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第六章  1994年2月


第六章  1994年2月



「親父、土地を買うからちょっとまとめて金を送ってくれよ。」

 靖之が国際電話をかけた。

「何だ、何だ。どうして土地なんか買うんだ。」

 親父がビックリして聞きただした。

「いいじゃんか、安い土地が有ったから買いたいんだ。そしてもう手付け金を

入れちゃったからね。800万円ぐらい送ってくれよ。契約書を見たいんならそっちへ送るからさ。でも英語だからな。」

「お前は何考えているんだ。勉強するって言ってたんじゃないのか。」

 親父の心配そうな声が聞こえる。

「何いってるんだ。これも経済の勉強だよ。安い土地を買って高く売る。どこが悪いんだよ。」

 靖之は、うっとうしいなと投げやりに返事を交わした。

「判った。ところで何坪買うんだ。」

「坪?ちょっと待ってくれよ、計算するから。」

 靖之は計算機を取り出して計算した。

「坪に直したら、約12万坪だよ。」

「何だって、馬鹿も休み休みに言え。12万坪の土地が何で800万円なんかで買えるんだ。」

「いいじゃん。買えるんだから買ったんだ。まぁ心配しないで金を送ってくれれば良いんだ。判った?頼んだよ。」


 それから2ヶ月が過ぎたある日。

「親父、小遣いやろうか。」

 靖之が電話で言った。

「ははは、どうしたんだ、お前が俺に小遣いをくれるなんて。」

 全く信じない様子で親父が返事を返した。

「まぁね、この間の土地を売ったからねぇ。とりあえず親父から借りた800万円は振り込んだから。ちょっと銀行を確認してくれるかい。」

「あぁ、あれはお前だったのか。銀行から言ってきて何の金だって言うものだから、そんなの知らんって言ったところだ。」

「親父、1000万円ぐらいやろうか。」

 靖之が自慢そうに言った。

「なんだって、1000万円を俺に小遣いとしてくれるってか。」

 親父がビックリして聞き直した。

「明日、銀行から振り込んでおくからな。」

「待て待て、おいその土地を幾らで売ったんだ。やばい事をしたのじゃないだろうな。」

 親父が慌てて聞きただした。

「何言ってンだい。売れて儲かったってだけだよ。馬鹿な日本人がいて、土地を見に行くのにヘリを2回チャーターして大げさに見せたんだ。でっかいリムジンに乗せたりしてさ。値段は1億円って言ったら値切りもしないで買うんだ。馬鹿だよなぁ。なんにもやばくはないぜ。100円のリンゴを1000円で売ったようなもんだ。」

 靖之がくだらない事を聞くなとでも言うように言葉を吐き捨てた。

「そうか、靖之でかした。オーストラリアでそんな商売が出来るのなら金は幾らでも送るからどんどんやれ。」

 親父が電話の向こうで感激して言った。

「判った。じゃぁ、またそんな土地を探してきて買っておくから、馬鹿な客を送ってくれよ。なかなかこっちへ来る人間だけじゃ、そんなに美味い話は数多くは出来ないからなぁ。」

「よし、わかった。金の余っている人間をわんさか送ってやるよ。金が必要なら幾らでも出してやる電話をしてこい。そのお前がくれるという1000万円も土地を買うのにつかえ。」

 親父が随分と乗り気になって話した。

「うん、でもとりあえずは送るよ。まぁこれが儲けの証拠見たいなもんだからな。それより、アパートじゃ仕事がしにくいから、いっそのことこっちに別荘を買わないか。そうしたら事務所兼にして使えるンだがなぁ。親父もたまにこっちへ来て羽根を伸ばせるしな。丁度良い売り物があるんだ。本当は俺が今度の儲けで買おうかなと考えていたんだけどな。」

「おっ、それもいいな。この前、靖之が大学行く間だけでも向こうに家が有ったら行けるのにって、母さんが言ってたところだ。それは良いところか?」

「そりゃぁ俺が気に入ってるんだから。新築で土地は300坪ぐらいだけど家がでかいんだ。まぁゴールドコーストは値段も高いけどな。」

「よし判った。それを買おう。金は幾ら送れば良いんだ。」

「じゃぁ、買っておくか。8000万円だけど、登記費用や弁護士の費用、それに家具なんかも買わなくっちゃならないから9000万円程送ってくれよ。契約はこっちでやっておく。契約書と写真は来週にでも送るからな。」

 言ってから靖之は返事も聞かず電話を切ってしまった。

「よし、又々一件落着だ。さて、基地が出来るとこれからやることがたくさんあるぞ。」

 靖之は受話器を置くと同時につぶやいた。




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