01 戦闘服はきちっと
ややメール表現多め。
To 斎木 佳也
Sub 無題
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ちょっと話があるんだけど、明日の昼か明後日の夜、無理だったら近い内に会えないかな?
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返信からリレースタートが土曜の午後22:31。
From 斎木 佳也
Sub 無題
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何かあったんすか?
月曜の17時からだったら大丈夫です。
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To 斎木 佳也
Sub 無題
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まぁ会った時に話すよ~
つーかごめん!
バイト入ってるから22時過ぎになっちゃうんだけど、それでも大丈夫かな?
30分もかかんないから時間くれると嬉しいです。
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From 斎木 佳也
Sub 無題
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俺は全然平気っすけど。
ミウさん疲れないっすか?
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To 斎木 佳也
Sub 無題
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私は大丈夫!
佳也クンさえよければその時間にまたそっちの駅で待ち合わせでもいい?
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From 斎木 佳也
Sub 無題
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いや、ンな時間に来てもらうの悪いんで。
ミウさんさえよけりゃ迎えに行かせてください。
県庁前の駅っすよね?バイト先の最寄り。
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To 斎木 佳也
Sub 無題
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いやいやいや!それこそ悪いから;
私が言い出したんだし気にしなくていいよ~
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From 斎木 佳也
Sub 無題
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別に構わねぇっすよ。どうせ暇してますし。
つーかうちの駅周辺、最近変なの出るらしいんであんま夜にひとりで歩かない方がいいっす。
バイクになりますけど迎えに行かせてください。あがるの何時になりますか?
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最後のメールの日付は今日の午前一時近く。
迷った挙句返信を先延ばしにして寝ちゃって、起きたら身支度だの実習の資料作りだので忙しくて……ってこれはただの言い訳か。ハイ、ちゃんと返信します。
でも甘えちゃっていいのかマジで迷うんですよ。やっぱ“ミウさんさえよけりゃ”って言ってるし。
「…………」
To 斎木 佳也
Sub 無題
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メール遅くなってごめんね!
閉店作業含めて21:30上がりなんだけど…マジで迎えとか頼んでも大丈夫ですかね?
あ、でも全然無理しなくていいから!変態でも痴漢でも逃げ切れる自信あるから!
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あー……かわいくねぇな、自分。いや、かわいいとかないわ。キモい。
「美雨、この定義を使いながらこっちを論じていくのってアリ?」
「んー? えー……ちょっと弱いかも。もうひとつくらい理由付けがほしいとこだけど……うーん」
「既存の用語じゃないから位置づけが難しいんだよね……」
「それ私の方でも同じ問題発生してるんですが」
「お互い微妙なとこ突いたテーマだしね」
自習室で並んでパソコンに向かいながら軽く溜め息。
泉は入るゼミ間違えたと思うよ……そのテーマほぼ社会心理じゃん。まぁ臨床にも引っかかってるけど。
私はがっつりゼミに沿った臨床系だけど、合宿でテーマの根底変えることになったし。正直この時期でテーマから構築し直しはきつい。でも道筋は立ってるからあとは気合で何とかやるしかないっつーかやる。
「ねぇねぇ、泉さん」
「ん?」
「私、今日どうですかね?」
「……は?」
いきなり何って顔されて自分でも納得するしかない。マジいきなり何言ってんだ私。頭疲れてんなー……
でも確かに聞きたいんだけどさ、今日ちょっと戦に行ってくるから。戦闘服はきちっときめときたいし。
「化粧、服、おかしくない? 顔がおかしいのはデフォルトなんであしからず」
「だーから何でそういう……化粧も服も顔も変じゃないしいつも通りお綺麗ですよ。つーか今日もまた派手だね」
「いいっしょ、このワイシャツ半額だった」
「どこでそんなの見つけてくるの……それが似合うのっておかしいはずなのに」
ネクタイ代わりにスカーフを結んだド紫のワイシャツと、派手なベルトにショートパンツ、ガーターで吊ったニーソにベルトのついたごついパンプス。
今日も楽しく派手に。一般的に見て“ん?!”って感じでも似合ってりゃ何でもいいんですよ。
「つーかどんだけ美脚強調すればいいんですか東ヶ原さま」
「脚だけは自信ありますからーまぁ、スキニーにしようか迷ったんだけどね。あえて全体的にタイトにしてみた」
脚だけはそんじょそこらのお嬢さんに負けない自信あるよ?形も長さもかなりいい線いってる……と思うんですよ、一応他人からもそれなりの評価もらってるんで。
だから顔を見て残念な気分になるのを少しでも避けようと日夜努力してるわけで、でもどうにもなんないことはどうにもならんわけで。
「何……もしかしてデート?」
「いや? 告りに行ってくる」
「……わんもあ」
「告白しに行ってきます」
その瞬間の泉の顔はしばらく忘れない。
「なっ、なん、ど、だ?」
「えーと、佳也クンいんじゃん? 色々あって何か好きかもしんないとか思ったら向こうもそれっぽいってことに気付いてこりゃいくしかねぇ、みたいな?」
かなりはしょったけど、大体こんな流れです。
あー泉チャン?かわいいお顔が崩れてますよ?
「………え? 何で美雨が告白するの? 普通斎木くんからじゃないの? あんだけ美雨のこと好きで好きでしょうがないって視線送っといて何美雨に告白させようとしてんの?」
「………………は?
ちょ、何それ、初耳なんだけど、いつそんな視線きた?」
「あの翠星館に行く前の電車の中から既に兆候あったっつーの!!」
……マジで?
え、私すげぇ馬鹿じゃん。どんだけスルーしてんの。
絶対間抜けな顔してる私の横でケータイが震える。メール受信の長さだな……まさか。って返ってくんのは普通だけどさ。
From 斎木 佳也
Sub 無題
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逃げるとかそういう問題じゃないっすよ;何かあってからじゃ遅いんすから。
21:45くらいに駅の西口に迎えに行くんで、早く終わってもひとりで電車乗って来たりしないでくださいね?
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「超心配性……」
「何、斎木くん?」
「そう。つーか泉顔険し過ぎ」
「だって私の美雨さんが奪われる……」
「ほんとかわいいなーお前」
「何か嫌なことされたらすぐ言ってね? バット持って迎えに行くから」
ソフトで鍛えられた意外に力強い腕から、滲み出る殺意を感じる。
佳也クンのことをこれ以上話すのはやめよう。マジで殺られる。
そっから作業に戻って適当に喋りつつ何時間か。
バイトの時間に合わせて学バスに乗る私を見送る泉は、かわいくかわいーく笑って。
「落ち着いたら斎木くんに“菓子折り持って挨拶に来い”って言っておいて」
……それ、私がお前に“彼氏ができたらそう言え”って言ったやつですよね?
× × ×
From 東ヶ原 美雨
Sub 無題
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じゃあお言葉に甘えまさせていただきます!
この前露出狂に遭遇したばっかだから正直ありがたいわ~
でもああいう類は直接何かしてきたりしないから対処しやすいよ^^
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……いや、既に何かあった後じゃねぇか。
ミウさんに粗末なモン見せた奴、発見し次第半殺し。
To 東ヶ原 美雨
Sub 無題
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やっぱ危ないっすよ。
迷惑じゃなきゃバイト先まで迎えに行きますけど…
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ミウさんのバイト先、確か駅から近いロードショップだったよな。
あー制服姿見てぇ……けど閉店前からいたら俺こそただの変質者だ。
つーか俺うざがられてねぇか?すっげぇ迎えに行くってごり押ししてるけど……
やっぱ心配だし、もし“めんどくさい”で痴漢に触られてもスルーしてたりとかしたら、ってさすがにそれはねぇか。
「そういや一昨日のライブのアンケ集計みたんだけどさ~」
「……今回は変な項目入れてねぇだろうな」
「やだなぁ~あれはメルマガのアンケじゃん」
「何のやつだっけー?」
「あー確か“メンバーに身につけてほしいマストアイテム”だったか?」
ライブで全員同じ何かをつけようって話になってアンケート取ったはずだけど。
確か京介が変な聞き方して変な選択肢出したせいで相当アレな感じになったんだよな。
「一位はわりとまともだったよね~つまんなぁい」
「おれヅラはやだったー」
「あれ四位くらいだったろ……オレが勘弁してもらいたかったのは三位だな」
「………いや、普通に二位も有り得ねぇだろ」
一位『ネクタイ』
二位『むしろ半裸で』
三位『スカート』
四位『ヅラ』
五位『帽子』
以下五項目。
一位と二位がわりと僅差だったのが何より怖ぇ。
「まぁそれは次回のライブでやるとして~今回のアンケは普通のやつ。まだ集計途中だけどかなりいい感じだよ、『Black Tempest』。スペルの中でかなり上位に入る曲って書いてくれてる人がわりと多い」
「そりゃいい曲だもん! 俺も好きー!」
それは俺も嬉しい。恥を忍んでさらけ出した甲斐があった。
「“楽曲視聴できるようにしてくれ~”ってのもあったから、サイトいじりつつやろっかなって思って」
「したらメルマガは今回オレが発行すっか?」
「じゃあおれ次のフライヤーのデザインやるー!」
「……京介、残りのアンケート集計すっから貸せ」
めんどくせぇけど俺だけ何もやらねぇわけにいかねぇし。
空き教室でだらだらしながら、一昨日の反省会みたいなもんをして防音室が使えるまで時間を潰す。
音楽系のサークルはうちンとこだけじゃねぇからいつも防音室が使えるわけじゃねぇ。うちのサークル自体の枠が週にいくつかあって、午前だったり夕方だったりまちまちだ。まぁサークル枠っつっても最近は俺らが八割使ってるけど。
机に置いてたケータイが光って、鳴り出す前に開く。
From 東ヶ原 美雨
Sub 無題
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いや、バイト先から駅までマジ近いから大丈夫!
心配してくれてありがとね~
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そう言われたら引き下がるしかねぇ。あんましつこくして嫌われたくねぇし。
もう一ヶ月くらいミウさんに会ってねぇ。電話したのだってあの合宿の時が最後だし。
あー…会いてぇ。顔見てぇ、声聞きてぇ、触りてぇ……これ以上は考えんな、俺。
To 東ヶ原 美雨
Sub 無題
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じゃあ駅で待ってますね。
ところで話するってどっか適当な店でいいんすか?
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ずっと気になってたことを聞いてみる。何の話かわかんねぇけどその辺の道端で済ませる感じじゃねぇのはわかるし。
「東さん?」
「……おー」
「よく続くねぇ~メール嫌いなのに」
「そーそー! 用があったら即電話じゃん、佳也って」
「……すぐ電話なんかしたら迷惑かかんだろ。アズマさんだって都合あんだから」
「いっそ清々しいくらいの対応の差だな……」
「俺らはもちろん彼女のメールすらほとんど返さなかった過去のお前はどこに行ったの?」
酷ぇ奴みてぇに言うんじゃねぇよ。ちゃんと用がありそうだったら電話かけてるし、大体あれはちゃんと付き合う前に言ってあったからいいじゃねぇか。“メールとかほとんどしないし用があるんだったら電話で”って。なのに何かあったらすぐメールメール……女って謎だ。
From 東ヶ原 美雨
Sub 無題
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場所はどこでもいいんだけど、できればふたりきりになれるとこがいいかな~なんて。
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ガッ、カシャン……
「ちょ、古典的~」
「ほら、ちゃんと持てって。また何かあったのか?」
「あー、いや、うん……」
ワンバウンドして落下したケータイを健司が拾って机に置くのを見て、ディスプレイが閉じてるのに安心した。あと三秒したらもっかい見よう。何か目が疲れてんのかもしんねぇ。
「佳也何かリアクション芸人みてぇー」
「だったらもっとおおげさにやってほしいかも~」
「……そういうのは正十郎担当じゃねぇか」
「確かに。あいつカルチャーショック多過ぎだよな」
時代錯誤っつーか……あいつはマジで武士だ。平成なのにひとりだけ江戸を生きてる。そのうち自分のこと“拙者”とか言い出さねぇか会った時から十年以上観察してんだけど幸運なことにまだその兆候はない。
けど“まったくけしからん!最近の婦女子は……”とか言った時は年齢を疑った。けしからんなんつぅ同世代を俺は認めねぇ。
ケータイを開き直して、画面と目に異常がないのを確認。
くそ、何だこれ。試されてんのか?いくらなんでも勘違いすんだろこの文面。
To 東ヶ原 美雨
Sub 無題
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じゃあ俺のマンション来ますか?
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……かなりの賭けだ。これで普通にオッケーだったら嬉しいっつーか色々心配になる。
簡単に夜、一人暮らしの男の家にあがるなんて“食ってください”っつってんのと同じじゃねぇか。他の奴にも言ってんのかよ。あーマジ大丈夫かあの人。
五分後、送られてきたメールに俺は頭をどっかに打ち付けたくなった。
From 東ヶ原 美雨
Sub 無題
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佳也クンさえよけりゃそれでお願いします^^
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小一時間くらい説教してもいっすか、ミウさん。




