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第五章  川底探索

この章で、白骨死体を発見し、いよいよ事件へと入って行きます。お楽しみください。


第五章  川底探索



 2006年の末も押し迫った頃だった。香山氏を真似て始めた川底恐竜化石探索だが、同じ場所で作業をする事ではまずいだろうと考えた小野原勉は、香山氏が現在探索を続けているコンダマイン川を外し、一番大きな支流で、最後にはコンダマイン川に合流するウイルキー・クリークの探索を選び、既に半年が過ぎた。

 12月に入って来週はもうクリスマスと言う17日。この日もウイルキー・クリークの未踏査川底を歩いた。その帰路、支流に迷い込んだ。幸いにも100メートル程歩いた所で気が付き、本流を求めて帰る段階で、ふと周囲の景色と少し違った感じを受けた。

 何だろうと川底の砂を足で蹴って見るとさびたトタンの端があらわれた。

 大きなトタンだった。

 その隙間から丸く白い物が見えた。

 大雨で化石が流れてきて更にその上にトタンが流れ被さったのかと少しそのトタンを持ち上げてみた。上に被さった砂はたいして多くはなかったのかトタンの上をサラサラと流れ落ち、難なくトタンを取り除く事が出来た。

 そこで小野原勉は息を止めた。

 その下に横たわる白骨死体を発見したのだった。

 小野原は持参のデジカメで現場を詳細に撮影したのち、側壁をよじのぼり周辺に家は無いかと探した。すぐそばに物置小屋が目に入ったが、そこから500メートル程離れた所に緑色の屋根が目に映ったので、電話を借りるために向かった。

 

 それから15分後、待ちくたびれた頃になって1台のパトカーがやってきた。小野原勉は第一発見者として警察に立ち会わされる前に香山氏にも連絡をした。

「香山さん大変な事になりました。今日もウイルキー・クリークの探索をやっていたのですが、そこで白骨死体を発見してしまったのです。今から警察に立ち会って現場検証をするのですが、ちょっと通訳に来てくれませんか。」

「なんですか。びっくりしたなぁ。それは恐竜じゃ無くて人骨なんですか。」

 香山もビックリして答えた。

 その後電話主に代わり、電話主は住所と道順を香山氏に教えた。10分程で香山氏も押っ取り刀で駆けつけてくれた。既に警察官と小野原は現場へと行っていたが、電話主が香山を待っていてくれ、現場へと同行をした。既に周辺にはテープが張り巡らされていた。数人の警官と話している小野原を見つけたので香山氏も側壁を下った。

「どうも遅くなりました。何事ですか。ビックリしましたよ。」

 香山の言葉に小野原が振り向いて

「まぁねぇ、わたしも実はビックリしているのですよ。こんな所で事件に遭遇するなんて考えてもおりませんでしたからね。化石でも有るかなとひょっとトタンをめくってみたらこれですからねぇ。」

 と言った。

 警察官が闖入者に目を向けたので香山は彼等の方へと行き、挨拶をしている。その間、小野原勉は持ち前の職業意識を芽生えさせたのか白骨死体の横へと行き座り込んで観察を始めた。


 川の側壁の上には別に2台のパトカーが到着した。殺人課のジェイソン課長が車から降り、川の上から現場を俯瞰した。

「おい、あれは誰だ。」

 張り巡らされたテープの内側で頭蓋骨の陥没状況を観察している小野原を指さして横の警官に聞いた。

「発見者は日本人と言っておりましたので、たぶん、第一発見者でしょう。」

「そんなことは判っておる。必要以上に興味を持つ第一発見者。あれは絶対に黒い」

 と言いながらジェイソン課長も側壁を下り始めた。


 頭蓋骨陥没。顔面、顎、歯などが完全に破壊されている。高級背広のネームも切り取られている。これは身許隠しの為だ。死亡推定日時はおよそ1年かな、小野原勉が考えている所へ、ジェイソン課長が近づいて言った。

「おい、お前は何をしている。」

 後ろから言われ、肩に手を置かれたので小野原がビックリして立ち上がった。

「わ、わたしの名前は小野原勉。第一発見者だ。」

 と小野原勉が英語で言うのだが、急に声をかけられたものだから言葉も少しどもり、意味が通じていないらしい。

「香山さ〜ん、ちょっとお願いしますよ。この人の言ってる事が判らないし、わたしの言うことも判ってくれないんですよ。」

 小野原が香山に向かって叫んだ。

 早速、香山が駆けつけてくれてジェイソン課長に説明をしてくれた。

「ところでお前は何だ」

 とジェイソン課長が香山氏にも言った。

「わたしは数年前からこの地区で恐竜探索をしている者で、この小野原勉さんは弟子のような立場の人です。」

 香山が言うのを、ジェイソン課長は口をへの字に曲げて聞いていた。何しろ香山の頭一つ分は背が高く、親父からどやされている子供みたいに見える。

「よし、判った。それにしても何故そんなにお前は出しゃばって骨を見ていたのだ。」

 今度は小野原に向かって聞いた。

「香山さん、きっとこの人はわたしが元の職業意識でこの白骨死体を見ていたので、私達の事を犯人だと考えているのですよ。ちょっとわたしの元の職業を説明してやってください。」

 小野原は内心、失敗したなと思いながら香山に言った。

「どうして、我々が犯人になるんです。」

「まぁそう言わないで、警察ってところは、誰を見ても犯人と思えと教育されますし、第一発見者と言うのは必ず一番に疑うのが鉄則なんですよ。ましてわたしはちょっと出しゃばって見てましたからね。」

 口を尖らせて言う香山氏をなだめるように小野原が言った。

「そうなんですか、まぁ判りました。じゃぁちょっと説明します。」

 と香山が言って、ジェイソン課長に向き直り

「この小野原勉さんは今は退職しておりますが、2年前まで東京の警視庁で殺人課の刑事をしておりました。」

 と言った。

 ジェイソン課長は興味を持ったような顔に変わり、

「そうか、それならあれだけ詳細に白骨を見ていたのだから判るだろう。死亡推定日時はどのくらいだと思うか?」

 とテストをするように聞いた。

「まぁ、今年は雨も降らなくて表面を雨で洗われたと言う事も無いし、波板トタンで覆いをしていた状況から考えて約1年程を経過しているでしょう。」

 と答えた。香山氏の通訳を聞いていてジェイソン課長はうなずき

「死体の状況から、どの様な犯罪だと推測するのか?」

 と第二問を出した。

「後頭部に大きな裂傷が見られるので、これが致命傷になったものと考えます。凶器は損傷方向が左右に広がっている事から、手近に有った少し長めの木材か鉄材で野球のバットを振るように横殴りにしたものと考えられます。いわゆる背丈の高い人間が犯人像として浮かびます。その後、顔、顎、歯などの破壊をしたもので、身許を隠す為であろうと考える。」

 と答えた。

 聞いていたジェイソン課長は、今までの構えをくずし、

「良く判った。貴方は誠に警察官だ。」

 と言って小野原に握手を求めた。

 小野原勉は照れたようにそのグローブのように大きな手を握り返した。

「それにしても、失礼な奴ですね。折角届けてやった我々を疑うなんて。」

 彼等から少し離れたところで香山が小野原に言った。

「まぁ、香山さん。そうは言わないでやって下さい。彼は地元の警察官ですから、職務に熱心なだけですよ。さっきも言いましたが第一発見者が犯人だったと言う事件はたくさん有りますから。」

「それは判りましたが、我々のような純粋の発見者は気分を滅入らせてしまいますよ。」

「実際、日本でも警察に関与したくないという風潮が広がっているのは、こういう事から始まっているのかも知れません。でもやっぱり職業意識の方が優先してしまいますのでね。」

 小野原勉の言葉を聞いても憤懣やるかたないと言った香山であった。


 その後、再度発見時の詳細をジェイソン課長に説明をして二人は解放されて香山の山荘へと帰ってきた。

「まぁ気分を直して一杯やりましょう。」

 冷蔵庫からよく冷えたビールを2本出してきて小野原が香山に言った。



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