすけど……」
あ、拗ねてる。かわいいなー…ちゅうしてやろうか。
「ッ、ミウさん?!」
「何、口はよくてもほっぺは駄目?」
「いや嬉しいんすけど、むしろ……」
その先がわかってるから、先回りしてやった。
軽くキスしたらさ、顔赤くして笑ったんだよ。それがとんでもなくかわいくて。
――多分、自分で思ってるより、私はこの人のこと好きなんだって気付いた。
NEXT 第六章 清黎館大学
(推敲作業のため次回更新まで少々時間が空きます)




