第二十六章 毛髪
第二十六章 毛髪
その後ジェイソン課長は小野原勉などと酒を飲んだ時に聞いたレンタカーに対して調査をしていた。
「課長。レンタカーが割れました。」
数日後、捜査課の一人の刑事が書類と共にデスクの前に来て言った。
「そうか、その車を調べてみたのか。」
「いえ、1年も前の事ですから何も出ないかと考えまして領置しての捜査まではしておりません。」
その刑事はジェイソン課長の問いかけに答えた。
「どうしてそう言い切れるのだ。トランクの中だとか床の下とかに掃除もしない所もあるだろう。もしかしたら何かが出るかも知れないでは無いか。すぐに手続きをとって領置しろ。鑑識には1年前と言う事を徹底させて調べろ。」
事件が迷宮入りになりそうなのを感じだしたジェイソン課長は少しでもの糸口を辿ろうと焦っていた。
その頃、香山と小野原の亀井靖之に対する執拗な追跡尾行が展開されていた。
「小野原さん、毎日毎日こんな事を続けて居ても何にも意味が無いんじゃないですか。」
ある日香山が小野原勉の家で夕食を揃って食べている時に言った。
「まぁね。尾行なんてのは昔からの方法で、古いと言われるのですが、これが一番効果的なのですよ。でも今日尾行を始めたからすぐにその結果が得られるかと言えば、余程のタイミングで無ければ得られません。だから、忍耐力のいる仕事なんです。香山さんは始めての事だからそろそろつまらなくなって来たのでしょう。今夜は僕だけで出掛けますから、香山さんはゆっくり休んでください。何かが有れば、携帯電話を鳴らしますから。」
その夜、出掛けた小野原も明け方にはつかれた身体をいたわるようにして、帰宅しベッドへと潜り込んだ。
「そろそろ、ダルビーへ帰ろうかと考えているのです。何か恐竜が呼んでいる気がするんです。」
香山が昼食時に小野原勉に言った。
「ははは、なるほど恐竜が呼んでいるんですか。さすが香山さんだ。じゃぁわたしも今週で切り上げていつもの生活に戻るとしましょうかなあ。」
小野原勉も成果の無い遊びを続けるよりも、趣味の成果を見つける方に気持ちを向け替えた方がより楽しい生活になると思い直して言った。
「済みませんねぇ。小野原さんの興味をうち砕くような事を言って。」
香山が恐縮して言った。
「いえいえ、実際わたしの興味は捜査なんかより恐竜ですからね。じゃ、今夜は豪勢にどこかのホテルのレストランで夕食を摂りましょうかな。いかがです。」
小野原勉が言った。
「そうですね。ダルビーへ行ったらうまい物は食えませんからね。たまには散財しましょうかな。ははは。そうだ、わたしは古くから住んで居たのですが行った事のないサンクチュアリーコーブのホテル。えーと、何と言う名前だったか忘れましたが、シーフードのうまいレストランがあるそうなんです。」
「そうですか、では今夜はシーフードをたらふく食って鋭気を養って、恐竜探索に備えますかな。」
香山の提案に小野原勉が同意して言った。
その夜、5時になって二人はホテルでの食事のために正装して出掛けた。
「サンクチュアリーコーブってところは結構遠いんですね。知りませんでした。」
小野原勉が車の中で言った。
「そうなんです。昔、わたしが入国したときにはまだ無くて、数年後一部が完成したときにフランク・シナトラを呼んで野外コンサートを開いたところなんです。勿論、聞きに行きましたよ。凄い人数の人が熱狂したのを覚えています。その後日本の会社が買い取って販売していましたが、バブルで会社はつぶれてしまったそうです。でもそれからでも新しい所有会社が開発を続け、今ではショッピングセンターやマリーナ、それにゴルフコースを2つも持つ大きな団地になっていますよ。毎年ボートフェスティバルがそこで開催されていて、何度か見に言った事があります。」
小野原勉は香山の説明をうなずきながら聞いていたが、なかなか想像が出来ない。
「そこの団地は入り口にゲートが有って、更にその前のロータリーに大きな警備員詰め所があるのです。何人かの警備員が24時間体制で見張って入場者の監視をしていますから最高の警備条件の団地なんですよ。だから結構有名人なんかが家を持っているそうです。確か日本の映画俳優なんかも買っていましたよ。」
香山の説明は続いていた。
「さぁ、着きましたよ。この進入道路からが目的地です。」
香山が言ってハンドルを右に切った。真っ直ぐの道がゲートへと続いていた。ゲートを入ると言われた大きなロータリーが正面に有り、ショッピングセンターなどへ行く車は左へと進む。そのまま真っ直ぐ行く道と、右へと行く道は住宅地へと続いている。それらの道には鉄製のゲートがあり、住人以外の進入を拒んでいるように小野原には思われた。車は少し坂をのぼりホテルの駐車場へと入った。
世界に冠たる名前のホテルだったので、小野原勉は高層ホテルのイメージを描いていたのだが何とそこはトロピカルスタイルに纏められた平屋建てのホテルだった。
「こんなタイプのホテルは初めてですよ。」
小野原勉が言った。
「わたしはグアムやフィージーなどで利用しますから違和感は有りませんが、日本では土地が少ないから考えられませんよね。」
香山は慣れた感じで小野原を先導しながらホテル内部をレストランへと進んだ。指定された席は大きな窓に面したテーブルだった。バイキングスタイルのレストランだ。窓から外を見ると煌々と灯りが灯された10面以上もあるテニスコートが一望出来る。色とりどりのミニスカートがはじけて楽しそうに踊っている。
「さて、まずは飲み物ですが、ちょっと豪華にワインを飲みますか。」
香山が聞いた。
「いいですねぇ。香山さん所へ行くようになってからワインの味を覚えさせて貰いましたからねぇ。」
香山はテーブルの横で黒色スーツに身を包み左手に真っ白なナプキンを垂らして待っているウエイターにワインリストから白ワインを選び注文した。
「来週からの恐竜発見に期待して乾杯。」
二人はワイングラスを持ち上げてにこやかに乾杯した。
「さぁ、料理を取りに行きましょう。食べ放題ですから料金分は食べないとね。」
香山が言って立ち上がったので小野原勉も続いた。
小野原が大きなエビをナイフで切り裂いているとき、香山がテーブルを指先で小さく叩いて信号を送って来るのに気がついた。指先で香山が後ろの席を指している。小野原がそろっと顔を廻して見た。そこには今朝まで尾行をしていた亀井靖之が誰かと食事をしていた。
「参ったなぁ。忘れようとしている時に会うなんて。」
小さな声で小野原勉が香山に言った。
「まぁ先方さんは我々の事を全く知らないのですから、しらん振りで食べましょうよ。これうまいですよ。」
香山が言った。
「そうですね。」
小野原勉は言ってナイフとフォークを動かし始めた。しかし、何かが気になる。ふと立ち上がって
「香山さんトイレはどちらですか」
と聞いた。
「えっ、あぁこの向こうですよ」
小野原は指さされた方へと歩き、背中を向けて食事をしている人物をちらっと横目で見てトイレへと向かった。
「香山さん。そろそろ行きましょうか。」
トイレから帰った小野原勉が席にも座らずに香山に言った。
「えっ、まだそんなに食べてませんよ。そうですか。」
香山が未練そうに皿を眺めて立ち上がった。
「どうしたんです。まだ払った金額分は食べてませんよ。」
駐車場で車のドアを開けながら香山が不満そうに小野原に言った。
「香山さん。ビックリしましたよ。幽霊を見たんです。」
小野原勉が小さな目を大きく見開いて言った。
「何ですって。幽霊。何を馬鹿な事を言ってるんです。どこで見たんです。」
香山が不審そうに言った。
車に乗っても考えを巡らせている小野原勉だった。
「おい靖之。お前が選んだこの団地は最高だぜ。こんなに足を伸ばせる所は俺には初めてだ。毎日毎日何かがおこらねえかとビクビクおろおろする世界から離れて、こんなにのんびり出来る事は俺にはもうねえものだと思っていたぜ。」
大船碇禎治が亀井靖之に向かって言った。
「まぁ親父さんも苦労したからなぁ。これからはゆっくりと魚釣りでもして楽しむこった。明日クルーザーでも買いに行こうか。」
と靖之が言った。
「いいねえ。だが誰が運転するんだクルーザーなんて。」
「そんなの簡単だよ。免許を取りなよ。」
「馬鹿言うんじゃねえ。英語だろう。俺が出来る筈ねえ事を知っているくせに。」
大船碇禎治が言った。
「俺が取れるようにしてやるよ。日本語ならいいだろう。まっ、試験の時も横にいてやるから。」
「そうか、そんなことが出来るのか。やってみるか。それもいいが買い物に行くにも不便があるから通訳の女でも探しておいてくれるか。」
大船碇禎治が好色そうな顔をして言った。
「判っているよ、親父がヨーロッパを楽しんでなかなか、こっちへ来無かったから探していなかったんだ。まぁ2、3日したら連れてくるよ。」
靖之が言った。
「お前、少し前に警察に引っ張られたんだってなぁ。」
大船碇禎治が声をひそめて言った。
「えっ、誰に聞いたんだ。誰も知らない筈なんだが。」
靖之が焦って言った。
「まぁそんなことは誰でもいいや。結局はどうなったんだ話を聞かせろ。」
「あぁ、仕事には関係無い事なんだ。俺が以前に家を世話したり、大学を世話してやった馬鹿息子の相談に乗ってやっただけなんだ。だが、それも問題が無かったんで警察はすぐ返してはくれたから親父には何も言わなかったんだ。気にするなって。」
靖之が最初の狼狽から立ち直って言った。
「まぁそれならいいけれど、ところでなんだあの日本人は、恐竜とかなんとか話していたなぁ。」
大船碇禎治が話を変えた。
「変なやつらだなぁ。こんな所へ恐竜を探しに来ているなんて。暇な日本人が居るもんだ。まぁ俺達には縁の無い人種だぜ。」
靖之も言葉を返した。
「そうだな。恐竜では儲けにもならないだろうし。まぁ典型的な小金持ちの日本人だろう。それにしても飯も食わないで出ていったぜ。」
「親父さん。気にする事なんか無いぜ。忘れろって。それよりか明日は昼過ぎに来るからな。クルーザーだよ。」
「おっ、そうだ。大きいのか?」
「俺も乗りたいから、スポーツタイプのでっかいのがいいなぁ。」
「よしよし、まぁお前に任せるぜ。」
「なにい。出たか。」
ジェイソン課長がイスから飛び上がった。
「はい、後部シートの後ろ、予備タイヤ収納ケースの付け根に一本だけ掃除に漏れた毛髪が被害者の毛髪と一致しました。」
担当刑事が息を切らせてジェイソン課長の部屋へと飛び込んで来て言った。
「よし、そのレンタカーを借りだした人間を徹底的に調べろ。ただし、本人には気づかれないようにな。」
ジェイソン課長の声と共にその刑事はまたもや風のように走り去った。
「ふふふ、見てろよ。今度は逃がさないぞ。」
ジェイソン課長がつぶやいた。
「何故だ。何故なんだ。どうして死んだ筈の人間があそこに居るのだ。あの白骨死体は別人のものか。」
あれから2日間、小野原勉は考え続けた。
翌日、香山の提案でダルビーへと帰り、本来の目的へと行動を移す話しになり、小野原勉はもやもやする心を抑えて香山の車へと同乗したものだった。
「そうだ忘れていた。顔だ。」
助手席で小野原勉が叫んだ。
「どっ、どうしたんです。」
香山がビックリしてくわえていたタバコを取り落としそうになって慌てて言った。
「あっ、済みません。思い出したのです。ずーと考えていた事がやっと霧が晴れました。」
小野原勉が言った。
「なんなのですか。ビックリするじゃないですか。何をおもいだしたのです。」
正常に戻った気持ちで車のハンドルを持ち直し、香山が聞いた。
「顔、顔ですよ。白骨死体の顔がつぶされていたでしょう。あれを思い出したのですよ。」
小野原がせき込んで言った。
「あれは当初、身許を隠すためにやった事だと考えたのですが、身許が割れた時点でみんなが忘れていたのですよ。そろそろダルビーに着くでしょう。ちょっと警察に立ち寄ってくれませんか。」
「えぇ、良いですよ。でも指も無かったし、ワイシャツの洗濯ネームからも殺された人物は特定出来たのでしょう。」
香山が聞いた。
「そうですよ。でも生きていたんです。殺された筈の人間が。だからあれは身代わりの人間の死体だったんです。」
小野原勉が説明したところで、車はダルビー警察署の前に着いた。
「へー、そうだったんですか。言ってくれないから小野原さんが病気にでもなったかなと心配しましたよ。」
香山が言いながら警察署のドアを押しかけたところで中から飛び出してきた刑事と鉢合わせをした。
「ソリー」と言葉を残してその刑事はパトカーに飛び乗って走り去った。
「痛いなぁ、なんだあいつ。」
香山が頭を押さえながら立ち上がってつぶやいた。
「ジェイソン課長に会いたいのですが。」
振り返ると既に小野原勉が受付で話をしていた。
二人がジェイソン課長の部屋へと通された時に、ジェイソン課長がつぶやいているのを耳にした。
「おう、小野原さんに香山さん。何か良いことでも有りましたかな。」
ジェイソン課長がさしのべた手を握って、小野原勉が言った。
「何か良い事があった様子ですね。」
逆に小野原勉が聞いた。
「そうなんだ。今さっき鑑識からの連絡で死体の毛髪と、レンタカーの中から発見された毛髪が一致したんだ。」
ジェイソン課長が言った。
「えっ、そうなんですか。それは良かった。良かった。」
小野原勉がジェイソン課長の手を握り踊るように感激して言った。
「どうしたんです。小野原さん」
ジェイソン課長がいぶかるように聞いた。
「我々も発見しましたよ。被害者はあの人物じゃ有りません。」
小野原勉が言った。
「えっ、ど、どういう事ですか。」
今度はジェイソン課長の驚く番だった。
「実は数日前にこの香山さんと、あるレストランで食事をしたのです。その横の席に今まで死んだ人物だと考えていた人物が食事をしていたのです。我々が犯人だと考えて追求したあの亀井靖之と共にね。」
小野原勉が説明した。
「えっ、どうも貴方が言っている事がわかりませんね。殺された大船碇禎治が生きていると言う事ですか。」
ジェイソン課長が聞いた。
「そうですよ。その人物が生きて堂々とレストランで食事をしていましたよ。」
「なんと、、、そうすれば我々は何を追いかけていたのでしょう。」
ジェイソン課長がガックリとイスに腰を落とした。
「まぁ、そうガックリしないで下さい。心配要りません。そのレンタカーの借り主を捕まえてください。それでこの事件は解決ですよ。まずは大船碇禎治が本当に生きているのかを調べてください。」
小野原勉に言われてしばらく、机を見つめていたジェイソン課長がはたと立ち上がってドアを開け、
「おい、イミグレ事務所に電話を入れろ。大船碇禎治が入国しているか調べろ。」
と捜査員室に残っていた刑事に命じた。
「小野原さん、確かにそれは大船碇禎治でしたか。」
「えぇ、確かです。」
横から香山が言った。
「そうですか、あなた、香山さんも確認しているのですか。」
ジェイソン課長がこんどはゆっくりとイスに腰を降ろした。
「課長。5日前にイギリスから入国していました。観光ビザです。」
先の刑事がドアを開けて叫んだ。
「やっぱり。」
ジェイソン課長は次の命令を待っているその刑事を追い払うように手を振って追い出し
「小野原さん、貴方はどうお考えですか。」
と聞いた。
「何を落ち込んでいるのです。事件は解決しましたよ。そのレンタカーを借りた人間ですよ。まぁ重要容疑者として引っ張ってきて吐かせれば簡単に判りますよ。そうそう、この香山さんは治安判事ですから必要なら逮捕令状の発給のサインをしてくれますよ。」
小野原勉は言って香山にウインクをした。
数日後、香山の山荘の広いテラスで寝椅子に身体をまかせて香山と小野原がビールを飲んでいたところにジェイソン課長がパトカーを運転して来て言った。
「その節はお世話になりました。御陰で100パーセント解決しました。」
「それはおめでとうございます。いかがですか、ちょっとビールでも飲みませんか。」
小野原勉がジェイソン課長と握手を交わしながら言った。
「おっ、いいアイデアですな。ここに座ってもよろしいかな。」
「どうぞどうぞ。」
香山がイスの上をかたづけてジェイソン課長を招いた。
「いやぁ、助かりましたよ。実際、小野原さんから聞かされなかったら、未だに死体と犯人とが結びつかなくて迷宮入りするところでした。」
香山がビールを手渡したところで、ジェイソン課長の回想録が始まった。
「実はあれからすぐゴールドコースト市警へと連絡して容疑者を拘束したのです。そこへわたしが出向き取り調べをしたのですが、捕まったことが嬉しかったようにしゃべりだしたのですよ。こっちがビックリした程でした。何の容疑で拘束されているかも話さない内からあれは自分の親父だと言うんですからねぇ。反対に真犯人がいてそれをかばっているのかと考えた程でしたよ。」
「へぇ、よっぽど、心の底で罪の意識があったのでしょうね。」
香山が言葉をはさんだ。
「そうですね。そうとしか考えられない事ですよ。」
ジェイソン課長もうなずいて回想録を続けた。
「担当刑事が彼の周辺事情を聞き込みましたら、かなり前から事務所も営業をしておりません。それにも関わらず金回りが凄いんです。我々から見て考えられないような金額をカジノで遊んでいたのですからなぁ。母親の経営するレストランは大して大もうけをしている風にも見えないので、銀行関係を調べてみると30歳程の男が手に出来るような金額では無い30億円もの預金を持っていたりで、追求したら親父の金を取り込んでいたんですな。まっ、これが発覚しないようにと殺してしまった訳です。」
「なるほどねぇ。うっかりと大金持ちにもなれませんね。そう考えればわたしなんか命拾いをしたようなものですなぁ。ははは。」
香山が小野原に向かって言った。
「所でジェイソン課長。あの死体が身につけていた衣服はどうなったのですか。」
小野原勉がジェイソン課長に向かって聞いた。
「あぁあれね。あれに関してもしゃべりましたよ。やはり我々が目を付けていた亀井靖之が提供したものでした。実際殺しのシナリオを考えたのも亀井靖之でした。熊谷征次はそれを忠実に実行しただけで、しかもその実行途中で交通事故を起こし、1000ドルを相手に掴ませた段階でそれに関しては終わっていたと考えた事が、命取りになったわけで馬鹿な奴ですよ。」
「それじゃ、小指の先が無かったでしょう。あれはどうなんです。」
「あれに関しては、やはり実行は征次でしたが、亀井から貰った携帯用の葉巻の先切りギロチンが有るでしょうそれで一気に切り落としたようです。勿論、証拠物件として確保はしております。」
小野原勉の問いにジェイソン課長が答えた。
「葉巻の先切りギロチンってのはどんな物なのですか?」
香山が聞いた。
「楕円形の先に斜めに歯がついたものを二枚重ね合わせて歯の反対側に指が入る程の穴があいており、人差し指と親指で挟み込んで真ん中の歯を噛み合わせて葉巻の先を切ると言うプラスチックで出来た道具ですよ。普段は手に入る程度のケースに収まっています。」
ジェイソン課長が手のひらに絵を描いて教えてくれた。
「へぇそんな物で指が切断できるのですか。」
「ええ実験はしていませんが、本人が言うには体重を乗せて押し切ったそうです。いわゆる大船碇禎治に見せかける為だったようです。頭を殴って殺した後、指を切断してその後、背広やワイシャツを着替えさせたようですな。殺害の第一現場は征次の弁護士事務所だったようです。小野原さんが言ったように野球のバットで横殴りにしたようです。そのご、土地の売買で土地勘があった亀井が道案内をしてダルビーの河川底に遺棄したものです。勿論亀井も殺人示唆と死体遺棄幇助罪で逮捕しました。」
ジェイソン課長が帰ったのち、
「ところで、どの時点で小野原さんは征次が殺した事に気がついたのですか。」
香山が聞いた。
「まず、最初に弁護士に会った時点です。わたしの前職を知った段階で急に態度を変えた。これは何か我々に知られては困ると言う事をしているなと感が働いた。でも実際はしようとしていた時期だったのですが。それに親父が行方不明になっているのを知っていながら届け出もしなかった。親父名義の預金を総て自分名義に書き換えていた。まぁそんなことを繋いで行けば、わたしで無くても誰でも判りますよ。そうそう、ついこの前ブラキオサウルスを発見した時、石につまずきましたよね。あれと同じ事でしたよ。こんどはレストランと言う発掘場所で大船碇禎治と言う石につまずいたのですよ。それがきっかけで犯人を発見できた訳ですからね。」
小野原勉が答え、ふと考えて、
「香山さん、少し前までは女房はいらないけれど子供は欲しいなんて考えた事もありましたが、今回の事件を振り返ってみたら、やはり一人暮らしはいいものですねぇ。」
小野原勉が言ってビールをグイと飲み干した。