10 もうオチてたんだから
「俺、人生で初めて本気で死にたくなった」
「うわ、佳也すっげえひでー顔!」
「童貞の失敗みたいなことしちゃったしね~」
「その、なんだ……佳也。そんなにヘコむなよ、な?」
ヘコんでねぇよ。自分のアホさ加減に嫌気がさしてんだ。
――大袈裟じゃなく一睡もできなった。
あんだけぶちギレられたのに、全っ然忘れらんなくて。そん時はぶっトんでたのに記憶は別のメモリーに入ってたみてぇに気持ち悪ぃくらいしっかりしてる。
喘いでるみてぇな息とか、苦しそうに呼ばれた名前とか、やたら柔らけぇ唇とか、煙草の味がすんのに何でか甘ぇ舌とか、絡んだ細ぇ指、とか……
ガンッ!
「……っ」
「昨日今日とドM街道まっしぐらだね」
「かーやー戻ってこーい……」
「…………京介、タオル」
投げ渡されたタオルを片手に洗面台へ直行。思いっきり最大まで捻った水を頭から被った。
「やー遅過ぎる思春期って感じ? 佳也にもやっとそういう相手ができたのね~」
「でもちゅう止まりじゃん? そこまで持ってっといて何でヤらねーの? ゴムやっぱ入んなかった? あ、佳也ナマ派だっけ?」
「あ、昭! げげげ下品だぞ?!」
「俺らがいなかったらヤってたかも~ってそれもないか。東さんマジギレだったもんね」
「え、何、佳也そんな下手だったの?! 意外ー!」
下手じゃねぇよ。……と思いたい。
いや、待て。そういやアズマさん、ほとんど舌絡めてくれなかった……?下手だったからか?早く終われよとか思われてた、とか?
あー……酷ぇ失敗どころじゃねぇマジしにたい。
「かーや。今日お前わかりやす過ぎ。昭もあんま佳也いじめないでよ~今だったらお前の言葉鵜呑みにするから」
「え? おれいじめてた?! ごめん佳也……」
「……いや、別に構わねぇけど」
素で空気読めねぇ奴だけど馬鹿正直で素直。
あえて空気読まねぇ腹黒京介とは大違いだ。まぁ京介も適当なとこで打ち切るのうまいけど。
しおしおになって謝ってくる昭を見ると何か色々どうでもよくなる。やっちまったもんはしょうがねぇ。
濡れた伸びっぱなしの前髪を掻き上げて軽く溜め息。
「まぁとりあえずメシ食いに行こうぜ? 何か腹に入れりゃあちったぁ元気も出んだろ、な?」
「……おー」
「メシッメーシー!」
「絶対魚ばっかだよねぇ。さすが海辺って感じ」
いつも通り健司がまとめてぞろぞろ部屋を出る。旅館と民宿の間って感じだよな、ここ。
薄暗い急な階段を降りて、エレベーターで降りてきたおっさん達の後に続いて食堂代わりの広間へ。部屋の名前がかかれた札の席に着いて何気なく奥を見た瞬間、軽く息が止まった。
「やっぱ海辺だと魚おいしいよねぇ、アジ最高」
「おいしいけどちょっと量多くない? 朝から重い……」
少しだけ離れた席に、浴衣のまんまの三人組。
喋りながら湯呑み持ってるふたりの奥で俯いて魚を崩してんのは黒金ツートンの、当たり前だけどアズマさんだ。
髪を耳にかけてからゆっくり箸を口に運ぶ。たったそんだけなのに朝っぱらからエロいって言葉じゃ済まされねぇくらいの色気を放ってる。いや、朝だから尚更なのか?まさに“けだるい”って言葉が似合う。
「…………」
「佳也何見てんの? あ、東サン達!おっはよー!」
昭がぶんぶん手ぇ振ってここにいるよアピールする。ちょ、声でけぇよ。広間中に聞こえてっから。
智絵さんが振り返って笑顔で手ぇ振ってくれて、間をおいてから泉さんが何となく頭を下げてくれる。
――けど、アズマさんからは何の反応もなかった。
箸の運びを止めることもなく、普通に食事を続けてる。聞こえてねぇ、なんてことねぇはずだ。じゃあシカト……か?
「あれ? あずまサーン! おはよー!」
………………無言。
何で、昨日は普通に話してくれてたのに。俺が変なことしたからか?俺が……
呆然とする俺らに智絵さんが小走りで寄ってくる。
「アレ、気にしないでねぇ。半分寝てるだけでシカトとかそんなんじゃないから。酒入った次の日はいつも覚醒まで時間かかるの」
「あ、はい…」
「昭くんもごめんね~せっかく挨拶してくれたのに。飴あげるから許してあげて?」
「おれ別に気にしてねぇから平気。あんがと!」
餌に釣られてんじゃねぇよ昭。
詳しく聞く前に智絵さんは昭の頭を撫でてさっさと席に戻っていった。アズマさんと言い、何かこういう奴の扱いに慣れてんのは何でだ。
「マジでシカトかと思った~よかったね、佳也」
「あー、まぁ……」
「二日酔いってわけじゃなさそうだし、ばっちり目ぇ覚めたらおはようのちゅうくらいしてくれるでしょ」
「…………誰に?」
「そりゃお前に」
「……は? ねぇよ。付き合ってねぇし」
「…………………はぁ?」
智絵さんが言ってた通りアジの開きは美味い。女が食うにしちゃあ多いのかもしんねぇけどこれくらい食わねぇと持たねぇ。
「や、えーと佳也クン?」
「んだよ」
「あんだけ濃厚なベロチューかましといて、君らお付き合いしてないんデスカ?」
「しつけぇな。付き合ってねぇつってんだろ」
――告ってもねぇんだよ。お前らが出てきたせいで。
マジでタイミング逃した。あんだけキレられて全員集合した後なんかに告れねぇし。だから今日改めて……
「……っこのヘタレ!! ムッツリ魔人! 順番おかしいお前おかしい!」
「うるせぇよ。テメェにだけは順番がどうたら言われたくねぇ」
好きとかすっ飛ばして即ヤるくせに。出待ちしてる女引っかけんのいい加減やめろ。
「かっ佳也! オレはあれが合意の上だと思ったから止めなかったのに……ロクデナシ!」
「え、何、何、セフレになったの?!」
「…………合意の上だしセフレじゃねぇ。いいから黙って食えクソ野郎共」
久々に怒鳴りそうになるのを抑えながら吐いた俺の声に、会話がひとまず打ち切られる。
「……マジでどうすんの? 俺ら今日チェックアウトするんだよ?」
「…………朝メシ食い終わったら行く」
「まぁ……うまくいくことを祈ってあげる」
「お前に祈られると失敗しそうだからやめろ」
「じゃあ俺が祈る! えっと、佳也と東サンがくっついて無事エッチできますように……」
「それは祈るな」
「お前らほんっと、広間でやめてくれ……」
健司もいい加減耐性ついてもいいんじゃねぇ?こんくらいでよく赤くなんな、顔。
メシ食ってる間も俺の目は薄気味悪ぃくらいにアズマさんを追う。
寝ぼけてんのに箸の使い方完璧。綺麗な食い方すんな。って今普通に指使った。滑んのはわかるけど……あ、小鉢泉さんの膳に追いやった。漬物嫌いなのか。泉さん普通に小鉢引き受けて食ってっし。量多いんじゃねぇのか?つーかアズマさん、蓋開けて結構経ってんだろその味噌汁。何回息吹き掛けてんだ、どんだけ冷ましゃ飲めんだよ。何あのやたら可愛い生き物。あー何かもう、
「飼いてぇ」
「かッ?! かかか佳也?!!」
「じっくり視姦した後に出てくるのがそれとは……お見それしましたドS先生」
……俺声に出してた?
つーか飼いたいって何だ。ド変態も大概にしろよ俺。
「うるせぇ。つーか京介食うの遅ぇよ」
「お前らが早いんだよ……って何で一番よそ見してた佳也が食べ終わってんの。おかしくない?」
「見ながら食ってたに決まってんだろうが」
「すっげーよ。手元全っ然見ねぇで魚解してたし!職人芸!」
「何の職人だよ」
「き、器用だな、佳也」
……健司の湯呑みがカタカタしてんのはさっきの変態発言が尾を引いてんのか。
でけぇ図体のわりに物凄い綺麗に食べる健司とは正反対に、汚く食い散らした昭の膳。もう大学生になるっつぅのにこれはねぇだろ。
「……昭。お前どうやって魚崩した?」
「ん? 真ん中からほじくった」
「おいおい……ひでぇなこりゃ。スプラッタかよ」
「じゃあ健司やってみろよ!」
「はいはい、今度な」
親か。つーかやってやったら意味ねぇだろ……ってこれじゃ俺も立派な親じゃねぇか。
溜め息をついて、視線は勝手にもう一度奥の席に。
「……あ?」
いねぇ。
さっきまで普通にまだ食ってた、よな?
奥の出口にぱっと目を向けた時には赤い浴衣の端っこが消えてくのしか見えなかった。
声も聞けなかった。こっち見てもくれなかった。
全くの他人だったら、昨日までだったら、当たり前のこと。それがやけに苦しい。
――好き過ぎて病気になりそうだ。
何か頭おかしい、俺。
「……斎木くん」
ぼけっとしてた俺に聞こえるかどうかってくらいのトーンで声がかかる。高校の女子くらいしか呼ばない名字に顔を上げると、不機嫌そうに顔をしかめた泉さんが腕を組んで俺を見下ろしてた。
「ちょっと、出れる?」
俺より頭一個以上背ぇ低いのにやたら威圧感がある泉さんに続いて広間から出る。京介達にも普通に聞こえてただろうし、別に声かけることじゃねぇだろ。
廊下に出て離れの方に行く通路まできたとこでやっと泉さんがこっちに振り返って。でも顔は険しいまんま。
「あのさ、朝からこんなこと言いたくないんだけど……何で昨日あんなことしたの」
「あんなこと、って……」
「まさか酔った勢いとかじゃないよね」
何か返す前にひんやりとした視線が一段ときつくなって。
「もしそうならすぐ東に謝って二度と顔見せないで。
東はあんま気にしないから簡単に許してくれるだろうけど、もし遊び半分ならあたしは個人的にあんたが許せない」
この人、本気でアズマさんのこと大事に思ってる。それが簡単にわかるくらい泉さんの目は真剣だった。
「……遊びなんかじゃねぇし、あの人は遊びで手ぇ出せるレベルの人じゃないです」
「ッだったら!」
苛々した感じで泉さんの声が跳ね上がる。
「何で……何も言わないでキスなんかしたの。ややこしいことしたね、あんた」
「昨日は馬鹿みてぇに焦って言えませんでした。それは自分でも反省してます。今日改めてちゃんと言うつもりです」
「……悪いけど、どんな告白しても東は頷かないよ。ていうか多分信じない」
……え?
「あの後飲み直した時に話聞いたけど、東は“セフレか浮気相手の候補にされた”って思ってるよ」
「何、それ……有り得ねぇ」
セフレ?浮気相手?
アズマさんをンな相手にするなんて考えらんねぇ。むしろ俺がそのポジションなら近づいていいって言われたら喜んでそこに置かせてもらうくらいだ。
「しかも“別に構わないけど”だって。
斎木くん、あんた死ぬほどわかりやすいよ。ほんとどんだけって感じに東に視線寄越してくるし、うちらと東とじゃ全然テンション違うし。それでも東は好かれてるとか特別扱いされてるって思わないんだよ。キスより先に言葉があればもうちょい違ったかもしれないけど。
智絵に言われなかった? 東は相当変わってるって」
『そっかぁ。あの子相当押されないと気づかない性質だから気をつけてね?
鈍いんじゃなくて好意を向けられてるって可能性を最初に潰しちゃう変な思考回路の持ち主だから』
キスしたのは“好き”だから。その理屈が真っ先に潰されて、残ったのはキスするのは“ヤりたい”から?有り得ねぇだろその思考回路。
――有り得ねぇけど、アズマさんはそう思ってる。
俺はとんでもねぇ最大級の失敗を犯した、らしい……
「これもあんま言いたくなんだけど……あたしの聞いた話だとね、ある人が毎日のように東に告白して、東がそれを信じるまで半年かかったってのもあるんだよ。その人は結構なモテ男だったからね、“まさか自分のこと好きなわけない”って決めつけてたんだって。“告白は多分挨拶代わりだ”って。
ねぇ、東はあたしが言うのも何だけど相当ズレてるし面倒臭いよ。それでもあの子のこと好き?」
……好きに、決まってんだろ。
変だし確かにめんどくせぇ思考回路してっけど、もうどうしようもねぇとこまできてんだよ。今更なかったことにできねぇ。
「――俺は、アズマさんが好きです。
笑ってほしいし、名前知りてぇし、呼ばせてほしい。もっとアズマさんに近づきたい」
「……それ、昨日のうちに本人に言ってほしかった。面倒なことしてくれちゃって……」
「すみません」
「まぁ、一応あんたなら応援してあげてもいいから。東が気に入ったって言うくらいだし」
「あ、りがとうございます」
「ただあの子が一度でも嫌がったらあんたはあたしの敵。わかった?」
「はい……」
顔に似合わず随分はっきりした人だ。
わざわざこんな忠告しにきてくれるんだからこの人も優しいんだろうけど。いや、これはどっちかって言わねぇでもアズマさんのためか。
俺の現在位置は多分“お気に入りクン”。
そっからどうやって“特別”まで這い上がるか。
「東がこんな短時間で男の人を気に入るなんて本気で滅多にないんだよ。寄ってくるのは癖の多い変なのばっかだし、あの子嫌いな相手じゃなきゃキスまでは拒まないから勘違いさせるのも多いし。お人好しっていうか……ズレてるんだよ」
『しよっか。
おいで、佳也クン』
あの時拒まれなかったのは嫌われてないから。
普通に考えたらおかしいだろ。何で特別好きでもねぇのにキス許すんだよ。けどそれが嬉しいと思ってる現金な俺もいるわけで。
「……お肉先輩と浅野は嫌ってるんですか?」
「そりゃデブと偏屈野郎はね。って何で知ってるの」
「電車の中で聞こえて……後は京介から」
「呼んだ~?」
ズザザァッ!!
……今、有り得ねぇくらい泉さん引いた。
「………何してんだ京介」
「だって~佳也中々帰ってこないんだもん。心配で捜しに来ちゃった。あ、何話してたかは聞いてないんでご安心を」
「…………」
女が好きそうなきらきらした笑顔の京介に見られて泉さんの顔が強張る。
何だ?もしかして男苦手とか?だったら京介より俺のが駄目そうだけど……こいつ若干女っぽい顔してるし。
「………………あの」
「はい?」
「大股で十歩程下がってくれます?」
「……ハイ?」
「後、目線合わせないでください」
「…………えーと」
こいつ見て顔赤くして避ける女は見たことあるけど、顔青くして化け物見たみてぇな反応する女は初めてだ。
京介がマジで困ってんの見るのも久しぶり。
一歩。京介が寄る。
二歩。泉さんが下がる。
二歩。京介が更に寄る。
五歩。泉さんが大股で下がる。
「あのー…俺何かし「…な」はい?」
「……寄るなっつってんだろこの鑑賞美形!! 今すぐニトロ飲んで爆発しろ!!!」
……………は?
京介が固まった隙に脇を走り抜けてって充分距離をとられる。
「美形は鑑賞! 近付くなんて言語道断! そこのクソ王子もそうだけど斎木くんもだから。不用意にパーソナルスペースに侵入しないで。その面だと公共距離くらいじゃないと耐えられないから以後充分注意するように」
何だそれ。
とは聞けねぇ雰囲気と妙な迫力にとりあえず頷いておく。
「あ、ハイ、すみません……?」
「じゃああたし部屋戻るから。東多分寝てるから来ても無駄だよ。チェックアウトまでに何か対策はしとくって智絵が言ってたから余計なことしないでさっさとサーフィンなり素潜りなり行ってきて」
「……わ、わかりました」
さすがアズマさんと智絵さんの友達……強ぇ。
颯爽と角を曲がって消えていく泉さんを見送って、俺も部屋に戻ろうと一歩目を踏み出す。
「……ンだよ京介。離せ」
何間抜け面してんだ。つーか動くか離すか何かしろよ。部屋戻れねぇだろ。
「ねぇ、佳也」
「あ?」
「俺、女の子にあそこまできついこと言われたの初めてなんだけど」
「お前いつもちやほやされてっからな」
「やばい。きゅんきゅんキた」
「…………は?」
振り返って、悦に入ったキモい顔が視界に入った。
「あぁ……何かもっと虐げてくんないかな、泉さん」
「………………」
何か目覚めちまったんですが、この男。
× × ×
――チェックアウトの時、アズマさん達はもう翠星館にはいなかった。
何となくそんな予感はしてたからか、特に寂しさも痛みもなかった。
「失礼致します。お客様の中に斎木様はいらっしゃいますか?」
「……はい、俺ですけど」
三人に先に行ってろと手で示してひとりでフロントまで戻る。
「ピアス落とされてはおりませんか? 届けてくださった方が斎木様のものだとおっしゃっていたのですが……」
「あ」
言われるまま左耳を触って、はじめてピアスがないことに気付いた。
落としたことすら知らなかった。どこでだ?つーか誰が……
「お若い女性の方でしたよ。ピアスとご一緒にこちらも預かっております」
「……ありがとうございます」
シルバーの小さいピアスと折り畳まれたメモ用紙を受け取る。
気のせいじゃねぇ。ほんの少しだけあのにおいがした。紙に移るってことは多分香水。
柄にもなく緊張して震える手でそれを開いて。
【昨日のソファーんとこにピアス落ちてたから拾っといた。もし違ってたらごめんね。キャッチは見つかんなかったからとりあえず私ので代用しといた。
090-****-****
------------@****.ne.jp
東ヶ原 美雨
人前で名前呼んだら蹴り倒す】
普通の女っぽくねぇ、縦長で右上がりの若干癖字。
このメモ用紙、何があっても絶対捨てねぇ。家が火事になったらまずこれ持って逃げる。
「美雨、ミウさん……可愛い名前」
だから隠してたのか。その隠してるってこと自体が可愛いのに。
――癖が強くてめんどくせぇ頭してるけど、どうしようもなく可愛いくて綺麗でかっこいい人。
どこに惚れた?なんて俺が聞きてぇよ。
初めて見て、声を聞いた瞬間から、もうオチてたんだから。
「長期戦覚悟すっか……」
とりあえず半年は見ておく。どこまで縮められるかは俺の努力次第ってことで。
「佳也? お前置いてくぞ」
「おー」
「おれ助手席ー! つーかさっきの何だったん?」
「ピアス。風呂場に落ちてたって」
「落とし物なのに何で名指し~?」
「知らね」
知ってんのは俺だけでいい。わざわざお前らにミウさんのこと教えるほど俺の心は広かねぇし。
帰ったらまずアドレス登録して、メール作って。それから風呂入ってもっかい文章確認して送信する。
そんな自分を早速想像してみて、軽く吹く。
――これじゃ世間の恋する乙女と変わらねぇよ、馬鹿か俺は……まぁ、馬鹿でもいいけど。
NEXT 第二章 ナナシの店




